239 アインVSしおり&双葉

239 アインVSしおり&双葉


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(二日目 PM4:55 楡の木広場付近)

「あっ………」
 切りつけられた左肩から血が流れた。
 しおりは痛みに隙を見せ、それを機にアインは魔剣の切っ先で相手を絶命させようとする。
「っ……」
 が、式神の一体が音もなく拳を振り上げ、アインに高速で接近する。
 アインは跳躍し拳を交わし、両手で頭部を掴まんとする。
「!?」
 アインの両手は頭部をすり抜け、攻撃は空振りに終る。
 アインは背から地面に落ちないよう、身体を捻らせ、音もなく着地する。
 式神は向きはそのままに、再度体当たりを敢行せんとする、しおりもこっちに迫ってくる。
 アインは魔剣を抜き放ち、後方へ大きく下がった。


アインは深く踏み込めないでいた。
 しおり一人相手ならとうに仕留められていただろう。
 双葉の式神相手だけなら、とうに楡の木まで接近できていただろう。
 だが相手は二人だ。
 しおりはアインから見ても、魔剣抜きで正面から戦ってはまず敵わないと判断させるだけの実力を持っている。

 そして、双葉の式神達は人型をとっているのにも関わらず、障害物の多い森の中を、巧みに潜り抜けながら音の出ない車のような、速く重量感ある体当たり攻撃を繰り返して来ている。
 格闘戦や白兵戦を挑んでくるのではなく、そのふりをした幻覚を被せた単純な攻撃。
 対人戦に慣れきったアインにとって、これらの相手は少々やり難かった。
 隠れようにも、上空視点、又は植物からの伝聞を通じて双葉は攻撃を仕掛けてくるのでそれは通じなかった。

 集められるだけの気を使用し、かなり頑丈に作った急所のない石人形のような式神五体。

 それは技量において自分とアインとでは、天と地ほどの差があると認識した上での双葉の判断だった。


「(このままでは…駄目ね)」
 素敵医師の姿を見失ってから、大分時間が経っている。
 アインは内心焦りながらも、いかにして突破口を開こうと考える。
 彼女は手に持つ魔剣を意識する。
 これまでアインは、気の解放を一瞬に留めていた。
 だが、一瞬ではどちらか片方を斃す直前にもう片方に邪魔されてしまう。
 これまでリスクの大きさを用心してきたが、それで身を滅ぼしては意味が無い。
 アインは深呼吸をしながら、魔剣を強く握り締めた。

 
 キュボッ……と、しおりは危険を察知し両手に火を点らせた。
「……………」
 アインは内心軽く驚きながらも、気を解放させしおりに攻撃しようと身構える。
 式神五体が一斉に四方に散り、しおりに遅れてアインにゆっくり接近し始める。
 
―――アインとしおりが同時に地面を蹴った。


 まず片目に入ったのは二つの灯火。
「たあぁぁぁぁぁーーっ!!」
 掛け声と一緒に右手の炎の勢いが若干増した。
 アインはそれには動じず、ただ構えたままだ。
 しおりはアインを殴りつけようとして、拳を振り上げ……
「……」
 …て止め、とっさに左手の刀で足をなぎ払わんと地面を薙いだ。
 フェイントだ。
 だが、はなからそれを読んでいたアインは、ゆっくり数歩下がって攻撃をやり過ごす。
 しおりの目が驚きで見開かれた。
 直後、アインの気が解放される。
 少し遅れて式神が一斉に発光し始め、アインに向けて殺到する。
 アインはしおりを蹴飛ばし、距離を置く。
 五体の式神の時間差攻撃がアインに迫る。
 草が風に強く撫でられるような音がした。
 それぞれの式神から光の粒がいくつか漏れて宙に浮く。
 アインは厳しい表情で魔剣を構えていた。
「(まだ…よ)」
 彼女は式神の全ての攻撃をなんとか交わした上で、それぞれ一回ずつ切り付けていたのだ。
 しおりが立ち上がり、式神もこっちへ動き始めた。
「………………………………………」
 アインは気の解放を止め、しばし待った。
 そして式神達が、発光しながらこちらへ向かった。
 しおりは巻き添えを食わない様、動きを止めたままだ。


「……?」
 式神はアインには体当たりせず、それぞれがアインの周囲を回り始めた。
 それぞれの式神がまた発光している。
 アインはそれらを注意深く観察する。
 そして程なくして気づいた、内一体が他と比べて光の量が少なく、動きが鈍いことに。
 しおりが式神らの陣の近くまで歩み寄ってくる。
 それを受けたかのようにアインは気を解放した。
 式神が一斉に襲い掛かった。
「………!」 
 式神たちはさっきダメージを受けたためか、さっきと比べ隙がわずかに隙が多いようにアインには見えた。
 そして、アインは双葉の行動パターンを思い出す。
 「……」
 先頭には『あの』式神がいた。
 アインはその式神の真正面まで移動し、剣を構え、腰を沈める。
 先頭の式神が迫る。
「……」 
『!』
 突然、アインは踵を返した。
 一瞬、式神の動きが止まり、アインは真横に数歩移動する。
 次の瞬間、アインと式神のほぼ同時にダッシュした。
 スピードに勝ってるのは式神の方。
 追いついてくる、敵に対しアインはあくまで冷静に唯走る。
 式神はアインを轢かんと猛然と迫り、彼女の数センチ横を通り過ぎていった。


『!?』
 
 アインは『あの式神』が罠だと見抜いていた。
 だから、迎撃は避けて、式神の大雑把さを利用して攻撃を凌いだのだ。
 式神はUターンしようといったん動きを止め、それを狙っていたアインはそれに飛び乗り、しおりを見る。
 とっさにしおりが身構えるよりも、式神が回転を始めるよりも速く、地面に降り立ち接近する。
 しおりは神経を集中させ、前方に炎を発生させ敵を灼かんとす。
「(まにあって!)」
 小さな爆発が巻き起こる。
 息をつく間もなく、しおりの耳に誰かが囁いた。
「隙が多いわ…」
 発火の直前に気を解放したアインはしおりの後ろに回り込んでいた。
「―――――っ!」
 しおりは必死に振り向きざまの攻撃を仕掛けようとした。
 がこっ…
 フェイントまじりのアインのアッパーが、しおりの顎にまともに決まった。
 しおりの身体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。
 とどめを刺さんとアインは魔剣を突き立てようとする。


 死への恐怖からか、しおりは意識をなんとか繋ぎ止めて、とっさに横に転がってそれを避ける。
 次は踵が首を狙って降って来た。
 しおりはそれを両手を交差してガードする。
 みしっ…と、腕に激痛が走る。
 アインが二撃目を加えんとしようとした時、式神がこれまでより強く発光しながら、近づいてきたのを確認する。
 温かい風が吹いた様な気がした。
 アインは踵を構わず落とす。
 狙いは頭部。
 しおりはこれも防ぐが、後頭部を打ちつけ集中力を乱される。
 アインは尚も気を解放し続けている。
 また踵を落とす。
 今度は連続で。
 しおりの両腕と頭から、血が流れた。
 アインは冷めた眼差しで式神を見て。
 それから片手で朦朧状態なしおりの手を掴んで、持ち上げ…
『!!?』
 …猛スピードで突っ込んで来る式神の方へ投げつけた。

    
           ●

火柱が立ち昇り、進路を塞いだ。

『もっと、地面に!』
 聞いた事のない女性の声に戸惑いながら、しおりは地面に手をかざし、発火能力を使い続ける。
 アインはリスクから来る猛烈な眩暈をこらえながら、隙を見せないように彼女らを観察する。
「(考えたわね……)」
 しおりを投げつけた時、式神からそれぞれ突風にも似た、気の奔流が発生した。
 それらがクッションとなって、しおりを保護したのだ。
 式神同士の追突を防ぐための対応策でもあるのだろうとアインは推測した。
 その時、アインはしおりを追撃しようとしたが、偶然発火能力が地面に向かい、火柱が発生したため、思わず退いてしまったのだ。
「…………」
 肩で息をしおりの脇を式神が固めている。
 その前方には広範囲に渡る炎の壁が築かれていた。
 火は式神の方にも少し行ってるが、燃え移る様子はない。 
 樹に燃え移らないように、指示通りに巧みに築かれている。
 それは双葉の機転だった。


アインは淡々と魔剣を鞘に収めた。
『?』「?」
 「……」
 そして無言でショットガンを取り出し、構え、
『!』「!」
 しおりに向けて、撃った。
 式神がガードに入ろうとする。
 時既に遅い…筈だった。

 空気が凝固したような音がした。
 散弾はしおりの周囲に届くと急激にスピードを落とし止ったようにスローになる。
 そして、呆然とする間もなく弾丸を日本刀で次々と寸断し始めた。
『な……?』
《こ、これは!?》
 アインは驚愕を僅かに顔に出しながら、とっさに距離を取った。
「(まだ特殊能力を持ってるの!?)」
 アインがいた世界では決して起こりえない現象だ。
 両断された弾丸が地面にぱらぱらと落ちた。
 しおりは荒く息を吐きながら、こちらを睨み付けてくる。
「(少なくともわたしの攻撃は通じた。 なら…あれは銃弾のような飛び道具でのみ発動する能力)」
 あくまで冷静に分析しようとアインは心を静めるよう努力する。
「(燃え移っていない樹を利用して切り込む)」
 次にアインはそう考え、引き続きしおりを標的に攻撃を仕掛けた。

     
           ●


 がっ…
 式神が接触し、アインの身体が回転した。
 転倒しそうなのを堪えながら、アインは楡の木の方を睨み付ける。

 魔剣の力を持ってしても突破できない。
 アインはその現状に苛立ちを募らせる。
 それに対し、しおりと式神は慎重に間合いを取り続ける。

《嬢ちゃん……本当に大丈夫か?》

 魔剣を使用すれば、服を焼かれる前に壁を突破できる。
 だが、防御に回ったしおりを相手にしていれば、確実に火に巻かれる。
 それに加え、何故かしおり自身が生み出した火炎は自身悪影響を受けた様子はない。
 双方、対峙したまま時間が過ぎる。
 疲労の色は明らかに出てきている。
 森からはちらほらと白い燐光が発生し、それはほんの少しずつではあるが式神に吸収されていっている。
 双方共、攻略の糸口が見つけられないまま、時間ばかりが過ぎようとしていた。



【アイン(元23)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体にダメージ少々、肉体・精神疲労(中)】
     
【しおり(28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害(ただし慎重に)、とりあえず式神と共闘、さおり人格・隙あらば無差別に殺害、】
【所持品:日本刀】
【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり(低下中)】
【備考:首輪を装着中、多重人格=現在、しおり人格が主導  
    全身打撲で若干能力低下、ダメージ(中)疲労(中)】

【朽木双葉(16)】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘、しおりと共闘】
【所持品:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
      ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
     兵器化の乱用は肉体にダメージ、
     自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
    楡の木を中心に結界を発動、疲労(中)ダメージ(小)
強化された式神五体を使役、 (内二体ダメージ(中)、内三体ダメージ(大)】

【追記:アインVSしおり&双葉。 離れたところで、ザドゥVS素敵医師&カモミール芹沢。 更に離れた位置で智機待機  式神星川、楡の木付近で待機 現時刻PM5:10】




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