258 バンカラ夜叉姫・雌伏編

258 バンカラ夜叉姫・雌伏編


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(二日目 PM6:09 西の小屋)

やあ、久しぶりだね、みんな。
また会えて嬉しいよ。
―――おっと、ぼくのキモチなんてどうでもいいか。
皆が知りたいのは小屋組の様子だもんね。

小屋の中はね、さっきの放送でちょっとしたフィーバー状態なんだ。
だって、死者がゼロなのは7回目の放送にして初めてだもの。
知佳ちゃんとかアインちゃんとかの安否も気になってたしね。

おや?
そんな中で一人、難しい顔をして考え込んでいる人がいるね。
なんだか醒めた目で喜ぶ仲間たちを見下してるしさ……
ずっとこのロワを読んでくれてた皆なら、これが誰だか判るよね?

そう、彼女はバンカラ夜叉姫・月夜御名紗霧。二つ名を神鬼軍師。
彼女は何を面白くないって感じてるんだろう?
ちょっと様子を見てみようか。





<紗霧の思考>

はぁ…… 皆さんお人のよろしいことで。

死者が出なかったことを喜ぶなとは言いませんよ。
風が主催者打倒に方向に吹き始めたのだと、私も感じていますし。
でも、もうすこし、こう、考えることがあるでしょうに。

例えば――― 放送が7分も遅れた事について。
一日四回、六時間ごとの定時放送、と宣言されているんですよ。
その遅れの理由が気にならないんですか?
主催者側になんらかのトラブルがあったとは考えられませんか?
シンプルに過ぎる放送にも逆に取り繕いが感じられますよね。
もしかしたら彼らに楔を打ち込むチャンスなのかも知れないんですよ?
それの可能性を調査・追求しようとは思わないのですか?

例えば――― 今の放送の声について。
あの声、病院で戦ったあのロボットの声でしたよ?
戦って完全に破壊したはずのロボットの。
そりゃ、複数のロボットを破壊した実績はありますよ。
あの時いなかったランスやジジイも合流していますよ。
私がわざわざ指揮しなくても、あの程度の連中、いくらでも撃退できるでしょうね。
でも、もしあと100機いたらどうするんですか?
そいつらが一斉に攻撃してきたら?
あるいはこの小屋を取り囲んで兵糧攻めをしてきたら?
そうなったらもう、私の策略をもってしても「詰み」なんですよ。

その程度のことに気づきもしないくせに、
よく主催者打倒なんて恥ずかしげも無く囀れるものですね!


ギャンブルに喩えてみましょうか?

こちらは場慣れぬカモ。
あちらは場慣れたディーラー。
こちらの手札の殆どはオープン。
あちらの手札の殆どはクローズ。
こちらのチップは底が見えている。
あちらのチップは天井が見えていない。

数少ないこちらのクローズな手札を切り札に、
あちらのクローズされた手札をどうにか読み解いて、
こちらの少ないチップの賭け処を絞って、
少しずつあちらのチップを崩してゆく……

主催者を倒す戦いとは、そういう戦いなんですよ?

それだというのに、もう……
なんでこうも思考の反射速度が日の光を浴びる前の変温動物並みにすっとろいんですか?
あなたがたはカメなんですか?
ドジでノロマが売りなんですか?
爬虫綱で主竜形下綱でカメ目なのですね?
そんなあなたがたは学名Testudinesなのです!!


はぁ…… いいですよ、もう。
結局、作戦立案やら下準備やら権謀術数やらの種々雑多は私の仕事なんですね、ここでも。
もう、あなたがたに自律思考してもらおうなんて高望みはやめにします。
私が刻むリズムに合わせてアホみたいに踊ってて下さい。
それが一番効率いいですから。
だからせめて、私の提示する策くらいは完璧に飲み込んで従順に従って下さいね。

それすらできないというのでしたら、私、勝ち残り方向に軌道修正しますよ?
言っておきますけど、私にとってはそっちのほうが簡単なんですからね。
その為の策だって10策以上用意できてるんですよ。
そこのところ、わかってます?

……なんでしょう。
なにかこう、背筋がぞわりとしたような?

<紗霧の思考、中断>





「なんですかジジイ。人の顔をじろじろと…… 惚れましたか?」
「……ぴーぴーぷー♪ ぴーぴーぷー♪」
「半端に上手い口笛でごまかしてるんじゃありません」
「うう…… その…… おぬしの荷物を見ておったのじゃよ」
「荷物を?」
「わしが持ち帰ったスピーカーとまひる殿の集音マイクセットだけでは
 通信機を作るには少々部品が足りぬようでの。
 紗霧殿はなにやら方々でモノを拾い集めておるようじゃし、
 他に部品を調達できそうなものを持っておらんかと思ったのじゃ」
「それならそうとさっさと言いなさい、このウスノロジジイ。
 確か女性型ロボットの残骸が…… このへんに……(がさごそ)」
「(じーっ……)」
「女の子のカバンの中を覗くもんじゃありません。このセクハラジジイ」
「セクハラとは失敬な! わしは既に三次元からの解脱を果たした……」
「なんだかこの部屋暑いですね。スカートの内に熱が篭っていけません。(ちらっ)」
「おおっ!」
「……どの口が解脱などと抜かしますか」
「違う! これは孔明のワナじゃ!」
「選択肢をあげましょう。
 このロボットの部品で思い切り殴られるか(ガツン!)、
 思い切り投げつけられるか(ドカッ!)。
 どちらにします?」
「あうあう…… せめて選択してから攻撃してくれい……」
「ご心配なく。体験版です。さ、それを返しなさい。そして選びなさい」
「こ、これが壊れては本末転倒じゃでの。わしが預かっておくのじゃ。
 よーし、頑張って分解するぞい!」
「ちっ。逃げたかジジイ」





<紗霧の思考、再開>

ジジイ、甘いですね。
誤魔化しは及第点あげてもいい出来でしたけど、最後にホッとした顔をしたから台無しです。
単独行から戻ってからのぎこちない態度も気にかかってましたが、ようやく確信が持てました。
ズバリ、私に不信感を抱きましたね?

まあ、疑われるのなんて慣れっこです。
疑われてから意識を逸らすのも、疑いを信用に変えるのも慣れっこです。
人の顔色と呼吸を読んで泳ぎ続けた私ですから、もう習性として染み付いてます。
ジジイの疑念も「何を気にしているか」さえ把握できればなんとかなるでしょう。
広場まひるとランスはなんとでもなるでしょう。
ユリーシャもランスさえ抑えておけば問題無いでしょう。

ただ…… 高町恭也。
ああいうタイプは初めてです。
初めて会った頃は単に生真面目でナイーブな体育会系かと思ってましたが、
どうもそれだけではない奥深さと安定感を見せ始めています。

―――俺は月夜御名さんを信用していない―――
―――でも、月夜御名さんという才能を信じることはできます―――

なんですか、その空前絶後のばっさり感は?
私個人のことなんてどうでもいいっていう風にも取れますよ?
それってちょっと失礼じゃないですか?
逆に猛烈に信用させたくなったんですけど?


……なんだか感情的になってしまいましたね。
頭を冷やす為にこの小屋で見つけたアイテムでも吟味しましょうか。

さて―――
使い捨てカメラと香辛料、日用品。これはユリーシャに持たせましょう。
戦力として勘定できないんです。
せめて荷物持ちくらいはやってもらわないと。
でも、失ってもそれほど惜しくない物しか持たせられませんね。
次、人死にが出るとしたらまずこの子でしょうから。

釘セットは恭也さんに渡しましょう。
飛針とやらは釘のような形状とのことですから、代用品として使えるはずです。
工具一式は…… 既にジジイに渡してましたね。

あとは…………

…………

……

<紗霧の思考、終了>





あれれ、意外にも夜叉姫は対主催も視野に入れているんだね。
てっきりステルス100%だと思ってたよ。

それにしてもパーティーにとっての彼女の存在は難しいところだよね……
敵に回しても味方につけても厄介なのは間違いないけど、
このパーティーを集団としてまとめられそうなのって彼女しかいないしね。
恭也くんの判断はけっこう良いトコ突いてると思うよ。

おや?
まひるくんがきゃあきゃあ言ってるね。
ああ、なるほど。
目覚めたランスくんが、スラックスを突き破らんばかりの朝勃ちを、
まひるくんとユリーシャちゃんに誇示してるからなんだ。
がはは、と高笑いしながらね。
いいのかな、そんな下品なバカをやっても。
夜叉姫はそういうの嫌がるよ?
しかも思考中は静かにしてたいタイプだし。

あーあ。
ランスくん調子に乗って、夜叉姫に向けて突き出しちゃったよ。
ほら、彼女が不機嫌な顔して後ろ手にバットを握ったよ?
まあ、フルスイングしてもランスくんは死なないと思うけど……
同じ男としてバットにバットを叩きつけるのは勘弁してあげて欲しいな。
……ダメ?

「目障りです」
「ぅぎゃぁぁああああああァ!!」



【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【現在位置:西の小屋】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】

【ユリ―シャ(元01)】
【所持品:生活用品(new)、香辛料(new)、使い捨てカメラ(new)】

【高町恭也(元08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
     釘セット(new)】

【魔窟堂野武彦(元12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
     白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
     スピーカーの部品、智機の残骸の一部、集音マイクセット、工具(new)】

【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:スペツナズナイフ、金属バット、レーザーガン、ボウガン、
     スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
     文房具とノート、白チョーク1箱、謎のペン×8、
     薬品数種類、医療器具(メス・ピンセット)、対人レーダー、解除装置】

【広場まひる(元38)】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)】

※ タイガージョーの支給品は集音マイクセットでした

※ 魔窟堂はスピーカーの部品、智機の残骸の一部、集音マイクセットの
  改造・組み合わせで、通信機的なモノが作れないかと検討中



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