229 そして動き出す

229 そして動き出す


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(二日目 PM4:01 西の森) 

「あの……紗霧さん、これは何なのですか?」
 西の森に入ってすぐのところで、道中に回収したバッグの一つに入っていた
色とりどりのマジックペンらしき物体を見ながら、小柄でやや幼い水色ショートへアの
少女――ユリーシャはおずおずと尋ねた。

紗霧と呼ばれた、長い黒髪を黒いリボンで束ねた少女――月夜御名紗霧は
手に持った棒状の物体をどこか不満げな様子で見つめる。

「もしかしてハズレなのかな?」
と、そう言ったのは気絶したままの茶色の髪をした西洋剣士風の青年ランスを、
時たま羽を生やした右の方へぐらつきながらここまで運んだ、赤毛のショートカットの
少年(外見は少女)広場まひるである。
彼は同じく道中で回収したある参加者に支給されなかったバッグも背負っている。

「これは多分、筆の一種ですよ。
 もし、ただのペンなら役立てるのは難しいそうですけどね」
 まひるの後に続いて歩くかすりの着物を着た老人と身体に包帯を巻いた
真面目そうな青年が、自分らと同じように足を止めたのを見て紗霧は言った。
「参加者の支給品かな?」
 後ろを歩いていた青年、高町恭也はそう言ってそのペンを見る。
 横にいる老人――魔窟堂野武彦の所持品、ヘッドフォンステレオ等のように
彼らの敵である、殺人ゲームの運営者に没収されなかった物品もあったことを
思い出しての意見だった。

「どちらなんでしょうね?
 このバッグには他に道具は入ってありませんでしたしね」
と、紗霧は言ってペンを自分のバッグに仕舞って、また小屋を目指して歩き出す。

 森に向かう道中、茂みに捨てられてあった参加者用のバッグに入っていたのは、
色とりどりのマジックペンらしきものが16本入ったペンケース。
 ペンケースには18本入るスペースがあったが、入ってあったのは16本。
それを紗霧が目ざとく見つけて回収したのである。


「まぁ…調べるのは小屋に着いてからで良いじゃろ」
と、魔窟堂が言った。
「おもちゃの銃でも意外な物が仕組まれてたな」
と、恭也はポケットの中に忍ばせた鋼糸に触れながら、笑みを浮かべて紗霧に言った。
 それにあいずちをうちながら、紗霧は今後のアイテム収集のことを考え始める。
(もう参加者の支給品には期待はできないでしょうね。
 やはり『例のモノ』と、鍵の使用場所の特定を急がなくてはなりません)
「おっ?」
 そんな紗霧を尻目にランスを担いだまひるが声をあげた。
 背に担いだランスが身動きしたからだ。
 目を開き始め、頭痛がするのか頭を押さえながらランスは目覚めた

(………なんで…俺は担がれてるんだ……?)
 目覚めたランスの視界に入ったのは、地面から二メートル近い高さまで自分を
軽々と担いでいる見知らぬ赤毛の少女。
 目覚めたランスに気づいたまひるがゆっくりとランスを地面に下ろしていく。
 それに注目する10の視線。
 ユリーシャが感激の声を上げるも、今のランスにはよく聞こえないし、よく見えない。
(……俺はどうしたんだ?…あのヤロウを殺ったのか……?)
と、ぼんやりと考える。
 そして目をこすりながら周囲を見始めた。

「ランスさまっ!!」
「気が付いたようじゃの!」
 ユリーシャと魔窟堂は、ほぼ同時に声を上げて、ランスのほうに駆け寄った。
(ユリーシャ……)
 ランスはまとまらない思考で何とかその名を思い浮かべる。
 そんな彼を周り囲む三人とは別に、紗霧と恭也は数メートル離れて観察する。
 そして、ランスは周り囲む三人の姿を認め、言葉を発した。

「ユリーシャ…か……」
「はい……ランスさまのおかげで…こうして…」
 安堵の息を漏らすランスに、ユリーシャはにかんだ笑顔で応えた。
(うんうん……恋人同士の再会…いつ見ても感動するシチュエーションじゃわい)
(姫さん良かった……)
 そんな二人を見て魔窟堂とまひるは素直に感動する。
「…がはは…当然の結果だ……」
 状況をよく把握出来てないものの、そうランスは返答する。
 彼は再び周囲を見回し、ユリーシャに尋ねた。

「…ユリーシャ…ここはどこだ? それにこいつらは誰だ?」
「あ……ここは島の西の森の中です。
 この方々に助けていただきました」
 ユリーシャはやや慌てた様子でそれを伝えた。
 その説明を聞いた途端、ランスの顔色が変わった。
「助けた…だと?」
「助けられたのはわしらも同じじゃよ、ランス殿
 わしの名は魔窟堂野武彦。
 我らは主催者打倒を目指して行動しておる。
 お主さえ良ければ、ともに戦おう」
 自らの首に手を当てながら、穏やかに魔窟堂は言った。

「おいっ、ユリーシャどういうことだ?
 俺は…ケイブリスの野郎はどうなったんだ!?」
 魔窟堂には目もくれず、半ば怒鳴るような感じでユリーシャに問う。
「そ、それは……」
「………」
「ランス殿、たいした怪我は負っておらんよ。
 それにあの怪物はここには居らん。
 じゃが、お嬢ちゃんが駆けつけてこなんだら、手遅れになる所じゃった」

「・・・・・・」
 首輪を着けてない老人を一瞬、鬱陶しそうに見てからランスは言った。
「駆けつけただと?ユリーシャお前……」
「……ランスさま……」


(…この人)
 ランスの言動にまひるの心に違和感が芽生える。
 それは昨日、恭也がランスに感じてたのとほぼ同じもの。
 紗霧と恭也もそれを察したのか警戒し始めた。
 いまだ違和感に気づいてないのは魔窟堂くらいだ。
「ランス殿、悔しいのはわかるが…お嬢ちゃんを責めてはいかん」
「じじいは黙ってろ!俺は待っていろと……」
「・・・・・・・」
 問うランスに対し、ユリーシャはただ黙って彼の目を見つめている。
「それに野郎の首輪を勝手に…」
 たまりかねたまひるは、どういう意味?と言おうとした時。
 ユリーシャは口を開いた。
「いろ…と…」
「…………」
 まくし立てようとしたランスだったが、彼女の様子に黙り込む。
「………」
「……………」
 しばしの沈黙の後、ユリーシャは言った。
「わた…私はランスさまに死んで欲しくありません……だから…だから…言いつ
けを破りました」
 目を伏せ、だがしっかりとした様子でランスと対峙するユリーシャ。
「・・・・・・」
 そんな彼女にランスは息を飲んだ。

 一同は沈黙する。
 そしてランスは彼なりに考え、深く息を吐いて言った。
「……でかしたぞ…ユリーシャ…」
「!」
 彼女は顔を上げる。そしてランスは、
「心配かけちまって悪かったな…」と彼女に言ったのだった。


 ランスが落ち着いたのを見て、魔窟堂らは改めて彼と交渉を始めた。
 魔窟堂では有利に交渉を進められないと判断した紗霧は前に出て自己紹介をしようとした。
「私は魔窟堂さんのどう…」
 ランスはいきなり右掌を前方に出し、どこか自慢げに彼女の台詞をさえぎった。
「言わなくていい、名前は知ってるぞ」
 それを聞いて、紗霧は眉間にしわを寄せた。
 彼女はゲーム中、自分の素性を他の参加者に極力、知られないようにしていたからだ。
「私は貴方の事は存じませんが?」
「俺様はこの島にいる女の子の名前は全部知ってるのだ」
と、言いつつ紗霧の顔を見つめる。
 実はランスはゲーム開始前後、わずかな時間の内に例の教室にいた女性達の内
二人を観察していた。
 その二人とはユリーシャと紗霧。
 遠くに離れていてよく観察できなかったのと、ユリーシャが自分の前に出発した事もあって、
ランスは最初のターゲットを彼女に選んだのだ。


「…むっ、むむむむむっ!」
 紗霧をはっきりと眼前で確認したランスは感嘆の呻き声をあげる。
 そして、改めて紗霧を目の前にし、いつものように寸評を入れようととするが、
うまく言葉にできなかった。
 ランスの紗霧に対しての評価は決して低い訳ではない。
 むしろランスにとって出会った女性参加者の中では最高と言え、
 どこがいいのかと問われると、細かく言うのがのがはばかれるくらいだ。

 北条まりなの手帳から参加者情報を得た彼は、上機嫌に親指を立てて言った。
 尚、当人と魔窟堂を除いた面々が彼の態度に呆れているのに彼は気づいていない。
「と、とにかく!双葉ちゃんグッドだ!!!」

「「「……………………?」」」
「?」
「……………」

「どうした?」
「「「「…………………」」」」

「私の名は月夜御名紗霧です」

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

―――人違いだった



            *      *       *


白けた空気の中、まひるの提案で(なかば強引に)彼らは自己紹介を続けた。

 恭也の番が回ってきた。
「この方が高町恭也さんです」
「……………」
「ん?」
 ユリーシャの口からまひる達が紹介されてく中。ランスは恭也を見て声を上げた。
「お前は………………………昼の奴か?」
ランスはまだ痛む頭で恭也の事を思い出し、同時に知佳のことを思い出そうとする。
「・・・・・・?」
 頭を書きながら恭也と会ったなら、訊きたい事もあるのも思いだそうとするが、思い出せない。
 ちなみに恭也の名前を彼は覚えていない。
「ランスさま? お知り合いなのですか?」
「……………」
「……………」
 ユリーシャの疑問を他所に対峙する二人。
 ランスは恭也の治療痕と他のメンバーを一通り一瞥し、言った。
「おい、知佳ちゃんはどうした?」
「……ここには…いない」
「何?」
 二人の間に軽い緊張が走った。


 ピリピリし始めた空気を察したユリーシャは小声でまひるに尋ねる。
「あの…知佳さんって…どちらさまで…」
「えと…恭也さんの恋人だよ」
と、まひるも小声で返答した。
「え?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 今日の早朝までなら、恭也はまひるの発言に照れただろうが、今は状況が違う。
 さらにランスの言葉は続いた。
「どこに行ったんだ?」
「…………」
 頭を振る魔窟堂。
 それを見ているのかいないのか、ランスは恭也の傷を再び見て言う。
「助けにいかんのか?」
「……っ」
 恭也の予想だにしなかった、ほぼ反射的に出たランスの問い。
 恭也が返答する前に、紗霧がランスに言った。
「その事も含めて、ランスさん貴方に訊きたい事があります」
 ランスはゆっくりと振り向き、
「何だ?」と、答えた。

「ランスさん……単刀直入に言いますが、貴方は我々に協力できるんですか?」
と、表情も語気も穏やかに紗霧は言った。
 ランスは紗霧と魔窟堂を見比べる。
「リーダーは誰だ?」
「まだ決めておりません」
 一応、魔窟堂がリーダーである。
 ランスの表情がわずかに変わり、口に出す言葉を考える前に、紗霧は更に続けた。
「ランスさん……貴方、今でも男性を邪魔者と思ってませんか」
と、恭也の顔を見て言った。
「………………っ」  当然だと、ランスは反射的に言いかけるもこらえる。
 紗霧の問いには妙な迫力があったからだ。
 あくまで穏やかに真摯に言った紗霧の問い。
 紗霧の真意がつかめないランスはすぐに返答できなかった。
「・・・・・・・・・」
 ランスはもしここで戦闘になったらと考える。
 ユリーシャはランスの側にはなく、いつでもグループに囲まれる位置にいる。
 彼女の支給品もいつのまにか紗霧の足元に移動している。
 たとえ、ユリーシャを視野に入れずとも、魔窟堂相手に素手で勝てる相手では
ないとランスも直感で悟っっている。
 何より、女の子と戦闘はしたくない。
 今の彼に強行突破を選択肢に入れようがなかった。

 ランスにとって自覚せざるを得ない、重大な人生の分岐点。
「………!」
 魔窟堂が紗霧に何か言おうとするも、指を口に当ててまひるが静止する。
「・・・・・・!」
 それを受けて、ショックを受けながらもなだめられた魔窟堂は引き下がる。
 ランスの本質を前もって知っている恭也とユリーシャは未だ緊張した様子だ。
 特にユリーシャは冷や汗をかいていた。

「……」
 ランスは沈黙している。
 その行為は問いに肯定したも同然に写る。
 魔窟堂が引き下がった直後に紗霧は言った。
「出来る事なら残った参加者全員で対主催者に挑みたい所ですが、足並みが揃えず
我々の行動の妨げになると、どうしようもありません。
 その場合、足並みを揃えたユリーシャさんの方がずっと大きな働きができるでしょうし、戦力は現状のままで十分です」
「・・・・・・・!!!」
「!!」
 思わぬ言葉に目を見開き、ランスはユリーシャを見る。
 ユリーシャは驚きに口を開けていた。
 そして我に帰ると、紗霧に向かって叫んだ。
「紗霧さん! わ、私はランスさんと一緒でないと、皆さんと行動できませんっ!
 ですから、ですからっ……」
と、自分のバッグから首輪解除装置をだそうとするが、手元にないので行動が空回りで終わる。
 おろおろしているユリーシャを見ながらランスはこれまでの事を考えていた。

“参加者・運営者を問わず、女は全員犯して俺の女にし、男は皆殺しにする”

それはゲーム開始時のランスのスタンスだった。
彼はこれまで自由奔放に生きてきた。
自らの命を危険に晒した回数など数え切れない。
むしろそれに意を返さず、突っ込み、生還する。
それを可能とする実力も、自信も、悪運もあった。

だが、このゲームに至っては

女性参加者の大半を助けられず、彼について来た同行者二人も失った。
その上、ゲームの黒幕は自分の住む世界の神だった。
認めたくなかったが…彼はそういう自分をとても不甲斐なく感じていた。
かつて…この島に来る前にある国の兵隊に追われ続けた時以上に。
ランスは焦っていた。

「ユリーシャさん、さっきの私に対する彼の反応を見て、何とも思わなかったんですか?」
「……!」
 ランスが黙ったままの会話は続き
 相変わらず彼にとって、ユリーシャにとって不利な状況が続いている。
 まひるがたまりかねて紗霧に何か言おうとしたのと、ランスが“一人で行動する”覚悟をした時
 紗霧は恭也の方へ視線を写して言った。
「高町さん。 貴方にとって彼の力は必要ですか?」と。


ランスは内心、舌打ちをしながら恭也を見た。
それは昨日、恭也に戦闘を仕掛けてしまったからだ。
良い反応は見込めないだろうと思った。
恭也もランスを見る。
そして恭也は続けて紗霧・ユリーシャを見た。
彼はここにはいない知佳・自分の奥義を破った猪乃・今、バッグに仕舞っている小太刀の
元の持ち主の事を考えた。

「・・・・・・」

わずか十数秒のち、彼はその疑問に答えた。

「…俺は必要だと思う……」
「!!」
 紗霧は少し考えたのち言う。
「理由は何ですか?」
 恭也は過去の苦い記憶をあえて思い出しながら言った。
「間違いなく、今の俺より強いから」
「単純な戦力として必要だからですか?」
 そんなの見てわかります、とでも言いたげに僅かに眉を歪めさせて紗霧は言う。
 すぐさま恭也はランスの方を向いて
「ランス……」
「何だ?」
「ユリーシャさんとは最初から同行してるのか?」
「そうだ」
「もし、さっきまで戦っていた怪物がここに現れたらどうするんだ?」
「? 戦うに決まってるだろう」
「もし今、動けなくなったユリーシャさんと二人きりで、そいつと戦わなきゃならないなら
どうするんだ?」


「…………っ」
 ランスは答えに詰まった。
 彼は誰かをかばいながらの戦いが苦手だからだ。
 自由奔放がゆえにうまく気を回せないのだ。 そんな彼を他の面々はじっと見詰めている。
 それでもあえて彼はしぼりだすようにやけくそ気味に返答した。
「その時は二人でとことんあがいてやる…」
「そうか……」と答え、恭也は目を瞑った。
 次に空を見上げて言う。
「この島で仁村さんと出会う前、俺はある人と同行してたんだ」
 それは独白。
「?」
「……俺はある男と戦って、……攻撃を交わされた程度のことで負けを認めてしまった」
「? それでお前とそいつはどうなったんだ?」
 恭也は続ける。
「無傷でその男に見逃してもらったよ。
でも、負けた事で落ち込んだ俺は、その人に愛想を尽かされたんだ」
「…情けない奴だな」
 そう言うランスの表情に何故か嘲りの色はない。
「あの人は一人ででもあがこうとしていたと思う。
 だけど、その人は数時間後に俺の知らない場所で命を落としてしまったんだ」
「…………」
 場が更に静まった。恭也は息を大きく吐き、紗霧に言った。
「少なくとも、彼は俺と同じ理由で心を折られることはない。
 この状況でとんでもない間違いはしないと俺は思う」
 突如、風が吹き森を揺らした。
 一同はそれに気づいてないかのように静まっている。
 紗霧はため息をついて恭也に問う。
「高町さん……彼は貴方や魔窟堂さんを助けるようなことはしませんよ。
 それでも宜しいのですか?」
「俺はみんなが良ければ彼と手を組んでもいいと思う。 油断できないけど」
と、苦笑しながら言った。

 ユリーシャと魔窟堂が安堵のため息を漏らす。
 「・・・・・・・・・」
 ランスは何か考え込んでいた。
「それなら、仕方ありません。まひるさんは……」
「待て」
と、紗霧の質問をランスが遮る。
「おい、お前」
と、恭也の前にズカズカと歩み寄り、釣られて恭也も後方へと下がる。
 そして、彼にだけ聞こえるような小声で質問した。
「その死んだ人ってのは女か?」
 恭也は思わず釣られて小声で「ああ」と答える。
「そうか」
 淡々としたランスの返事。 男だったとしても返事は同じだったろう。
 胸の内は別として。
「何、言ってるんですか?」
と、不機嫌そうに紗霧も近づこうとする。それに構わず、ランスは小声で言った。
「その女の名前は何て言った?」
「う…………」
 迷う恭也。だが、答えた。
「篠原秋穂さんだ」
 二人の歩みがピタリと止まった。

「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
 紗霧は怪訝そうに二人を見る。

「……そうか………」
 顔を下げず、表情をあえて変えないまま、ランスはかろうじて、そう答えた。

「・・・・・・・・・・・」

 彼はきびすを返し、そして紗霧の方へと向き合い、地面にドカッと座る。
「!?」
 腕組みして、この場にいる全員に向けてランスは言った。
「言いなりにはならんが……お前らが良ければ協力してやる」と。
          
        *       *        *

「まひるさんは?」
「う〜〜〜ん………」
 まひるもさっきまでのランスの態度には嫌な違和感を多少なりとも感じていた。
 だが、見捨てる見捨てないかとなると話は別だし、ユリーシャと恭也のことも
 あり、ランスと一緒に行動するのに異論はない。
「あたしもいいよ。紗霧さんは?」
「条件付きでなら反対はしません」
「そ、それでは!」
 喜びの声をユリーシャはあげる。
「条件については解っていると思いますが、質問は宜しいですか?」
「……手を出すなと言いたいんだろ?」
 心底、残念そうにランスは答える。
「両方ともですよ?」
「わかってるって。しかぁし!その前に言いたい事がある」
「何でしょう?」
 紗霧の持つ独特の迫力に身の危険を感じはじめたのかランスは、念を押すように紗霧に言った。
「あくまで協力はするが、言いなりにはならん。それでいいな?」
「…………随分と虫の良い話ですね。まあ良いでしょう。活躍を期待してますよ」
「あ、ああ、任しておけ」
 彼にしては珍しく遠慮がちに返答した。


「魔窟堂さんも異論はありませんね?」
「うむ」
「み、皆様、有難うございます!」
 ユリーシャは感謝の言葉を述べて、彼らにおじぎをしたのだった。
 
          *       *        *

 再び腰を上げ、会話しながら西の森の小屋へ向かおうとする一同。
 ユリーシャはランスに駆け寄って言う
「ランスさま、さっき高町さんと、どのようなお話を?」
「お前には関係のないことだ」
  
 その返事に少し残念そうな表情を浮かべるもユリーシャは引き下がった。
 仮にも秋穂の同行者であった彼女に気を使っての彼なりの配慮。
 根本的な解決には決してなりえないが、今のところふたりは少し幸せそうに見えた。

「……?」
 何か、忘れている。
 ケイブリスとの戦闘前に湧いた、ランスにとってささやかな疑問。
「ランス、朽木さんの事で話が……」
 思い出した。
 手帳に載ってた恭也に絡む情報を。
 彼は言った。
 その問いが再び、一同を混乱させる事態になることを知らないまま言った。



「お前、フィアッセって女と知り合いか?」



【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・魔窟堂】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】
    秋穂に関連するランスと恭也の会話内容は他の4人は知らない】

【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
      解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)、紗霧に対して苦手意識】


【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力
      男の運営者は殺す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
    
【高町恭也(元08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

【魔窟堂野武彦(元12)】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本、スコップ(小)
      ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン16本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:ちょっと自信喪失中】

【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、四本の鍵束、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(中)、下腹部に多少の傷有】

【広場まひる(元38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
      グループが危険に晒されるなら、応戦する
      島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】




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231 選外・前編
月夜御名紗霧
高町恭也
ユリーシャ
広場まひる
魔窟堂野武彦