230 交叉

230 交叉


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(二日目 PM3:45 学校校庭)

 ざりっ…、と地面を靴が蹴った音がした。
 わずかに飛んだ土砂が土の盛りあがりにかかった。
 二つの地面の盛り上がり――アズライトと鬼作の亡骸をしおりが埋葬して作った墓。
その墓の前でもう十分以上も突っ立ったまま沈黙している女性―――御陵透子は
地面を蹴った足の位置をそのままに空を見上げた。
 空には輝く太陽と先程よりも多い雲が目に映る。
 昨日までは確認できた、彼女の拠り所である『あの人』の姿は見えないままだ。
 彼女の背後でぱきぱきっと、木の板が剥れるような音が聞こえた。
「……」
 その音は校舎からした。
 立て続けに同じような音が何度も校舎から響いた。
 それが収まったと思いきや、次は異臭を放った煙が校舎の内側から噴き出し始めた。
 仁村知佳と椎名智機は現在、校舎内で戦っている。
 本来、交戦する前に透子が知佳に対して警告を行う予定だったが、透子自身どうしても確認したい ことがあったので、その為の寄り道をしていた。
その結果、智機が先走り。こういう事態になったのである。
「……」
 今、知佳と智機のいずれかが斃れるのは透子にとっても望ましくないことだった。
 だが、そのどちらの事態をも回避できる術を透子は持っている。
 だから、透子は二人の戦闘には意を返さずにいたのだ。
 透子は墓から目を離し、息をつくとポケットからロケットを取り出し、見つめ、
考えた。


(あの時…)
 病院内でまひると紗霧に対峙した際に、紗霧に投げつけられた薬品がロケットに
かかったのだろう。
 金メッキのような安っぽい光沢を放つそれの一部分に褐色の染みのようなものが
ついていた。
 この程度なら、透子にとって何の支障もない
 だが、あの時に投げつけられたのが爆弾だったなら話は全く違っていただろう。
 透子はぎゅっとロケットを握り締め、大事そうにポケットに入れた。
 背後の校舎の内側から、動物が肉食獣に捕食される時のような肉と骨が
噛み砕かれるのに酷似した嫌な音が響き始める。
 透子は諦めたようにため息をつくと、再び、足元の二人の墓を見つめた。
 こうしている間に、とうとう校舎は風船がしぼむかのように崩れていく。
 完全に校舎が崩壊した直後、透子は何かを探すように首だけを数回振った。
 透子の眼差しは西の方角で止まった。
「……………?」
 妙なものを発見し、あくまで無表情のまま、首をかしげた。
(変ね?)
 透子はしばし考えた後、視線のみを二人の墓のほうへ向ける。
 それから東の森と公園と先ほど見た空を思い浮かべながら、
彼女は校舎前から姿を消した。



(二日目 PM3:52 病院付近)

 かなり小柄な少女――仁村知佳は智機との戦闘後、石畳に両手をつき、
汗だくになりながら荒い息を吐いていた。
 地面は生暖かく、自分の身体はそれ以上に熱く感じた。
 校舎から公園までの瞬間移動。
 それに失敗した直後、知佳はめまいをおこし倒れたのだ。
 知佳を蝕む先天的な病気による発作。
 彼女はそれを思い出しながら、身を震わせる。
 そんな無防備な彼女だったが、それでも背には未だ虹色の不気味な翅が飛翔前の蜻蛉のごとく生えていた。

            *       *        *


 知佳はそのまま気絶することはなかった。
 知佳には未だ、恭也に会う踏ん切りはついていない。
 なのに、目には力強い輝きがともっていた。

 知佳は、さっきの智機の態度から恭也達は無事だと考えていた。
(彼が死んだと言われちゃったら、絶望したとおもう)
 と何度目かの安堵の息を吐く。
 彼女は傍らの自分のバッグを手に持ちながら、自分の思いを胸に刻んだ。
(これ以上の心配をかけるわけにはいかない。
わたしはもう、この島に来る前のわたしに戻れないし、誰かに頼ることもできない)
 はっきりしてきた頭に浮かぶのは耕介という青年の笑顔。

(だけど、希望があれば……)
 知佳はあえて脳裏から耕介の笑顔を消した。
 そして苦い思いと共に恭也の笑顔を思い浮かべる。
(身を削られても戦える!!)
 ようやく知佳は膝に左手につく。
 がくがくと四肢が震えたが、それはすぐに収まっていく。
 知佳は今、立ち上がろうとしていた。





(二日目 PM4:00 東の森:最南部)

「消えた?」
あちこちの木がなぎ倒されている森の中。
透子はその惨状にはさほど注目しなかった。
彼女が確かめたかったのは、朽木双葉曰く『妖気』と呼んでいた思念体の行方だった。
「・・・」
透子には感じ取れる。
今でもそれは森のどこかに存在するのは間違いない。
その波動は場所の特定が困難なほど弱々しいものに変化しているけれど。
透子はゆっくりと歩き始めた。
「かれらは……」
と、どこともなく透子はつぶやいた。
 いつもの彼女のようにどこか気の抜けたもの独り言ではない。
 それは珍しくはっきりとした声色だった。
 透子は少し顎を上げて考えた。
(あの思念体にこういった干渉ができるのは『かれら』か、ここにはいない、
『かれら』と同じような存在だけだったはず…)
 透子は手を丸め、胸に当てて思い出す。
(だから…わたし達に与えられた『彼』の情報量は参加者の中で一番多かったのだろう)
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 透子から見て、昨日ほど鮮明ではないものの、『あの人』を除けば、今でもさまざまな
思念は透子の目に見えるし、聞こえるし、感じ取ることはできる。
 だが、どの感覚からしても、不鮮明で目視できる距離でなければ特定は困難だ。
 なのに、あの『妖気』は透子が島の何処に居ても、はっきりと確認できるほど
力強いエネルギーを持っていた。


「ふう…」
 透子は息をついた。
 そして、死んでいった参加者の中には彼女の同族に似た能力を持ちえる人物が
何人か存在していた事を思い出す。
(死亡した参加者は……)
 
―――透子のいた世界。
 透子以外にも同族は複数存在する。
 だが記憶を受け継ぐものはおらず、力のみを受け継いだ存在も極めてまれだ。
 彼女はそういった転生体をある程度感じ取ることができる。
 透子は殺人ゲーム開始直前に参加者の中から何人かそれを感じ取った。
 無論、その潜在的異能者とやらは彼女の同族などではない。
 だが、発現するであろう能力だけは似ていた。死んでから発動する能力。
 透子は過去に何度死しても記憶を持って蘇ってきた。
 その異能者らも場合によってはそれを可能にできるかも知れなかったのだ。
 透子はそう考えてた。
(でも結局……何もできずに終わった)
 透子は歩みを止めた。
(確認の必要さえなかったかもしれない)
 結局、このゲームにおいて敗者は決して再起できないのだ。
 それは『彼』さえも例外ではない。透子はようやく確信した。
 この世界でも“死者は、自力で甦ることは決してできない”と。
 それを覆すにはゲームの勝者になり、願いを叶えてもらうしかない。
 透子がいくら望んでも手に入れらなかった、能力を持つ『かれら』に。
「……………」
透子はロケットを握り、諦めたように森の外の方へ身体を向けた。
「仁村知佳……」そう、参加者の一人の名を呟くと、透子の姿が徐々に消え始めた。
 消える瞬間、透子は空を見上げ、太陽を見た。





(二日目 PM4:00頃 ???)

―――ここも何処とでもない空間

 “ざざーん……ざざーん…”

平穏な海のごとき波涛の音が木霊する。
新月の夜のごとく深い闇を金色の光が照らす。
波をたてているのは海水などではない、重油のように黒く重い液体。
それが空間いっぱいに広がり、時々蛇のようにのた打ち回りながら、渦を巻いている。
動くたびに何故か波しぶきのような音がする。
それは生物の内臓の脈動のようのたうちまわっていた。
渦の中心部の上空に浮かぶ、明かりの元も異形だった。
全身金色の六本足の蟹の様な容姿。
 その顔は白いのっぺりとした仮面にふたつの無垢な赤い瞳をつけたよう。
その赤い双眸は空間を隔てているのに関わらず、島にいる運営者達を見ていた。

「無駄足だったな」
と、プランナーは東の森で物思いにふけっていた透子を遠くから見て淡々と呟く。

「あの手の能力で破壊されるようなゲームを我が実行に移す訳がなかろう」
 プランナーはそう笑い、透子から視線を外して言葉を続けた。

「これであの者も本気を出さざるを得まい」、と。


プランナーの主―――創造神ルドラサウムは見知らぬ異界からわざわざ島一つを
自らの世界の空間に転移させ、それを元にゲームの舞台となる平らな星を創り上げた。
それは彼でさえ、相当手間がかかる作業だった。
 それでも退屈を紛らわせることが出来たし、仮に面白くなくても仮定で
 楽しんだんだからいーやと考えてた。
 まだ途中ではあるものの、舞台つくりも、ゲームも、かれらからして見れば
成功したといえる状況であった。

―――そして
 
「これからはもう面倒な事をする必要はなくなるなァ」 
 透子観察から数分後、そう誰ともなく呟いたプランナーの目が愉快そうに歪む。
 ゲームの最中に発生したある現象を思い出しての喜悦。
 そんな神を尻目に、首のない黒い獣の様な屍は渦に巻かれ漂っていたのだった。





(二日目 PM4:15  学校へと続く道)

 発作がおさまった知佳は学校跡を目指して歩いていたが、再び足を止めて、
地面を見つめた。
 そこには変哲のない茶色い地面が広がるばかり。
(ない……)
 知佳は運営者の本拠地は地下にあると思い、その出入り口になるような所を探そうとしていた。
 「…………」 
 目視の途中、知佳はつい左手を見た。
 一筋の切り傷。
 たいした傷ではない。
 そんなことで嘆いている場合じゃない。
 そう、知佳は思った。
 あの時、恭也を殺されたと思い込んだ知佳は、仇の琢磨呂を超能力で痛めつけてから殺害した。
 そして自分はその行為を楽しんでしまっていたと思う。
 知佳はそんな自分が嫌になって魔窟堂らの前から姿を消した。
 でもこの力があれば上手くいくと思って、あのロボット達に戦いを挑んだ。
 その結果、その度合いこそ異なるものの、知佳は琢磨呂が味わった絶望を多少なりとも味わう事になった。
 左手の切り傷を見るだけでじわりとあの時の恐怖が蘇る。
 知佳は思った、弱いものいじめをしてる時だけ強気でなんかいるのはとても嫌だと思う。
 恭也さんはもっと酷い目にあってるのに。
 そう自らを奮い立たせながら、知佳は思わず呟いた。


「まゆお姉ちゃん……」
 知佳の六歳年上の姉の名を。
 知佳の姉、真雪は漫画家をやっている。
 姉はある理想を胸に作品を書きつづけていた。
 現実においてもそうであって欲しいその理想が知佳の心にも浮かぶ。
 しかし湧き上がってきたのは罪悪感。
 それは彼女の胸を刺した。
(もう…無理だよ……)
 知佳はうなだれた。
 たくさんの人が死に、自らは憂さ晴らしの為に人を殺してしまった。
 そんな自分に幸福など訪れるはずがない。
 そう心で泣きながら、知佳は前に進んだ。
 
 この時、知佳は気づいていなかった。
 二名の運営者が自分に接近していた事を……

      *        *        *


「何でこいつの名前が載ってんだぁ?」
 智機の命令で病院を後にしたケイブリスはなんとなく拾った手帳を読みながら言った。
 載っていたのは既に死亡した魔人の名前。
 ちなみにその魔人とは不仲だったりする。
 名前が載っていた意味を求めようと他のページを見るが、彼にとっては意味不明な内容ばかりだった。
「ち……つまんねぇな」と、手帳を放り捨てる。
 ケイブリスはこの近くに誰かいないかと考えた。
 このまま、ただ本拠地に戻るのも面白くない。 
 そう思った彼は何かを見つけようと周囲を見渡し、気配を探った。


「……!?」
 ケイブリスは感じ取った。
 今まで遭遇したことのない、未知かつ膨大なエネルギーを持つ生命体を。
 そいつがすぐ近くに居る!
 ケイブリスは口の端を歪ませ、前方を凝視した。
 魔獣の視界の左端に、身をかがめた人間の少女が映った。
(人間か?)
 気配を消し、数百メートル先にいる少女―――知佳の動向をケイブリスは探った。
 
             *       *        * 

 知佳はマンホールにも似た蓋を発見していた。
(これ…何だろ)
 蓋には鍵穴があった。
 知佳は鍵を探そうとするが自分は持っていないことに気づき諦めた。
 もし、この先に役立つものがあるならと考え込む。
 出たのは今の自分になら蓋を破壊することができるという結論。
 知佳は立ち上がった。
 そして、ケイブリスの方を振り向いてしまったのである。

「・・・・・・・・・・・・・」
 目の前にいるのは腕組みして笑う凶悪なモンスター。
「!!!」
 魔獣を見た知佳は悲鳴をあげて、後ずさった。


「オメェ……参加者か?」
 ケイブリスは興味深そうに知佳を見つめつつ、ゆっくりと接近する。 
 震える足を叩いて静めながら、知佳は翅を広げた。
 辺り一面を妖光が包む。
 知佳の威嚇に全く怯むことなくケイブリスは身構えながら言った。
「俺様に逆らおうってんのか?」
 そう不敵にケイブリスが笑うと、全ての触手が動き出した。
「・・・・・・・・・・」
 ケイブリスの思考を読んでしまった知佳は顔を青ざめさせる。
 魔獣は知佳を犯す気満々だった。
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 徐々に近づいてくる魔獣を前に知佳は一瞬、逃げようかと思った。
 だが、逃げとおせても恭也たちに負担がかかるだけと自分で自分を何度も
叱咤した。
 わずか数秒の葛藤の後、知佳は言った。

「負けない……!」
 
知佳の覚悟の声が戦闘開始の合図だった。
 
「……」
 ケイブリスは無言で左腕を振った。
 火の玉が発生し、それが知佳に迫る。
 知佳は両脚に力を入れつつ、前方に念動力による障壁を発生させる。
 濁ったガラスのような色をした障壁は火の玉を容易く破裂させ、
飛び散った火の粉さえも障壁に吸い込ませるように消し去った。
 早速、攻撃に転じようと知佳は両手を握り締め、翅に力を集中させようとする。
 しかし!


「!?」 
 知佳の前方にすでに魔獣はおらず、その大きな足跡が染みのごとく目に入る。
 知佳は必死に彼の姿を探す。
 悪意は突如、咆哮とともに頭上から降り注ぐ。
「っ・・・!!」
 音もなく空高く跳躍した魔獣は知佳の目前に降り立ったのだ。
 ケイブリスは息をゆっくり吐きながら、左手で知佳を捕まえようと伸ばす。
 知佳は身じろぎもせず、大きく息を吸った。
 彼女の翅が前方にスライドした。
 交叉した翅は赤紫の炎を吹き上げる。
「!」
ケイブリスの左手の前に赤紫のプラズマ球が発生す。
「くらえっ!!」
 
 爆音!
 
 プラズマ球が両者の間で爆ぜる。
 衝撃で知佳は数十メートル吹っ飛ぶも、地面に当たる前に揚力を発生させて無事に
地面に降り立った。
 ケイブリスは地面に長い足跡をつけながら、数メートル後ずさりするもこらえる。
 知佳は飛行して距離を取り、怪物を睨む。
 ケイブリスは左手で顔を隠したまま、沈黙している。
 知佳は更に攻撃を加えようと身構える。
 「!」
 ケイブリスの状態を見た知佳はビクンッ、と痙攣したかのように身を震わせた。


「そんな……」
 知佳の攻撃をまともに受けた筈のケイブリスの左腕は多少の焦げを残したくらいで
ダメージらしいダメージを受けているように見えなかった。
「これで終わりじゃねえよな」
 左腕を撫で付けながら、魔獣は少女を挑発する。
 未知の力を持つ知佳に対して、ケイブリスはいつでも好きな部位に闘気を巡らせられるよう
に用心していたのだ。
 今回は左腕に闘気を集中させ防御した。
 ケイブリスが二歩前に進み出て、四本の腕と八本の触手を使い攻勢に出ようとする。
 それに対して知佳は気合を入れて翅を大きく広げた。
「!?」
 知佳は大きく口を開け、叫ぼうと息を吸い始めた。
 翅は徐々に大きくなって、放出されるエネルギーもそれに伴い増大する。
 それを見たケイブリスの顔から余裕が消え、腕と触手の力を抜いて身を屈め、
全身に闘気を張り巡らせ、向かい討つ!

―――全身全霊を込めた攻防!!
 

 それが始まろうとした時、両者の背に震えが走った!



 戦闘態勢を解いた両者は互いの前方を凝視した。
―――二人の間には透子が立っていた。
 表面上、いつものようにぼんやりと立っている様にしか見えない。
 違いがあるとすれば今、彼女は左手でロケットを握り締めていることぐらいだ。
 ただ…それだけの筈なのに、知佳とケイブリスの緊張は解けなかった。
「透子さん……」
「てめぇは……?」
 かろうじて双方は声をあげた。
 透子はケイブリスの方に顔を向けて抑揚のない声で言った。
「早く、学校跡に向かってください」
「ハァ…? 先にケンカ吹っかけて来たのはそいつだぜ」
とケイブリスは顎で知佳の方を指した。
透子は知佳の顔を数秒見つめると言った。
「ゲームが失敗恐れがあるのでお願いします」
そんな透子の説得をケイブリスはフンッと嘲るように鼻で笑う。
と、同時に八本の触手が透子を拘束しようと彼女に向かって伸びる!
「・・・・・・??」
いずれの触手も彼女に触れられず、地面にばらけた。
続けて、魔獣はこの手で捕獲しようと動こうとする。

「!!」
ケイブリスの身体は動かなかった。
自分の意思とは関係なしに動かせないでいた。
「………!?」
知佳も異変に気づく、自分も指一本動かせない状態にあることに。
透子は身じろぎせずに言った。
「このまま続ければゲームは失敗しますよ?」
 ケイブリスは苛立ちを込めて言った。
「また、ルールってやつかよ!」
「はい」
ケイブリスはそう悪態をつきながら、得体の知れない女、透子を観察し始めた


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「………」
「お前、誰だ?」
ケイブリスはかすれた声で言った。
両者の身体の自由は既に戻っている。
ケイブリスを少なからず畏怖させているのは原因は透子の放つ、正体不明の存在感だ。
「人間じゃあねえだろ……」
「………」
ケイブリスから見れば、透子は魔人化した人間よりも強そうに思えた。
「お願いします」
「・・・・・・」
 再度の勧告。
 仮に戦ったとして勝てるかどうか、全くわからない相手。
「何でだ?」
「・・・・・・・・・」
透子は知佳には聞こえないように、言葉を伝える。
(二人残すのか) 
ケイブリスは細かい理由こそ分らなかったものの、最後に参加者二人を残す必要があるとだけは認識した。
ケイブリスは改めて、透子を見て言った。
「こいつを見逃せばいいんだろ」
 ケイブリスは知佳の方に視線を向けた。
 
そして程なくしてケイブリスは、(何であんな奴があいつ【ザドゥ】に従ってるんだ)
と、心中で悪態をつきながら校舎跡の方に向かっていった。


ケイブリスが去ったあと、知佳は地面に尻餅をついた。
そんな彼女の息はやや荒かった。
だけど発作で苦しみと比べれば全然、どうってことなかった。
「?」
前方には手帳が、すぐ身近にはあのマンホールがある。
早く動かなきゃと思い、立つ。
「!?」
 透子は木を背にし、こちらをじっと見ている。
 何か話したそうに見つめている
「透子さん……」
 恭也と共に行動していた時に出会った監察官。
 あの夜のとき、知佳は励ましの声を彼女にかけた。
 それが透子の負担を和らげることが出来たらと思った。
しかし、変わってしまった今の自分は透子にどういう言葉をかければいいか知佳は悩んだ。



【仁村知佳(40)】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:恭也が生きている間は、単独で彼らの後方支援へ
      主にアイテム探しや、透子以外の主催者への妨害】
【所持品:???】
【能力:超能力(破壊力上昇中・ただし制御はやや困難に)飛行、光合成】
【備考:疲労(小)】



【監察官:御陵透子】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:ルール違反者に対する警告・静止、偵察。戦闘はまだしない】
【所持品:契約のロケット】
【能力:中距離での意志感知と読心
     瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
    原因は不明だが能力制限あり、
    瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
【備考:疲労(小)】        


【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【現在位置:学校跡付近】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:現在、学校跡へ移動中(帰還中)
    左右真中の腕骨折・鎧の背中部分大破】

【追記:知佳と透子がいる場所の周辺には手帳とハリセンが落ちてます。
    知佳:隠し拠点2も発見、蓋は力ずくでも破壊可能だったり】




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226 敵愾心
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231 選外・前編

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登場キャラ
次の 登場話へ
218 脅威
仁村知佳
232 より鋭く、深く
ケイブリス
233 蠢く策謀 智機
215 共感
御陵透子
232 より鋭く、深く
190 絶望と希望
プランナー
235 野武彦がゆく