190 絶望と希望
190 絶望と希望
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(第二日目 AM12:00)
「ぐぇっはっはっはっは、それじゃぁ、今回で死んだ奴を発表するぜ
んー、ちみちみとしてて良く読めねぇな。
3番 いずいさく 5番 いずおにさく 14番 アズライト
26番 グレン・コリンズ 13番 うみげんぶたまろ……」
聞くもの全てが怯え恐怖するような畏怖するような凶悪かつ下劣な声とそれに見合う知能の低さで
彼は、ゆっくりと放送を始めた。
「文字が小さくて読みにくいのではなく、お前の頭が悪いだけだろう? 訂正をかけろ」
あまりにもの低脳呆れたザドゥは、やり直しを命ずると共に、横で読みを教えた。
教えられた本人は、大層不服であるが従わざるを得ない……
「んん〜 今のにほんのちょっぴり間違いがあったからそこを訂正するぜ。
3番 伊頭遺作 5番 伊頭鬼作 13番……海原琢磨呂
以上だ。 まぁ、せいぜい殺しあってくれよ、ゴミどもめが。
俺様に歯向かおう何て考え起こしてる奴がいるらしいが、
そんな奴は、俺様アタックでぎちょんぎちょんのべしべしにしてやるからな。
ぐわぁっはっはっはっは!!」
何故、このような奴と組まなければならない。
ザドゥは、頭が痛くなった。
だが、彼の助力なしでは、おそらく来るであろう参加者の一部を迎え撃ち
無事終わらせるのは、難しいかもしれない。
そもそもあいつらが、このような気まぐれを起こさなければ、
いや、このくらいは、あってしかるべきだった。
運営をスムーズに行なうだけで願いをかなえてもらう等と都合のいい話だ。
確かに運営は大変だ。
だが、それが我々の願いをかなえるに値する程の苦労だろうか?
否、明らかに楽すぎるだろう。
「最後の歯車が回り始めたと言う事か………
それも私達自身だったとはな…… タイガージョーよ、お前がいたらどう思う?」
そういうと、彼は再び椅子へと戻っていった。
心に複雑な思いを抱いて。
(第二日目 AM11時ごろ?)
時は、少し遡る
「うんうん、この物語も佳境に入ってきたね。 実に楽しいよ」
何処とでもない空間、それはとても常人では理解できない場所で
ルドラサウムは、このバトルロイヤルを作り出した事を非常に喜んでいた。
「はっ、お気に入り頂けて、ありがとうございます」
「でも、ただこのまま終わらすのも面白くない気がしないかい?
どんな物語でもクライマックスにどんでん返しな可能性を秘めていないと楽しくないじゃないか。
なにより、このまま運営者の願いをかなえさせてやると言うのも、ちょっと優しすぎじゃないかい?
ザドゥくんなんか、最初の打ち合い以外、あんまり苦労してないじゃないかい」
「……と言いますと?」
そう言うとルドラサウムは、ニヤリと顔に微笑を浮かばせ答えた。
「更なる絶望と希望をだよ。 今度は、参加者と運営側両方にね。
何、実に簡単な事さ、参加者へ与える希望は、運営者の絶望に。
運営側に与える希望は、参加者への絶望へ。
そうなるように両者へ少しばかり支援してあげるのさ。
勿論、逆転しないように参加者よりも主催者の方を有利にしてあげなきゃダメだよ」
「……わかりました。 してその方法は、如何なさるので?」
「そうだね。 参加者には、少しだけ強力な武器を。
ほら、君が昔作り上げた狂気の剣があるだろ。 それでもいいよ。
ただ、直接誰かに与えちゃダメだ。 奪い合いも楽しめるよう何処かに召還するんだよ」
「では、主催者への方は?」
「運営者の増員、それにせっかくあの剣を参加者に与えるんだ。
魔人なのもまた面白いかもね。 まぁ、人選は君に任せるよ」
「はっ、では早速……」
そう言うとプランナーは、さっそく主の命を行動に移すべく、その場から消え去った。
「さて、これがどう動くのか実に楽しみだよ。
今度は、運営者も参加側になるんだからね。 キャハハハハ」
(第二日目 AM11:55)
静寂、島全体を見れば、実に静かな島だろうか。
不気味さを含みながらも、外観的には、静けさを維持していた。
だが、それは、唐突に破られた。
「参加者達よ、そして運営者達よ。我が名は、プランナー。
この運営者たちの上にたちこのゲームの調和を任された者なり。
そして我は、神である。
聞け、全ての者よ。 我は、運営者にゲームの進行を任せる役目と共に
その償として、願いを一つかなえる約束をした。
だが、これでは、参加者に対して、余りに不平等であろう。
そこで我は、ここに約束しよう。
生き残った参加者には、願いを一つかなえよう。
また、運営者を全滅させた場合でも、願いをかなえよう。
どちらを選ぶかは、参加者自身に任せる。
どちらを選んでもその道のりの苦労は変わらぬからな。
だが、慈悲ある我は、一つだけ手を差し伸べてやる。
この島の何処かに一つだけ役立つかも知れぬものを召還した。
それを上手く使う事ができれば、少しは楽になるやもしれぬな。
では、汝らの健闘を祈る……」
明らかに放送とは違う声。
直接、頭に響いてくるイメージ。
その時、参加者達は、神の存在を知ることになる。
(第二日目 AM11:45)
「どう言う事ですか?」
明らかに怒気を含み、ザドゥは、目の前にいる神に対して尋ねた。
自らを楽しませる為に人の命を玩具として扱うものなど、神であろうか。
だが、目の前にいる存在に従うしかない。
そんな状態が心の葛藤を生み、ザドゥの心を支配する。
「ふむ、おかしい事を言ったか? 我が主は、このゲームを無事進行できれば、願いをかなえるという約束をした。
それに何ら変わりはあるか? 私は、ただ参加者に新しい枷をかしただけだが?」
歯向かえない。 プランナーの言っていることは、至極当然だ。
運営者達は、願いをかなえると言う約束はして貰ったが、ゲームにおいて安全を保障されてはいない。
だからこそ、一癖も二癖もある実力者達が選ばれたのだ。
絶対に届かない望みが適うと言う甘い餌に釣れられ、このゲームに乗ったのは、自分達だ。
解ってはいる。 解ってはいるが、ザドゥは、自分への納得がつかなかった。
「だが、汝の思いも解る。 そこで運営側にもサービスをしてやろう。
(ゲームは、釣り合いが取れていないと楽しくないからな) さぁ、来るがよい」
一瞬、眩い光が部屋を支配した。
ゆっくりと光が消えると共に、ザドゥの目に明らかになる姿。
姿は、5mをゆうに越えるであろう。 部屋を広く占拠する大きさ。
二本の角、六本の腕、四本の足、股間から生える八本の触手。
背中には、人がたらしきものが二つ、そして太い尾。
明らかに怪獣と言った姿である。
だが、ただ図体がおぞましいだけではない。
その身体に秘められた力の凄さは、空気を通してひしひしと伝わってくる。
「ぐぇっはっはっは、ここがその世界か。 おう、無事ゲームを終わらせれば
俺様を魔王にしてくれるってのは、本当だろうな?」
「その約束に、偽りはない」
「改めて安心したぜ。 なぁに、俺様が来たからには、貴様ら虫けらも、もう大丈夫だぜ。
歯向かうヤツラは、俺様が皆殺しよ」
(新しい運営者か…… このタイミングにおいて、出してくるとは、絶妙だな。
それとも、前々から仕組まれていたか……)
「それと一つ言い忘れていたが、ケイブリスよ。
汝の持つ魔人の絶対無敵の加護は、この世界においては、発動しない」
「あんだとぉ? ふざけんなてめぇ、俺ら魔王と魔人作ったんだろうが
なら、それくらい何とかしろよ!!」
「当然だろう? その力は、魔王の影響下において発動するもの。
この世界に魔王の力は及ぶか? それとも、加護なしでは、やられるようなヘタレだったと言うのか?
なら、此方は、別の者を用意しても良いのだ」
(付け加え、それでは、余りにゲームがつまらなくなると言うもの……)
最後の理由にして、本当の理由は発せずに、プランナーは、ケイブリスを煽った。
「そんな事あるわけねぇだろうが!! 俺様が、人間達に劣るわけがねぇ!!
俺は、絶対無敵の加護がなかった頃から、魔人で生き抜いてきたんだ!!
やってやろうじゃねぇか、丁度いいハンデだぜ」
「なら、決まりだな。 それと運営者の一員として、そこにいるザドゥをリーダーとして動いてもらうぞ。
後は、彼の指示に従って動くように。 では、我は、これで去ろう
必要以上に長くいるのも余り良くないからな。
他のものへの説明は、ザドゥに任せる。 では、期待しているぞ……」
全ては、プランナーの思惑通り。
そして彼は、世界とのリンクを切り、また元の空間へと帰っていった。
その場に残されるケイブリスとザドゥ。
(ちっ、何だって、この俺様が人間に従わなきゃいけないんだ。
別に運営者を殺すなとも言われなかったしな。 なんだったらやっちまうかぁ?)
殺気と共に、ケイブリスは、ザドゥを睨みつけた。
(余り良くは思われてないらしいな…… それにこの殺気、今にも襲い掛かってくる気配で溢れている)
対してザドゥも闘気を身体から発散させ戦闘態勢を整えておく、何時襲われてもいいようにと。
如何に知能が低いケイブリスとはいえ、目の前の相手の強さが全く解らぬほど馬鹿ではない。
(信じられねぇが…… こいつから感じられる力は、カイトの野郎より上だ。
負ける気はしねぇが、加護のない今、戦えば、こっちとて無事じゃすまねぇな。
この場は引いとくか……)
考えが決まるや、直ぐにケイブリスは、ザドゥへ向けていた殺気を控え目にする。
「ふん、お互いの願いがかかってるんだ、ゲーム終了までは、仲良くやろうぜ。
それで、俺は、まず何をしたらいい?」
「そうだな、では、次の放送でもして貰おうか。 他の運営者は、全員一回ずつやったのでな」
「なんだ、まだ戦いはいらねぇってか。 っけ、仕方ねぇ。
まずは、俺の存在を参加者達にもアピールしとくか」
そして、放送は、始ったのだった。
【ケイブリス】
【現在地:放送室】
【スタンス:歯向かうものは皆殺し】