236 戦え!

236 戦え!


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(二日目 PM4:30 楡の木広場周辺)
 
 蝙蝠に似た飛行物体六体。
 その存在に気づいている者はいるのか、いないのか……
 双葉の式神は、問答をする彼らの周りをくるくると観察していた。
 大きくはないがはっきりとした声を式神が傍受した。


「お前は参加者と戦え」

 主催者ザドゥは、アインの質問にこう返し、一歩踏み出した。
「「!」」
 ただ、それだけなのに二人の少女――アインとしおりは彼の気迫に威圧される。
 それでもアインの方は平静を装いながら、ゆっくりと臨戦態勢を取りながら言った。
「答えになってないわ」
 早期から主催者打倒のスタンスを取っている彼女にしてみれば、ゲームに乗れなどと
いうのは見当違いのたわ言に過ぎない。
ザドゥはそんなアインに取り合わず、首を僅かに横に向けるとしおりに言った。
「この女は参加者だ。 そして、身を隠しているがこの近辺にも一人いる。
 今の標的は二人。お前はもう一方の二人と戦う必要は無い」
「・・・・・・・・・」
 しおりは半眼で、促されるようにザドゥの視線の先を見た。
 銃剣で狙撃を試みようとしている金髪の長身の女、カモミール・芹沢と、その後ろの
茂みに隠れている素敵医師。
 しおりは数歩、彼女らから後ずさって言った。
「どうして?」
「俺の相手だからだ」



「!!!」

 突然、ドンッという踏み込みの音を残し、ザドゥの姿がかき消えた。
 アインは慌てて、左の死角を右目で補足しようとする。
 遅れて他の者(楡の木に居る、双葉と式神星川を除いてだが)も目視で見つけようとする。
「「「「!!」」」」
 
 突如、森の植物という植物から涼風と共に白い閃光が放たれた。
 アインとしおりは軽く驚きながら、周囲を見やりそれぞれの刃物を握り締めた。
 次にかちりと音がし、虫の羽音のような音がした。
 いきなり金髪の男の姿が芹沢の前に立ちはだかった!
 ザドゥだ。
「残念だったね!! ザっちゃん!!」
 芹沢はザドゥの奇襲をものともせず、刃を彼に振り落とそうとする。
 刀身は小刻みに震え、空気をも震わせる。
 神特製の銃剣――虎徹の柄を回したからだ。
 そして、それに対するように風が巻き起こる。
「狂乱脚!!」
 ザドゥの気合を込めた蹴り技。
 しかし、勢いは通常の回し蹴りと変わらず、むしろ虎徹の攻撃空間に触れ、
ザドゥの左足に浅い切り傷ができていく。
 ところが、それは正確に芹沢の右手の甲に命中した!
 ザドゥの左足と芹沢の握り締めた両手が鍔迫り合いのように押し合う。
「!」
 数瞬のち弾かれたのは芹沢の右手と虎徹。
 だが、妙に硬く長くなった芹沢の左手は虎徹を離していなかった。
蹴りが芹沢の前を通過した。
 芹沢は後ろにのけぞりながらも、虎徹でザドゥを仕留めんと横になぎ払おうとした。


「!!」

 暴風のような轟音がした。

「・・・・」
次の瞬間、ザドゥは手を地面に仰向けに身を沈ませ、虎徹は上空を舞っていた。
 虎徹が彼を斬りつける前に、目にも止まらぬスピードで虎徹を上の方に蹴り上げたのだ。
それは本来の狂乱脚――気力を大分消耗して放つ二段回し蹴りの応用だった。
「ち……」
芹沢はすぐさま懐に手をやり武器を取り出そうとした。
「………!?」
しかし、痛覚は無くとも衝撃で麻痺してしまった手はうまく武器を掴めない。
「・・・・・」
 ザドゥは身を起こし、芹沢にタックルをした。
 軽めだったが、虚を突かれた芹沢はたまらず転倒する。
 彼は芹沢の右手を掴む。
「!」
 瞬間、殺気を感じて、彼女ごと横へ飛ぶ。
 連続して響く、軽い銃声音。
 素敵医師の手には自動小銃が握られている。
 次に芹沢の蹴りがザドゥを襲うが、彼は後方に飛んで避けた。



 アインとしおりはザドゥ等三人の戦いに入り込めないでいた。
 何故なら、二人は互いを警戒していたからだ。
「(この子も……)」
 アインはしおりも素人と見抜いていた。 だが、迂闊に動くことはしない。
 人外の証である獣の様な両耳を認めて、しおりも異能力者と改めて判断したからだ。
 戦うなら、異能力をある程度把握する必要がある。
 その上、芹沢との小競り合いから判断するに、しおりに殺人を躊躇する様子はなかった。
 気を抜けない相手なのは明白だ。
 しおりもまた、主催者達との戦闘経験から、自分から不用意に仕掛けるのは不利に
なると判断して、アインに手を出せないでいた。
「(どうする……)」 《うーむ……》
 カオスはしおりをしげしげと見つめ、考え込んでいる。
 アインは小声で言った。
「知ってるの? あの子の事」
《似とるんだよなぁ……》
「?」 「?」
 アインと少し遅れて、しおりは怪訝な顔をする。
 しおりにはアインの声が聞こえたようだ。 
 「「!」」
 銃声が響いた。 芹沢が懐から短銃を出し、発砲したからだ。
 それはザドゥには命中せず、そこらの樹に穴を穿っただけだった。
 彼は木々に身を隠し、素敵医師の左側に回り込みながら、
一定の距離を保ちつつ、彼等をけん制を続けていった。



       *            *            *

――数分が経過した。
 
 カオスの発言以降、彼は考え込んだまま黙り、アインも無言で対峙し続けた。
 しおりは蚊のなくような声で呟いているが、それはアインに問い掛けたものでは
なく、意味のないと思われる独り言だった。
 いつの間にか、偵察用の式神もなく、森の燐光も止んでいた。
 こう着状態に陥った二人を尻目に、ザドゥ等は尚も戦闘を続けている。
 素敵医師がなにやら投擲し始めていたが、それも命中していないようだ。 
 戦闘の経過に伴い二人との距離がだんだんと離れていく。
「………」
 まずいとアインは思った。
 ザドゥの真意はアインには解らなかったが、素敵医師を標的としているのは解る。
 本来、主催者同士が潰し合うのは反主催側にとって好機のはずだが、彼女は違う。
 アインにとって、素敵医師殺害は自らの手で実行しなければ意味がない。
 アインにしてみれば、他の者にそれを実行されることは、これまでの行動が総て
水泡に帰すことを意味するからだ。
 アインは焦っていた。 目の前にはしおり。 不気味に沈黙を続ける双葉。 
 この二人の目を掻い潜らねば、到底、素敵医師に攻撃を仕掛けることさえ出来ない。
 その反面、しおりはザドゥらが離れていく事に少なからず安堵を覚え始めているくらいだ。
 アインはしおりを丸め込もうとも考えたが、それも実行できずにいた。
 時折、妙な独り言を口にしているので、慎重に言葉を選ぶ必要あると考えているからだ。
 その上、彼女から放たれる未知のプレッシャーは、アインの暗殺者としての本能を嫌と
いうほど刺激し続けている。
 アインの闘争本能は、即座逃走か、隙を見て暗殺の二択を彼女に迫ってた。


          *       *        *

「!?」
 
 素敵医師の悲鳴が聞こえた。 次に衝突音。
「・・・・・・・・!」 
 アインは魔剣を掴み、弾かれたようにザドゥらの元へ駆ける!
 しおりもそれに反応し、アインを追いかける。
「!?」
 物凄いスピードでしおりはすぐにアインに追いつき、併走する。
 しおりは刀を持ってない方の手をアインに伸ばしてきた。
「・・・・・・っ」 「!?」 
 アインの身体から音もなく、陽炎のような『気』が噴出した。
 しおりはそれに一瞬目を奪われる。
 それと同時にアインに脳裏に音なき命令が聞こえた。
 彼女はそれに逆らわなかった。
 そして、『命令』に従い、アインはしおりとそう変わらない速度で、しおりの
背後に回りこんだ。 
 
 “邪魔者は消せ”という『命令』を実行するために。
 
 その時だった……二人の前に五つの白い人影が音もなく降り立ったのは。



【アイン(元23)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体・精神疲労(小)】
     
【しおり(28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害(ただし慎重に)、さおり人格・隙あらば無差別に殺害】
【所持品:日本刀】
【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり】
【備考:、首輪を装着中、多重人格=現在、しおり人格が主導】


【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:マント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり】
【備考:なし】


【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
     小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
     カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ、ヘルメット】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱】

【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第。 ザドゥとの戦闘を楽しむ】
【所持品:虎徹銃身(弾数無数、二発装填可)、虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:薬物により身体能力上昇、、左腕硬質化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。薬物の影響により腹部損傷】


【朽木双葉(16)】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘、???】
【所持品:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
      ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
     兵器化の乱用は肉体にダメージ、
     自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
    楡の木を中心に結界を発動】


【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:双葉の守護、???】
【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
【能力制限:幻術と植物との交信】
【備考:特になし】

【追記:アインVSしおり。 
    離れたところで、ザドゥVS素敵医師&カモミール芹沢。
    楡の木のすぐ近くで双葉がアインに対し攻撃再開】




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