221 西へ行く六人
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(二日目 PM3:43 病院)
「あっ!その前にスコップ持っていっていいかな?」
「どうしてですか?」
「あると色々と便利だし、死んだ人を弔ってやれると思うしさ。
いいでしょ?」
「…………そうですね。急いで取りに戻って下さい」
「らじゃー」
まひるのいきなりな意見に対し、考えてから紗霧は了承し、返事を受けてまひるは外
へ向かった。
「うんうん、そうじゃな…いい心がけじゃ…」と、感心する魔窟堂。
(不要といいたい所でしたが、決着までどれくらい時間がかかるか
予想がつかない以上、死体が腐敗して病原菌か何かを媒介しないとも限りません
からね。あると便利ですし)
「それにしても武器が増えたのう」
魔窟堂は各自の持ち物の中に混ざっている重火器を興味深そうに見る。
「先程の襲撃者さん達が残してくれましたからね、これで生身の相手とは随分、
やり易くなりますね」
先ほどの襲撃の際、智機達が使いきれなかった武器を見て紗霧は言った。
(本当はもう少し欲しかったですけどね)
「アインがいてくれればもっと良かったんじゃが…」
そう呟く魔窟堂を見て、紗霧はかねてから気になっていた事を口に出した。
「ところでアインさんとはどう連絡をつけましょう?」
「う、うむ…そうじゃな…」
まひるの同行者だった高原美奈子(タカさん)を(瀕死だった本人の希望を聞き
遂げたとはいえ)殺害し、あえて罪を被ったアインとそのまま合流するのは
事情を知ってる魔窟堂にとって気が重い。
「………個別撃破されると目も当てられないですから、ランスさんの事が落ち着き
次第、花火か何かで合図を送りましょう」
と、紗霧はソファに寝かされているランス、そして、恭也とユリーシャ
を見た。恭也は負担を減らすためか、杖を手にしている。
ユリーシャの方はランスの傍らに座り、寝ている彼の顔を
困ったように見て、何かを考えている。そんな二人を見ながら、更に紗霧は続ける。
「ところで魔窟堂さん。アインさんが何をしている方かご存知ですか?」
「わ、わしも詳しい事は…」
「お待たせ!」
まひるがスコップや何やらを持って戻ってきた。
「おおっ、まひる殿」
先日のまりなとの会話で大体の素性を知っているものの、まさか殺し屋なんて、
さすがの魔窟堂も言いづらい。今はその事をうやむやにしようとしたが――
「名前にしてもどうも、引っかかるんですよね」
紗霧はそれに構わず、荷物をまひるに渡しながら続けた。
「な、名前か……」
魔窟堂から根掘り葉掘り聞き出そうとする紗霧だが、実は魔窟堂と出会う前に
アインと遭遇していたし。
星川の顛末も訊いてたので、アインの大体の素性の見当はつけている。
(今にして思えば、アインはドイツ語で『1』の意味ですし、『ファントム』と
いう通り名からして、何かの組織に属しているのかもしれませんよね)
もし、紗霧がアインと住む世界を同じくしていたのなら、ファントムの
名は紗霧の耳にも入っていたのかもしれない。
「ただの学生には見えないんですよ」
「う、うむ…そうじゃな」
紗霧と出会った頃のアインはセーラー服を着ていた事もあり、外見上はほとんど
ただの女学生である。外見に反して実態は、元世界最強の殺し屋なのだが。
これ以上二人の会話が続くことなく、気絶したランス以外のそれぞれが荷物を
持って病院を出ようとした時、紗霧はまひるが背中に背負っている籠の中にある
スコップを見て言った。
「広場さん、その多くのスコップと…おもちゃの銃は?」
「みんなの分」
「二つあれば十分でしょう…って、何でおもちゃの銃がここにあるんですか?」
「娯楽室に置いてあったよ。それにこれだけのスコップがあればみんなで穴が
掘れるよ」
「………二つあれば十分です」
「広場さん、大きめのスコップはそれしか無かったのか?」
「うん。小さなスコップはたくさんあったんだけど」
恭也は小さなスコップを手に取ると、少し遠い目をした。
「恭也さん、スコップに何か思い入れがおありで?」
そうユリーシャが尋ねると。
「いや、スコップには無いんだ…けど…」
(盆栽…無事なんだろうか…)
恭也は自分の家で育てている盆栽を思い出す。そして…
(美由紀やなのは…みんなは…今、どうして…?)
家族や友人の事を想い、不安に囚われる。
(………今、考えてもしょうがない、な)
「植物を育ててるんだ…」
「そうなのですか」
ユリーシャの質問に答える恭也だが、不安以外にも惑いという感情が心を占めた。
自分がいなくなってから、元いた世界ではどれくらいの時が流れているのか?
何故、まだ学生であった頃の仁村さんと出会ったのか?
それを確かめる術があるのなら…と考えていた。
(今、ここにいる人達……俺と同じ世界に住んでる人はいるんだろうか?)
「プラスチック製ですか…流石にこれは使い物になりませんね」
「そっか…」
「他には無かったんですか?」
「それだけだったよ」
紗霧は小さくため息をついてこう言った。
「まひるさんが戻ってきたことですし、出発しましょう」
一行は荷物を持って病院を出始め、まひるはランスの前に歩み寄るとランスを
軽々と担ぎ上げた。
「天使さん?」
ユリーシャは軽がるとランスを持ち上げてるまひるを見て、軽い驚きの声を上げた。
「天使じゃないって、まひるだよ」
「す、すみません」
いわゆるお姫様抱っこして歩くまひるを見て、ユリーシャは羨ましい
ような、当たり前のような、そんな自分でもいいのか悪いのか良く解らない
気持ちを持った。
「……俺が気絶している間、運んでくれたのは広場さんだったのか…」
「そうですよ」
「………改めて、礼を言う…ありがとう広場さん」
「いいって、困った時はお互い様だしさ」
―――こうして、一行は病院を出た。
ちなみにまひるが、神楽の遺体を星川らと一緒の場所に埋葬する際に見つけた小さなスコップはユリーシャと魔窟堂が1つずつ持つ
ことになった。
(二日目 PM3:55 大通り西部)
「あの…紙袋に入っている白い粉はどういう使い道があるのでしょうか?」
「実はの、あの小麦粉を使って粉塵爆発を起こし、主催者を倒す計画があったの
じゃ」
「粉塵爆発って…何なのですか?」
「空気中に埃や粉末状の物体が充満してる状態で火をつけると、次々とそれらに燃え
移り、爆発したのと変わらない現象を起こす事が出来るんです」
「そ、そういうことができるですか……」
「尤も、これだけの量の小麦粉じゃ大した事は出来ませんけどね」
西の森へと通じる道を一行は歩く。
ユリーシャと魔窟堂と話していた紗霧は、また何かを思い出して魔窟堂に話し掛け
た。
「アインさんって、今何をしているのですか?」
「遥殿の仇を討つべく、元凶の主催者を追跡しておる」
(仇…ああ、あの……)
紗霧にはその元凶とやらに心当たりがあった。
彼女は自分を捕縛していた遺作を通じて、素敵医師の存在を知ってるのである。
「そうですか…ところで…」
そして紗霧は先程から、どうしても気になっていた事を口にした。
「アインさんは首輪解除装置の事をご存知だったのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔窟堂は押し黙った。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
(ま、まさか…アインさんも…)
紗霧の心に暗雲が立ち込めていく。
しばしの沈黙。そして…
「すまぬ…あの時、アインの首輪が外れていたことに気づかなんだ……」
「・・・・・・・・・・・・・」
紗霧は歩みを止め、ふた呼吸後に数歩下がり、左足のつま先で地面を抉り、
そして…
「とりゃああああああ!!」
気合と共に魔窟堂の背中に飛び蹴りを叩き込んだ。
「うぼうっ!?」
「本格的にボケてたようですね…貴方もアインさんもっ」
「アインさんがどうかしたの?」
二人のやりとりを不審に思って口を出したまひるを含めた同行者3人も二人の方を見
た。
「ま、待て、まだ全部喋り終わっておらんぞ!」
「では、その言い訳を聞きましょうか」
「う、うむ、しかしの……」
魔窟堂は、ばつが悪そうにまひるを見る。
「?」
魔窟堂はまひるに、アインがタカさんを殺めたと言っている。
あえて仇敵になろうとしたアインに報いるためにもこの場で、真相を話すのは
ためらわれた。
「……続けて魔窟堂さん」
「まひる殿……」
「アインさんとはあたしが直接話すからさ。今はみんなで話し合うのが大事でしょ
?」
「………………」
笑顔で答えるまひるに対し、魔窟堂はしばし黙っていたが、やがて重い口を開いた。
魔窟堂の話はこうだった。
深夜12時。病院でアインと再会した魔窟堂はアインの頑なな態度に困惑しながら
も、一緒に病院に入った。
互いにかなり疲労していたので、ろくに会話しないまま、見張りの役割分担を決め。
その結果、先にアインが二時間ほど仮眠をとり、その後に魔窟堂が同じくらいの時間
分仮眠をとることになったのである。
それから30分位して、瀕死のタカさんを担いだまひるが病院を
訪れ、そのタカさんが命を落とす前には魔窟堂らと別行動を取った。
というわけである。
「つまり、誰も気づかなかったわけですね、アインさんの首輪が外れていた
ことに」紗霧は指をおでこにつけて、目を瞑った沈痛な表情で言った。
まひるとユリーシャはやや暗い表情で、恭也はどう言えばいいのか解らないって顔を
している。
「全く、この調子では………」
と、言いかけた紗霧だったが、あえて、これ以上愚痴は言わなかった。
「どうしたの紗霧さん?」申し訳無さそうにしていたまひるが言う。
(命がかかっているのに気づかなかった私も私です…)
紗霧は顔を青ざめさせてふらついた。
尚、紗霧はアインと遭遇した時の事を遭遇していないと、魔窟堂らに
嘘を言っていた。
「急に眩暈が…」
「大丈夫?」
「これくらいは平気ですので…心配は不要です」
「そう…無理しないで」
何とか、とぼける紗霧と、気遣うまひる。
(気づかなかった私達も間が抜けてましたが、アインさんの方も事の経緯くらい
魔窟
堂さんに話せばよかったじゃないですかっ)
これまでのアインの行動全てを紗霧は把握しているわけではない。
それでも魔窟堂の話から大体は推測できる。
紗霧の現段階で導き出したアインの評価は、これまで仲間達の保護やグレン・コリン
ズ捜索よりも、敵対行動を取った者の抹殺(誤解も含めて)と主催者1人の打倒を優
先しているのが解る。
今後、戦力を増やして主催者にぶつける事を考えている紗霧にとって、アインには
それ以上、単独行動を取ってほしくなかった。
これ以上、仲間に出来る参加者をむざむざ殺させてしまう事態を避けたいからだ。
(アインさんと再会したら文句を言いたい所ですが、彼らに嘘を言ってしまい
ましたから……あちこちに仕掛けた罠にも気づいてるかもしれません
し…。
……いざとなれば、魔窟…ではなく、まひるさんの背後に隠れますか…)
と、紗霧は小さくため息をついた。
こうして、そのまま六人は西の森を目指したのだった。
【広場まひる】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)】
【現在地:西の小屋へ移動中】
【スタンス:参加者救出、争いをなるべく避ける】
【備考:身体能力↑、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【月夜御名紗霧】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、携帯用バズーカ(残1) 医療器具(メス・ピンセット)】
【現在地:同上】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【各地で得た道具をまだ複数所持】
【高町恭也】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【現在地:同上】【スタンス:主催者打倒、知佳の捜索と説得】
【備考:失血で疲労:中、右わき腹から中央まで裂傷あり。神速使用不可。
痛み止めの薬品?を服用】
【ユリ―シャ】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱】
【現在地:同上】【スタンス:現時点では病院組に協力。後はランス次第】
【魔窟堂野武彦】
【現在地:同上】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本、スコップ(小)
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【ランス】
【現在地:同上】
【スタンス:打倒主催者・女の子を守る】
【備考:気絶中・肋骨2〜3本にヒビ・鎧破損】