231 選外・前編

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(二日目 4:15 西の森)

「・・・・・・・・・!」
 ランスの口から出た名、フィアッセ。
「当たったか」
 恭也にとっては知り合いどころか、姉弟同然の間柄である。
「……どうして…その人の名を知ってるんだ……!?」
「…俺様も直に聞いたわけじゃねえが……」
 ランスはそう言いながら、自分の身の回りを探り始める。
「……?」
 手帳がない。
 バッグは……東の森に放置したままだ。
 更に探すが、鍵束もない。
 それは紗霧が失敬したからだ。
 ハリセンは……どうでもいい。
「………」
 自分の身の回りのチェックを終えたランスは言った。
「手帳、無かったか?」



「なんと!! まりな殿の!」
「ああ……」
 手帳を無くした事に気づいたランスは探すよりも先に、“自分は人づてに手帳を
手に入れ、記載されてたその内容の一部を読んでその名を知った”と魔窟堂らに語った。

「人づてという事は…ランスさん、その人は主催者にやられたんですか?」
と、誰かを気遣う演技をしながら紗霧。
「………」
紗霧の問いにランスは考えてから言おうとする前に
「そうですか」
と紗霧は落胆する振りして先に断定口調で言った。
「……そのとおりだ、紗霧ちゃん」
と、ランスはそれあわせるように言ってしまった。
ちゃん付けされた紗霧は一瞬眉をひそめるが、別に不愉快っていうわけでもなかった
のか何も言わなかった。 
もっとも、紗霧はランスが穏便なやり方で手帳を入手したとは露ほども思っていない。
 あえてランスの都合の悪くない方へ会話を進めたのは、これ以上、会話が逸れる前に情報をスマートに集めたいからに過ぎない。
「なんと……グレン殿はやはり…!」
と、魔窟堂は怒りをにじませ、ぎり…と歯軋りをした。



「「「……………」」」

この会話の流れに対して、あえて口を挟まなかった他の三人は何を考えてたかというと…

(……………)
ユリーシャは半ば、思考停止状態だった。
ランスがグレン様を殺害したことがばれれば、彼自身の立場が危うくなるので
こういう展開はユリーシャにとっても都合がいいはずだった。
だが、ユリーシャは自分が騙されていないはずなのに、実は何となく騙されている気が
してならず、静かに困惑していた。

(…変。 でも今、突っ込んじゃいけないところなんだろーな…)
と、こちらはまひる。

(グレン!? でも彼は……即死だったはず。 嘘なのか?)
と、こちらは未だ、この島にグレンの名を持つ者が二人いた事実を知らない恭也。
もっとも彼は七番目に出発した参加者だったし、今日の昼の放送も気絶していた事なども
あって、気づかないのも無理はないのだが。

「グレン殿……まりな殿……おぬしらの仇はわし等が必ず…!」
と、自分の世界に入りこんで、意気込む魔窟堂。
 ランスはそんな燃える老人を見て、思わず自分の頭をかいた。

「…優先しなければならないことがあるでしょう」
と、紗霧は魔窟堂を落ち着かせるようになだめてから、コホンと咳払いをしてから、他の四人に言った。
「色々と訊きたい事がありますが、先にランスさん『手帳』に関する情報提供をお願いします」
「ああ」
ランスは快く返事をして情報を話し始めた。
その内容とは、フィアッセを含めたランスの知らない人物数人の名前とそれに関する簡単な情報であった。



ランスの口から語られる、手帳のある二ページに記載された名前とは……

―――参加者にエントリーされる可能性有り

“高部絵里”  “フィアッセ=クリステラ”
“レティシア” “八車文乃”
“綾小路 光”  “天上 照”   の六名。

         *          *          *

「知ってる人の名前はないですね」
と、しゃがみこんで木の枝で六人の名前を書きながら紗霧は言った。
「私も心当たりが……他の皆さんは…」とユリーシャはまひる達に尋ねた。
「あたしの知ってる人はいないよ」
「俺も他の五人については知らない…」
「何だ?本当に知らないのか?」
「女の人の名前ばかりですね」
「男の名前などいちいち覚えてられんしな」
「「「…………」」」
ランスの暴言に、恭也はため息をつき、まひる・紗霧は怪訝そうに彼を見つめた。
「…ぐ……悪りぃ…。俺も二ページしか読んでないからなぁ…」
それに対してランスは気まずそうに言葉を吐いた。
「…レティシアさんにいたっては何故か外見的な記述もなく名前だけですしね」
「…ランスどの……わしもこの六人については知らんが、“綾小路 光”の関係者については心当たりがある」
「紫堂神楽さんのことですね」
「義理の姉って書いてたな」
「彼女も神楽殿と同じ力を持っておったんじゃろうか……」
魔窟堂は神楽に治療して貰った方の肩に触れた。そして……
「まりな殿……お主は一体何者だったんじゃ…」
と、遠くを見るような目で魔窟堂は言った。


 六人の女性についての議論はこれ以上、進展しようがなかった。
 六人の内、五人はすでに死亡した参加者の関係者だからだ。
「違う話をしませんか?」
「う〜む…」
「そうだな…朽木さんのこともあるし」
「………」
 紗霧はしゃがみこんだまま、地面に書いた名前を見て考える。
 (姓名だけではほとんど判断できませんね)
と、木の枝で文字を消そうとする。
「?」
が、ある名前を改めて見てそれを止めた。
(天上 照…)
 見知らぬ名前。
 いや、その名が彼女のいた世界にもある太陽神の名をもじったものというのはわかる。
 ただ、彼女にとって不思議なのは、何故、会った事もない人の名前だけで強い興味を
抱きつつあるかだ。
 紗霧は、魅入られたように、ただぼんやりとその名前を見続けた。

(……だとしたら……大げさな偽名ですね…それとも…これが言霊というものでしょうか…?)
異変に気づいたまひるがそっと紗霧の前方に移動した。
「どうしたの紗霧さん」
「!」
 まひるの声に紗霧は我に帰った。
「・・・・・・!!」
「あは…おどかしちゃった…ゴメン、ゴメン」
「・・・・・・」
 紗霧はジト目でまひるを見ながら、立ち上がり
「…………」
少し躊躇したものの、地面に書いた名前を靴で揉み消してから言った。

「双葉さんの話をしましょうか」



【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・魔窟堂】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】

【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
      解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)、紗霧に対して苦手意識】


【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力
      男の運営者は殺す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
    
【高町恭也(元08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】



【魔窟堂野武彦(元12)】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本、スコップ(小)
      ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン16本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:ちょっと自信喪失中】

【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、四本の鍵束、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(中)、下腹部に多少の傷有】

【広場まひる(元38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
      グループが危険に晒されるなら、応戦する
      島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】




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