237 共闘

237 共闘


前の話へ<< 200話〜249話へ >>次の話へ 下へ 第七回放送までへ




(二日目 PM4:35 楡の木付近)

――――やはり、聞き入れてもらえる筈が無かったのだ

彼はうつむき、洞の穴に背を向けた。
仲間達に助言を求め続けたが、返答はどれもほぼ一緒だった。
結界の支配下からはずされているゆえ、自立行動が出来る彼はさっき主から投げかけられた言葉を思い出し、考えた。

『あんたは……あんたは…やっぱり、あいつとは違う…………出てって!』

この場から逃げようという彼の提案に対し、強張った声で彼女からこう拒絶されるのは無理はなかった。
主の性格と立場を考えるならば、なおさら。
たとえ、主や自分達の力ではこの戦場にいる他の誰にも勝てないだろうという事実を告げたとしても。
罵倒された事に心を痛める暇さえ、彼にはない。
それでも彼は最善を尽くせる方法を残り少ない時間で考えなければならなかった。
時間が経てば経つほど、多くの仲間も枯れて失っていく中で。
最善が何であるのかさえ、それが出来るかどうか解らなくても。
彼はひたすら考え続けた。



(二日目 PM4:40 楡の木広場)

タタタタタタタタタタッ……
素敵医師の持つ自動小銃の軽やかな発射音が聞こえた。
いくつもの銃弾は地面と樹木に次々と穴を穿ったが、当の標的のザドゥにはかすりもしなかった。
「(や〜っぱ…射撃はセンセにはむかんき)」
素敵医師はそう心でぼやきながらも、残弾を意識しながらザドゥを見失わないよう、間合いを取り続けた。
ダァンッ!!と芹沢の銃弾も発射される。
それも大きく外れた。
しびれを切らした芹沢は猛然とザドゥに向けてダッシュしようとした。
「ま、待つがよ!」
とっさの素敵医師の呼びかけに彼女は足を止め、とっさに距離を置く。
ザドゥも少し下がり、小さく舌打ちした。
「ひへ、ひへへひひ……」

超常能力であっても、高熱を伴わない物理攻撃なら素敵医師は警戒をしなかっただろう。
現にアインから至近距離のショットガンの射撃を受けても、短期間で蘇生するぐらいの耐久力を兼ねそろえている。
薬物で強化された芹沢も、それくらいでは即死しない。
麻薬中毒者を盾にしつつ、幾多もの死線をくぐってきた素敵医師にとって間合いのとり方は得意な方だ。
それに加え、銃を使用しているにも関わらず、ザドゥ相手だと双方膠着に持ち込むのがやっとだった。


「きひひひひひひひひひひひひひ……」
素敵医師は鞄から素早く何かを取り出し、ザドゥに向けて投擲した。
「!」
バンッ!と音がして、放たれた3本の試験管が爆発する。
ザドゥはそれをマントでガードしつつ、それでも一定の距離を保つ。

「………………」
素敵医師はザドゥの狙いに気づいていた。

ゲーム開始直前にザドゥがタイガージョーに使用した奥義『死光掌』。
それを今、自分と芹沢に使用するつもりだと。
素敵医師は周りには隠しているが、気功も多少は扱える。
それゆえか死光掌を受けるのは、自分らにとっても拙いと直感で悟っていた。


「…?」
足早に移動する彼の顔の横に、突如白い小さな物体が寄ってきた。
空を舞っていた双葉の式神だ。
式神の目がキョロっとザドゥのいる方向に向き、次に素敵医師の方に向いて双葉の声で語りかけた。
『どういうことよ?』
「ふふ双葉の嬢ちゃん……いい今、取り込み中がよ!」
ザドゥが間合いを詰めてきた。
「……………」
しばし無言で式神は素敵医師とザドゥを眺める。
そして、少ししてため息をつくかのようにら言った。
『まあ……いいわ…。 あんたの問題はあんた達で片付けて。
 あたしはアイン相手で手一杯だから』
「……っ!? あああ……わかったが……わかったがよ…きへへへ…」
本音はアインをここに連れてきた上で、ザドゥとの戦いに加勢してほしかったのだが
今の状況で双葉を言いくるめる余裕は彼にはなかった。

式神はふいにザドゥの方を向く。
「「…………」」
式神はしばし黙ったまま式神はザドゥを見つめていたが、それ以上取り合わずにやがて楡の木に向けて飛び去っていった。





(二日目 PM4:40 楡の木の洞)

双葉はおなかを片手で押さえながら、聞いていた。
小さなささやくような幼い少女のつぶやきを聴き続けていた。

『このおねえちゃん、首輪してないね…』
『それがどうかしたの?』
『鬼作おじさんが言ってた、助けにきてくれた人かもしれないよ?』
『信用できない』
『でもぉ……』
双葉は一人で会話する獣耳の少女しおりとアインを観察していた。
「(あの子、生き残ってたのね)」
双葉は先日の昼の放送を聞けなかった。
が、しおりとさおりの事をは覚えていた。
校舎内で、体操服姿の少女に宥められていた双子の少女は嫌でも目立つ。
双葉は思った。自分だけでは生き残るのは難しいかも知れない。
雰囲気からしてあの子は何らかの力を持っているのは想像に難くない。
双葉にしてみれば、しおりはあらゆる面で異様かつ、己の身の危険さえ感じさせる存在だったが、それでも素敵医師やランスらと比べれば、まだマシな存在に見えた。
うまく立ち回れば、協力し合えるかもしれないと思った。
片方の姉妹を失っている幼い少女を利用するという罪悪感を抑えながら、アインへの攻撃を再開すべく、術の詠唱を始めた。
手で押さえていた、おなかがキリリ…と痛んだ。


                   ●

「ぬ!?」
カカカカカカッ……と放たれたメス数本がザドゥのマントを木に縫い付けた。
彼の前方には『虎徹』が転がっている。
素敵医師は芹沢が虎徹を拾おうするのを妨害しようとした一瞬の隙を突いたのだ。
「もらったがよ!ザドゥの大将!!」
歓喜の入り混じった声色で素敵医師は巨大メスを持って踊りかかり、肉食獣の爪での攻撃のように振り下ろす。
それは、木ごと彼のマントを音もなく切り裂いた。
綺麗にスライスされた木片が地に落ち、マントの破片がいくつか素敵医師の前方を漂った。
「ひひひ…へぇきゃっきゃーーーーーー……?」
血はおろか、ザドゥの姿さえ見えない。
切り裂いたのはマントの一部分だけだった。
そして、標的は素敵医師の右後方に立っていた。
「いいいいいいいつの間に……かかかわり……み」
「格闘にかけては俺の蔵書は世界一だ!」
「そ…そそそ…それはちち…ぐばきゃーーーーーーー!!」
ザドゥのドロップキックが、振り向いた素敵医師を側頭部を直撃した。
ぐきっという音とともに、彼はふっとび、轟音を立てて木に衝突させた。
「(それは格闘違う、がよ……)」
めきめきと前方に木が倒れる音がした。
ザドゥはふん…と言い、次に芹沢の方を向き、気を充実させる。
芹沢の手には既に虎徹が握られている。
「来い!カモミール!!」
ケタケタと笑いながら、彼女は上段に振りかぶり刃を下ろす。
ザドゥはかろうじて交わし、技を放った。
『死光掌!』
白銀色の気を纏った拳が芹沢の下腹部を直撃した。


ザドゥと芹沢。
しばしの沈黙。
「か、カモミール…」
すぐに体勢を整えた素敵医師はこれを見て、動揺する。
「これがどうかしたの?」
嘲りを含めた声だった。
同時に芹沢の斬撃がザドゥを襲った。
血がわずかに宙を舞った。
ザドゥの左腕がかすかに切れていた。
「どーやら、失敗したようがね…けきゃぎゃぎゃ」
笑う素敵医師は銃を構え、芹沢は銃剣を構えた。
奥義をくらった芹沢には表面上変化は見当たらない。
ザドゥは自らの怪我には目をくれず、間合いを取り始めた。
死光掌を使い、当て続けるために。

        
                   ●





(二日目 PM4:50 楡の木広場)

魔剣の数度の斬撃が白銀の人型式神を切り裂く。
切った箇所から青白い燐光が立ち上るが、何も無かったかのように徒歩ながらも高速度かつ威力のある物理法則を無視したような体当たり攻撃を式神は続ける。
「く……」
アインは身体の節々に痛みを感じながらも、目の前にいる五体の式神を見据える。
何度も何度も人の急所にあたる部位も切りつけた。
なのにまだ一体も倒しきれていない。
通り抜けようにも散発的に幻術や木々による、攻撃が飛んでくる。
ゆえにアインにとって気の解放もむやみにできないのだ。
《確実に消耗しとるはずじゃ》
カオスのアドバイスを聞き流しながら、アインは少し離れたところにある者を見すえて、思わず目を見張った。
しおりが首を押さえながら、立ち上がってきたのだ。
「(早すぎる)」
式神の妨害が入って、完全に首をへし折るまでは行かなかったが、それ相応のダメージをしおりは受けたはずだった。
短時間で立ち上がってくるはずがないとアインは判断していたのにだ。
「(わたしの認識もまだ、甘いわね)」
そうアインは自嘲した。
それを尻目に式神達は、一斉に後ろ向きでしおりの傍に移動した。


「……?」
しおりは怪人の登場にとまどう。
式神はたどたどしくもこう告げた。
『キョウリョク、シヨウ』
そして、式神たちは再びアインへの攻撃を続けた。
アインは思わずしまったと毒づく。
しおりはしばし呆然としていたが、一回うなずいてアインの方へ駆けた。
アインはとっさに魔剣を通じて気を解放させ、応戦する。

その時、カオスはしおりを見て思った。
《……使徒…。 いや……魔人か?》
刀と剣とが激しく打ち合った。
《剣技は素人と大差なし……じゃが、こいつから感じるプレッシャー…》
炎が巻き起こった。
《儂が会った、魔人どもと比べても強い部類に入る…な。 》
アインの蹴りをしおりはなんとか避けた。
《誰が…進化させたんじゃ?》



【アイン(元23)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体にダメージ少々、肉体・精神疲労(小)】
     

【しおり(28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害(ただし慎重に)、とりあえず式神と共闘、さおり人格・隙あらば無差別に殺害、】
【所持品:日本刀】
【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり】
【備考:首輪を装着中、多重人格=現在、しおり人格が主導
     首に多少のダメージ】

【朽木双葉(16)】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘、しおりと共闘】
【所持品:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
      ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
     兵器化の乱用は肉体にダメージ、
     自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
    楡の木を中心に結界を発動、強化された式神五体を使役、
     (それぞれダメージ中)】



【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:ボロボロのマント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(小)】
【備考:なし】

【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
     小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
     カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ、ヘルメット】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)】

【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第。 ザドゥとの戦闘を楽しむ】
【所持品:虎徹銃身(弾数無数、二発装填可)、虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:薬物により身体能力上昇、、左腕硬質化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、やや体力回復、死光掌1HIT】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。薬物の影響により腹部損傷】


【追記:アインVSしおり&双葉。 離れたところで、ザドゥVS素敵医師&カモミール芹沢】




前の話へ 投下順で読む:上へ 次の話へ
234 心の天秤
時系列順で読む
239 アインVSしおり&双葉

前の登場話へ
登場キャラ
次の 登場話へ
236 戦え!
アイン
239 アインVSしおり&双葉
朽木双葉
しおり
魔剣カオス
ザドゥ
238 降り積もり、残るモノ
素敵医師
カモミール・芹沢