235 野武彦がゆく

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(二日目 PM5:18 東の森の小屋周辺)

「妙じゃな……」
 魔窟堂は無数の枯れた葉をつけた樹木をしげしげと観察しながらそう小さく呟いた。
 参加者及び運営者に対する、包囲作戦のための実行場所候補の下見を終えたばかりの
魔窟堂は、東の森を包んでいた空気が数時間前と大分、異なっていたのに気づいたのだ。
(枯れ始めておる…。 じゃが、これは……)
 魔窟堂の記憶によれば、数時間前までは、比較的瑞々しい葉っぱを揺らしていたはずだ。
(まさか?知佳殿が、ここを通ったのか?)
魔窟堂は数時間前に、知佳の超能力が引き起こしたであろう現象を思い出したが、断定を
しようとして止めた。
(それなら、枯れるだけで収まるはずがあるまい)
 現に木々が枯れ始めているだけで、この周辺で戦闘が行われた形跡はない。
「・・・・・・・・・・・・」 
 魔窟堂は恭也が倒れていた場所がある方角を見て、考えた。
 アインと双葉、そして未だ戻ってこない知佳の事を。
「…………」
 奥に進みたい衝動をこらえながら、魔窟堂は西の方角へと向きを変える。
(一刻も早く、その事を伝えねればな) 
 バッグの中に入れた、放送用スピーカーの残骸の重みを感じながら、ひとまず
やり終えた仕事の事を考えながら、彼は西の森を目指して走り出した。

(この鍵は果たして……運営者が用意したものじゃろうか?)
 魔窟堂は懐に入れた鍵束の感触を意識しながら考える。
 ランスを救出した際、応急処置ができる場所を探して見つけた鍵が掛かっていた妙な建物の事を。
(あの時は、身を隠すのに利用したが……。 まさか、ああいう仕掛けがしておったとはな)
 あの時、その気になれば扉を壊して中に入ることもできたが、それはしなかった。
 今度は一度中に入り、その中身を確かめてから、再び鍵をかけて外に出ることにした。
 何故なら、中にあったそれは運営者でさえ把握しようがない仕掛けがされていて、
 より大きなものを得るには仲間から意見を聞いた方がいいと判断したからだ。


(発信機の類は見当たらんかったが……これで何をするんじゃ?)
 『ある施設』に入った後、魔窟堂は次に巧妙に隠されていたスピーカーを一つ破壊し、
その部品を持ち去った。
 無論、破壊した直後に加速装置を使い、全力でその場から離れたのも忘れていない。

(あの小屋がこれから使えなくなるかもしれんが)
 次に魔窟堂は東の森の小屋で、小屋そのものにチョークであるメッセージを書き、一本の謎のペンを目に付く場所に置いた。
 この行動は紗霧発案の包囲作戦の準備の一部である。
 ただし、行動時期は不確定だが。 
 小屋を中心に展開するのではなく、小屋の周囲をさらに取り囲む形で決行する予定。
 魔窟堂はそのためにさっきまで周囲の地形を調べていたのだ。
(……まひる殿が抵抗もなく、作戦に賛成したのは意外だったの)
 実行要員は六人全員。
 掛かったのが、たとえケイブリスクラスの強敵であろうと柔軟に対応するためである。
 それと瞬間移動ができる透子がいる以上、パーティー分断は禁忌と紗霧が判断したのもある。
 あわよくば、対象をこの場で始末する事も視野に入れた布陣に、魔窟堂は反対者が出るかも
しれないと思ったが、まひるが『最初から殺すつもりじゃないんでしょ。だったらこれでもいいよ』と
言ったくらいでそれ以上、誰も反対しなかった。
(わしが一番、認識が甘かったかも知れんの)
と、魔窟堂は思わず苦笑する。
それから魔窟堂は周囲に誰かいないかを警戒しながら、更にスピードを上げようとした。

―――その時だった、地中から突き上げるような大きな揺れが起こったのは
   それはゲーム開始から二度目の出来事だった





(二日目 PM5:25頃 ???)

 辺り一面に広がる黒い渦。
 その流れはやや緩やかになり、代わりにあちこちであぶくが浮かんでいた。
 空間の中心部には相変わらず、プランナーが鎮座してるかのように浮遊していた。
「やはり……完全には安定してなかったか」
 ランスが住んでいた世界のある生物の調整に手間取っていた時の頃を思い出しながらプランナーは淡々と呟いた。
 プランナーは脚の一本を掻くように動かす。
 プランナーの目の前に四つの光が点り、それらは円状に広がり、それぞれ島のある
建物を映し出していく。
「原因はこれとしか思えぬな」
 さっきの地震は『島』周辺の空間の歪みが原因で起こったものだった。
 ゲームの舞台である『島』から異界へと通じる神々が創った空間ゲートはも含めて全部で四ヶ所。
 その内の一つがさっき魔窟堂が確認した建物と関連している。
 そのゲートは他のとは独立しており、直に干渉しない限り異変が起こっても気づけないし、手も出せないのだ。
「舞台が崩壊する可能性など全く無いが…」
 と、呟きながら先日ランスが召喚し、未だ所在が解らないフェリスの事を思い出す。
「何が現出するか確定できぬ以上、更なる対策を考えねばな」
 プランナーはため息の代わりに、身体を僅かに揺らした。



        *            *           *

(随分と長く揺れたの)
 ようやく揺れが収まったのを見計らって、魔窟堂は西の森を目指して走り出した。
 そして、彼はある疑問を胸に考える。
(これは本当に地震か……?)
 神や『島』について北条まりなから聞かされてなかったためか、魔窟堂にはまだこの揺れが地殻変動から来たものではないという確信は持てなかった。
 だが、彼はゲームに関わるもの全てが知りえない奥の手を持っていた。
 だからこそ、先ほど確認した建物の用途を理解できたのだから。



【魔窟堂野武彦(元12)】
【現在位置:西の森付近】
【スタンス:運営者殲滅、紗霧らと合流】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
      白チョーク数本、スコップ(小) 、スピーカーの部品
      ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン7本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:疲労(小)、首輪解除済み】




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