268 Why?

268 Why?


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(二日目 PM1:55 病院内)

――見つけたそれはその場に似つかわしくないものだった。
使える衣服がないかとロッカーを物色してた時、それを見つけた。
ここどこだっけ?と疑念がまひるの脳裏をよぎった。
まさかと思いたち、それを手にとって恐る恐る臭いを嗅いで見た。
服の臭いしかしなかった事に安堵する。
あたしって下品だなあと、心の中で呟きながら、鼻歌を歌いながら選んだ服をデイバックに詰めた。
部屋から出ようとした時、もう一度『それ』を見つめた。
不自然さにまた眉をひそめた。
まひるは十秒近く凝視した後、それを手に取って折りたたみ、ビニールに入れてデイパックに入れ、
すぐさま部屋を出たのだった。


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(二日目 PM6:12 西の小屋)

「駄目です」

地図に載っている小屋に行きたいというまひるの提案は、紗霧によってあっさり却下された。
何でと、言いたげな一行を目の前にして、紗霧は両目をつむりながら疑問に答える。

「此処に行った所で良くて誰もいないか、悪ければあのロボットが待機してる可能性があります。
 もし主催が私達の居場所を把握していない場合は、向こうに好機を与えることになってしまうんですよ?」


「うーん……」

予想してた通りの返答ではあったが、叱られてるようで何か居心地が悪かった。
少々ではあるがまひるの表情には落胆の混ざった困惑が浮かんでいる。

「何か在るとしても参加者の死体でしょうね。彼らの支給品も使い物にならないものになっているか、
持ち去られてるかの何れかでしょうし」

と紗霧は言う、心の中で迂闊な参加者のと付け加えて。
狭い建物かつ森の中にある最初から所在の知れた小屋など、殺人鬼にとって格好の狩場になりかねない。

「死体があるなら、弔ってやりたいんだけど」
「……首輪の事を忘れてませんか?」

言うや紗霧は自らの首を親指で指す。

「あの首輪は解除されても、向こう側に色々と解るものなのですか?」
「其処までは解りません。ですが用心に越した事はありません」

ユリーシャの質問に受け応えをしながら紗霧は考える。
対人レーダーと首輪を魔窟堂に調べて貰えば、その辺の事が解る可能性は充分にあるだろう。
だが、これくらいのことで機能停止のリスクを背負ってまで、レーダーと時間を無駄使いしたくは無かった。
実際は解除後の首輪の探知機能等は機能してないのだが、彼女らがそれを知る由はない。
その事を知っていたら、紗霧は解除後の首輪を罠の材料等に活用していたことだろう。

「う〜ん……」

死体を見つけたら見つけたらで、身元を見極めれば生き残りの参加者の情報も、
解りそうなのにな思ったが、数も多い上に堂島薫のようにバラバラになって、
身元の割り出しが困難な死体があった事も思い出し引き下がることにした。


「……じゃ諦める」
渋々まひるが返答したのを受けて紗霧は視線を外そうとした。
が、がさごそと物音がまひるの方から聞こえたので再びそちらの方に目を向ける。

「………………何ですかそれは?」
「あたしもこれ見つけた時はそう思った」
「それって……」

まひるはそれの両端を掴んで全体像をみんなに見せていた。
ユリーシャとランスはそれを――それと同じものをよく目にしていた。

「まひる殿……何を……」

魔窟堂も職業柄?それは結構目にしていた。
その為か心なしか声色は弾んでいた。
紗霧は半眼でしばし考え込み、彼女なりにややドスを利かせたつもりで言う。

「本題はこれですか? で、貴女はこれを何処から手に入れたんですか?」
「病院」

表情だけはにこやかに、内心では機嫌悪い時にやばかったかなと後悔しながらまひるは明るく答えた。

「……何で病院にこれがあるんですか? 変な趣味をお持ちの方が使ってたとでも言うつもりですか?」
「まったくの新品みたい」

言って、調達した本人はまたもや臭いを嗅ぐジェスチャーをする。

「支給品?」


ユリーシャが言った。これまでに一行は死んだ参加者のデイパック――支給品一式を2つ回収している。
その一つだと彼女は考えたのだ。

「ロッカーに入ってたよ。なぜか」
「そんな得体の知れないものは捨てて下さい」
「紗霧殿、捨てなくても良いのではないか?」

魔窟堂が優しく諭すように紗霧に言った。
まるでおイタをした子供をやんわりと叱り付ける親の様に。
紗霧は魔窟堂のこれまで以上の不審な反応にしばし返答に詰まった。

(意図は一体なんですか?
 まひるさんは既に違う服に着替えている。
 あの子には小さすぎる。となれば目的は……)

紗霧がその発言の意味に気づくのにさほど時間は掛からなかった。
困惑が怒りに変わったのもさほど時間は掛からなかった。
まひるは紗霧から怒気が膨れたのをを感じ、音も無く思わず後ずさった。
魔窟堂は熱いまなざしで紗霧の目を見つめ続けている。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。

「まひるちゃん……その服のサイズはいくらだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」

動転しながらまひるは何とか答える。

「そうか……」


ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。

「残念だ」
「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、中々いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」

ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私はこういう服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
ランスに請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって彼女の出自が出自だけに着るのは抵抗があった。
実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、あの紗霧と魔窟堂を見続けた。

「着ませんよ」

紗霧は不機嫌そうに言った。
それを訊いた魔窟堂の表情が落胆に沈むが、熱いまなざしはそのままだ。
紗霧の眉間にしわが刻まれた。

「……まさかと思いますが……ジジイ……その服、アインさんにも薦めるのではないでしょうね」
「……………………」

魔窟堂は返答に詰まり、押し黙る。
目が見開かれ、口は半開きになり、彼の心中に閃光のような独白が轟いた。

(その手もあったか!)

紗霧は沈黙を肯定と受け取り、笑顔で魔窟堂に言った。

「見限られたいんですか、魔窟堂さん」


「さ、紗霧殿!何故わかった!?」
「雰囲気で解りますよ……ふふ」
「おぬし、何でそこまで殺気立っておるんじゃ!」

自らの右手を背中に回した紗霧に対し、身の危険をますます感じた魔窟堂が叫んだ。
メイド服とデイパックをユリーシャに預けたまひるは、すかさず2人の間に入って紗霧を制止した。



【広場まひる(元38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。



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