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(二日目 PM3:20 東の森・南部)

先ほど行われていたまひる達と智機との激しい戦闘が終了して数分後。
病院から少し離れた森、東の森の南方にある比較的高い樹の枝に1人の女性
――監察官・御陵透子が腰掛けていた。
今、病院の中では恭也とまひる。紗霧とユリ―シャが対面し、それぞれが自己紹介も
かねて話し合っていた。
「…………」
少し強い風が吹いた。そして、
「No8 高町恭也の首輪解除を確認…」と、透子は呟いた。
智機の恐れていた事態。魔窟堂、まひる、紗霧、恭也の4人の首輪が解除される。
それは、とうとう現実のものとなった。
戦闘にこそ参加しなかったが、透子も警告役として智機のサポートに回ったものの、
それは無駄となってしまった。
「…失敗ね」透子は表情を変えないままそう言った。
参加者の大半が既に首輪を付けていない。
それは事実上、殺人ゲームが主催側の管理下から離れた事を意味していた。
いくら透子が監察官として雇われ、その役割しか果たそうとしなくても、
ゲームの運営に成功しなくては願いをかなえることはできないし、元の世界に
帰ることもできない。
「…………」
透子は懐からペンダントの様な物を取り出した。
金色の細い鎖と金色の円錐型の物体で構成されたそれは、ゲームの運営を
依頼してきた神から、契約の証として与えられた物である。

「………」
御陵透子の能力、それは神にも等しい力である。
その力は強大であるがゆえに、透子自身の存在さえ危うくしてしまうものである。
彼女は元いた世界にいた頃、自らの力の暴走を防ぐ為に同じようなロケットを身につ
けていた。
今、手に持っているロケットは、自らの存在――自同律を安定させる効果を持つ上
に、透子の力の内2つを効率よく引き出す事ができる。
――望んだ場所へ瞬時に移動できる擬似テレポート。
――1分近く、物理的な干渉を受けない状態へ変化できる幽体化(もっとも、自分か
らは移動と喋る事以外のことはできないうえに、一度使うとしばらく発動できない
のが欠点なのだが)。
それらの効果は、神が透子に監察官としての仕事をさせるために付加した。
その一方で、これを紛失・廃棄することは契約違反を意味する。
そうなっては、彼女の願いをかなえることはできなくなる。
彼女の力では願いを叶えることができない。
透子としても決して願いを諦める事はしたくなかった。
「………まだ…終わらない…」
透子は空を見上げて呟く。
この島には決して多くはないものの、生死問わず数々の思念が飛び交っている。
通常、人との関わりを持とうとしない透子だったが、ゲームに深く関わった事から
か、運営者と参加者に対して共感や興味といえる感情を少なからず覚え始めていた。
「参加者の多くに大切な人がいた……できていた…」
例えば朽木双葉。アインの手によって失った恩人、星川翼をゲームで優勝すれば
蘇生させる事ができると教えたのは透子だ。



その結果、双葉はゲームに乗って、参加者に危害を加え始めた。
「………………」
だが、『神の声』を聞いた双葉に変化があった事には、まだ透子は気づいていない。
それ以後、双葉には干渉していないからだ。
「アズライト……まひる…」
透子はこの島で特に共感している2人の名を呟いた。

2人とも人よりも遥かに長い時間を生き。
人との共存を望み。人を守るために同族とも争い。
過去に最愛の人を失った過去を持つ。

アズライトは最愛の人・レティシアの転生体を探し続ける道を。

まひるは思い出と共に朽ち果てる道を選び、1人の少女を助けた事がきっかけで
人として生きる道を選んだ。

「アズライト………」
種族の違い。時間の長さの違いはあれど、透子も長い時を生き、
長い時間、最愛の人を想い続けているという点では同じである。

アズライトはしおりを助けるためにあえて身代わりとなって、虚像のレティシアと
鬼作の亡骸と共に果てる道を選んだ。

「まひる…彼は…」

まひるは生存本能から昔の記憶を取り戻した。
それにより最愛の人を蘇らせる可能性を得た。
だが、透子が読んだ彼の心は…




「彼はわたし…わたし達に似ている」
天使と呼ばれる種族。その生存目的は戦闘力の高い固体を残す事。人の10倍以上の寿
命を持つのにも関わらず、100年分程度しか記憶を保持できないのもそれが理由だ
ろう。本来彼らが人と関わる時は自分に自己暗示をかけて人に化けて油断を誘うため
であり、戦闘知識以外の知識はおろか人格も必要ない。
彼らから見ればまひるの人格は意味の無いまやかしに過ぎないのかも知れない。
だが、彼は同族との戦いで命を落とすことなく、人に交じって現在まで
生き続けている。明らかにイレギュラーと呼べる存在だ。

透子の同族は元々、ある宇宙船のコンピューターに過ぎないものが突然変異を起こ
し、思推生命体となった。
やがて宇宙船は地球に降り立ち、そのショックで多くの同族――透子のパートナーも
含めて失った。
その後、生き残った彼らは人の脳に寄生し、そのほとんどが寄生した瞬間に自分達が
何者であるかも忘れてしまった。
だが、透子は違った。失った半身を想い続ける心は、寄生を、転生を繰り返しても残
り、徐々に昔の思い出を失う悲しみを抱えながらも、いつの日か最愛の人と再会でき
ると信じ続けた。その彼女はあまり人とは関わろうとはしなかった、それ以上の悲し
みを味わいたくないから。透子もまたイレギュラー的な存在といえた。




「けれど、あの2人の選んだ道はわたしとは大分、違う」

アズライトは死を選び、まひるは願いをかなえるの為ではなく、昔と同じように守り
たいから全力を尽くすという道を選んだ。

透子は思った。
彼らが選んだ道も悪くは無かったのかも知れない。
だが、透子にとって、死んだパートナーはかけがえの無い存在であり、39人の命を
犠牲にする事が成功条件の殺人ゲームに乗った以上は、後戻りはできない。
参加者も主催者も、強い目的があって戦っている。
透子もその1人。今はまだ戦うことは無い。
透子は空を見上げるのを止めた。
自分が果たすべき役割、その為に彼女は目的地を思い浮かべ力を行使した。
数秒置いて、彼女の姿は消えていなくなったのだった。



【主催者・監察官:御陵透子】
   【現在位置:????】
   【所持品:契約のロケット】
   【スタンス:ルール違反者に対する警告
         偵察。戦闘には参加しない】
   【能力制限:中距離での意志感知と読心
          瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
          原因は不明だが能力制限あり】
【能力制限:瞬間移動はある程度の連続使用が可能
      他にも特殊能力あり】




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