244 狭霧の願い

244 狭霧の願い


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「狭霧さんはどんな願い事をするの?」
 ふいにまひるがそんな事を言い出した。
 彼女には似つかわしくない内容、と思った狭霧は返答に詰まった。
 他の誰よりもまひるは欲望からかけ離れた存在に思っていたから。
「……そうですね」
 そんな小屋の中。対極に位置する場所では、時たま「ぐが」とイビキを出しながらランスが寝ている。
 気絶した後とはいえ、あれだけ睡眠をとったのに彼はまた寝ている。
 その横には今にも壊れそうといった感じのユリーシャがランスの胸元に頭を寄せて寝ている。
 彼女もまた溜まっていた心労と疲労が、落ち着いて押し寄せてきたのだろう。 
 その向こうでユリーシャ(さん)は解るけどねぇ?という顔を狭霧とまひるはしていた。



「俺様はしばらく休む、任せた」
 西の小屋につくなり、そういうと彼は寝入ってしまった。
 余程、ケイブリスとの戦いで疲れていたのか、それとも生来からそんな感じなのか。
 主に狭霧が突っ込もうとする暇すらなく、ランスは横にぐてんとなってしまった。
「仕方ありませんね」
 その様子を見た恭也はやれやれと行った感じで扉の前に立つ。
(彼が駄目な以上、順当に行って見張りは俺かな)
「いいの? 恭也さんも……」
 申し訳なさそうにまひるが恭也へ尋ねる。
「俺も大分休ませて貰ったから大丈夫」
「でも……」
 ランスに比べて薬を使い休んだとはいえ、元あった怪我の度合いは恭也の方が上である。
「大丈夫、見張りって言っても扉の前に突っ立ってる訳じゃない。
 ちゃんと死角になってる所で気配を消しつつ周りに注意を払うから」
 それに彼を除けば俺が一番見張りに適してる。そう一言付け加えて恭也は外へと出て行った。
「大丈夫ですよ。もう少しすればボケジジ……いえ魔窟堂さんも帰ってきますから」
 それでも心配そうにしているまひるを狭霧が諭した。
 彼女の言葉でようやくまひるも下がり、ゆっくりとだが腰を卸した。

 
 それから間を置いた後での出来事である。
(私の願い……)
 狭霧は考える。
 第一目標はこんな場所から生きて生還する事。
 だが、それは運営陣達を倒せれば狭霧以外の誰かが勝手に願ってくれるだろう。
 魔窟堂やまひるなら、間違いなくそうするはずである。
 では、純粋に願いとなるとどうか?
 『彼』への未練があるわけではない。
 だが、横にいる『彼女』を不幸にしてまで得たいものか?
 それはすなわち心弄くられた『彼』もまた不幸にすることだ。
 彼女にとってはその事の方が心を痛く締め付ける。
(しいて叶うなら、平行世界の一つ、『私』が選ばれた世界への転移……でしょうか)
 創設とも一瞬思ったが、結局それは心を弄くった『彼』と何ら変わりない予定調和、ただの自己満足の玩具である。
 彼女自身が勝ち得たと結果なくしては、彼女は満足しない。
 だが……。
(いくら同じ自分とはいえ功労を横取りするのはどうなのでしょうかね)
 普段やこの状況下では彼女はそれを厭わないとしても。
 それだけは何か侵してはいけないモノとして彼女の心につっかえた。
(もう一つはやり直し……私の可能性を最大限に活かして見ること)
 が、それも先を知っている出来レースである。
 誰でも次にくる馬が解っていたら、その馬券を買い占める。
 一体、それは前二つと何が違うのだろうか?
 そしてもう一つ。
『もし、それでも選ばれなかったとしたら?』
 出来レースに乗って負けたとしたら?
 大量に馬券を買い込んだ者が破産していくように。その時、狭霧という人格もまた完全に打ち崩れる。
(どれもこれもぱっとしませんね……)
 願いが叶うなら叶うに越した事は無い。
 生き延び、そして願いも叶えて貰う。
 そう考えてあれから行動してきた。

しかし。今この場においてまひるに問い掛けられると、自分でも意志が曖昧なのに気づく。
 それなら、それでこの場ははぐらかして適当に返そう。
 そう思って狭霧は言葉を続けた。

「私の願いは……」
「……あたしはね。もし本当に願いが叶うなら、みんなの願いを叶えてあげて欲しい」
 狭霧が答えようとした瞬間、まひるが先に口開いた。
「運営の人達も、願いが叶うって言うので集められたんだと思う。
 どんなに悪い人たちでも叶えたい願いが、譲れない思いがあっていいなりになったんじゃないかと思う。
 でなきゃ、悪人だってこんなのの運営になろうなんて思うはずないしね……」
(それは、本当に気が狂ってる人の場合は話が別ですけどね……)
 その考えは口に出さず、狭霧はまひるの言葉を黙って聞く。
「あたし達と同じように参加させられた人たちも、運営の人たちも、みんな帰れて、みんな願いが叶えれたらきっと素敵だと思う」
「それは……理想論だと思いますね」
 まひるの想いに対し、それだけは間違ってる、と狭霧は応える。
「うん、解ってる。でもね、もしそうなれたら……こんな今だけど、みんなそんな事忘れて幸せになれると思うんだ。
 あたしもアインさんをまだ許せない……。けどそれだって参加してなかったら、そんな事もなかった。
 知り合う事もなかったと思うけどね」
(何処までも甘いのか……それとも……)
 狭霧は考える。
 目の前の少女?は、言っている事だけを見れば甘い世間知らずのお嬢ちゃん?である。
 だが、その実は異形の化け物。
 今までのまひるの様子と話を聞く限りでは、彼女は極普通の世界で極普通の学園生活を送ってきた身に違いない。
 そんな彼女が異能力と異形の姿を持っていると言う事は、どういう事だろうか?
 狭霧にはソレが解らなかった。
 気づかず過ごしてきた?
 いや、まひるの様子から、少なくとも彼女?がこのような身であるという事は気づいていたようだ。
 それでも普通の生活を送ってきたのだろうという異常。
 きっと狭霧では経験した事も内容な、想像もできないような事を経験してきたのかもしれない。

平穏の大切さを知り望む人間と言うのは、須くして頭に御花が咲いている人か……決して人には言えぬ物を見た、抱えた、知った者のみかだ。
 だとしたら、彼女は自分などより非常に心の強い存在だ。
 まるで目の前の自分がチンケな存在にされてしまう程に。
 狭霧は悩む。
 今までは気にも止めなかった事がまひるの質問をきっかけに、持ち前の思考能力の高さを活かして考えもしなかった……いや考えようとしなかった事が次々と浮かんでくる。
 直接聞くべきか?
 だが、さしもの狭霧もその一歩を踏み出せずいた。
 聞いた瞬間、今までの自分の行動が、考えが全て否定されてしまいそうな気がして。
(私は何を考えて……しているんでしょうか?
 ……いいえ、運営者を倒せるメドはあっても確実ではないんです。
 何を甘い考えを……願いはあくまでも倒せた時の事……今はそんな事よりも当初の生き残る目的を……)
 自分の考えを言い終えたまひるは狭霧の願いを聞くまでもなく満足そうにしている。

「俺様の願いはこんな下らない事考えたヤツラの首だな」
 まひるが自分の思いを言って満足していると思った矢先、寝ていたはずのランスが答えた。
「あら、起きたんですか?」
 助けの船。とばかりに狭霧は遮られていた口を解放してランスへと向けた。
「深寝入りする前に、そんな会話されちゃな。ユリーシャはまだ寝てるが……」
 そういうとランスは未だ自分の胸に寄りかかって寝ているユリーシャ優しくそっとずらすと体をおき上げて喋りつづけた。
「決まってんだろ。こんな糞くだらない事考えて実行したやつらをギャフンと言わせてやらなきゃ後味が悪いだろ?」
「まさか、素直に『お前の首をよこせ』とでも言うつもりでも?」
 まるで夢物語のようなランスの願いに狭霧が呆れたように言う。
「そこはほれ。おとぎ話にあるように上手く逆手に取ったり、裏技を使ったりしてだな……」

「で、その考えはあるんですか?」
「むむ……? それはこのハイパー美形な俺様の手にかかればそのうちだな……」
「はいはい、解りました。ですがあなたの事ならハーレムでも注文するかと思いましたけどね」
「そんなもの、この俺様の手にかかれば簡単に築けるものだからな。願う必要なんかない」
 本当はそれも欲しい。と言うのは止めてランスは強気を張る。
 それに。そこまで言ってイメージを落とし、その願いのせいで信用をされなくなっては……とも思ったのかもしれない。
 今更、ランスのイメージが向上するわけではないが、それでも最低限の信頼の部分は回避しようとしたのだろう。

(願いか……あの野郎が素直に叶える訳ないしな)
 強気を張るランスが心の中で呟いた。
 この場で唯一、ランスはプランナーがどういう存在かを知っている。
 かつて盗賊カオス、剣士日光、神官カフェ、賢者ホ・ラガはブリティッシュを置き、プランナーと出会い、願いを聞いてもらった。
 その結末を知るランスは、はなからプランナーが素直に願いを叶えると思っていない。
 心の中で呟いたのは、彼らにこの事を聞かせる訳にはいかない、という彼なりの心がけだった。
 ユリーシャにですら話していないプランナーの在り様は、下手をしたら彼女達の心を挫いてしまう可能性もある。
 願いが思ったように叶わないなら……より酷い目にあうくらいなら……。
 ここまできて、そんな考えでゲームに乗られても困る。
 ランスに似合わず、彼らをそこそこ信頼はしているもの、万が一という事もある。
(こいつは俺様の心の中だけにしまっとかなきゃいけねえな。
 だからこそ、何とかして裏をかかなきゃいけねえんだ)
 いつになくランスは真剣に考えていた。
 その様子をみた狭霧は
「で、元気になったのなら恭也さんの代わりに……」
 とその言葉を言い終える前に
「ぐがー」
 加速装置を使ったのかのごとく、ランスは再び寝入ってしまった。
 普段とかけ離れた真面目な思考の後は、ぐっすり眠れるらしい。

 加速装置を使ったのかのごとく、ランスは再び寝入ってしまった。
 普段とかけ離れた真面目な思考の後は、ぐっすり眠れるらしい。
「現金な人だよねぇ……」
 その様子を見たまひるが苦笑いをする。
 

 やがて各々が移動の休息を取るかの如く静かになる。
 もう少しすれば魔窟堂も帰ってくる。
 その間も狭霧は、一人考えつづけた。
(そう、今は生き延びる事を……)
 頭の中に浮かぶ己の小ささを必死に振り払うと狭霧は自分を落ち着かせるように言い聞かせる。
 それでも、狭霧の心の中に浮かんだモノは片隅に残りつづけた。



【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】

【ユリ―シャ(元01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
      解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(小)、紗霧に対して苦手意識】

【ランス(元02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す、】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
    
【高町恭也(元08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保】
【所持品:対人レーダー、レーザーガン、薬品数種類、謎のペン8本
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】

【広場まひる(元38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
      グループが危険に晒されるなら、応戦する
      島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】

(二日目 PM5:30頃 西の小屋)



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