276 Regular report

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(飢えている、か……)

ケイブリスの賞賛を受け、智機は表情を変えずに心中で呟いた。
参加者には注意を向けていた積りではあった。
だが運営者に対してはさほど注意してなかったと彼女は認める。
参加者と運営者を同等に見、対応するべく智機は次の計画を立てる。
智機はカタパルトのデータに思考を移した。

(決められた燃料と強度の関係上、少なくともあと一回の使用が限度だな。
 投入可能な最大戦力は分機2体と装備多数か、ケイブリスのみ。
 更にもし仮に……フェリスがランスに直接協力する状況になれば、奴の能力次第では我々は手詰まりになる)

智機は分析を終え、ケイブリスに言った。

「ケイブリス。
 君はランスに従っているフェリスという名の悪魔の事を知っているか?」
「あん? …………あいつ、従えてやがったけか?
 知らねぇな……それがどうかしたか?」
「昨日、この島にランスが呼び出したんだが所在が掴めないのだよ。
 スポンサーから通達がない以上、島内にいるなら奴への対処も我々がせざるを得ないかも知れないからな」


「レベル神じゃあねぇのか?それで?」
(レベル神……) 

ケイブリスが目を細めたのとレベル神という単語を聞き、智機は若干の不安と興味がわく。

「参加者や運営者以外の者が島で確認された場合な……
 ゲーム進行の邪魔にならなければ捕獲、邪魔になると判断できれば私が始末するようにスポンサーから命じられている」
「………………俺様に手伝えって言いたいのか?」
「それには及ばんさ。君に限らず、私にもその命令は絶対ではない。
 戦力に余裕があればしろと言う程度だ、今は余裕がない」

智機は目を閉じ頭を振る。
だが返答を聞いたケイブリスは苛立たしげに、少々の緊張さえ孕んだ声で
言う。

「……面倒だな」
「?」
「俺様もあまり遭ったこたぁねえが、奴等強いぜ。 無敵結界が効かねえしよ」
「どれ程の強さを持っているのがいるんだ……しおりと比べてどうだ?」
「あん……?」


ケイブリスは一瞬しおりを誰だと考えたが、思い出し断言する。

「あのガキより強えのがいても、そう珍しくはねぇかもな」
「……情報提供感謝する」

智機はやや強張った声色でケイブリスに礼を言った。
マザーコンピューターにアクセスしながら智機は即座に対策を練り始めた。
ルドラサウムがフェリスの介入を容認する可能性も考えたからだ。
フェリスが六人組と合流、共闘されてはたまったものではない。
プランナーとの接見をする前、もしくは接見中に可能性に思い至ったら直ぐに問いただしていただろう。
関与しない、好きにしろと言われた今は、もう問い正す気にはなれなかったが。
智機は知っている。

島外の侵入者確認と排除及び、情報収集は二神らが行っているのを。
既に二神のいずれかが独自にフェリスを排除していたとしても
彼らの意地の悪さから、あえて通達しない可能性を智機は疑っていた。
可能であれば早急にフェリスの所在と生死の確認を問い正す必要があった。
ただしその相手は二神ではない。

(ゲーム開始から42時間経過……管制室も健在。
 連絡は既に来てもおかしくない。まだか)


プランナーとの接見を別にすれば、智機には外部への連絡手段はない。
主催者リーダであるザドゥと智機が知っている事のひとつ。
ゲーム開始から42時間が経過し、管制室が機能していた場合。
50分以内にプランナーから連絡員が派遣されることになっている。
ゲーム進行に関わる外部の状況通達。
智機が収集した殺人ゲームのデータ提供。
智機量産機の指揮権放棄が可能になるスイッチの譲渡などが連絡員の任務だ。

コンピューターなら半分以上は容易に、極めて短時間でできる作業。
なのに何故、こう遠回しな事をするのか智機には見当がつかなかった。
神の戯れなのか、それとも別の理由からなのか。
理由は尋ねてみたが、趣向と一言返って来ただけだった。
智機はそれ以上、その事については何も言わなかった。
ゲーム遂行にほとんど支障はないと判断してたからだ。
ただ指定された時間内で連絡員が来なかった時の説明は聞かされていた。

その場合は最低でも外部の者への対処は、運営者以外の手で行われる事が確定すると。
智機は警戒を緩めない。
フェリスの対処も残りの戦力でする羽目になった場合に備えて。
彼女はその手段を考えつく。



(臨時放送を実行し、全参加者に警告を発信する)

そう決めた。
双葉の式神と違い、フェリスはランス自身の力で生み出したものではない。
プランナーにとってフェリスのような存在は不快ではあるはず。
外部からの人員は認められるものではない筈だ。
願いの権利の消失の可能性を、参加者全員に提示するのを選択肢に入れた。
もっとも今のランスにフェリスを召喚する気は毛頭ないのだが。
その事を智機らは知るはずもない。

「フェリスに頼れば、願いを叶える権利を失う。
 そう参加者に告げる。もっとも島内で奴の所在が確認できた場合だがな」
「ほー」
「それと先に言っておこう。
 いきなりか、もしくは本拠地内から参加者とも我々運営者とも違う誰かが……もうすぐ来ると思う。
 向こうが仕掛けてこない限り、そいつには何もしないで欲しい」
「誰だ、プランナーの奴か?」
「恐らくは部下だ。私が収集した情報を確認する為にここに来る予定だ。
 我々の事情が事情だけに、伝言のみのやり取りになるかも知れないがな」

智機は言って苦笑した。
コンピューターのみで処理できたなら楽だったのにと思いながら。


「直に此処に来て欲しいものだがな」
「そいつにも手伝わせるのか?」
「侵入者の対処以外は手伝わないだろうがな」

 直に来て欲しい大きな理由はある。
 もし分機が全滅した場合には、指揮権は無用となる
 智機本体が全力を出すには、端末機能を解除する必要がある。 
 今は解除する必要は全くない。 
 だが極限まで追い込まれる可能性が零ではなくなった。
 念の為に連絡員からスイッチを受け取る必要が今の智機にはある。

「ケイブリス……さっき君はレベル神と言っていたな。
 ランスの事も含めて、君がいた世界について色々と聞かせてくれないか?
 必要なら私の方からも情報を話そうじゃないか」
「あー……俺様には馴染みが無くなっちまったが……いいぜ」

返事を聞くと、智機は管制室にいるN−27に指令を出した。
ランスの会話記録を収録したテープと全参加者・主催者の顔写真の準備をさせる為に。
ケイブリスは口を開く。
それとほぼ同時に智機に情報が伝えられた。
西の森で散策を行っていたP−3がランス達と遭遇した事を。



【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
      @ザドゥ達と他参加者への対処(分機P-3に注目)
      Aしおりの確保
      Bケイブリスと情報交換
      C連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する】

【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先
      智機と情報交換、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】


【カタパルトの使用回数はあと一、二回です
 智機2体分(人でも2人分)と道具多数か、ケイブリス1人の打ち上げが可能です】

【オペレーターN-27が録音テープと顔写真を持って茶室に向かってます。
 すぐ終わります】

【智機とザドゥとケイブリスは連絡者がPM6:00から6:50分の間に来る事を知っています。
 3人とも戦力としては数えていません。
 ザドゥは智機の能力と素性についてはほとんど知りません】

【二日目 PM6:30頃 茶室】



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