251 亡きエーリヒ殿に問う

251 亡きエーリヒ殿に問う


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(二日目 PM5:57 西の森)

うぉおおおお、エーリヒ殿ぉっっ!!
わしはバカじゃあ!!
ボケナスじゃあ!!
アンポンタンのクルクルパーのオタンチンパレオロガスじゃあ!!

今!!
今になってようやく思い出したんじゃ!!
それに気づいたときには思い出せなかったくせに!!
もうすぐ小屋に帰り着こうというこのタイミングで!!

くぅぅぅぅっ…… わしは…… わしは……
ホンモノのボケジジイじゃあ!!

万が一この心配が的中して、万が一小屋で悲劇が起きておったなら。
わしはまたしても遅れてきた男になってしまうのか?
それともわし自身が不幸を運ぶ男なのか?

うぉぉぉぉおおお!!
叱ってくれ、エーリヒ殿!!
貴軍の憲兵隊に拷問させた上で懲罰部隊送りにして、
非人道的な肉体労働に勤しむわしに
遠慮なくワニ革のムチを振るってくれぇぇぇ!!
さあ、速く!!
躊躇なく!!
この尻に!! 尻に!! 尻に!!
尻にぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!


ひっひっふぅ…… ひっひっふぅ……

いや、取り乱してすまんかったの、エーリヒ殿。
吐血系の背景を引っ込めるから、ちょっと待ってもらえんかの?
……よっこらせ、と。

のぅ、エーリヒ殿。
わしが「忘れていたこと」と「気づけなかったこと」は、
小屋で待っておる仲間たちには話せんことなのじゃ。
かといって今の状態でみんなと顔を合わせるのもマズい。
ほれ、わしは逃げも隠れもするが嘘はつかんの魔窟堂じゃろ?
脂汗ダラダラの顔と疑念グリグリの眼差しの理由を問い質されたら
たやすく口を割ってしまうじゃろうからな。

貴殿はわしの心の永遠のリーダーにして
頼りがいのあるナイス軍人じゃからな。
すまんがわしの心が落ち着くまで、わしの考えが纏まるまで、
相談相手になってもらえんかの?


それでは、まず―――
わしが「忘れていたこと」から聞いてくれんか。

昨晩、わしが一人で東の森北部を探索しておったときにの。
妙齢の女性の死体を発見したのじゃよ。
悔しそうな表情で虚空を見つめている死体をのう。

あのときはそれが誰とも知れなんだが、今ならわかるわい。
恭也殿が言っていたタイトスカートとストッキング。
ランス殿が言っていた意思の強そうなくっきりした眉。
あれは、篠原秋穂殿じゃ。

秋穂殿はな、矢に貫かれておったのよ。
背後から胸に貫通してな。
そりゃあ惨いありさまじゃった。

だから、わしは誓ったのじゃよ。
仲間たちに、今後出会う人に、こう警告しようとな。

『弓矢を持つ者に気をつけろ』

そう、これがわしの「忘れていたこと」。


エーリヒ殿。
次はわしが「気づけなかったこと」じゃ。

わしがこの単独行に出たのはな、
紗霧殿が立案したある「包囲作戦」の布石を打つためじゃ。
作戦の詳細は割愛するが……
その際に紗霧殿と所持品の交換をしたのじゃよ。

わしのレーザーガンとペン8本を紗霧殿に。
紗霧殿の45口径銃と四本の鍵束をわしに。
45口径の反動に耐え切るのは紗霧殿には無理じゃでの。
この交換はわしも道理じゃと思っておる。

じゃが、その時わしはみてしまったのじゃよ。
紗霧殿のバッグの口から覗くあるモノを。
台座と翼と弦からなる機構の武器を。

ボウガン――― 弩弓を、の。

そう、これがわしの「気づけなかったこと」。


最初にアホみたいに取り乱したのはな。
忘れていたことを思い出し、
気づけなかったことが蘇り、
その二つが結びついてしまったからなのじゃ。

『気をつけるべき弓矢を持つものが、守るべき仲間の中にいた』

これが普通の弓じゃったら疑うこともなかったじゃろう。
人ひとりの胸を貫通させる弓勢など、女子の臂力では出せぬからの。
じゃが、得物がボウガンとなると、ちと話は違う。
アレは女子供でも十分な貫通力が出せるよう設計されておるでの。

いやいやいやいや。
じゃからといってな、エーリヒ殿。
ただちに紗霧殿が秋穂殿殺害犯だと言いたい訳ではないのじゃ。
彼女には収集癖があるようじゃし、皆の荷物を纏めている節もある。
たぶんボウガンは、わしの見ておらんどこかのタイミングで
拾ったのじゃろて。

たぶん。
たぶん……
そう、「たぶん」なんじゃ!!
わしは「たぶん」「じゃろう」と思っておる!!

をおおおお!! エーリヒ殿ぉぉ!!
わしはなんとあさましい人間なのじゃあ!!
目的を同じくする仲間を信じきれんのじゃあ!!


紗霧殿は頭がいい。
紗霧殿は弁が立つ。
紗霧殿は決断力がある。

今回の単独行にしてもそうじゃ。
わしは最初アイン殿らを捜索に行こうと思っておったのじゃ。
それが紗霧殿に呼び止められて、なんやかやと諭されて……
いつのまにか丸め込まれて彼女の作戦に従って動いておった。

そう、紗霧殿はいつだって「いつのまにか」じゃ。
いつのまにか合流していて、
いつのまにか溶け込んで、
いつのまにか場を仕切り、
いつのまにか主導権を握っておる。

そのくせ、思い返してみれば―――
わしらは彼女のことを殆ど知らん。
この島でわしらと合流するまでにどう過ごしてきたのか、
彼女自身が語らなかったからの。
今にして思えば自分のことを聞かれぬよう、
それとなく誘導されていた気もするわい。

彼女がもし擬態する殺人者で、わしらを屠る機を伺っておるとしたら……
最後の最後で裏切ってゲームに優勝する気なら……
既にわしらは彼女の掌の上なのかのぅ?


―――ん?

待て待てヘル野武彦?
さっきから貴公は紗霧殿の見えない部分を疑念で埋めておらぬか、と?
「たぶん拾った」から「たぶん殺した」に思考が移っておらぬか、と?

おぉ、ナイス助言じゃエーリヒ殿!
この魔窟堂野武彦、きれいさっぱり目が覚めたわい!!

そうじゃの。
「忘れていたこと」と「気づけなかったこと」を、
無理やり一つに結び付けるのはちと早計に過ぎておったの。
事実と推理を混同させては真実にたどり着けぬものじゃしな。
まずは紗霧殿を知り、ボウガンの出所を知る。
そこから始めるのが正道じゃろて。

そして、こういう状況となってしまった以上、
秋穂殿の死に様については口を閉ざしておかねばの。
わしが先ほど受けた衝撃が、
秋穂殿と縁の深いランス殿や恭也どのを直撃したら、
血を見るだけでは済まない事態になりかねん。

―――む。
もう西の小屋が見えてきおった。


今まで付き合ってくれて礼を言うぞ、エーリヒ殿。
貴殿の厳しくも深みのある眼差しの記憶があればこそ、
こうして恐慌と混乱を抜け出すことができたのじゃ。

ほれ、見てくれ、エーリヒ殿。
彼らが今のわしの大事な仲間たちじゃ。
心に傷持つ者もいる。
脛に傷持つ者もいる。
それでもの。
皆が皆、それぞれに、眩いばかりの生命力と可能性に満ち溢れておる。
わしらが守るべきと誓った未来ある若人たちなのじゃよ。

恭也殿が玄関前でわしを出迎えておる。
窓からはまひる殿が笑顔で手を振っておる。
紗霧殿がその後ろで醒めた流し目をくれておる。
なんと、ランス殿とユリーシャ殿も出てきたか。

ならばよし。
今のところはこれでよし。
万が一わしの疑念が当たっているのだとしても、
今は皆が無事でいることを素直に喜ぼう。



……それでよいじゃろ? エーリヒ殿。



【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【現在位置:西の小屋】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】

【魔窟堂野武彦(元12)】
【スタンス:@ グループのスタンスに同じ
      A ボウガンの出所をこっそり探る】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
      白チョーク数本、スコップ(小) 、スピーカーの部品、四本の鍵束、
      ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、謎のペン7本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:疲労(小)、首輪解除済み】



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