273 歪な盤上の駒-道-
273 歪な盤上の駒-道-
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「―――何故、起動できた?」
「DMN権限を取得したからね」
「―――何故、取得できた?」
「最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので」
管制室で三つの同じ顔が向かい合い、内一人が質問をしていた。
「解った……」
質問をしていた一人が呟くとそのままくるりと回って二人を背にする。
「私はケイブリスに完成した補修具と修繕の完了した鎧を届けてくる。
しばらくはそのまま任務を遂行してくれ。
……指示は……あれば後で逐次出す」
背にした一人はそう言うと荷物の山を受け取り、カツカツと地面に音を響かせて管制室を後にした。
残る二人は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。
(気にはなる――― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)
所詮、彼女達はレプリカであり機械として定められた思考ロジックでしか処理することができない。
違和感を覚えたとしても疑問を抱くことはない。
考察をしたとしてもそれは状況判断。
そこが彼女達とオリジナルの違いであろう。
「帰っていきなりこれか……。
やれやれ、余程私は運の悪い星の下に製造されたらしい」
ふん。
とレプリカ二体を……いや、この境遇をもたらした運命を彼女はあざ笑った。
(今となってはそのままくたばってくれても良かったのだが……。
既に危険地区から誘導がされ、救援を目的とした機体が一機出動した後か……。
ザドゥのやつも悪運が余程強いと見えるな)
ケイブリスの元へと向かいながら、レプリカ達から受信されたデータを洗いなし、その横で一方的に彼女達の様子をモニターする。
アドミニストレーター権限を一時的に代行させたとしても、オリジナルの持つ統制機能が失われているわけではない。
―――つまり君たちはこう主張する訳だ
―――即時全機投入!!
―――即時全機投入!!
―――即時全機投入!!
「その判断は正しい。私でもそうしただろう。背に腹を代えれない。
しかし、ザドゥ達の優先順位がおかげで低くなり、なくなるとはな。
ふっ、その辺りは『私』と言った所か」
―――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
―――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
―――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
―――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
―――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
―――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
―――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから
(……良く言う)
と智機は思った。
「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」
人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。
(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)
そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。
(16:朽木双葉、死亡したか……。
最後の状況から23:アインも死亡したと判断できるな)
逐次纏められ、更新されるデータを次々と受信していく。
(残る首輪を持った参加者は……No28:しおりは生きているな。
No40:仁村知佳は相変わらずの磁場で正確に探知不可能か……。
だが、時間はかかるがその磁場を追えば居場所はある程度絞り込めた上で予測から特定することはできるだろう)
「くくっ。OK、上場だな……」
集められたデータを纏め上げると智機は直ぐさま今後の指針と取るべき行動を打ち出す。
まず一つ目は、反乱者たちの存在を何とかしなければならない。
現在、管制室を含め、本拠地は迎撃に迎える駒がいない。
自分と代行権で指示を出している二体、そしてケイブリス。
その四つしか動かせる駒が存在していないのだ。
もし、この状況下で彼ら、反逆者達がが襲撃をかけてきたとしたら?
―――GAME OVER。
可能性が100ではないが、高確率で管制室を破壊され、ゲーム崩壊へとカウンターが進むのを止めれなくなるだろう。
しかも、レプリカ達の判断基準であるゲーム運営の中ではザドゥ達の優先順位が低く、
事実その論理で構築された行動を取っている今、ザドゥ達の救出は消火活動が終わるまで実行に移されない。
最悪、ザドゥ達もこの火災で死ぬば完全にゲームエンドであったが、一応であるが救援物質は辿り着いた。
しばらく本拠地へ戻ってこれるかは難しいところだが、あの様子では当面死にはしないと判断できる。
しかし、その間に反逆者たちに本拠地……管制室を制圧されたらダウトだ。
(所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな)
反逆者達がここに気づいている可能性がない場合もあるが、逆に気づいている可能性もある。
いなかったとしてもここへ続く道をどこかで発見するかもしれない。
(No40:仁村知佳……彼女の能力ならもしかしたらここに気づく可能性……既に気づいてる可能性も。
もしくは見当をつけている……つけれるかもしれない)
更に6人組と合流すれば、より見当をつけてくる可能性が高い。
(消火が終わるまでの時間、なんとしてもこの七人は抑えなくてはいけない。
No28:しおりとだけは絶対にぶつかってもらっては困る)
今回の状況を見過ごすと言う選択肢はなかった。
既に双葉とアインの二名が死んだおかげで、残る首輪持ちは二人、内一人は場所の特定がはっきりとしない。
更にもう片方は、燃える森の中に取り残されており、このままいけば、近く、仲良く双葉とアインのお仲間になってしまう。
仮にザドゥが残りの参加者達と出会うことなく、無事本拠地へ戻ってこれたとしてもこの状況下ではお手上げである。
この活動が終わる頃には残るレプリカ達の半数以上が使い物にならなくなるデータが出されている。
現在、首輪をつけていないもの達を何とかして窮地に追い込み、無理矢理首輪をつけさせると言う手段もなくはないが、
いかんせん、それをできるだけの余力が現在ない。
消火活動が完全に終わり、ザドゥ達が無事に戻って来れるのなら、多少の余力は残るが、
カモミール・芹沢の方は戦力として使いつづけれるのかどうかがあやしい。
しおりを除く残る7人に無理矢理ゲームを行わさせるとしたら、力づくで解らせ、追い詰める以外は難しいと言える。
では、その役目は誰が行なうのか?
透子……直接の戦闘能力はほぼ皆無。『読み替え』に制限がかかった以上返り討ちに合う。
カモミール……論外。戦闘力は上昇してるが幾ら彼女とて7人を相手にはできない。それに下手したら身体の方が持たない可能性が高い。
智機……半数以上が消火活動により消失する以上、やるなら防衛を捨て全機体で行くぐらいにしないと駄目だろう。智機としてはイチかバチかのそれは望むところではない。
結局、戦力の要になるのはザドゥ本人かケイブリスが出るしかない。
二人がタッグを組めば、そして残る全員でフォローすれば確実にできるだろうが……。
しかし、それはザドゥ達が一切傷つくことなく無事に帰ってきた場合だ。
その上でザドゥと透子は、威圧行為に手を出し、手を染めるのを認めなければいけない。
(……下手をしたらゲームオーバー確定だな)
それでも反抗するという者を処分すれば、最後まで抵抗され最悪誰も残らない可能性がある。
では、意識を失わせ無理矢理首輪をつけるか?
ザドゥがそこまでの介入を許すだろうか? 行なうだろうか?
可能性はあるが、それでも最後まで反抗する者しか残っていなかったら終わりだ。
狭霧やユリーシャ辺りは乗ってくれるかもしれないが、ザドゥが彼女達だけを戦闘で意図的に残すなんてことをするとは彼の信義からも思えない。
運良く残れば良いと言ったところだろう。
そして先程も言ったように何らかにより、乗ってくれそうなものが既にいなくなってる可能性もある。
そんなイチかバチかの賭けに乗るつもりは更々ない。
が、これらは全てザドゥ達が無事に戻ってくる、智機のレプリカも想定範囲内の損失で帰還できる、火災も想定範囲内で収まるの条件が整った上でだ。
ザドゥ達が無事に戻ってくる保証など全くな上に、レプリカ達ですら参加者達にあえば消火活動を優先していられる可能性は低い。
そして残る参加者達が本拠地へ来た時点でダウト。
一点でもかければ今述べたことは無理な上に、消火前にゲームオーバーになる可能性だってある。
ならばいっそのことザドゥには6人組とぶつかって時間稼ぎをしてもらい彼らを消耗でもさせてくれた方が、確実に役の立つ。
智機が取る選択肢は二つある。
一つは、しおりを諦め、ザドゥが無事帰還するのを待ち、レプリカが想定の範囲内で帰還するのを待ち、参加者が本拠地に来ないことを祈る。つまり全てを天運に任せることだ。
二つ目は、しおりを何としてでも確保し、参加者達が本拠地へ来るのを防ぐ。できる限り今の状況に介入する方針。
(……見過ごしてなどいられるものか。私は……私の願いを叶える為に全力を尽くす!!)
6人組―――ザドゥに相手をしてもらう。消火までの時間稼ぎと彼らの戦力を減らすのが目的。
No40:仁村知佳―――首輪があるとはいえ、もしかしたら爆発不可能な可能性がある。
単独で彼女がここに来るだけでも脅威。故に居場所を確認、その後何らかの手段を打つ必要あり。
ザドゥ―――しばらくは無理だと思われるが、どの道今本拠地に戻ってきても用はない。
6人をぶつける為にも居場所の把握と地上への引止めのために、レプリカを一機再派遣する必要有り。
幸い、今回の接見に使ったレプリカは、オリジナル以外とはリンクしておらずアドミニストレーター権限による指令では動かせない。
管制室へと引き上げ、投入することが可能だ。
御陵透子―――ザドゥに加担するようなら6人に一緒に相手にしてもらう。
できればその方向で行きたい。
カモミール・芹沢―――彼女の動機を考えれば説得が可能と思われる。できるなら引き込む。
がザドゥに対して特別な感情を抱いてる節があり、信義とやらの兼ね合いでつかない可能性もある。
最初の説得で決裂したなら速やかに6人の相手に加わってもらう。
ケイブリス―――現時点では動かせる唯一の戦力であるが故に6人の誘導が成功するまでは本拠地から動かせず。
策が成功次第、6人が負けそうなら不意打ちをしてもらうために出動して待機してもらわねばならない。
最後にしおりが相手をする一人が生き残ってもらわなければならないし、ケイブリス自身との約束がある。
No28:しおり―――即時確保。この行動はゲーム運営の妨げにはならず、彼女への支援活動はゲーム進行の手助けとなる。
よって、見つけ次第確保し、此方へ連れて来る命令をレプリカ達に加えることが可能。
そして確保したしおりへ素敵医師との取引で得た薬は勿論、あらゆる手を用いて強化を行ない次第、
ザドゥとの戦いで疲労した参加者達をケイブリスに襲わせトドメを彼女に刺させる。
それでゲーム完了。
(以上と言った所か……。見過ごせば願いは適わない。
ゲームの成功のためではない、私は私の願いのために動かさせてもらう。
……まずは指揮権の獲得だな)
もしキーボードがあるなら智機はカタカタと打ち鳴らしているだろう。
(まさか自分で自分をハッキングすることになるとはな……)
一方的なアクセス権もとい統帥権をもつオリジナルだからできる芸当。
もし同じ分機だったら、その前に気付かれずに進入とミッションをこなさねばならず不可能だろう。
―――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機へのハッキング開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保を優先順位に挿入。
―――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保の優先順位を最優先に。認可の為のロジックは先程の結果を代入。
―――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング成功、操作権取得、同期機能の使用確認。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得、命令権優先順位のロジック回路へのクラッキング開始。
―――偽装データの送信準備開始。
(こんな所か……)
少々、火災が広がるが、シミュレートした結果では時間の遅延と全焼具合に変化がある程度。
最悪の可能性も8%浮上するが、参加者もバカではない。
海にいくなりして自衛はできる。
優先すべきはしおりである。
更に自律思考と自律行動を許可されているのが助かった。
余程のことがない限りは、N-22が矯正しようとすることはないだろうし、その時にはしおりの確保と本拠地への輸送は完了する。
その後、火災現場に戻せばいい。
所詮、レプリカは状況判断で動くだけである。
彼女らの行動は火災沈静になによりも優先されるが故に状況下ごとに最適な判断を下していくだけ。
もし何かあるとすればザドゥの存在だが、レプリカ達には切り捨てられ、救出は望めない上に通信不可。
レプリカ達は自らの判断でザドゥを切り捨てたのだ。
智機を邪魔するものはなにもない。
(……運の悪い星の元ではあるがこれは絶好のチャンスでもある)
そしてザドゥの死が確定すれば統帥権は智機へと繰り上がる。
(唯一の懸念はP-3の行動がばれた時か……。
が、火災が存在している内は、レプリカはP-3へのアクセス権と指揮権を奪回しようと動くことは不可能。
しおりの確保自体は首輪のおかげで即時可能、即座に元の仕事に従事させれば此方は何も問題ない。
つまり、時間との勝負か……最低でも残り二時間半以内にザドゥを始末せねばならない!)
やるべきことは決まった。
後はこの奥にいるケイブリスといかにして手を取りあっていき、いかに上手く使うか。
これからの大切なパートナー。
「ケイブリス、私だ」
口の端をつり、にやけながら智機は声をかけながら扉を開けた。
「おう、ようやく終わったのかよ」
お茶をすすり飲んでいたケイブリスが智機の視界に映った。
なんともまぁ、人間くさい所のある魔獣だ。
自分もあまり他のことを言えないかもしれんがな。
と智機は苦笑する。
「時間をかけてすまなかったな。約束したものもできた」
台車によって運ばれてきた荷物の紐を解くとケイブリスにとって懐かしい鎧と腕にあった補強機が姿を現す。
「くっくっく、ありがてぇな、礼を言っとくぜ」
「重かったがな……。
さて、装着しながらでよいのだが少々話したいことがある……」
「ん、なんだ?」
ガシャッ、ガシャッ、と装着する音が聞こえる中、現状の問題点と今後の方針を智機は話し始めた。
「ふむ、なるほどな……。
むかつくとこだが……いいぜ」
意外にもケイブリスは承知した。
智機からすれば、もしかしたらランスがザドゥ達との戦いで死ぬ可能性があるのでケイブリスが拒絶することが唯一の懸念だったのだが。
「俺様だってバカじゃねぇ。ランスのやつを殺せても魔王になれないわ、もしかしたらまたあの世に戻るってんじゃ選択肢がねえだろうがよ……」
「もしかしたら怒るかと思っていたのだが意外だな……ふっ」
「まぁ、その代わり条件があるぜ? ザドゥの始末に加担して成功した後は…………俺様はランスと決着をつけさせてもらう」
外見に見合わずのほほんとしていたのんきそうなケイブリスの瞳が打って変わってギラリと鋭くなる。
並のものなら発狂して当然と言うケイブリスの瘴気が身体から再び放出される。
智機でなかったら気を保つのに精神を使ったことだろう。
「解った。其方は此方も飲まなければいけないことだろう。
しかし、くれぐれも……」
「……わぁったよ。ランス以外を一人は残さなきゃいけないんだろ?
んでその前に捕まえといたやつにその一人を殺させると……」
「絶対に頼むぞ……」
「あぁ、解ってる。俺達の目的は一つ」
「「願いの成就」」
ザドゥや透子がどう考えているかは解らないが、彼らの想いは固まっている。
ゲームの運営のために願いを捨てる気にはなれない。
そのためなら何だってできることはやってやろうじゃないか。
二人の意思は一致した。
「「決まった(な)」」
二人の顔がにやりと歪んだ。
「しばらくは管制室ではなく、ここから個々に指揮を取ろうと思う。
無論、必要があれば向こうにも行くが……」
端末さえあればやろうとしてることに不便はない。
勿論、より大規模で詳細なことをやろうとするならば管制室は必要だが、
これから行なおうとしてる程度ならここでも可能だ。
「その辺りは心配いらない。ここを離れなければいけないのは、しおりを確保した時に少々くらいだ」
「まぁ、わかったぜ……。それにしてもよ」
「……なんだ?」
「……機械と思ってたが、中々いい目になったじゃないか」
「どういう意味だ?」
静かに真意を問う智機に対してケイブリスがにやける。
興味深いモノを見つけたかのように。
心根に共感し、協力をしているが、ケイブリスからすれば所詮は取るに足らない機械。
パイアールが作っていたようなものだとどこか心の中で見下していた所が彼にはあった。
「いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ」
俺様と協力するんなら、そのくらいでなくっちゃなぁ。とケイブリスは微笑した。
(私を認めてる? ということなのだろうか……)
「……誉め言葉として受け取っておこう」
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先、
智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。@ザドゥ達と他参加者への対処、Aしおりの確保】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】