256 歪な磐石の駒-再び-

256 歪な磐石の駒-再び-


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カツンと音が暗い空間の中で幾重にも響いた。

 管制室から遥か下。
 一つの影が光を灯して動き出した。
 
 音の主は、智機……の分体の一つ。
 しかし、その智機は他とは少し違う。
 メインと何ら変わりない瞳。
 分体特有の機械的な器質とは違った少々人間臭い光りが目に宿っている。
 何故なら……メインたる智機の思考は今この時この機体にあるからだ。

(この奥にいる……)

 彼女の前に門がある。
 ルドラサウム達が待ち受けている空間へと繋がる入り口。
 ゲームのために、島のためにある四つの門の内の一つ。
 この先に彼らが存在する空間ある。
 その空間を介して智機らはこの島に連れて来られた。
 しかし、今智機が潜ろうとしている門は、それとは違う。
 この四つの門の内の一つであるこれは、他の三つとも少々違った。
 元々『見る』という視聴者のフェイズに移行したルドラサウムが覗いていない場所。
 プランナーの管理において智機のみの知り得るゲートだった。


(ここをくぐれば後には退けない……!!)

 管制室には智機のメイン意識が抜けた本体が今も尚作業を行なっているだろう。
 彼女はメインを門の手前に用意した謁見用の分機へと一時的に移してここにいる。
 代行権を同じく分機であるN-22に渡し、彼女の本機は先の件による演算思考の繰り返しによる回路の過剰な負荷、
その他諸々の理由をつけ、必要のない小メンテナンスを行っている。
 ルドラサウムからすれば、覗いたとしても智機はメンテナンスのために小停止しているとしか見えなかった。
 ルドラサウムは舞台を見る時に配役の思考までは読まない癖がある。
 よほど意識し、意図して覗く時以外は、ぷちぷちを見て楽しんでるだけなのだ。
 それは彼の大陸の時からの癖であるとプランナーから伝え聞いていた。
 だからこそ、智機の中にある感情をルドラサウムは気づいていないだろう。
 この先はルドラサウムが覗いていない空間。
 そして、この先にいるプランナーはルドラサウムとは違う。

 意を決して門の奥に足を踏み込んだ。


「くっ!?」

 眩い光がセンサーを覆い尽くす。
 強烈な光は映し出す映像を白い世界へと導いた。

<<良く来た……>>

 ずっしりとした声が智機のセンサーに、空間に響き渡る。

<<歓迎しよう……>>

 光が少しずつ弱まっていく。
 不思議なクリスタルのようなものに囲まれた空間。
 光が明けると智機の目の前に黄色く輝く巨体が浮かび上がる。

<<さて……何のようだ?>>

 彼こそが三超神が一人にして、このゲームのメインクリエイター。

―――プランナーである。






「……お聞きしたいことがあって参りました」

 傅く。
 本心ではバカバカしいと判断しながらも、相手もそのくらい見破っているだろうと判定しながらも
雇用主であるプランナーへと智機は雇用者としての構えを取りつつ音声を出した。

<<……何をだ?>>

 ばかばかしい、と智機は思った。
 プランナーはルドラサウムと違って今この目の前の自分が何を演算しているかくらい読む性格だ。
 そうでなくても当たりをつけているはずだった。 

「ご確認したいことが一点……」
<<ほう……?>>
「つい先程、私の分体が二体“破壊されました”。
あれは、プランナー様かルドラサウム様、どちらかの手によるものなのでしょうか?」


 ピクリ。
 プランナーの顔が一瞬動いた。
 ここに来るまでの間に智機はアレはどちらかの二神が行なったに違いないと予見していた。
 智機といえど透子の能力を全て把握してるわけではない。
 しかし、それでもあの爆発は歪なものに見えた。
 まず、超能力……ひとえに言っても念動力、発火能力、電磁波、様々なものがあるがどれも該当する形跡がなかった。
 念動力で対象を破壊したり、空間を爆発させる時は、大きな力……不自然な磁場等が計測できる。
 機体に何か大きな力がかかった節はなし、熱源の発生もなし、電磁気の狂いもなし。
 では、逆操作による自爆ないし暴走だろうか。
 それもありえなかった。
 もし逆操作を起こされたなら記録が残るはずである。
 飛び散ったチップからはそのような記録は一切残っていなかった。
 その他にも考え得る能力を幾つもシミュレートした。
 しかし、どれもが当てはまらなかった。
 記録を何度も計測しても何の痕跡もない。
 機体でも空間でもない、歪な爆発。
 まるで存在の否定。
 こんなことができるのは、二神を置いて他にあろうか。

<<……そうだ>>

 プランナーは認めた。
 ここで嘘を言う必要性も透子への義理も彼にはない。


「……やり過ぎではないでしょうか?」

 智機の言わんとしてることは、これにより運営側の貴重な戦力を欠けたということ。
 他にやりようがあったのではないか、ということ。
 そしてもう一つは……自分のスタンスと行動はそれだけに値するものなのかということ。

<<解った……説明しよう>>

 智機の思惑を理解したプランナーは透子の能力に関して説明を始めた。
 彼女の『読み替え』について。
 そしてプランナー自身は、智機のことについて特段思ったわけでもなく、彼女の能力に対して『許可』を与えたに過ぎない、と。
 智機は黙って聞いていた。


「私は……『願い』という代価の元に契約を結び、代償として持てる労力を全身でつぎ込んでいるつもりです」

 プランナーの説明を聞き終えた智機がぽつぽつと切り出し始めた。

「……貴方様方の盤上を進行する駒であることも重々に承知しています」

 所詮、己も盤上の駒の一つでしかない。
 精々クィーンでしかなかったのだ。
 今までの思い上がっていた智機からすれば、とても想像できない認識。


「ですが、今回、定められた動きを果たしても『願い』が叶うという可能性が見えなくなりました」

―――ゲームの終了が運営者による反乱者の始末の場合は、運営陣に課せられた条約は達成されていない。

「だからこそ問います……私達は……いや、私は何をすれば良いのですか!?」
<<………>>

 智機の叫びをじっと見つめるプランナー。

「駒……そう、私は駒の一つでしかない。 しかし、それでも私は意思を持っている。叶えたい願いがある。
そのための契約であったはずです。
……それがもはや既に叶わないと言うのであるならば、私は何のために存在しているのでしょうか!?
ボーンであった参加者達は昇格し、もはや自由に動ける! しかしキングである我々は枷が増えた!
それでもゲームを成功させるためならば、私は全力を持って尽くす!
何故なら、これにすがる以外に願いは叶わないのだから!
しかし、あなたは今言った! 何事を思ったわけでもなく、ただルール通り透子の要請を許諾しただけだと!
願いがもはや叶う段階でないなら、運営をする意味はないはずだ!
今一度、教えていただきたい! このゲームの有り方を! 我々の役目を!」

 

 無謀なことだった。
 この暴言で智機は消されてもおかしくない。
 しかし、願いの叶わない以上は、彼女は存在価値を見出せなかった。

―――怒り。

 透子の時とは比べ物にならない怒りが智機を支配していた。
 プランナーからすれば何気ない一言、しかしそれが智機の臨界点を超えさせた。

 何のために尽くしてきたのだ。
 プランナーは運営に拘るのではなかったのか。
 既に願いが叶わないなら、運営をする意味もない。
 対して参加者は何を目的にしてもいい、枷が外された存在である。
 希望を携えた参加者と崖っぷちに立たされた自分。
 戦力と言う差はある。
 しかし、目的と言う道は参加者達に広く与えられている。
 黙って死ねと言うのならば、これで消されてもいい。




 溜まった感情をぶつけ終えた智機をプランナーは見つづけた。
 じろりとした彼の黄色い巨体が智機を上から見下ろす。
 その瞳には何を考えているのだろうか。

<<主を楽しませることだ……>>

 少しの沈黙の後、プランナーは口開いた。

<<主を楽しませること、それ以外に何の目的も理由もない……。
お前も、ザドゥも、素敵医師も、透子も、参加者も……そして私も>>

「ならば!」

 これ以上、運営をする意味はあるのか?
 と智機が続けようとする。

 しかし、

<<好きにするといい>>

 遮って放たれたプランナーの言葉は智機にとって意外なものだった。


お前のやりたいように、望むように、『ゲームを成功させればいい』。
それが契約を果たすことだ>>
「それは……」
<<今後は、『許可』は行なわない。お前がどのような行動に移ろうと役目を果たしているのならば好きにするがいい。
私は『お前達』に今後『干渉』しない……>>
「では……!?」

 プランナーに問い返そうとする智機のセンサーが再び眩い光に包まれた。

「くっ……!? お待ち下さい!?」
<<覚えておけ、お前達の役目はルドラサウムを楽しませることだ。精一杯もがけ。
それが何よりのルドラサウムの楽しみになるだろう>>
 
 そう言い残し、プランナーの姿は消えた。


「…………」

 光が過ぎ去った時、智機は門の向こう側にいた。
 扉は閉じられている。

「はは……はははははははっはははは!!!!!!!!」

 誰もいない。『誰も』見てない。
 智機は声を上げて笑った。

「やってやろうではないか! 役目を守れというのなら守ってやる!」

 彼女は気づかない。
 その思考が、段々と人に近くなりつつあるのを。

「私の持てる力全てを以ってして! このゲームを成功させよう!」



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