263 ( ゚∀゚)o彡゚ おっぱい!おっぱい!

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物が燃えるということは一種の化学反応だ。
ある一定の温度に達すると、酸素が物体と連続して結合し続ける。
これを「燃焼」という。
故にいかに温度が高かろうと隣で火柱が立っていようと、
酸素さえなければ燃焼の要素が満たせず、燃えることは有り得ない。
これを今回の森林火災に当てはめて、導き出される解答は次の如し。
足元の草があまり燃えない楡の木広場は既に酸欠状態にある。
ザドゥが早々に広場を放棄し、風上へと移動したのはこの判断による。
全く正しい。
それが、通常の科学の範疇にある火事ならば。

結論を述べよう。
ベストの選択は救援物資が届くまでその場で待機すること。
なぜならこの火災は尋常の火災ではなく、
朽木双葉とその下僕たる木々が命を削って炎の流れを制御していたから。
少なくとも双葉が絶命するまでは、楡の木広場の酸素が尽きることはない。

故に、風上に向かうというザドゥの判断は誤りだ。
それが致命的なものか否か、今はまだわからない。


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(二日目 PM6:12 G−4地点 楡の木広場・北東外れ)

楡の木広場、北東の外れ。
ザドゥは森林の手前で立ち尽くし、次の一歩を踏み出せずにいた。
風上にゆけばなんとかなる。その思いが吹き飛んでいた。


ザドゥの歩みを阻むは煙。
尋常の数倍ではない。異常を数倍した量と密度で煙が満ちている。
密集する木々が各々に煙を上げ、それが枝葉に絡んで滞留するからだ。
視界の確保は事実上不可能。5歩先の炎すら目視できない。

ばさりばさり。ザドゥはマントを大きく振るう。
左右に何度も繰り返し、繰り返し。
それは火の粉を払う為ではなく、煙を払う試みだ。
煙が散った。
散った煙が周囲の煙を呼んだ。
視界を占めるのは変わらぬ白煙。
試みは失敗に終わった。
ザドゥは煙を視線で殺せとばかりに睨めつける。

(立ち止まるは後退するに等しい。迷っていても埒が開かぬ。
 視界が確保できぬなら、他の四感を駆使するまで!)

打つ手を失ったザドゥは森林への突撃を決意する。
即断即決。躊躇は害悪。
ザドゥのその気質、吉と出るか凶と出るか。

「よし、行くぞ芹沢!」

―――返答がない。
嫌な予感を胸にザドゥが振り返る。
後ろに待機していたはずの芹沢が、姿を消していた。


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「わったしをよーぶのはだぁれっかなっ♪
 わったしをよーぶのはどぉこっかなっ♪」

誰かに呼ばれている。
ふとそのように感じたカモミール・芹沢は、ザドゥに動くなと命じられたことを
瞬時に忘れて、呼ばれたと思しき方向へと進んでいる。
姿勢は四つん這い。そのことについてはザドゥの言いつけを守っている。

《……おーい…… こじゃあ……》

また聞こえた。それは前方の炎の中からの声だった。
芹沢にとって聞き覚えのない声だった。
しわがれた老人のような、或いは煙草で喉が焼けたような。
どちらかというと不快な声質の。

「あれぇ? だーれもいないんだけどぉ?」

芹沢は大げさにきょろきょろと頭を振って周囲を確認。
人影は無い。
あるのはただ、禍々しい暗紫の刀身を炎に晒す一本の剣。
柄に施された目のような装飾がぎょろりと動いて、視線が芹沢の胸に固定された。

《わぁ〜おぅ♪ ダイナマイツ!》

親父臭い下品な野次を上げたのはその剣―――魔剣カオス。
彼は軽量化を図ったアインによってこの場所に捨てられていた。


《もうちょっと胸を突き出して。肘でこう、おっぱいを持ち上げるように!》
「んー、こう?」
《うほほほーい! 女豹のポーズ完成じゃ!
 アインの嬢ちゃんみたいなスレンダーボディも悪かないが、
 やっぱり女はぱっつんぱっつんのむっちんむっちんが一番じゃのう!》
「あはは、えっちな刀さんだねぇ」
《おうともエッチじゃわい。エッチが全てじゃわい。
 だからもっとエッチに、そのまま尻を左右に振ってくれぃ!》
「がおー、がおー♪」
《この……ねえ、ぷりんって。お尻がぷりんぷりんってなってますよ?
 ああああっ、心のちんちんを今すぐ出したい!挟みたい!擦りたい!》

そのやりとりは場末のキャバクラが如し。
生死が一瞬で交錯する火災の只中にあって信じられぬ程の能天気さを晒している。
しかし、それもむべなるかな。
未だ芹沢を蝕み続けるクスリは彼女を過剰に過ぎる多幸間で包み込んでいた。
彼女はこの状況を危機だと認識できないのだ。

「でねぇ、刀さん。どうしてあたしを呼んだのかな? おっぱいが見たかっただけ?」
《そうそう、儂、誰かに拾ってもらおうと呼びかけておったんじゃ。
 のぅねーちゃん、儂を拾ってみませんか? 意外とお役にたちますよ?》
「おっけー♪」

芹沢は快諾すると即座に左腕を伸ばし、炎に巻かれるカオスを躊躇い無く掴む。
彼女はかなりの熱さを覚悟していた。
感覚がすこぶる鈍い異形の腕ならば耐えられるかな、と思っていた。
しかし、掴んだその柄は、ひんやりと心地よい温度を掌に伝えてきた。


「冷たくてきもちーね♪」
《このカオス、火災程度ではびくともせんのじゃよ。
 じゃからね、ねーちゃん。
 儂をそのぷりんぷりんの胸に、こうぎゅーっと挟み込んでくれんかの。
 火照った体をひんやり冷まして気持ちいいこと請け合いですよ?》
「うんいーよー。ぎゅーーっ!」
《げへへへへ。おっぱい!おっぱい!》

芹沢の抱擁に、正確にはその胸の感触にカオスの両眼がだらしなく歪む。
ザドゥが声を頼りに芹沢を発見したのはその時だった。

「何をしている芹沢!!」

ザドゥが怒りの形相で芹沢ににじり寄る。
芹沢は振り返ってにぱっと笑い、ぶんぶんと勢いよく手を振った。

「あははー、ザッちゃん、やほー♪」
「やほーではない! あれほど俺から離れるなと……」
《まあまあザッちゃんとやら、そう憤るでない》

芹沢の胸に抱かれた刀剣から聞こえる声に一瞬身を固くしたザドゥだが、
その剣が性欲丸出しの目線を芹沢の胸に向けていることに呆れ、
ほぼ反射的にそれを叩き落した。
彼は芹沢の手を強引に取ると、目線も合わせずに早口で告げる。

「ややこしい荷物を増やすな。行くぞ。もう離れるなよ」
《ああっ、捨てないで捨てないで!
 この火災から脱出したいのじゃろ。ならば儂が役立つ…… かもよ?》


「役に立つ、と?」

ザドゥは足を止めカオスを見やり、続きを促す。

《状況もおまえさんの精神も切羽詰っとるようじゃし、要点だけ言うぞ。
 儂を振れば闘気が疾る。闘気はすなわち剣風を生む。周囲の煙を払える程度にはな》
「ほう」

視界の確保。それは今のザドゥが最も欲している事。

《但し、儂を振るえば振るうほど、その心は闇に飲まれやすうなる。
 気をしっかり持ち、心を穏やかに振るうんですよ?》
「闇に飲まれる? それがどうした」

ザドゥはカオスの忠告を鼻で笑う。
笑いながら一度捨てたその剣を拾い上げて、言った。

「俺の心はとうに漆黒だ」

ザドゥはカオスを左手に握り、刃を寝かせて右肩に担ぐ。
煙に覆われた森林を向き、膝を落とす。
瞑目。深呼吸。―――瞠目。

「しっ!」

口腔より迸る気合一閃。その豪腕より放たれたるは横薙ぎ。
巻き上がる剣風が煙を鋭く切り裂いた。

わずか3mほど。


「……ふん。この程度か」
《あー……済まん。威力はな、剣士としての資質に比例するんじゃ》

カオスの世界において、各種技能は単純化されレベルという単位で表される。
その格付けにザドゥを当てはめるなら、格闘レベルは伝説級の3にすら達しようか。
しかし、物事には得手不得手がある。

《わしの見立てによると、ザッちゃんの剣レベルは0の素人級じゃな。
 逆にねーちゃんの剣レベルはギリギリ2の達人級かの。
 上手くすれば必殺技なんかが出せちゃいますよ?》
「はいはーい! あたしがやりまーす! ひっさーつ!」
「ダメだ!」
「びぇぇぇん! ザッちゃんが怒ったぁ!」
「今のおまえはな、芹沢……」

ザドゥはそこで口を閉ざした。
今の芹沢に余力は無い。体力も、気力も、判断力も。
そこに来て精神を消耗するこの剣を持たせることは自殺行為だ。
噛んで含めるように諭したとて今の芹沢には理解できまい。

《……女をかばうか。男じゃな、ザッちゃん》
「女ではない。部下だ」

斜に構えた笑みを一つ。
ザドゥはカオスを擦り上げる。



【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G−4地点 楡の木広場北東外れ → 東の森北東部】
【スタンス:炎から逃げつつ救助を待つ】

【主催者:ザドゥ】
【所持品:ボロボロのマント、通信機、魔剣カオス(new)】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】

【カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(大)、腹部損傷】

※ カタパルトによる救助は7分後、学校からの救助は到着時間未定



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