232 より鋭く、深く
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(二日目 PM4:25 学校へと続く道)
「わたしの名前…知ってたのね」
銀杏の木にたたずむ透子は知佳に言った。
黄色く変わり始めた銀杏の葉は陽光に照らされ、透子と知佳の亜麻色の髪と
似た色彩を再現していた。
「……あ…あの人の…心を読んでしまったから…」
知佳は新校舎内で智機が心中で透子に悪態をついていた事を思い出しながら言った。
「そうなの」
「…そうなのって……」
「……」
透子の淡々として、どこかズレた反応。
だが、知佳には彼女から冷たさを感じなかった。
昨日、出会った時に透子は決して悪人ではないと思っていたから。
ケイブリスを追っ払ったこともあり、知佳は自分の緊張が幾分か和らいでいくのを感じていた。
「話はもういいの…?」
「……」
透子から返事はない。
「そっか……」
知佳は自分との立場との違いを思い出した。
あくまで透子は管理者の一人であり、それに反することは口に出せないのだと、知佳は思った。
だから、心を読めてしまう自分にそれを少しでも伝えたかったんだろうと解釈した。
ならせめて…と、知佳は透子にお礼の言葉が届くように念じた。
(さっきは……ありがとう…透子さん)
それはケイブリスを追っ払ってくれたことに関する感謝の念。
透子にも思惑があるかも知れないと解っていてもそれは知佳にとってもありがたかった。
後ろ髪を惹かれながら、この場を去ろうとした知佳に対して、いきなり透子は言った。
「優勝を望むなら…」
「……!!」
空気が変わったような気がした。
知佳は足を止めた。
「…このまま最後まで……」
透子の心の声は聞こえてこない。
知佳は右手をぎゅっと握り締めた。
「……単独行動を続けなさい」
「・・・・・・・・・」
殺人ゲームの強要。
それでも彼女の声には冷たさはなかった。知佳は小さく呟く。
「…できない……恭也さん達は…」
「……ゲームに戻りなさい」
透子の心の声は聞こえない。
「そんなことできないよっ!!」と、知佳は叫んだ。
知佳が思っている透子はそんな事を言うはずがない。
大切な人が失われる悲しみを知っているなら、こんな事を口に出して言うはずがない。
知佳は思いのたけをぶつけようとした。
「透子さん!あなたは……」
「わたしは“こんな事”を望んでしている」
「!!?」
“こんな事しちゃいけないよ”と言おうとした知佳はその返事にシ言葉を詰まらせた。
それに構わず、遠い目で透子は言い続けた。
「もう、諦めかけていた…」
「……だから…ってこんな事したって」
透子だけは他の運営者とは違う。
それを願って、知佳は透子にゲームの運営をやめてくれるよう説得しようとした。
「……」
説得の言葉が出なかった。
そんなことしたってその人は喜ばないよとも、間違ってるよとも、はっきりと心の中で
そう思う事さえできなかった。
もし恭也が命を落とせば、自分が自分でいられる自信がなかったからだ。
透子は知佳の心情を知ってた知らずか、自分に言い聞かせるようなやや強い口調で続けた。
「諦められない……わたしはこの大会の成功を願っている」
「・・・・・・!?」
偽りのない言葉。
「……っ」
はじかれたように、知佳は能力を行使しようとした。
「!?」
身体がまた動かない。
そして、いつのまにか知佳の身体からは妖光が消えていた。
知佳の心に透子の心の声が台詞と同調して聞こえ始めた。
『この仕事を終えた時、わたしの手で『あの人』を元に戻す事が出来るようになる』
知佳の心の鼓動が早まった。
「わたしが生まれた世界では『あの人』を元に戻す方法は…最初から存在しなかった…」
知佳の身体がカタカタと小刻みに震え始めた。
「だから…この仕事をやめることはできない」
「わたし……あなたとも……戦いたくない…」
しぼり出すように言った知佳の言葉。
それでも透子の様子は変わらず、断定するように言った。
「『あの人』を見捨てられないから」
知佳の耳に脳裏にその独白は響き渡った。
「……………そん…な」
透子の覚悟に知佳はそう言うのがやっとだった。
「…………」
僅かな振動と共に銀色の首輪型爆弾が透子の左手に現われた。
二人はそれに気を止めないように会話を続ける。
「もし、あなたが最後の一人になった時…」
「・・・・・・」
「叶える願いは…よく考えてから、口にした方がいいと思う」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
知佳は顔を伏せたまま、震えていた。
「どうして…どうして……わたしに話し掛けたの?」
「昨夜、あなたはわたしに心を閉ざさないでと伝えた」
「…………」
「言ってる意味がよく判らなかった。 けれど、印象に残った」
「………」
「だから、話がしたかった」
そう言った、透子の姿が徐々に薄らいでいく。
「昨晩、あなたはわたしに…“愛を知る人に、悪い人など居るはずがない”とも言った」
「…………」
「わたしは……」
透子は神から受け取ったロケットを握り締め、自らの能力が住んでいた世界に
どういう影響を与ええるかを思い出しながら、この島に来る前にその事を知った人が
どういう反応を自分にしたかを思い出しながら言った。
「……逆だと思う」
そう言い、透子は知佳の前からすっと姿を消した。
* * *
身体の自由は戻っていたが…
「・・・・・・・・・・・・」
知佳はしばし、茫然自失だった。
我に返ったのは、遠くから何かが噴出される音を聞いてからだった。
今の知佳にその音源を探す気はなかった。透子とも戦わなければならない現実。
思っている以上に自分が運営者に対して無力であったこと。
なのに、魔窟堂らの所に戻ろうとしない自分…。
無力である事を自覚したがゆえに、恭也にもしものことがあれば、ゲームに乗ってしまうかも知れない自分が怖かった。
一分後…
「……何か、しなきゃ…」
知佳はそう呟くと立ち上がり、目の前にある手帳を拾いに行こうと歩き始めた。
歩く少女の周囲には微弱だが電気が放電しているように、ぱちぱちと小さな音が鳴っている。
知佳の身体からは殺気と同じように虹色のオーラと翅が具現している。
それはさっきまで比べて色が黒ずんでいた。
【仁村知佳(40)】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:恭也が生きている間は、単独で彼らの後方支援へ
主にアイテム探しや、主催者への妨害行為】
【所持品:???】
【能力:超能力(破壊力さらに上昇中・ただし制御は多少困難に)飛行、光合成】
【備考:疲労(小)、やや放心状態】
【監察官:御陵透子】
【現在位置:学校へと続く道→東の森:戦場付近】
【スタンス:ルール違反者に対する警告・束縛、偵察。戦闘はまだしない】
【所持品:契約のロケット、アイン用の首輪型爆弾】
【能力:中距離での意志感知と読心
瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
原因は不明だが能力制限あり、
瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
【備考:疲労(小)】