269 その先に見えるものは

269 その先に見えるものは


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(うーむ。ドレス姿のユリーシャに着せてみるのも中々オツだと思うが、
やはりギャップを考えると狭霧ちゃんかまひるちゃんなんだが……。
 サイズ的には狭霧ちゃんしか無理そうだな……狭霧ちゃんとメイドプレイと言うのも中々捨てがたい……。
 うむ、俺様のスーパープレイで運営のやつどもをけちょんけちょんにした後、
プランナーの野郎をスーパー頭脳で上手くはめてバンバンザイすれば、
狭霧ちゃんとまひるちゃんも俺様の良さが少しは解るに違いない)

 『少しは』と言う風にしてる辺りがランスが状況を理解し、控え目になってる辺りであろう。

(そうでなくとも無事成功した暁にはお礼に一発くらいはやらせてもらうのもありかもしれんな)

 この辺は相変わらずランスらしい。

 ニヤニヤとしながら心がを含めた女性陣を見渡すランスの視線に狭霧が気づく。
 その横では、『似合うと思うんじゃがのう、その服も大分汚れておるし着替えるのもいいと思うんじゃが』と魔窟堂が未練たらしく呟いている。

 ピキン、と何かが割れる音がまひるにはその瞬間、確かに聞こえた。

(……殺りますか)

「ふふふふ」

 と狭霧はにこやかな微笑みを浮かべると背中から再びバッドをするすると取り出す。

「ちょ! 狭霧さん落ち着いて!」
「……さささ、狭霧殿?」

ニコニコとしながらジジイではなく名前で呼ぶ狭霧の顔が魔窟堂や横にいるまひるたちには少々怖く感じれた。
 なにしろ、先ほどランスのハイパー兵器を破壊?した獲物を握ってるのである。

「そそそそ、そうじゃ! 話したいことがあったんじゃが……」

 魔窟堂の言葉で心の中でピクリとだけ動いた狭霧が魔窟堂の顔を覗く。

(さて、ジジイ? もしかして先ほどのことですかね? それとも探りを入れてくるのか……)

 即座に思考を切り替える辺りは狭霧であろう。
 ジジイこと魔窟堂が不信感を抱いたのは先ほどのやり取りで感づいていた。
 このタイミングで話し掛けてくるということは、その気づいた不信感を直接か、
遠まわしか、どちらにせよぶつけてくるのか。
 それとも確信を持つために探りを入れてくるのか。
 騙しあいが始まりますかね? と狭霧は心の中で呟く。

「……なんでしょう?」

 まずは切り出してみないことには始まらない。
 魔窟堂の声にとてもバットを握り締めてるとは思えないほど爽やかに返事する狭霧。
 下らないことだったらどうなるか解ってますよね? と無言の笑顔。
 その様子が余計にまひる達の顔を青く引きつらせる。


「う、うむ。……有体に言えばこれからのことにあたってなんじゃが」
「……と言いますと?」

 どうやら今のところ先ほどのこととは無関係であるようだ。
 一応下らないことでもなさそうである。
 尤もこの先に何があるか、狭霧は油断できないが。

「此方側の戦力・状況分析はほぼ終わったと言ってよいじゃろう。
で、これからの指針になるわけじゃが……、その前に運営者達のことについてじゃ」
「なるほど。脱出が成功するにしろ彼らとの衝突は避けれない。
これからの行動を決める前に、その為にも私達と同じように彼らの戦力と状況を分析すると言うことですね?」
「流石狭霧殿じゃ。解りが早くて助かる」

 純粋にそれだけの理由で魔窟堂は話している。
 それは例えかすかな不信感があったとしても、やはり知能という面においては最も狭霧が頼りになるからであろう。
 ふむ。と内面で思考した狭霧は、警戒を解く。
 必要以上に張れば、何処かで警戒を相手にも気づかせてしまう。
 それは必要以上に不信感を煽ってしまう、と判断した。
 魔窟堂の方も必要以上に勘繰れば彼女に警戒と不信感を抱かせてしまうのがわかっている。
 今まで通り普通に接するべき部分ではそうしていくべきだろう、と判断し、これからのことも兼ね揃え、話題を切り出した。

「では、順番に行きましょうか。
まずはあのザドゥという男ですね」


ようやく妄想の世界から帰ってきたランスと心配するユリーシャもようやく彼らの会話が耳に届く余裕を取り戻す。

「あぁ、あの野郎か……」

 低い声を出しながらランスはザドゥのことを思い出す。
 同じく、全ての始まりであったあの時を各々は思い出していた。

「最初の彼の立ち位置から大体想像できますが……タイプ的にも駒というよりは彼の役割はリーダーでしょうね。
恐らく頂点にどっしりと構え座り、まとめ役に立つものだと思いますが……」
「ワシもそう思う。そのためにも圧倒的強さを持つ彼なのじゃろうな……じゃが……」
「ええ、倒せないわけではありません」

 あくまで倒せない『わけではない』ですけどね、と付け加わる。

 タイガージョーとの打ち合い。
 凄まじい攻防の果てにザドゥはタイガージョーを打ち倒し、その自らの強さを示した。
 その強さは参加者を畏怖させる。
 が、今この時をもってして、それは手の内を晒したという事実に他ならなかった。

「格闘家に間違いないでしょうね。それも生粋の」
「格闘家なのは解るが、あいつの打撃一つで虎野郎の動きが止まったぞ?」

 狭霧に対して少々ぼやきながらもランスはあの時見えた光景の疑問を吐き出す。
 彼の世界にも格闘家は存在している。
 例えば、かつて世界最強と謳われたフレッチャー・モーデル……本人はもはやただのデブだったが、
その弟子は真空破のような物を出したし、ランスの良く知るヘルマンの皇子パットン・ミスナルジは、
格闘レベル2であり、武闘乱武という奥義を使える。
 ……周囲の認識は自爆技では有るが。

「俺様のランスアタックのように気を使ってるのは解ったんだが……あれはちと厄介だぞ?」

 タイガージョーが放った奥義といい、ザドゥが使った死光掌といい、どちらも気を利用している。
 同じく気を利用した必殺技を放てるランスは、全てを捉えきることは不可能だったが、彼らの気の動きを原理は解らぬが垣間見ることができた。
 
「ふむ、気か……。それなら恐らく。
気を相手の身体に打ち込んで相手の体の動きを止めたり、支配権を封じて自由に動かすとかかのう……。
YOU は SHOCK〜 愛で空が落ちてくる〜。というやつじゃな」

 世紀末覇者達が繰り広げる漫画のテーマソングを歌いながら魔窟堂がそこから読み取った推測を重ねる。
 あの時は何をしたのかどんな技か解らなかったが、気を使ってるという事実さえ解れば、無駄なオタク知識が導いてくれる。

「……触れられたらアウトってことですかね?」

 歌う魔窟堂に呆れつつ狭霧が推測を尋ねる。
 もし、それが事実であるなら、真正面からの戦いではほぼ無敵と言っていいだろう。

「それはないんじゃねーかな。俺様のランスアタックもそうだが、気を整えるための時間が必要だし、この手の技は練った時間と込めた力に応じたモンになるからな。
あの時、あの野郎も気を練ってやがったのは感じ取れた。
速射性はなし、触れられたらアウトってこたないと思うぜ」
「うむ。わしもそう思う。全力全開で撃ったものがどのくらいの威力でどういう効果を出すかまでは解らぬが、
漫画のように指先一つで秘孔を押せばダウンということはなかろうて」
「なにその漫画?」
「なに世紀末覇者達の集う熱い漫画じゃよ。無事戻れたらまひる殿も読むといい。なんならワシが貸して……」
「はいはい、それはいいですから。続けましょう」
「ちょっとくらい語らせてくれてもいいじゃろう。オタクの本分は語ることに……」


さみしいのう。とさめざめという魔窟堂を横に狭霧は情報を皆の前で整理する。

 ザドゥ。
 格闘家であり、その実力は計り知れない。
 彼の役割は、ゲーム運営実行者達のリーダー。
 運営実行者達を纏めている象徴が彼なのだろう。
 が、真正面からでもこのメンバーで勝つ事は可能と判断できる。
 スピードにおいては魔窟堂の方が圧倒的であるし、ランスや恭也の戦闘力、まひるのトリック的な能力、
そして今はいないが知佳、更にもしアインが加われば、益々負ける要素はない。
 また人間である以上、粉塵爆弾のようなトラップを防ぎきる事は不可能だろう。
 しかし、ザドゥの格闘家としての戦闘力もまた達人を超えたものであり、その一撃もさることながら、
相手の動きを止める奥義も所有していると判断できる。
 攻撃力は非常に高く、一撃一撃が下手をすれば致命傷に繋がる可能性もある。
 真正面からぶつかれば、何人かは命を落とす可能性が高い……いや落とす方が確実だろう。
 あくまで真正面から闘った場合であり、奇襲をされた場合の対処は難しいといえる。
 倒すのは難しい。
 しかし、方法がないわけではない。倒す方法を取れないわけでもない。
 みなの指揮を高めるためにも『希望は見える』と強調する。

「奇襲してくるようなやつにはみえなかったけどな」
「あの手のタイプは正々堂々真正面から制裁を加えに来るタイプじゃな」

 と最後にランスと魔窟堂の意見が付け加わった。





「では次に行きましょうか」
「関わった順番からいけばあの嬢ちゃんかのう……」
「それって……」
「どれだ?」

 察したまひるに対して、嬢ちゃんと言われて、最初にいた三人のうちどちらであろうかと尋ねるランス。

「御陵透子……警告者の方じゃな」
「おー、あのねーちゃんか」

 んむ、あのねーちゃんも中々えがった。とランスはニヤケタ顔で思い出す。
 警告を喰らったことより彼の中ではいい女という印象の方が強い。

「「…………」」

 その様子をジト目で見る狭霧とまひる。
 狭霧は重要な情報なのにと呆れつつ、まひるはこの人は相変わらずだなぁと苦笑しながら。

「まず共通している事は、神出鬼没。恐らく何らかの移動能力を持ってるのじゃろう。
次にどうやら初期の頃からゲームに消極的なもの、反抗的なものや行為を取るものに警告を加えていたようじゃな」
「……何というか得体の知れない不気味な感じでしたね」
「でも攻撃的じゃなかったよね……」
「総合するとその移動能力を持って警告と監視をするのが彼女の役割じゃろうな」

 事実、病院では透子の警告の後に狭霧達は襲われている。
 ランスは、その後にケイブリスの襲撃を受けている。
 透子の役目は警告者に徹するものだろう。と彼らは判断する。

「戦力としては不明じゃな……あの神出鬼没な移動能力は厄介じゃが」

 故に不気味である。
 ザドゥやケイブリスのように見るものを畏怖させるような『強い』という感じはないが、
先ほど、狭霧が言ったように何かを隠してるような不気味さがある。

「実際に戦闘になってみないと解らんが、知佳殿やまひる殿のように特殊能力的な何かを使うタイプかのう……」
「直接戦うタイプではなさそうですからね……。ま、現状ではこのくらいでしょう」
「では次じゃな……」
「包帯ぐるぐる男ですか?」
「んむ……嫌な声をしとった」

 あまり思い出したくない、語りたくないといった風に魔窟堂が口篭もりつつ語る。
 狭霧の方も遺作に捕まった時に少々の事は聞いていたし、因縁のある物が多い相手である。

「トリックスター……と言ったところかの」


 素敵医師の行なったことは、ゲームを加速させること。
 薬と話術を用いて、遺作のようなゲームに乗っているものにはサポートを。
 遥やアインのような消極的なものには薬を用いて混乱を。
 彼らの知らぬ所では藍にグレン達にと様々な手を用いて接触し、混乱させている。
 最もどれも破滅していく様を見るのが素敵医師は好きだったのだが。
 先に出た透子のような警告者とは違い、直接手を下す実行者的な役割だろう。
 
「私は一番警戒するタイプだと思いますけどね」

 狭霧は考えた結果を口出す。
 遺作のことからも愉快犯的な一面があるのが読み取れる。
 また策を講じてあれやこれやと此方を引っ掻き回すようなこともしてくるのが遥の件から読み取れる。
 ザドゥと違って奇襲も遠慮なくしてくるだろう。
 罠も仕掛けてくるだろう。
 この状態なら、もしかしたら交渉も持ちかけてくるかもしれない。
 この島において最も注意せねばならぬ人物であると彼女は踏む。

「実行犯であることとアイン殿が追いかけてることからも戦闘力も備えてると見た方が良さそうじゃな」
「本質的には裏をかくタイプでしょうけどね」


「そういえばおっぱい娘は俺様達しか出会ってないのか?」

 カモミール・芹沢、といってもランス達の前で名乗ったわけではないのでおっぱい娘である。
 ちなみに彼女の襲撃でグレンが死に、解除装置を受け取った、ということにランスはしていた。
 ばれたらまずいと思い、この輪の中にいる内に浅はかな行動に反省はしつつも、反面「嘘はついてない」とランスは思っている。
 確かに彼女の襲撃でグレンが死んだのは事実である。
 トドメを刺したのがランスであっただけで。

「改めて聞くがどんな感じでしたか?」
「あのおっぱいは兵器だな。うむ、一戦お手合わせしたかったぞ、ガハハハハハ」
「ランス様、そういうことではなくて……」
「ん、ああ。チューリップみたいな大砲を使ってたな。あれは少々厄介だな。
帯剣もしてたが恭也のやつの方が強いと俺様は思うぞ……だが」
「だが……どうしました?」
「グレンのやつに左腕をすっぽり切られた」
「「「「え?」」」

 一同の声が重なる。
 もしかしたらグレンの最後の力で倒されたのだろうか?
 と少しだけ期待しつつ。

「斬られた手に握ってた刀だけもって逃走しやがった。
左腕も置きっぱなしだったし、出血も凄かったし、あの様子じゃ長くないと思うぞ」


 実際には斬られた左腕は、斬られた所が素敵医師の薬の副作用で硬質化、更に少しずつ異形化している。

「グレン殿……」

 その光景を目に浮かべ魔窟堂がぐっと目を堪える。 


「まぁ、処置を施されれば生きてる可能性はありますね。
ですが、戦力としては使えたとしても大幅にダウンしてるでしょう」
「ふむ。では要注意人物ではないじゃろうな」
「……向こうに反則的な回復手段がないことが前提ですけどね」

 しかし、戦闘手段は大砲で砲撃し、接近戦は剣士として戦うというスタイルだろうことがわかる。
 その実力も厄介であるには違いないが、ザドゥ程のような強大なものでもないのがランスの言からも取れる。
 素敵医師と違って純粋な歩兵が彼女の役目であると狭霧たちは判断した。


「では、あの巨大な化け物についてじゃが……」
「ケイブリスの野郎か……。強いぞ」
「ワシも姿を見たが、あれを相手にするのは骨が折れそうじゃな」

 ケイブリス。
 純粋な破壊力ならザドゥ以上であろう。
 何より、あの体格が脅威である。
 人の身のザドゥと違い、致命傷を与えるのが難しければ、接近戦なら六本の腕と八本の触手の猛攻を掻い潜って攻撃を与えねばならない。
 更にランスから聞き及んだ限り、ザドゥと違って奇襲もしてくる可能性が高い。
 勿論、巨体である故に目立ちやすい上に大きさから来る立ち回りの不利があるのは間違いない。
 が、それを有り余って補う圧倒的な暴力。
 奇襲するにしても人間であるザドゥと違って耐久力も防御力も与えなければいけない範囲も桁違いである。
 ザドゥの時で述べたような粉塵爆弾等では目くらまし程度の効果しかない可能性もある。
 もし戦うことになったら単体では最も一同が警戒せねばならぬ相手。

「できるなら真正面からは戦いたくない相手じゃのう」
「流石の俺様も武器なしじゃ真正面はきついぞ」
「その辺は最悪、恭也さんと魔窟堂さんに前線を期待するしかないですね……。まひるさんでは機動力という面で向いてないでしょうから」
「ご、ごめんなさい」
「後方支援として期待してますよ?」
「が、頑張ります」

 果たしてそんな化け物相手に自分が役に立てるのだろうか。
 いや、やらなければいけないのだ。とまひるは自分に言い聞かせる。


「良きかな良きかな」

 と魔窟堂はそのやり取りを見て「努力、友情、勝利はいいのう」と頷いていた。

「ジジイは、その加速装置で相手の撹乱ということで……」

 と狭霧は突っ込むようにぼそりと言った。


(ザドゥとケイブリスに対しての理想は奇襲から短時間で仕留める。もしくはトラップにはめる。ですかね……)

 かつて。
 狭霧があちこちに仕掛け、参加者がかかってくれれば良しであった時と違い、
今度は特定の相手のために罠を仕掛けなければいけない。
 今どこにいるか解らない上に次に出会うと限らないケイブリスとザドゥを対象にしたトラップを
連れ込むための場所を用意して仕掛けるというのは現実的に無駄が多い。
 彼ら以外が引っかかってもそれはそれで有効なこともあるだろうが、
苦労して仕掛けた切り札をなくしてしまうのは惜しいし、参加者がかかる可能性もある。
 ならば、二人以外にも有効なトラップでもいいし即席的なトラップでもいいが、
そうなると煙幕等の小細工的な手段になるだろうか。
 奇襲するなら、トラップなら、役立つアイテムを作って用意するとしたらどんな方法がいいか、と狭霧はあれやこれやと考え始める。

「各々の対処は、後々臨機応変にしていくとしてじゃ。あと一人じゃな……」

 思考しはじめた狭霧を見て、「狭霧殿らしいのう」と言いながら魔窟堂が最後の一人について切り出す。

「正確には何機いるのかわかりませんがね」
「……病院で私達を襲ってきたあの……人?」
「改めて聞く限りでは完全なアンドロイド……で間違いないかの?」
「えぇ、恐らく司令塔である本体は本拠地にいて、そこから遠隔操作で分体を操作しているんだと思いますけどね」
「……まだ駒はあると思うか?」
「断言はできませんが……もし今後のことを考えるのなら、少なくても繰り出してきた数と同数以上、6体前後は最低でも残してる可能性がありますね」

 放送の声が彼女であったことからも本体が残ってるのも解る。
 
「特徴は……」

 警告者である透子、早々に舞台へ登場した素敵医師とカモミール芹沢。
 それに対して智機が出てきたのは首輪解除後である。

「運営側の最終防衛ラインを担ってる者と言ったところですか」
「あとは、機械歩兵として可能な技術は詰め込めると見てよいじゃろう……」

 一度に同時並行で操れる数は解らないが、各々の機体を別々の指示で繰り出す事が出きるだろう。
 戦闘方法といった細かい部分はあらかじめ組み込まれたプログラムによってオート化されているが、
アレを使え、ココは引け、等と言った指示は有効と判断できる。




「6か……」

 全てを上げ終えたところで魔窟堂がその数を呟く。

「……まだいたりするのかな?」

 最初に出会った五人とは別に現われたケイブリス。
 そのこともあるともしかしたら、まだ出ていないだけで他にもいるのかもしれない。
 他の皆も一度は思った疑問をまひるはこの場にぶつけてみた。

「難しい話じゃな……。じゃが、戦闘員はほぼいないと断言しても良かろう」
「同感ですね」
「え、え、どうして?」

 魔窟堂の返答に対して当然といったように返事をする狭霧。
 それを見てまひるがクエスチョンマークを浮かべる。

「単純なこった。今俺様達がゆったりしてられる。それが事実だろ?」

 挟むようにしてランスが横から答えた。

「まぁ、ランス殿の言う通りじゃな」
「まひるさん、今首輪をつけている参加者は後何人いると思います?」

 疑問に対して狭霧は疑問で答えた。

「え、えーっと……ここに6人いて、あとアインさんでしょ……。
あっ!」

 数え出してまひるはピンと来た。

「そうじゃ、恐らく2人か、3人もいればいい方じゃろう」
「つまり、あちらも全力で此方を潰しにこなくてはいけない……はずなんですよ」
「その状況下で俺達は襲われてない……それが事実だ」

 一呼吸つくと魔窟堂が状況整理とばかりに語りだす。

「まず純粋にザドゥと名乗る男はトップじゃ。
トップが軽軽しく動いてはならぬのが組織の定めであり、そのために各々の役割を持った執行者がおる。
この男が前線に出てくるのは、まず余程のことがない限りありえないじゃろう」

「もしかしたらワシラが知らないだけで、今までも、今もどこかに出動してる可能性もあるかもしれんがの」
とだけ魔窟堂は付け加え、
「ありえねさそうだけどなー」とランスが応答する。

「では消去法で行きましょう。次はけったくそわるいと評判の包帯男ですが……」
「アインさんが追いかけてる人……だよね?」
「そうじゃ。今まで此方に来る素振りもないということは、おそらくアイン殿が追跡してるおかげじゃな」

 素敵医師がまだ単独で動いてるのかは解らないが、此方に来るには、アインの手を振り切る必要がある。
 しかし、その名を知られたファントム。
 出し抜くには困難をきっするのは間違いないであろう。
 もし他の駒をぶつけたとしたらそれも可能だろうが、それなら今だ此方に来ていないのが気にかかる。

「他にも怪我をしたか、アイン殿の手によって既に亡くなっているか、残る少ない参加者の方に加担しにいったかは解らぬが、
ここまで放置されている以上は、現在手が空いていないと見てよいじゃろう」

 ふむふむ、と納得し、まひるはうなづく。

「手が空いてないと言えば、残りの三名も大なり小なり同じでしょうからね」
「まず陣羽織のお嬢ちゃんじゃが、ランス殿からの情報によれば、そうそう前線復帰はできんじゃろう。
勿論、あれから大分時間も経っとるので既に治療されている可能性もなきにしにあらず、じゃから今後はわからんがな……」

 片腕となったカモミール芹沢。

「……ケイブリスの野郎もダメージは負ったはずだからな」

 中の両腕と鎧の背を破壊されたケイブリス。

「此方も全滅させましたからね……」

 病院で破壊した6機。

 今までの彼らの行動は無駄ではない。
 勿論、カモミール芹沢やケイブリスのように戦力を戻しつつあるものもいるが、
少しずつではあるが彼らは着実に運営陣たちにダメージを与えていた。


「つまり、もし他にも人員がいたり余裕があるのだとしたら、それを此方に必ず割いてくるはずじゃ。
故に余裕がない可能性の方が高いじゃろう」
「ただ非戦闘員……。まぁ例えば彼らの食事を用意する係りとか掃除係とか……半分冗談ですが、雑用のための人員はいるかもしれません」
「これらから恐らく向こうは今戦力を割く余裕がない、と見ることができる。
そして次に来る時は必勝を来してくるじゃろう」
「前も言いましたが、そのために準備を整えてる……未だ整っておらずと言ったところですかね」

 ふぅ、と一息つくと「しかし」と狭霧は言葉を再開する。

「ただ一つ気になるとしたら……」
「うむ。戦力はある……しかし、あちらさんの方か、それともここにいない参加者達の方で何かあったか……」
「こっちにかかれないようなことが起きたか、ってことか」

 あちら側が、現在此方に手を割くことができないような重大な何かが起きたとした場合である。
 戦力も余裕も十分にあった。
 しかし、そのせいで此方に来る事が未だできないということである。

「見つかっていないと言う可能性はどうでしょう?」

 もう一つは彼らの居場所を未だ把握していないということである。


「ふむ。その場合も同じじゃな」
「未だ見つけれてないと言うのは少々難しいですね」
「この透子と言う警告者役のお嬢ちゃんは移動能力を持っており、
狭霧殿たちとの病院でのやり取りから察するに首輪だけに反応して此方に来ているわけではなさそうじゃ。
もしかしたら外した人間はとっくに移動したのかもしれんのに来ると思うかの?」
「何らかの条件下で相手を探知する能力を持ってるのかもしれませんね」
「そして総合した情報からくるに移動能力の手段はともかく、ワシと同じかもしくはそれ以上の機動性を備えてると判断することができる」
「もし彼女が本気で此方を探しに来てるなら既に再び来てる可能性が高いです」
「しかし、現在来ておらん。居そうな拠点だけを潰してくだけでもわしらを見つけれるからの。
つまり、このことから二つの推論が導かれる。
一つは、彼女自身の手が空いておらん可能性。
二つ目は、居場所は把握されておるが彼女もそれ以外者達も手が空いておらん可能性。
じゃな」
「先程も言ったように探す手間、または来る手間がないだけで学校などにいる可能性はあります」

「まぁ話を戻しましょう。それの懸念材料が今回の放送ですね」
「死者がいなかったことですか?」

 此方にとっては喜ばしいことでしたけど、とユリーシャは言った。

「いや、時間の方じゃな」

 が、即座に否定の発言が出る。

「ええ、今までぴったりと時間通りに行なわれていたはずの放送が今回に限って6分ですが遅れた」
「たかが数分と思うかもしれんが、少なくともその時何かがあったのは間違いない」
「果たしてそれが何であるのかは解りません……。しかし今現在私達が全く放置されたまま。
先ほどまで出払っていた魔窟堂さんの方にも何も有りませんでした」
「それらと放送遅れが因果関係が全くないとは思えぬ」
「例えば、あの機械兵の軍団ですが……。
もし私達を殲滅できるほど、または兵糧攻めできるほどにストックがあるのだとしたら、既に投入しているはずです。
けど、実際には何も起きていない」
「繰り返しになるが、ストックはあるが手が空いていないかストックに余裕がないか、だな」

 事実、智機のストックはもう無駄にできない地点まで追い込まれている。
 まずアズライト・鬼作・しおりの一件で80体以上を失い、次に病院での戦闘で戦闘特化させたはずの6体を失った。
 その時点ではまだ余裕があり、狭霧の懸念したように今度は本気での追撃を行なおうとしたが、
19体を破壊され、とうとう追い込まれた。
 挙句の果てには透子の手により二機破壊されている。
 本拠地の防衛、管制室の防衛を割くのは最終手段であり、それを除けば智機が総力を尽くせるのは後一回が限度とまで来ていた。
 尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。

「わしらが放置されたまま、その上での放送の遅れ。
全く関連性がないとも思えぬ……」
「これ以上は完全に読めない推測になるので何ともいえませんけどね」

 と狭霧が一旦締めくくる。


 


 小屋の外で見張りに立つ恭也の額に汗が走る。
 少し前から東の方でオレンジ色の光が浮かび上がっていた。
 恭也が気づいたのは少し前。
 何事かと思いつつ其方からも目を離さなかった恭也であったが、直ぐにそれが何であるかに気づく。

 焦げた臭い。
 上空に立ち上る巨大な煙の雲。
 火の粉が飛び散る様がここからでも良く解る。
 森が燃えている……それも大規模な火災。

 燃えているのは、彼らがいる西の森ではなく東にあった群生の森である。
 しかし、ここからでも鼻を燻る臭いが感じ取れる。
 病院や学校、東の森の近くの建築物はまず壊滅的だろう。
 あの勢いがこのまま続けば、風に流れ、こちらの群生の森まで飛び火する可能性がある。

(これはまずい)

 直ぐさま、小屋のみんなに知らせて相談をした方がいいだろう。
 しかし、全員外に一斉に出すわけにはいかない。
 まずはリーダー格として主導を握る魔窟堂と狭霧の二人に見て貰うか。
 そう判断した恭也は扉を背にし、「魔窟堂さん、狭霧さん」と声をかけながらトントンとノックをして開けた。




「あ、恭也さん。どうしたんですか?」

 あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
 そんなことありますか、と狭霧が否定しつつ。
 まぁないとも言えんがのう、と魔窟堂が頭を捻らせ。
 機械がどうして食中毒を起こしますかこのジジイ、と狭霧が魔窟堂の頭を叩き。
 あれではないか、これでもないか、と現在ある情報を元に推測を重ねている所に開かれた扉と呼び声にまひるが答える。

「魔窟堂さんと狭霧さん、少し来てもらえませんか?」

 此方に身体を半分向け、中にいる二人に向かって恭也は催促する。

「む? 何事じゃ?」
「……何かありましたか?」
「むっ?」
「?」

 空気が打って変わって変わった。
 恭也の声にただならぬ事態が起きたのではと中にいる各々は思う。

 敵か? いや敵ならこんな余裕はないはずである。
 では、一体なんであろうか。

 緊張が走る中、次に恭也の口から出た事実は想像以上の衝撃をもたらす。


「……向こうの森が燃えているんです。
多分、こっちまで火が移ってきそうな勢いで」

「「「「「え」」」」」

 驚きの声を上げる五人をよそに恭也が続ける。

「詳しい状況は見てもらった方が解りやすいので……」
「ぬぅ……。すまんが一度に全員出ると万が一の可能性もある。
ランス殿、ユリーシャ殿とまひる殿を頼めるかの?」
「む、がはははは。そういうことなら任せておけ」

「おいどういうことだ」と言っていたランスだが、女性二人?を任せられると機嫌よく引き受ける。

「では、まひるさん、ランスさん、ユリーシャさん、少し見てきますね」

 そうして恭也に連れられ、魔窟堂と狭霧の二人は小屋の外に出ていく。

 そして

「こ、これは……!?」
「本当に森が燃えている……」

 ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
 瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。


 ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
 瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。

「恭也度のこれは何時頃から?」
「最初に光が上がったのに気づいたのは放送の少し前です。
何だろうと思ったんですが、直ぐに消えるかとも思ったら、それどころか……」
「もしや……」
「えぇ、可能性は0ではありませんね」
「うむ。時間的にも一致する。
恐らく火災だけではあるまい、あそこでわしが見過ごした何かが起きているかもしれん」
「……どういうことです?」

 狭霧と魔窟堂の相槌を見た恭也が何の話かと尋ねる。

「うむ、実はの……」

 ひとまず整理した運営組の詳細はおいておき、二人は先程まで小屋の中で運営組に関しての情報整理をしていたことを簡潔に述べると
首輪をつけた参加者が数少ない状況で未だ自分達が放置されてる理由、どうして放送が遅れたかの疑問、などを答えていく。

「なるほど……」
「どう思う狭霧殿? 安全を取って移動をするにこしたことはないが……」
「……もしこれが結びつくのなら、打って出るチャンスでしょうね。
しかし……」


 安全の為にも移動はした方が良いだろう。
 炎をやり過ごすなら西の海方面である。
 打って出るのならば始まりの地であった学校であろうか。
 しかし、この炎の勢いでは学校は、今いる森より早く火が飛び移り燃えるだろう。
 どうするべきか、と恭也を交え二人は考え込む。


 一方、小屋の中に残された三人。

「赤い光……大丈夫でしょうか?」
「がはははは、大丈夫だ。いざとなったら海にでも飛び込めばいい」
「あたしは寒いのは嫌だなぁ……」

 良く見れば、小屋の窓からもオレンジ色の光が少々垣間見ることができる。
 窓越しに見える光を見ておののくまひるとユリーシャだが、外で実物を見たらもっと驚くだろう。

「―――ッ!?」
「「ランスさん・様?」」

 二人を元気付けるかのごとく笑っていたランスの雰囲気が変わる。

「ど、どうしたの、ランスさん?」
「三人の気配がここからでも解るくらいになった」


 急に本気の顔になったランスを見たまひるは意外性もあり、何事かと驚く。

「誰か……よろしくねぇやつが来た」

 小屋越しにぴりぴりとした空気をランスは感じ取る。
 外にいる三人のものだ。
 きっかけは急に恭也の気が緊張して膨れ上がったことだった。
 変哲もなかった空気が小屋の中にいても解るほど。
 恐らく恭也の方も、気を高めることによってランスに気づかせる意味合いも含んでいるのだろう。

「ユリーシャ、まひるちゃん、気を入れておけよ……」

 ケイブリスなら一発で解る。
 ザドゥでも同じだ。
 あの強烈な気は臨戦体制に入っているのなら気づかぬはずがない。
 表の三人の気配が変わった以上、何物かが気づかれるように来た線が濃厚である。
 しかし、凝らすようにして気配を探ってもザドゥやケイブリスのような空気を感じ取れない。

(何が来やがった? 参加者か? それとも運営の野郎どもか?)





「あぁ、ようやく見つかった」

 一人分の足音が三人の耳に聞こえる。
 ザッザッザッとした重い足音。
 ゆっくりと少しずつ小屋へと近づいてくる。

「恭也さん、魔窟堂さん……」

 狭霧の声に応じかのごとく、三人の体を支える足に力が入る。

「動員中による不幸中の幸いといったところか」

 オレンジ色の空を背景にして現われるシルエット。
 狭霧と恭也には見覚えのある形。

「そう身構えないでくれ。今回は君達と戦うつもりは一切ない」

 忘れるはずもない。
 細部こそ違うが自分達の命を狙いに来た刺客と良く似た形。

「勿論、ゲームに参加しろと警告を発しに来たわけでもない」  露わになる頭部を見て二人は確信し、二人に向いた魔窟堂の目に頷く。

「純粋に頼みたいことがあって交渉をしにきたのだよ」

 魔窟堂の体に力が入る、いざとなれば即座に加速装置を発動できるように。
 恭也の身体がゆっくりと構えを取る、いざとなれば奥義を発動できるように。

「―――話くらいは聞いてもらえないか?」

 両手を上に挙げ、非戦の意思を示した智機が彼らの前に現われた。



【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】


【現在位置:西の小屋内】

【ユリ―シャ(元01)】
【所持品:生活用品、香辛料、使い捨てカメラ】

【広場まひる(元38)】
【所持品:せんべい袋、メイド服1着、服二着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)】

【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す、】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【現在位置:西の小屋外】

【高町恭也(元08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
     釘セット(new)】

【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
     白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
     スピーカーの部品、智機の残骸の一部、集音マイクセット、工具】

【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:スペツナズナイフ、金属バット、レーザーガン、ボウガン、
     スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
     文房具とノート、白チョーク1箱、謎のペン×8、
     薬品数種類、医療器具(メス・ピンセット)、対人レーダー、解除装置】

【レプリカ智機(P−3)】
【スタンス:ザドゥにぶつけるための交渉】
【所持品:?】



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広場まひる
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レプリカ智機
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