298 Only he noticed.
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(Aルート:二日目 PM6:33 D−6 西の森・小屋3)
小屋の中に5人の男女の驚愕の声が反響した。
レプリカ智機P−3との取り引きの妨害としか思えない、
ランスのP−3へのセクハラ行為の紗霧の許可。
寄りにもよってそれを交渉の条件に含めるというのだ。
「マジですかっ?」
動揺が入り混じった声で、まひるが紗霧に顔を向けるも無しに疑問の声を上げた
返事をするのも面倒という感じで紗霧は無言でまひるに視線を送った。
「がはははは、いい方法じゃないか紗霧ちゃん」
上機嫌のまま、その展開がさも当然であるかのように
ランスはP−3への下腹部への愛撫を強くする。
P−3は更なる快楽に抗がおうとするが、できそうに見えなかった。
ユリーシャは不機嫌なまなざしを隠そうともせずに紗霧を睨む。
紗霧は意に介せず自信ありげに口元を歪ませ、不敵なまなざしでそれに応える。
魔窟堂と恭也は困惑しながら、五人をただ眺めている。
「椎名さん、行為に没頭するのは結構ですが、貴女の返事はどうなんですか?」
「う……うう、ランス、少し止めてくれないか……んぐっ」
ランスは指の運動を止めようとしない。
「ランス、やめてくれませんか?……今からアタマかち割りますよ、マジで」
紗霧はにこやかな顔で警告をした。
それに加えて声は威厳のない可愛らしいものだった。
にもかかわらず、彼女から発せられた声と殺気は、
この手のケースに置いては非常に鈍感かつ
悪意で答える傾向があるランスでさえも背筋が寒くなるほどのものであった。
「……ああ早く済ませてくれ、智機ちゃんも待ってるからな」
「だれ、が」
さしものランスも渋々ながら従う事にしたようだった。
紗霧は頷き、それに魔窟堂と恭也は安堵の溜息をついた。
ユリーシャは剣呑な目付きはそのままに、紗霧とランスを交互に見つめていたが
まひるが心配そうに自分を見ているのに気づいたのだろう、とっさに顔を逸らした。
P−3は快感の余韻からの荒い息を吐きながら紗霧に返答した。
「OKだ。それで構わない」
「了承。ランスまだ早いです」
紗霧はランスに釘をさすのを忘れず、魔窟堂ら4人の顔を見渡し言った。
「この場での交渉は私とランスにお任せ下さい。
貴方達は椎名さんとランスの行為は見たい訳ではないでしょう?」
紗霧は苦笑しつつも、魔窟堂らの退出を促す。
魔窟堂らは視線を交わし、その意味を察する。
紗霧はランスに目配せした。
彼は瞬時に的確にそれに応え、P−3の胸と下半身に指での愛撫を再開した。
「ううむ……そうじゃな、後は任せたぞ紗霧殿。また後でな」
「…………」
「あ……」
魔窟堂の応答の直後、ユリーシャは表情を変えずに出口に向かった。
思わず声をまひるは声を上げた。
「ぐむ……行くか恭也殿」
「ええ」
魔窟堂と恭也は席を立った。
その間にユリーシャはランスの方にそっと顔を向けた。
「……」
ランスはユリーシャに気づいていなかった。
P−3も快楽ゆえか彼女に気づい様子はなかった。
P−3の喘ぎ声を聞きながら、彼女は顔を俯かせてドアを開けた。
「……ねえ、大丈夫?」
まひるは紗霧の方に視線を向けて、心配そうに言った。
「ランスの事も私に任せて下さい」
自信ありげな面立ちで紗霧は言う。
紗霧にはランスの性癖を見越した上で交渉をうまく進める自信があった。
彼女はこの島に呼ばれる前にも、
他人同士の性行為を見た事は何度かあったからだ。
それは主に今は果たした彼女の夢の一つを実現させる為の過程の中で。
そんな今の彼女の脳裏にうっすらと浮かぶのは、かつての母校、富嶽学園の校庭。
嘗て元の世界で猪乃健の部下をやっていた頃、
もっとも凄惨な性暴力を目撃……助長さえした事が紗霧にはあった。
学園を支配者、猪乃健から信頼を得る為。
そして理想を適える組織を創る下準備の為。
彼女は最初期の政策の一環として、
学園内にいる敵対勢力から派遣されたスパイの一斉摘発をした事があった。
摘発されたスパイの中には女性も含まれており、
燻り出したその女スパイ達は捕縛後、猪乃の部下に輪姦され、
その後、男のスパイと一緒にまとめて『粛清』された。
その惨状を当時の紗霧は猪乃と共に校舎の窓から平然と見下ろしていた。
もっとも……猪乃追放後は、性暴力に手を貸す行為は、
例え主君の鋼鉄番長が敵対校の女生徒に軽いいたずらを希望したとしても
基本的に紗霧は却下していたのだが。
今の紗霧はそれを禁忌とするつもりはない。
鋼鉄番長らを始めとする仲間がいないこの世界が故に
昔と似た道を選んだ彼女にとって
今更、性暴力に……ましては一応は和姦であるランスの行為を
許容する程度の事で惑う訳には行かなかった。
「そうじゃなくてさ……」
そう思い合わせる紗霧に対し、まひるから否定の言葉が飛ぶ。
「…………」
紗霧は眉が動かし、問いの意味を探り、言った。
「内蔵スタンガンですか?
心配しなくても万が一にも私に危害が及ぶ訳でも無し」
強化Nシリーズとの戦闘で、まひるを数瞬朦朧とさせた武器の名を紗霧は出した。
半分以上は冗談だったのだが、流石にランスは少々気を悪くし手を止めた。
「俺様は智機ちゃんにやられるヘマはしないぞ」
ランスはジト目で紗霧を見てそう言うと、すぐさまP−3への愛撫を再開した。
P−3からは言葉はない。
紗霧は呆れたようにため息を付いた。
「ボディチェックも済ませましたし、
貴女の出来る事はもうこの場では無いようですが?」
苛立しげに紗霧はまひるを睨むが、眉間にしわを寄せるものの引く気配はない
「う〜ん……」
渋るまひるにようやく、快楽に抵抗したP−3は反応した。
「私は……戦闘用ではない、
まぁ言った所で充分な信用は得られるとは思ってないが、ねっ」
そう言うP−3にはいかにも余裕がなく、嘘は付けそうに見えない。
「がははは、それではお前はなんなのだ!」
「あ、ん……ふざけな……いでっ」
言葉でからかいながらランスはP−3の秘部への愛撫を始める。
P−3は言葉で抗おうとするがまるで無力だ。
「……まひるさんもこれ以上、ここにいるのは嫌でしょう?」
「ちょっと待って」
うんざりとした感じの紗霧をよそに、まひるはP−3を真顔で見つめた。
「むむっ」
ランスが自分勝手な期待の入り交じった声を上げ、紗霧はそれに不機嫌な表情を浮かべた。
まひるは嫌そうな顔をしながらP−3を凝視した。
「……」
まひるは真顔になるとP−3を凝視したまま、鼻をひく付かせた。
「…………」
紗霧の視線が痛いからなのか、まひるの頬に一筋の汗が流れる。
それで諦めた訳ではなく、下唇を一回噛んだ後さらにまひるはP−3を見つめた。
紗霧はまひるがようやく途中で何か考え始めた事に気づいた。
小屋から出ようとした魔窟堂、恭也、ユリーシャも空気の変化を感じ、黙って経過を見守っていた。
まひるは目を閉じた。
紗霧は覗きの趣味が……と口に出そうとしたが止め、まひるの次の反応を待った。
「………………」
まひるはゆっくりと息を吐き出すと、目をゆっくり開け、
額に汗を浮かべながら、P−3へと数歩近づくと匂いを嗅ぐ仕草をした。
「……」
すぅと息を吸う呼吸音が聞こえ、まひるはまた沈黙した。
紗霧の片眉が興味深そうに動く。
異変を肌で敏感に感じたのか、ユリーシャが唾を飲み込む音がした。
そして、まひるは振り向きもせずに唐突に言った。
「ねえ、紗霧さん、病院で最後に倒した奴については話したっけ」
病院を襲撃し、最期にまひるを道連れにしようとしたレプリカの事である。
「……自爆した固体ですね。それが?」
「……」
恭也はユリーシャに何か断りを入れると、ドアを音もなく開けた。
小屋の内外の警戒を強めたのだろうと紗霧は判断した
「どうやって自爆したかまでは、まだ話してないよね」
「爆弾で自爆したんじゃないんですか?」
内蔵爆弾でレプリカが自爆した事までは紗霧は知らないでいた。
だが動揺はしなかったし、目の前のP−3が所持してるとも思えなかった。
「こいつにもし、あの時の様に毒ガスか何かが仕込まれてたら」
緊張も感じられない、ただどこか無機質な平坦な声でまひるは警告した。
似つかわしくない……と紗霧は思った。
「なあに心配いらん、俺様の勘がこいつに害がないと言っている」
「心配ないですよ、そんなの持ってたらとっくに仕掛けてます。
それで貴女はどうしたいと」
自身の命さえも奪いかねない、武器の存在を耳にしても
ランスと紗霧の調子は変わらなかった。
それでも尚、まひるは紗霧に食い下がろうとしていた。
「う……」
「待ちたまえ!」
まひるが言うのを遮って、突如P−3は会話に割り込んだ。
「…………」
「OH……広場まひる。はあ……君も交渉に、はあ……参加したいのかね?」
まひるは無言でP−3の問いに頷く。
「はぁ……むおっ……君も交渉のテーブルに就くというなら、私は……不安だ」
これまでされるがままだったP−3が両手を振り回し、ランスに抵抗する。
「がはは……心配いらん、主催のヤロウが襲ってきたら返り討ちにしてやる」
「…………成程、彼女を警戒している訳ですね」
ランスの戯言が終わるのを待って、紗霧はP−3の要望を代弁した。
「YES。いきなり私が破壊されては堪らないからね、
可能なら月夜御名紗霧とランスの3者のみで交渉をしたいのだよ」
口調そのものはおどけたようだったが、そこには明らかに拒絶が感じられた
紗霧はそれを理解し、視線だけを動かしてまひるに席を外すように言おうとする。
「いま、あたしたちになにかした?」
まひるが紗霧より先にさっきと同じ調子で言った。
「No……私にそんな余裕はない……」
紗霧らが見る限り、P−3が何かをしたようには見えなかった。
P−3も何が起こったか検討がついていない様に紗霧には思えた。
「……」
「どうしたのですか?」
やや離れた所でユリーシャが言った。
紗霧は今度はあえて何も言わなかった。
「…………」
まひるの表情が少々沈む。
身体がほんの少しだが震えていた。
それに紗霧が気づいたのとほぼ同時にまひるは右手を頭に当てた。
「……ちょっと立ち眩みが……」
魔窟堂が心配そうに声をかける。
「それじゃったら尚更、外に出て……」
紗霧にもまひるの不調が嘘でないと見れた。
まひるは顔を上げると、意を決したような表情で言った。
「ううん……だいじょぶ。紗霧さん、あたしもその話し合いに混ぜてくれないかな?」
小さく笑いながら、ただしその眼差しは真剣なままでまひるは紗霧に願い出た。
紗霧は胸騒ぎし、思わず髪に指を絡めた。
紗霧はしばしの間迷ったが、言った。
「……ランス、今は、そのセクハラを止めてください!」
「………………何でだ、紗霧ちゃん?」
ランスは紗霧の強い呼びかけにも関わらず、中々行為を止めようとしなかったものの
膨れ上がる殺気に気づいたのか、ランスは不満の混じった声で疑問を口にした
「はあ……はあ……どういうつもりかね……?」
ランスの執拗なセクハラから解放されたP−3に対し、紗霧はすかさず言った。
「交渉には貴女と私とランスとまひるさんが参加。
他の皆さんは外に退出していただきます。
ただし、さっきと異なり貴女が望む限りランスにセクハラ行為はさせません。
そして我々の安全が確保される限りは、まひるさんに貴女を破壊させません。
それが我々が交渉に応じる条件です」
P−3は思わず眼を瞬きさせた。
そして苦笑しながら、セクハラ受ける前と同じ上から目線でなく下から目線で言った。
「OH……よく吟味すれば……随分そちらに都合のいい話だね……」
「早く答えてくださいな。はいか、YESで」
不敵な笑みで選択でない選択を紗霧はP−3に迫った。
「…………フフ参ったな……断るという選択肢がないではないか……
まあ、それもいいだろう……条件を飲もう」
「魔窟堂さん」
「うむ」
魔窟堂は力強く頷くとユリーシャと共に出入口へ向かった。
ユリーシャは一瞬足を止めたが振り返らずにそのまま外に出た。
「ちぇ……」
ランスが不満げな声に紗霧は不機嫌そうに顔をしかめる。
それに取り合おうとするのを止め、紗霧は椅子に座り直す。
そして魔窟堂と恭也も小屋から退出し、ドアが静かに閉められた。
「貴女達にはさてキリキリ喋って頂きましょうか?」
「Why?ここにいるのは私一体のみだが?」
「そうでしたね……ねえ、まひるさん」
「うん……?」
戸惑いの表情を浮かべるP−3と、面倒くさそうに
ただP−3の下半身を時折見つめるランスを他所に、
紗霧とまひるは曖昧な笑みを浮かべながら言葉を交わす。
「後悔しても知りませんよ?」
「……」
これまでのまひるがランスに向けた反応からして、
これから目の前で繰り広げられるだろう情事はまひるにとって
さぞ苦痛であると違いないと紗霧は予想していた。
だがまひるがランスや自分の手段への嫌悪感を抑えるだけの根性と柔軟さがあるなら
それはそれでいいと思っていた。
「……足手まといと判断したら、ちゃっちゃと出て行ってもらいますからね
……ね、まひるさん?」
「う、努力する」
紗霧はその言葉に肩をすくめるや、本調子に戻ったP−3へ向き合った。
月夜御名紗霧、ランス、広場まひる、レプリカ智機:P−3。
3人の参加者とゲームの備品の一つである四者の交渉はここから始まる。
(ルートA)
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3内】
【グループ:紗霧・ランス・まひる】
【月夜御名紗霧(元36)】
【追加スタンス:P−3との交渉をうまく進める(ランスがP−3との性行為を望むのなら黙認する)
まひるが察した何かを探る、ただし交渉の邪魔になったら追い出す】
【広場まひる(元38)】
【追加スタンス:P−3への警戒、紗霧への同調、?】
【ランス(元02)】
【追加スタンス:隙あらばP−3にスケベな事をする
大きな隙があれば紗霧とまひるにもスケベな事をする】
【レプリカ智機(P−3)】
【スタンス(変更?):ザドゥにぶつけるための交渉?、?】【所持品:?】
【現在位置:D−6 西の森・小屋3→西の小屋外】
【グループ:魔窟堂・恭也・ユリーシャ】
【共通スタンス:敵の襲撃への警戒、交渉の終了まで待機?】
※キャラの状態やアイテムの詳細は 269 その先に見えるものは の状態表 を参照してください。