262 巡る因果

262 巡る因果


前の話へ<< 250話〜299話へ >>次の話へ 下へ 第八回放送までへ




『今一度、教えていただきたい! このゲームの有り方を! 我々の役目を!』

「役目か……」

 静けさを取り戻した空間にぽつんと浮かび続けているプランナーに先程の来訪者の言葉が思い起こされていた。
 機械と思えぬ強い意思を持った目が頭の中に浮かび上がる。

『……私達は……いや、私は何をすれば良いのですか!?』

「そんなことは解りきってることだ……。唯一つ我が主プランナーを喜ばせるだけ」

 初めはなんだっただろう。
 気づけば自分とハーモニットとローベンパーンがいた。
 命じられた役割は唯一つ、ルドラサウムを楽しませる。
 逆らえばその存在は抹消。
 ただそれだけを永遠に行ない、これからも行ないつづける為の道具。
 理不尽……と思ったことがなかったわけでもない。
 見てて面白くない。
 飽きた。
 たったそれだけの気まぐれで何度世界をリセットし、三人で構築しなおしたか解らない。
 思い望んだものとかけ離れ、自身らの判断でリセットしたこともあったが、時にはルドラサウムの気まぐれでリセットを止められ続けさせられたこともある。


 トロスと呼ばれる魔王を作った。
 彼に従うべき七人の魔人を作った。
 やがて魔人の一人が力をつけ、トロスを倒した。

 故にリセットした。

 才能限界値を取り入れた。
 魔人が魔王に従うべく、魔人は魔王が作り出す存在にし血の盟約を作った。
 魔王の起源は1000年とした。
 臆病なスラルが他の生物達に脅かされて頼みにきたので無敵属性を与えた。
 その結果、スラルは500年で死んだ。

 スラルが消滅したので新たにナイチサを任命した。
 ところがナイチサがあまりにも人類を殺しすぎたためにルドラサウムが飽き掛けた。
 対抗策として生物の死滅数に応じて力を増し、神にすら対抗できる勇者を作った。
 結果、魔王を倒せるまで力の上がった勇者との戦いでナイチサは、何とか勇者を倒すものの致命傷を負い、寿命が縮まった。
 
 次の魔王はナイチサに任命されたジルだった。
 ジルはナイチサの件を反省し、人間牧場を作ることで勇者の力があがらないよう人間の数を維持しつづけた。
 やがてエターナルヒーローと呼ばれる人間たちが謁見に来た。
 彼らの願いを面白いように叶えてやった。
 魔剣カオス、聖刀日光、これで人類にも多少の希望と反抗の目ができた。


 次の魔王はジルの愛人であり、先のエターナルヒーローであるカオスの使い手であったガイだった。
 二重人格の隙をつかれ、ジルに無理矢理魔人にされたガイはジルが寿命の延命を図るとカオスを用いてジルを斬り、封印した。
 その時の返り血で彼は魔王になった。
 こともあろうにガイは人間領に不干渉を決め込んだ。
 思い望んだものとかけ離れたのでリセットしようとしたが、人間同士が争いをはじめルドラサウムが喜んでいたので取りやめた。
 聖魔戦争による魔人と人間の戦いはルドラサウムを大いに喜ばせた。

 やがてガイも寿命が来た。
 次の魔王はガイが異世界から呼寄せた人間の少女だった。
 人間の少女は魔王に覚醒するのを嫌がり、逃走した。
 これにより魔人達が真っ二つに分かれ、魔人同士の戦争が起き、プランナーのレールと違うもののまたルドラサウムを楽しませた。
 その折、人間に一人の王が誕生した。
 その王は今までとは桁外れのスピードで戦争を行い、次々と人間の国を統一していった。
 ルドラサウムはその様子を見て今までにないほど喜んでいた。
 人間の国を統一し終えたと思うと今度は魔人達に戦争を仕掛けた。
 ルドラサウムは更に喜んだ。
 そして予想を覆し、魔人の領土すら統一してしまった。
 その後、無理な統一がたたり、各国は再びばらばらになりつつある。
 ルドラサウムは喜んで彼の参加を望んだ。


「敷かれたレールか……」

 どれだけ色々なものを講じたか解らない。
 その度に自分が作り出し任命したものたちに覆された。

 トロスを殺した魔人。
 無敵を欲しがったスラル。
 メインプレイヤーを全滅させかけたナイチサ。
 勇者を無効化させたジル。
 魔王率いる魔人と魔物が人間を蹂躙する構図を打ち破ったガイ。
 魔王不在とはいえ、あろうことか魔人領すら支配下に置いた人間の王。

 彼の思い望んだ構図の通りに世界が動いていったことなど殆どない。
 常に何時も彼らはプランナー達の思惑とかけ離れた行動を取り続ける。
 与えられた役目にもがきつづけ、抵抗し、束縛から離れて行く。

「結局何をしても常に同じと言うわけだな……」

 反乱する参加者達
 願いを叶えることに躍起になる運営者達

 結局今までと同じなのだ、とプランナーは思った。


 違う存在があるとすれば……

「我々か……」

 何をしてもルドラサウムのためだけに存在する三超神である己。
 何があろうとルドラサウムのためだけに動く己。
 己らだけが常に違う。

(何を考えることがある。
 そうやってずっと過ごしてきたではないか。
 弄ることを楽しく思わなければやっていけなかった。
 ……やっていけなかった?
 違う、楽しんでいたのだ。
 そうしなければ……)

「下らないな……」

 そこまで考えるとプランナーは思考を止めた。

「何が楽しくなければか……。
 己はただそれだけ。ルドラサウムを楽しませるためだけの存在。
 楽しくある必要などない」

―――では、何故勇者に自分すら倒せる可能性を与えたのだ。

 もし自分が楽しんでおらず、ルドラサウムに翻弄されることを良しとしていなかったとしたら。

『今後は、『許可』は行なわない。お前がどのような行動に移ろうと役目を果たしているのならば好きにするがいい。
私は『お前達』に今後『干渉』しない……』

「……だからこんなことを言ったわけではない」
 
 不公平な肩入れは箱庭のバランスを崩してしまう。
 それがプランナーの気質であり、敷くレールだからだ。

『……やり過ぎではないでしょうか?』

 智機の言い分が最もであり、そう思ったから不公平を止めただけではないか。




<<んー、いいね、いいね。盛り上がってきたよ>>

 鏡を介して島を覗いているルドラサウム。


<<爆発になったおかげで反乱してるぷちぷちにも大分目が出てきたね。
 ザドゥもあの様子じゃただではすまなさそうだし……。
 機能停止だったら、あの後で即座に救助が可能だったのにねぇ。
 もしかしたら願いを叶える場が回ってくるかな?
 そしたらどんな風に叶えてやろう?
 素直に叶えてやろうかな、それともひねくれてやろうかな。
 楽しみだな>>

<<ルドラサウム様……>>

 ルドラサウムの前にプランナーが現われる。
 全長2kmを超えるルドラサウムの前にはプランナーの巨体と言えど、赤子以下にすら過ぎない。
 普段、ルドラサウムの前では、我侭な彼の楽しみの一環としてため口を使っているプランナーだが、このゲームにおいては主に対してと敬語を用いていた。

<<あ、プランナー。どう? さっきの爆発で反乱の成功する目も大きくなったし、楽しみが増えそうで良かったよ>>

 機能停止じゃなくて爆発ってところが域だね。
 と無邪気にプランナーに対してルドラサウムは言った。
 ランダムな結果ではあるが、解りきりながらもルドラサウムはそれを喜んでいる。

(結局、そうなのか……)

 自分が幾ら構築しようとルドラサウムの楽しみなど彼の気分次第。


―――なんだやはり同じではないか。
―――似てると思ったからか。

 下らない、とプランナーは再びその理論を頭から払いさり、本来の目的へと切り替える。


<<そのことで一つ申し上げたい旨が有り参りました>>
<<ん? なに?>>
<<やはり先程の爆発は少々やりすぎではなかったかと思いまして……>>
<<良いよ。おかげで盛り上がりそうだからね>>
<<いえ、そうではなく。彼女にだけ手を貸すのはやはり不公平であるべきかと……>>
<<硬いなぁ、プランナーは……。別に良いじゃないか>>
<<それに許可し続けるのは、ゲームバランスの崩壊を招いて面白くもないかと……>>

 今後、彼女の許可を許しつづけていたら、引き起こされる方法がランダムであるとはいえ、
反乱者や運営内部のゴタゴタがある以上、使う機会、透子が使わざるを得ない場は何度も巡ってくるだろう。
 そこで使われつづけてはつまらないものになる可能性が高い。
 そのようにプランナーは進言した。

<<んー、まぁ、確かにそうなんだけど……>>

 透子の性格からそうそう使うことはないともルドラサウムは思うが、プランナーの言うことも一理ある。
 今はであって、なってからでは遅いだろうし、いちいちあれは許可してこれは許可しないとプランナーが判断を介入するのも
解りきったツマラナイ結果しかもたらさないだろう。
 それに基本的な運営はプランナーに任せてるのだ。


 せっかくの面白い舞台を潰すようなことならいざ知らず、彼は自分を楽しませる為の存在なのだ。
 彼は面白くするために奔走しているのだ。
 以前のように面白くて見つづけたいから続行させたい、というわけでもない。
 彼なりの考え合ってのものだから別に良いだろう。
 
<<まぁいいか。別に彼女の『読み替え』自体は前報酬じゃなくて、この世界において許してただけだしね>>
<<ありがとうございます>>

(通ったか……。所詮、ルドラサウムにしてみれば面白くなれば何とでも良いのであろうからな……)

<<用件はそれだけかな?>>
<<はい。ありがとうございました。
 それでは、私の方は備えなければならないので……>>
<<ああ、そうそう。
何人か魂がこっちに来てないんだ。知ってるかもしれないけど後で確認をしといてね>>
<<御意に……。
……では失礼させていただきます>>

 プランナーがルドラサウムのいた場所から消え去っていく。

<<さぁて、話してる間にどうなったかな、と……>>

 先程まで彼がいたことなど何事もなかったかのようにルドラサウムは再び島を覗き始めた。


(これでいいのだ……)

 彼の場所へと戻ったプランナーもまた島を見出した。

 これで箱庭の中の人物達は、正しく平等になっただろう。
 後は各々の既に所有してるものだけ。
 果たして箱庭の中の人物達はどう動くのだろうか。
 また予想外のことをしでかしてくれるのだろうか。

(さぁ、何を見せてくれるのだ。お前は……)



前の話へ 投下順で読む:上へ 次の話へ
256 歪な磐石の駒-再び-
時系列順で読む
259 選外・後編

前の登場話へ
登場キャラ
次の 登場話へ
256 歪な磐石の駒-再び-
プランナー
299 It tries
304 天覧席の風景(ルートC)
253 奈落は人形達の傍らに
ルドラサウム
300 ちぇいすと☆ちぇいすっ!〜復路〜(ルートC)