299 It tries

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(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)

いつの間にか体の痛みは消えていた。
まわりは暗く、暑くも寒くもないところに私はあお向けで寝ていた。
手と足は動かせられなかった。
目だけと鼻だけが動かせた。
かちかちかちかち……
時計の針がうごく音がだけがきこえる。
何も見えないところにいるのに…………なんだかなつかしい感じがした。
わたしたちが住みなれたおうちのにおいが感じられた。

怖くて、すこし悲しいことがあったあの日の夜に似ていた。
……そう、そうだこれはわたし達が決心したあの日の夜。
わたしは横を向いた。
さおりちゃん?さおりちゃん?さおりちゃん?
……なんでいないの?
どこへいったの?どこにいったの?
あなたがここにいなきゃ、明日わたしたちの大切なひとに告白できないのに。
わたしは悲しくなって、泣こうとした。
涙は流れない
声も出ない。
手足も動かない。

……かちかちかちかちと時計の音だけが聞こえる。
わたしは怖くなった。
さおりちゃんがいないが怖い。
……それと同じくらい、あの日の次の日……
ふたり揃って告白したあの日がなかったことにされるのが怖い……。


だってあの日がなかったらわたし達は……。
力を入れているのに手と足は動かなかった。
…………!
痛いけど、人さし指が動いた!
わたしは痛いのをガマンしながら、少しずつ指を動かそうとした。
まわりは暗く、だれもいない。
けれどさおりちゃんを探すため、大切な人を探すため。
わたしはがまんしながら指先に腕に力を入れ続けた。



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(Aルート 二日目 PM6:28 ????)

ルドラサウムが喜んでいる。
朽木双葉の絶望の断末魔を噛み締めるように。
過程こそ予想を上回ったが、その最期は我とルドラサウムの期待通りだった。
あの六人によるザドゥらの接触も火災の規模から当分はない。
後の問題は運営が火災にどう対処するかだが、椎名智機には相応の戦力を与えている。
朽木双葉の術の影響が無くなった今ならザドゥらも充分脱出は可能だろう。

…………。
長谷川均の魂はまだ来てないようだ。
奴がいた世界の構造と死因を考慮すれば、予想の範囲内といえば範囲内。
……あるいは確率の低い……我が望む結果が出たか。
楽しみだ。
……!


《……またか》

舞台は揺れなかったが、今度のはルドラサウムの方が揺れたな。
……ルドラサウムは気に留めていないようだ。
だが、ここに影響が出てしまったか。
……舞台の観察は支障なく行える。

《第三界にいた連中も動きは無く、魔のものも介入する気配はない。
 …………》

……後の事もある、各空間を確認せねばな。
シークレットポイントでさえ、まともに機能しているかも定かではないのだ。
発見と調査をしやすいように、シークレットポイントには微量の魔力を放出させる設計にしておいた筈だった。
にも関わらず9のグレンはシークレットポイントの発見できてなかった。
ここまで放置されたままゲームが進行した現在、部屋としての機能しかなくとも大きな問題は無い。
むしろ御陵透子の世界の読み替えを制限した以上、機能すれば運営に対する決定打にもなり得る。

12魔窟堂野武彦が調査をしていたが、どれほど把握できていた?
……奴がいた世界にも魔法は確認されていた。
グレンよりも魔道に長けている可能性はある。
もし奴が把握できるなら、今後の舞台の構築の進歩になり得るが……。

《…………やはりか》

ここからだとシークレットポイント内部の確認ができない。
確認はしたいが、ここからの移動はルドラサウムの許可がいる。

《様子を見ておくしかないのか。しかし効果が大きく変動するとなれば……》

最悪シークレットポイントに秘められた力一つで、勝敗が決してしまいかねない。
それは回避すべき事態。


ゲームの破綻は絵空事ではない。

《ここの空間だけでも修正したいが……どうする?》

作業したとしても、終了まで時間が掛かる上に、完全に修正できるとも限らない。
幸い、例の運営者との面会予定時刻まで少々余裕はある。
運営陣には少々リスクを背負ってもらう事になるが、椎名智機の与力を利用するか……。

《……ほう》

あの小屋を目指すか……。
なら別の機体を利用するとしよう……。

《…………》

さて、ルドラサウムに申請をして来るか……。




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(二日目 PM6:30 ???)

やっと、やっと腕が上がったよ。
どれだけ時間がかかったとか、これが夢かどうかは関係なかった。
指先がちょっとだけ温かい何かにふれたから。
なんだろう?なんだろう?
そのぬくもりが何かはわからない。
でも、ふれるだけで心がちょっとだけ安らぐような気がする。
うれしかった。


わたしは何度か深呼吸をして、息をととのえようとする。
今度は声をあげようと思った。何かを、誰かを知るために。
わたしは息を大きく吸って――




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《…………》

これは驚いた。
18星川翼や6タイガージョーなら、別に不思議ではなかったが。
一回目にして実験が成功とは……。
そして我の方も……。

《……ありがとうございます我が主よ》




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(Aルート 二日目 PM6:55 F−4 楡の木広場跡地)

〜しおり3〜

腕は上がらなかった。
指一本動かす気もおきなかった。

「どうしてぇ……」

あたりは音とオレンジ色。


わたしは上げた……と思っている方の手に残るぬくもりを思い出そうとした。
けれど……。

「……」

ぬくもりはたった一回の揺れのあと、ふっと消えてしまった。
目が覚めたのはそのとき。
もう、あのぬくもりを思い出せない。
あの揺れが実感として残ってしまっていた。
わたしのまぶたがだんだん重くなっていく、まわりが白くかすんでいく。
わたしはまた眠ってしまう前に大切なひとの名前を呼ぼうとした。

「……」

だれの名前を呼んでいいかわからず、わたしは息をはいて目をとじた。



(Aルート)

【現在位置:F−4 楡の木広場跡地】

【しおり(28)】
【スタンス:大切な人に会いたい】
【所持品:なし】
【能力:凶化、発火能力使用(含む紅涙)、炎無効、
    大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:首輪を装着中、全身に多大なダメージを受け瀕死の重傷、
    精神的疲労(小)
    歩行可能になるには150分前後の安静が必要
    戦闘可能までには更に3時間前後の安静が必要】



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