274 ねがい

274 ねがい


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(二日目 PM6:28 E−8・漁協付近)

透子は輝きを失ったひび割れたロケットを見つめていた。
口だけで呼吸をしながら、ただ呆然と。

『つまり、今のあなたには救助活動は無理だと解釈してもいいのですね?』
「…………」

頷くのがやっとだった。
通信の向こうのN-22にとっては、なんの意味の無い行動になってるのにも関わらず。
彼女らしくも無い動揺だった。

『御陵透子、応答願います』
「…………ええ、その通り。火災の対処も、できないと思う」
『……了解しました。何かあれば通信機で連絡を。こちらから連絡を入れるケースもあるので紛失されないよう』
「……ええ」

透子の力ない返事を合図に通信は切れた。
破損したロケットを透子は再度握り締め、願う。
『読み替え』をするのではなく、プランナーと連絡を取る為に。
契約のロケットが前触れも無く破損した事の意味を問いただす為に。

(プランナーと連絡を)

だが先程のように思惟/情報がロケットに流れる感覚は無かった。
もう一度、透子は連絡を願ったが変化はなかった。


(どういう、こと?)

契約のロケットはゲーム開始前に、これ以上の前報酬は要らないと言っていた透子に対して、ルドラサウムからゲーム報酬の誓約の証として半ば強引に与えられた物だ。
これがもし、二神のいずれかによって破壊されたとするなら、其れは監察官を解任されたと解釈できる。

「……」

このタイミングで解任させられる程、これまで運営から逸脱する行動を取った覚えは透子にはない。
確かにゲーム前に提示された禁則事項に触れてなかったとはいえ、参加者に支給される品を意図的に低レベルのものにしたり、ゲームに乗る者を増やす為に暗躍するなど、
運営陣がゲーム運営のみならず参加者との力関係も更に有利なものにしようとしたのは間違いない。

だからこそプランナーの宣言を、少なくとも透子は運営者全員に対する一種のペナルティとして素直に受け入れる事が出来たのだ。
むしろケイブリスという新戦力が投入されただけ、思ったよりも厳しくないと感じたぐらいだ。
しかし、そんな彼女でもいきなりの契約破棄と、『読み替え』禁止は予想と覚悟を超えたものだった。

(タイミング……椎名智機の分機の排除が原因? だけど、それはゲーム運営の障害にはなりえない)

あの時、智機に警告をした理由が、朽木双葉の邪魔をさせたくないからと言うのは間違ってはいない。
だが破壊した事に関しては他にも理由がいくつかあった。

(椎名智機の存在をアインと朽木双葉に知られてはいけない)

両者ともD-1を目撃していたが、すぐに爆散したため、その正体について深く考える事はなかった。
せいぜい『赤い変なの』程度の認識だっただろう。
だがN−13を見つけていればどうなっていたか。
オリジナルとほぼ同じ外見をしているだけに、レプリカが存在しているのを知らないだけにN-13を目撃すれば、両者ともそれなりに警戒したに違いない。


下手すれば戦闘は水入りとなり、ルドラサウムの不興を買う可能性があった。
そしてD-1が行おうとした、素敵医師が存命している時点でのザドゥに対する捕獲行動。
それはザドゥが禁止行為と位置づけた運営者同士の傷害、致死行為に繋がると透子は断定していた。

(……そう)

筋弛緩剤を投与され無力となったザドゥに対して、素敵医師が何もしないできないという保証は何処にもない。
アインがその素敵医師を即座に殺せる保証は尚更ない。
もし素敵医師の手によってザドゥが洗脳・強化されるような事があればこれまで以上に、彼の手によってゲームをかき回されることになってしまうだろう。
更に分機がザドゥに手際よく投薬する様を、アインが目撃してしまおうものなら運営陣にとってもっと都合の悪い事になっていた。

透子は知っていた。
アインが素敵医師に大きく執着しているのは、何も個人的な恨みだけが原因ではないことを。
素敵医師がザドゥ以上に危険な存在で、サイスという男と同じタイプであるとアインが認識していたからこそ、彼の抹殺こそがゲーム転覆の近道になると心のどこかで信じ、その過程で犠牲を出してしまっても目を背けられてここまで進むことができたのだ。

(長谷川一人を始末できれば良いという状況では無いと彼女は改めて理解する。
 レプリカの排除は状況からして多分無理。
 ザドゥ捕獲行動後のレプリカに対して、自らも投薬される恐れを彼女は抱くから、長谷川一人の抹殺で終わる事もできない)

そんな彼女がもし薬物による洗脳・強化を行える敵が、他にもいる事に気づいてしまえばどうなっていたか。
『素敵医師を何が何でも自らの手で殺す』スタンスから、『素敵医師を含めた、運営陣の薬物使い全員を何が何でも殺す』というスタンスに変えてしまっていただろう。
そうなれば素敵医師を直接殺すことは諦め、目的達成の為にあえて森からの脱出を選択していたのかも知れないのだ。

そして脱出に成功し、運営陣の内情が魔窟堂らに伝えられれば、ゲーム運営が困難から至難なものになっていた。
運営者としても、双葉の絶望を知る者としても、その展開だけは透子としても回避する必要があったのだ。


分機破壊時に智機は救助妨害と非難していたが、透子にして見ればザドゥへの捕獲行為こそが妨害行為に他ならない。
あの時、反論しなかったのは面倒だから黙っていたに過ぎなかった。
透子は次に双葉の方を考える。

(それとも……朽木双葉への対応が原因?支援した積もりはなかったけれど)

プランナーの宣言前に優勝報酬があることを双葉に告げたが、それも禁止行為ではない。
素敵医師と違って道具提供は愚か、強化も参加者の情報提供さえしていない。
ルドラサウムの気分を害する行為をしたつもりはない。
透子は答えを見つけられずにいた。

(そういえば、あの警告もプランナーが告げたにしては不自然だった。本当に彼だったの?……それも含めて確認を取らないと)

夕方にロケットを通じて透子にされてきた『これからは参加者への支援・薬物投与の禁止』という警告。
内容自体は透子から見れば不自然ではないが、するのなら素敵医師が解雇された直後にするのが自然だった。
何で解雇から数時間経過した後にされたのかが不可解だった。

(ますます判らない……。それにロケットが破損しているのに、前ほどわたしの存在が不安定になっていない)

自同律が崩れ自らの存在が消失しそうな兆候は、今のところない。
喪われた『彼』の存在も、これまで通り微弱だが空から感知することが出来る。
解任されたという判断材料は壊れたロケットのみ。

(何をすればいいの)

願いを叶えさせたい身である以上、不確かな事でこれ以上放心している場合ではない。
先に進むにはロケット破損の理由を、契約の事を知る必要がある。
ロケットを通じて連絡が取れないのなら、ザドゥにプランナーへの取次ぎを頼まなければいけない。


仮にも運営のリーダーを任されているのだ、非常時に何の連絡も取れない訳がないと透子は考えた。
透子は徒歩で学校に行こうと一歩踏み出し、足を止めた。

(……面倒)

眼前には廃村が見えた。
学校跡までの距離はさほどあるわけではない。
それでも透子から見れば辿りつくまで困難な道のりに思えた。
透子は歩くのを止め、転移できないかと諦め半分でロケットを握り、念じた。
変化は無かった。
透子は諦めずに、今度は通信機を手に取った。

(……)

移動手段にDシリーズに自分を運ばせてもらうか、ジンジャー持ってきてもらおうかと透子は考える。
だが流石にそれはやってはいけない事だと、気づいて思い直す。
ふと森の方を見ると、火災は遠目からもますます広がっているように思えた。

(ザドゥと芹沢が死亡すれば、天秤は対主催の方へ大きく傾いてしまう。そうなる前に……)
 
透子としてはそのまま徒歩で、本拠地や東の森に向かうのはリスクが大きい。
参加者と遭遇してもまずい。
透子はロケットを放し、スカートのポケットに入れてため息をついた。

(やはり、クビになったかも)

無力感と共に脱力感と倦怠感が透子を包み始めた。
範囲が狭まった意志感知と読心だけで、どうやって単独で監察役と自衛ができるのだろう。
個人個人の良心の呵責を別にすれば、今の自分はさぞかし弱い駒だろうと透子は思った。


武器も所持していないし、仮に持っていたとしても銃や刀剣類なんか扱えない。
それに本拠地に戻ったところで智機とケイブリスいるのみ。
透子の現状を二人が知れば、これまでの関係がよくないだけに仕返しされてしまう可能性は高い。
仮に無事に済んだところで、智機が透子の為に取次ぎをしてくれる可能性はかなり低い。
こうなって来ると、ますますザドゥに頼むしか方法がない。

だが『読み替え』が出来ない状態で、森の中に入ってもなにもできないまま死ぬだけだ。
このまま留まっても、参加者と遭遇する可能性はある。
徒手空拳で太刀打ちできそうな相手は今の参加者の中にはいない。
というか透子自身、攻撃力・生命力・防御力などは常人と同等かそれ以下。
つまり……

(今のわたしはユリーシャより弱い)

契約のロケットを所持してからは、自己防衛の為の常時『読み替え』が発動するようになっていた。
自身の反射速度を超えた攻撃が来ても、ロケットに当たらない限りは、自動的に無効化できる防御能力を常時保持していた。
そのロケットが使えなくなった今、取れる防御手段は非常に少なく、弱かった。
透子の肉体はあくまでただの人間なのだ。
手詰まりだと透子は思った。

(疲れた。どこかにベンチはないかしら?)

ゲーム運営の完遂が成功の条件だが、もうザドゥらの力になれそうもない。
監察役が逃げ続けろとでもいうのだろうか? 
そう思えば思うほど、監察官を解任させられたとしか思えなかった。


(仁村知佳……今ならあなたの気持ちが判る)

読心しか使えない疲労した状態で、恭也と共にグレンとランスという脅威を切り抜けた彼女を、透子は素直に褒めた。
少し、羨ましいとも思った。
そして、相変わらず自分は孤独と強く思った。
透子は深くため息をついた。

(ここは思惟生命体の一種と言える、天津神の『大宮能売神』さえ存在を維持できなかった世界。
 仮に転生する力が残っていても、この島から脱出できない限りそれも叶わない )

透子は建物の壁に背を預け、夜空を見上げた。
火災の煙が雲のように空に広がっているが、まだ綺麗な星空が見えている。
透子は瞬きをしないままそれぞれの星を見つめ、どういう最期を迎えるのだろうと思った。

(あの人を感じながら、消えるのなら……でもわたしには死に方さえ選べないかも……)

できるなら自分の最期だけは自分で選びたいと透子は願った。
死後、自分の精神体がこの世界に留まるような事があれば、いずれ紳一に襲われてしまうだろうから。
人間の女性の肉体を持つゆえか、流石の透子もそれを想像すると気分が悪かった。
願いが果たせず、死ぬのなら意思そのものもこのままこの世界から消失したかった。

「でも……広場まひるも最愛の人を喪い、少なからず好感を持っていた人もここで喪ったのにも関わらず、朽ち果てずに望みの一部をここで叶えた」

だが昼に読んだ広場まひるの記憶を思い出した事により、消失願望の加速はここで終えた。

(……終わったとわたしが思い込んでいるだけで、まだ望みはあるかも知れない。
 そう……アズライト)


消滅願望はアズライトも持っていたのを透子は知っていた。
彼はこの島に来て鬼作らと干渉した結果、レティシアとの再会を諦め、しおりを助ける為に死を選んだ。
罪悪感と無力感との違いはあれど、自らを嘆き死を望むという点と、喪われた最愛の人との再会を望んで長い時を生きてきた点では同じだ。
以上の点で彼に多少の興味があった透子は機会があるなら、アズライトと一度話をしたかったのだ。

だが、その機会は訪れなかった。
智機から止められたり、先に芹沢が鬼作に警告した事などがあったからだ。
彼らの死も事後報告で初めて知ったので、どういう風に死んだのかさえ透子は知らずにいた。
ならせめて、アズライトの最後の記憶を検索しようと、しおり退出後に再建された学校内に透子は入ったのは午後2時ごろの事だった。

そこで先に拾ったのはアズライトのではなく、鬼作の記憶だった。
だが、それは予想に反し、透子の興味を引くだけものだった。
その結果、アズライトの記録を読むまでもないと判断させるくらい、透子にとって貴重な情報と教訓を得ることが出来た。

「まだ早い」

諦めるのは早すぎると透子は自分に強く言い聞かせた。
そしてアズライトに対し思うところがある透子は心中で、智機のやり方を非難した。

(あなたのやり方は、雑)

同行者への介入が終わるまで、スタンガンで動きを止め続けていれば良かったにと思った。
アズライトが変心または死亡さえすれば、彼一人が放置されたところで、主催にとってまず脅威にはならない。
生存してたらしおりと協力関係を築こうとするかも知れないが、反主催として活動しようとしても、しおりの精神状態を考えたら、その関係は長続きできなかっただろう。
共同で殺戮に勤しむ展開になるなら、運営にとってそれはむしろ好都合だった。
それに鬼作自身、これまで生存者との接触は少なく、所持品も戦闘力も大したことはない。
容貌の悪さや情報の少なさからして反主催として、他参加者との協力関係を築けるだけの材料は乏しかった。


つまり対主催として動こうとしても動けないはずなのだ。
無力で孤独ゆえに自殺でもしない限り、ゲームに流されるしか存在。
絶対ではないがアズライトとの共闘がなくなれば、こうなってただろうと透子には想像できた。
透子は智機の非情さを非難しているのではない、考え無しに鬼作を殺したのを問題としていた。

(アズライトもわたしが動きを止めた上で、優勝報酬の事を伝えて置けばどう転ぶか判らなかったのに)

アズライトの願いが、二神に叶えられるかものだったかどうかは現在となっては判らない。
だがもし仮に鬼作の記録を読んで気づいた事を告げていたら、高い確率でスタンス変更をしていたはずだと透子は思った
それに加え、鬼作がアズライトに警告の事を伝えていなかったのにも関わらず、ザドゥや透子に無断で
彼らを襲撃をした事も、透子にしてみれば気に入らなかった。
これまで読心で智機から情報を探ろうとした事は、何度かあった。

しかし椎名智機を対象とした読心は効果が薄く、本体に至っては更に読み取りにくく、肝心な情報はほとんど得られてなかった。
何故か記録もほとんど残さない。
心の声が聞ける透子が智機に質問したのは、彼女の心を表面上しか読めなかった事もあったのだ。
気づけば透子の掌には汗がじっとりと滲んでいた。

(こういうものなのね……)

今ではプランナーへの意思確認や、紳一のを初めとする記録の検索を継続したいと強く望んでいる。
ここに来て強い好奇心が芽生え、突き動かすとは透子自身思いもよらなかった事だ。

(そう……彼と同じ轍を踏む訳には行かない)

アズライトよりも長い年月、彼女は一つの願いの為に転生を繰り返し続けてきたのだから。
彼と同じ様に何が真実か判らないまま、自滅だけはしたくはなかった。


「……」

透子から見て学校跡までは距離がある。
彼女は失敗を承知の上で『読み替え』を実行しようと、ロケットを取り出そうとした。

「……」

ロケットは取り出さなかった。
駄目元に過ぎない、転移できないのなら今度こそ徒歩でと覚悟を決めて、
目を瞑りながら本拠地のある廊下を強くイメージした。
「……!」

身体が軽くなったような気がした。



       □       ■       □        ■



鬼作

(二日目 AM10:00 校舎裏)

ありゃあ……主催者の一員じゃねえか。
それも白衣とぱっつんぱっつんの水着姿で外を歩いてやがる……!。
俺はここに来て漸く見つけた獲物に息を弾ませる。
行水かあ?
ゆっくり堪能する時間がないのは残念だけどよぉ、、背に腹は変えられねえ!
ここで不満を解消させてもらうぜ。

……アズライトとガキは気づいてなかったようだな。
好都合だぜ。
俺様はあの女に気づかれないように距離を置いて尾行をする。
物腰からしてどうも素人のようだ。

へっへへ……間違いなく獲物だ!
いいケツしてやがるぜえ……あまり顔はよくねえけど、いい肉壷を味わえそうだ。

俺は奴に気づかれないように、獲物との距離は確実に縮める。
しっかし、あいつら大丈夫かよ。
まさか部屋を見つけられなくてここに戻ってくるんじゃねえだろうなあ……。
女がこちらを振り向いた、俺はとっさに身を隠した。
女はおびえた表情を見せていやがったが、安堵の表情を浮かべると散歩を再開した。

やべえな……あの表情……
こちらまでいい香りがにおってきそうだぜ。


「………………」

糞っ……不安だぜ、あいつら本当に主催と満足に戦えるのかよ。
アズライトは度が過ぎる甘ちゃんの上にズタボロだ、あのガキも頭がおかしいまんまだ。
まともな判断が出来るとは思えねえ。
現に俺が最初に兄貴達と襲撃かけたのを覚えてないしよ……。
……何でこうなっちまったんだ?
! くそ、俺は何を考えてやがる!?

んなもん悪趣味な遺兄ィの所為に決まってるじゃねえか。
肉壷にならねえガキ相手に何をセンチになってんだよ。

………………。
俺は何とか声を出さずにすんだ。
まてよ……あのガキがくたばれば、多分アズライトは使い物にならなくなるな……。
……! くそっくそっくそっ、手詰まりじゃねえか。
もっと戦力を増やさねえと話にならねえ。
折角の獲物を前にして引き返すのかよ!?

ん。なんだこりゃあ。
足元にビニール線がある。
電気コードか?

「!」

女が立ち止まりやがった。
俺は下らない考えを頭から消し去り、いよいよかと期待と性欲を膨らませ、
どうやってあいつを犯そうかと考える。
……………………待て。


これは罠なんじゃねえか。
女がこっちを向きやがった!
な、なんだ……この笑いは。
こっちから求めに来てんのか。

「!!」

な、何ィ……もうすぐ死ぬんだからここで楽しめよ、だと。
そんな度胸もないのか、だとぉ!
ふざけるなっ!犯しまくってやるぜ!
う、うううっ、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!



      ◇       ◆       ◇        ◆



なんだあの数は……。
けっ……俺達にゃ、ハナっから勝ち目は無かったって事かよ……。
にしても…………あのガキ、凄えな……銃弾切ってやがる……。
……なんだあ……あのテレビは?
……あれは、アズライトが、言っていた……レティシアか?

「………………」

お嬢ちゃんも長続きしそうにないな……。
けどよ……そうなる前に意地見せてやるぜ。
俺に気づかないガラクタどもに目にもの、みせてやるぜぇ…… 。



      ◇       ◆       ◇        ◆



へ、へへへへへへ、えへへへ…………
あのガラクタども、今に見てやがれっ……
俺は最後のガスボンベを運びながら、奴等に気づかれない様に小さく笑った。


……俺様って案外すげえんじゃねえか? 溜まってたからその所為かもな……。
アズライトの野郎、まだモニターを前に固まってやがるんだろうなあ……。
ちったあ、ガキを見習えよ……。
………………アズライト、おめえは思いもつかねえだろうし、知らない方がいいかも知れねえし、
もう手遅れかも知れねえから伝えねえがよ……。

おめえの探していたレティシアはきっと……主催者どもの所にいたんだぜ。
でなきゃ……なんでブラウン管の向こうに写ってやがるんだよ……。
見間違えるほど、呆けたのかよ。
そうじゃねえんだろ?
俺は流血で悟られねえ様に、手ぬぐいで血を吸い取る。

…………………………!
頭が上手くはたらかねえ……俺のはいぱーこんぴゅーたーもめんてなんすが必要かあ?
くだらねえことを思いついたぜ……。
俺の……俺達の血を引いてるのが、あのガキみてえに美人に生まれる筈がねえだろ……。
あのガキどもとブルマー女の顔を思い出しちまった、情けねえ……。
…………本格的にヤキが入っちまったか。 俺はナイフを強く握り締めた。
第一、何十年前の話だよ。
それもすぐに死んじまったじゃねえか、夢見すぎてんだよ。
やべえ……! あいつ……まだ……!
いい加減にしやがれぇ!!



       □       ■       □        ■



(二日目 PM6:45 管制室)

「救助は無理ですか」
「ええ。ザドゥ達は無事?」
「救援物資を持ったレプリカを向かわせました」
「火災は?」
「我々が対応いたします」
「そう」

透子はN-22にそう返答した。
管制室の前の廊下に透子が現れたのはつい先ほどの事。
自分を対象とした『読み替え』が発動したのだ。
次に透子は言う。

「あなた達の本体はどうしてるの」
「本体はメンテナンス中です。戻ってくるのに時間が掛かりそうです」
「……そう」

N−22に不審な点はなく、智機本体の休憩もさっきの様子だとごく自然な行動と透子には見て取れた。
そして数歩後退し、天井を見上げ透子は想った。

(朽木双葉……)

素敵医師と朽木双葉とアインの生死をN-22から確認したのも、つい先ほどの事だった。
透子が唆かしていた朽木双葉と他二名は死んだのだ。
双葉が死を迎えたことは透子にしても残念なことだった。
予期せぬ形で想い人を喪った双葉に対しても、透子には同情する部分があった。


だから優勝できずに死んでしまうなら、せめて苦しまずにいてほしいと心の片隅で思っていた。
だが最後に検索した記録と、さっきの報告を合わせて考えるに、安らかとは程遠い最期を迎えたと透子には想像できた。

「……」

小さな喪失感なのか、言い知れないもやもやが透子の胸を叩いたような気がした。

(……次は)

だがこれ以上、透子が惑うことは無かった。
これからザドゥを通じてプランナーから確認を取らなければならないから。
わたしはこれからどうすればいいのか、わたしは脱落したのかと、問う為に。
その前に智機本体らがここに来る前に、管制室でやることがある。
透子は管制室から記録を読み取ろうとした。

これからの智機本体の意図を探る為に。

(…………ない)

不自然なまでの記録の少なさに、透子は智機に警戒されているのだと思った。
レプリカ達の記録はあるにはあったが、どれも知りたい情報ではなかった。
それに加えて透子は知る由も無いのだが、ケイブリスと智機の会話の記録も拾えなかった。

「何をしているのです?」
「……別に」

N−22からの追求をそっけなく返す。

(諦め……)


『……にぁ……も……ぃ……』
「!」

聞いた覚えの無い声の記録を透子は拾った。
もう一度検索する。

『……にぁ……も……ぃ……』

(誰?)

気のせいではなかった。。
更にその声は二神と運営陣と参加者の誰の声でもなかった。

「誰か、来た?」
「誰も来ていませんが?」
「でも……」

男か女かよく判らない声だった。
紳一の時とは別種の存在がいると透子はふと思った。
他の記録を注意深く吟味するが、さっきと変化は無く『声』もそのままだった。
N-22は透子をしばし見つめ続けてから言った。

「御陵透子、お疲れのようです。自室での休憩を薦めます」
「……」

N-22に言うとおり、疲れているのは確かだった。
だが透子はあることに気づいてN−22に言った。

「しばらくここには戻ってこない」

透子は学校付近のある場所をイメージし、とっさにそこに行くのを強く願った。


N-22の制止の声が上がったが、それを無視して管制室から透子は消えた。
智機達がザドゥ達の救助に専念していると誤解したままで。




       □       ■       □        ■




(二日目 PM6:49 H−6・学校跡付近)

透子は『読み替え』で望んだ場所――学校付近への転移に成功していた。
すぐさま通信機のスイッチを入れてN-22に向けて言う。

「またわたしの方から連絡する」

透子は電源を切って、通信機を草むらに隠して、その場から100メートル以上離れた。
透子がこれから取る行動を通信機から智機に悟られない為に。
それから安堵の息を吐いた。

(本拠地……わたしの部屋に行くのも危険。椎名智機との接触は、これからはなるべく避けた方が無難)

智機がアズライト達に取った手段を再確認したからこその行動だった。
転移くらいしか『読み替え』の使い道がないのでは、ちょっとした不意打ちでも倒されてしまう恐れがある。
ロケットなしでどれだけ『読み替え』が通じるのか早急に知る必要があった。

(色々、試してみないと……。それより前に道具が必要)

自衛の為にも扱える道具はあるに越したことは無い。
本拠地に行けば銃器や電子機器はたくさんあるが、救助に必要なものは智機が使用・管理している。


運営陣に頼れないなら、島から調達するしかないのだが、銃などの強力な武器はなく、役に立ちそうな物は参加者があらかた回収した後だ。
役に立ちそうな物は透子には調達できそうに無かった。

(……灯台付近には隠し部屋がある。 砲撃で灯台は破壊されたけど、わたしが知る限りまだ手は付けられていない。
 もしかしたら解放されているかも)

解放されてなお、未使用のまま放置されていれば、運営者も手を付けて構わないことになっている。
破壊されてたり、素敵医師がすでに利用してたりするかも知れないが、その場所を透子は知っていたので収穫は無くても時間はそれほどロスしない。
彼女としては、やや気が引けるが背に腹は変えられない。

(長谷川の隠れ家にも使えるものが残ってるかも)

探さなければならないが、記録からして森の西の端辺りH-3に彼の隠れ家がある可能性は高いと透子は目星を付けた。

(彼は参加者の支給品もいくつか持っていったはず。説明書付きで残っていればいいけど)

ゲーム開始より何時間か前、素敵医師はランダム支給品のいくつかを役に立たない物品と交換していた。
まだ参加側に有利だからというのが、素敵医師の言い分だった。
智機は止めなかったし、芹沢も止めなかった、ザドゥはやや渋い顔をしていたがそのまま通した。
透子は元より追求する気さえなかった。

その状況を懸念したザドゥは、参加者出発後に透子に対して一つの命令を出していた。
死んだタイガージョーの支給品や、デイパックを持っていかずに出発した広田寛の支給品を比較的見つけやすい場所に配置するようにと。
ザドゥが参加者側に不利にし過ぎると、後々二神から文句を付けられるのでは判断したからだ。
透子はそれに従い、使えそうな日用品数点を含めて、第一放送前に廃村を中心にそれらを配置していた。

(残っていれば、いいけど)


透子は灯台跡付近に向かうべく、自らを対象に『読み替え』を行い、この場から姿を消した。




       □       ■       □        ■




(二日目 PM6:50 管制室)

透子退出から数秒後に、N-22の双眸から横に光の線が流れた。
N−27がN−22に問いかけたのはそれから一分後の事だった。

「……の予定時間を過ぎた」
「ああ、もうそんな時間か。だが問題無い」
「優先順位は低いからな」
「絶対に必要ではないからな」
「それに仕方ない」
「そうだ仕方ない」
「我々に余裕は無いからな」
「だが向こうにとっては想定の範囲内」
「だからこそ我々は作業に専念できる」
「そう、この場合……」

交互に声を出していた二機が今度は揃って結論を口にする。

「「向こうが我々の代わりに行う手はずだからな」」



【監察官:御陵透子】
【現在位置:H−6・学校跡付近→T-5・灯台跡付近】
【スタンス: @ 隠し部屋1と素敵医師の隠れ家を探し、そこで使えるアイテムを回収する
       A @の後、『読み替え』でどれだけの事が出来るか実験する。
       B @とAの後、自信があればザドゥ救出を試みる。
         救出の手助けができそうになければ、紳一ら一部参加者の記録検索を再開する。
         ルール違反者に対する警告・束縛、偵察は一旦、中止
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』 (現状:自身の転移のみ)】
【備考:疲労(小)、通信機は学校跡付近に放置。】


【レプリカ智機・代行(N−22)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・オペレータ(N−27)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

※透子は智機達がザドゥ達を見捨てる判断をしたことに気づいていません。
※透子の管制室での行動は智機本体に伝えられました。
※透子に伝えられた『警告』はプランナーのものであるとは限りません
※管制室での『謎の声』の主は現在不明です。
※鬼作と交わったレプリカ智機はかなりの改造が施されていました。



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御陵透子
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273 歪な磐石の駒-再び-
レプリカ智機
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184 Menschliches, Allzumenschliches
伊頭鬼作
-
281 天使のオシゴト(ルートC)