238 降り積もり、残るモノ
238 降り積もり、残るモノ
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ここはどこかの下水道の中。
そこを徘徊する一人の男がいた。
当の男は環境の劣悪さに顔をしかめながら、自らの鞄の中身を確認した。
常用している薬は残り少なかった。
煙草もきらした様だ。
彼は今、かつて自分を追放した組織の構成員に追われている。
彼が麻薬の密売を組織に無断でまた始めたからだ。
その追っ手に麻薬を栽培していた自らの隠れ家を留守中に発見されてしまった。
既に地上には多くの追っ手が待ち構えている。
その内、ここも捜索されるだろう。
ボディガードのデカオという男ともはぐれたままで、これは面倒だと男は思った。
ここ最近、低品質の麻薬しか常用していないので、気分も良くないような気がした。。
痛覚などとっくの昔に消し去った筈なのにだ。
そもそも快楽と痛み止めのみが目的で麻薬を常習しているのではない。
男のもつ高い生命力は、昔に移植した特殊なガン細胞のようなもので成り立っている。
薬はその制御も兼ねているのだ。
このままでは、いつ細胞が暴走しだすか解らない。
とりあえず男にしては珍しく、薬抜きで自らの躰を維持できる方法を考えみた。
1.自らを異形化させる薬を使う。
これは駄目だ。
かつて、面白半分にシマント川に実験段階の薬品を垂れ流し、無数の人間を
怪物化させてみたことがあったが、すぐに追っ手がかかりほとんど実験データが得られなかった。
もう一度、同じ薬は作れまい。
他には……
2.移植している細胞を新しいのに取り替える。
3.『気力奪い』を応用して他人の気を自分の躰の制御にあてる。
4.神や霊を自らに降ろして、その力に期待する。
5.海外に行って、わざと未知の病気に感染してみる。
6.オオアナにいって放射能に汚染されてみる。
7.噂にあったナントカという博士の開発した次元ドアとやらを利用してみる……
男はろくでもない方法を次々と頭に思い浮かべる。
が、やがて仕方が無いという様子で鞄から薬を取り出し調合を始めた。
もう方法を実行に移す時間が無かったからだ。
断念せざるを得ない。
薬の調合を終えた男はその薬を注射器で自らに投与し、恍惚とした表情のまま自らの躰を見回してみた。
白衣と貞操帯を身に付け、異臭を放ち続けている全身火傷の包帯だらけの躰。
変形した頭部。
見慣れた躰は表面上、いつもと変化は無いように見える。
だが、男は自らの肉体の劣化が最近激しくなってきているのに気づいていた。
このままだと朽ち果てて死ぬのも時間の問題だろう。
それでも男に死の実感はあまり沸かなかった。
だが、未練はある。
もっと新薬の研究をしたい。
新たな快楽を得続けたいのもある。
それ以上に、損得抜きで自らの薬理学者としての探求をもっと続けたい欲求が一番強いのだ。
●
投与してから幾分か時間が過ぎた。
もう薬はほとんど残っていない。
地上に出るしかない、と男は思った。
また殺されるかもしれないが運がよければ、また蘇生し隙を見て薬物を奪えるかもしれない。
そう思った。
頭部の左がもごもご動く、脈動を始めたようだ。
男は急ぎ足で梯子を目指しながら、なんとなく自分が医者を目指したきっかけを思い出してみた。
●
将来の夢を持たなかった子供の頃、家の近くの海辺で漂着した屈強な異国の男性と出会ったのが夢を持つきっかけだった。
今はもう名前さえ忘れてしまったが、男は亡国の格闘家で、優秀な薬理学者でもあったのは覚えている。
その男の夢は不老不死を実現させる研究の完成だった。
彼はその学者の思想の一部と熱意に感銘を抱き、医者になることを志した。
残念ながら出会って数年後にその学者は癌で命を落としてしまった。
だが一応弟子でもあった彼は男から形見として、細胞増殖をコントロールできる特殊細胞のサンプルを手渡された。
男は自分と学者の成果を純粋に世の中の役に立てたいと強く思った。
サンプルは自分が医者になるまで大事に保管しておこうと決めた。
そのためには医師としての経験だけではなく、自分がその実験に適するくらいの強靭な肉体と精神を得るべく、暇を見つけたは鍛錬を重ねた。
そんな彼を周囲は応援してくれた。
現実は厳しかった。
薬剤師の免許を取ることはできたが、途中で疫病にかかり実験に耐えられると
思える程までは強い躰を得ることはほとんど不可能になってしまった。
それに加え、医師免許取得試験にも落ちてしまった。
金銭的にも余裕がなかった彼は自分の不運を嘆いた。
●
それから彼は薬売りとなった。
日々生活に追われ、研究を進める余裕は彼にはなかった。
夢は半ば諦めていた。
転機はあった。
ある日、彼の行きつけの風俗店のスタッフから誘われた。
モグリの医者にでもなってみないかと。
最初は拒否したが、夢を諦めきれなかった彼は渋々その誘いに乗っってしまった。
それから彼の環境が変わった。
大金が入るようになったし、コネもできた。
話術も巧みで社交家だった彼は多くの患者からも慕われた。
彼は趣味でも合った風俗店通いや、錠前集めもやめ、私財で一人で研究を始めた。
分かち合う同士もほしかったが、研究内容が内容だけにある程度安全に行えるまでそれを口外したくなかった。
手がかりを求め、これだと思った海外のオカルト本なども目を通した。
それらには神の器となる人間の事や、北方のある国の洗脳術の事などが書かれていたが、それらは彼が住んでいる所では、実在さえ立証されてないものだった。
だがそれは、あの学者から聞かされていた話の中にもあったので、彼は一応参考程度には目を通した。
彼はモグリの医者だったが、極力研究の実験に他人を使わなかったし、麻薬の開発や買売を避けていた。
なぜなら彼は自分の力で患者に感謝されるのが、何よりの喜びだと思っていたからだ。
後ろめたさはあったものの、彼の夢の半分はこの時達成されていた、
もう半分の夢の成就の願いを心に秘めながら、彼の充実した日々は過ぎていった。
ささやかながらも幸福な日々は終わりを告げた。
ある日、彼の祖国ニホンと大国ウィミィ間で戦争が始まったからだ。
彼は世の無常を悔しがりながらも、医師として当然の務めを果たそうと奮闘した。
こういう時、役に立てたかった研究はまだ実用段階に入っていなかった。
その事実が彼にとって一番堪えた。
●
開戦直後、彼は戦火に巻き込まれた。
全身火傷を負い、痛みにのた打ち回りながら生死の境をさ迷った。
そんな彼を救おうと多くの者が治療を試みた。
結果、なんとか彼の命は助かった。
モルヒネを大量投与し、痛みを消し去ったおかげで。
そして、彼の心にタブーは無くなった。
皮肉なことだった、モルヒネ中毒になったおかげで彼の能力は更に上がったのだから。
研究は進み、サンプルの細胞を自らの躰になじませることができるようになった。
彼は容姿と心を代償に、かりそめの蘇生能力を手に入れたのだ。
更に自制心を無くした彼は、日々その凶行の度合いを強めていった。
戦時中、妙な女が極秘で診察依頼をしてきたことがあった。
その赤毛の女に連れられた青髪の子供。
なんと、その子供は高い治癒能力を持つ血液をその身に宿していた。
以前の彼ならこれをきっかけに研究を完成間じかまで進歩させれたかもしれない。
だが、普通に治療してそのまま保護者に返してしまった。
何故なら、その時の彼は新しい麻薬の開発に余念が無く、興味が移らなかったからだ。
彼の研究はもう進まなかった。
そんな男の名は長谷川均。
男は戦時中から素敵医師と自ら名乗るようになった。
●
素敵医師は宙を見上げながら歩く。
そんな彼の脳裏に浮かぶのは白昼夢のような思い出。
それでも、かつての自分に感慨は沸かない。
残っているのは飽くなき探求心。
出口のない迷路をさ迷っている気分の中、それでも敢えて、出口にはなりえない薬を求め歩いた。
●
こつ…こつ…と軽やかな足音が聞こえたような気がした。
素敵医師はそれに気を止めなかった。
薬を手に入れるのが先決だからだ。
突如、周囲が完全な闇に包まれた。
彼がその異変に反応するよりも早く、目前に白い塊が出現する。
『それ』は白鯨に酷似していた。
●
「キミなら、そう言ってくれると思ってたよ」
創造神ルドラサウムからの誘いだった。
主に異世界人同士で行われる殺人ゲームの管理スタッフの一員としての。
成功報酬は永遠の命の授与。
前金として現状の改善。
素敵医師に断る理由などない。
むしろ、この状態でなくても、それは望むところだった。
詳しいゲームの説明はルドラサウムの部下からされるという。
素敵医師はすぐにでも、異世界に旅立っても良いと思ってさえいた。
「その前に、前払いをしておかなきゃねー」
彼らの目前に赤黒い球体が現れた。
●
飲み込んだ赤黒い球体はかすかに血の味がした。
神の言うとおりなら、これで自らの躰の崩壊を止めれるはずだ。
ルドラサウムから報酬と前払いの説明を受けた彼に突如、睡魔が忍びこんだ。
「そうそう……言い忘れたけどー」
素敵医師は、睡魔に襲われながらもどこかとぼけた感じの神の声を聞き逃さないように必死に耳を傾けた。
「キミの願いさー、もしかしたらゲーム中に叶うかも……」
素敵医師はかくんと口を開けた。
「……知れないよ〜。 これって、キミだけのサービスかな?キャハハハハハハハハ……」
ザドゥにとって耳障りなその笑い声は、素敵医師には心地良く聞こえた。
●
素敵医師がいなくなった異空間。
ルドラサウムはさっきまで彼がいた空間を見つめている。
その口元には楽しげな笑みが浮かんでいた。
●
(二日目 PM5:05)
バァン!!!
物凄い射撃音だった。
ザドゥの右2メートル弱離れた所を弾丸がすり抜ける。
ボンッ! ボッ……
掠めただけなのに虎徹の弾丸は、2本の木を破砕させた。
「大将! 逃げちゅうだけやか? へけけけけけ…きき」
ヘルメットを被った素敵医師の嘲りの声が木霊する。
「………………」
ザドゥは防戦一方だった。
芹沢の命中精度が上がってきて、近づけないのだ。
素敵医師はというと、弾込めどころか自らに注射までする余裕まで見せている。
何を思ったかザドゥは地面の草を拾い、両耳に詰め込んだ。
「(やむえん…!)」
ザドゥは覚悟を決め、気を噴出させ芹沢の元へ駆けた。
素敵医師が芹沢に注射をする前に、死光掌を決める必要が彼にはある。
芹沢は迷わず銃口をザドゥに向けた。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
「「!?」」
先に響き渡るはザドゥの怒号。
ズゥンっ!!
踏み込みとともにザドゥの気が更に膨れあがり、左右に動きながらスピードを上げて、目標へ駆ける。
自動小銃の弾丸がまたも数発むなしく地を穿つ。
虎徹は発射されない。
射撃か斬撃、どっちが確実に相手を屠れるのか見定めんがための沈黙だ。
芹沢が寄声を上げて、斜めに虎徹を振った。
それは遠くて当たらない、それどころか足をもつらせたかのように前めりに体制を崩した。
ザドゥは眉を潜ませるも、好機とばかり唯一直線へ駆ける。
「な〜に……やっとるが」
自動小銃はザドゥの方へ向いた。
拳を握り締める。 いち早く着いた。
「カモミール、避けるがよ!」
気の量から纏う気の量から死光掌を警戒した素敵医師が叫ぶ。 視界は主に大地からブーツと白い足へと変わった。
足の主は芹沢だ。
だが彼女はいつのまにか銃口をザドゥへ向けて構えていた。
「ひっかかったカナ?」
さっきはフェイク、壊れた笑顔の芹沢は引き金を引こうとする。
ザドゥは身を沈め、答えた。
「見え見えだな!」
芹沢に当てようとすれば間に合わなかったろう拳の行き先は―――
―――地面。
「狂昇拳!!」
ドボオォア!!
ザドゥと芹沢の立っていた地面が爆発した。
その現象はタイガージョーの『地竜鳴動撃』に似ていた。
本当に体勢を崩してしまった芹沢の手で銃弾は空へ放たれる。
轟音。次に自動小銃の発射音。 はずれ。
芹沢は視線をザドゥに向けようとする。
ずんっ!
指2本が芹沢の右腕の付け根に突き刺さる。
彼女の左手が開く。
そして反応するより先にザドゥの手が芹沢の左手を掴み、捻った。
ぽぐっ!と間接が外れ、虎徹が下に落ちる。
ザドゥは素早くそれを手に取り、芹沢に軽く蹴りを入れ、距離を取った。
「ななな……なんで大将がこの技、つ使えるんがよ…」
半ば呆然としたような素敵医師の問いに対し、ザドゥは虎徹をなにやら殴ったようなそぶりを見せた。
「……ち」
ザドゥは悔しそうに舌打ちして、それを地面に降ろした。
「あいつの技には及ばん。 だがこの場はこれで充分だ」
本来の狂昇拳は気を纏ったアッパー技だ。
これは死光掌と狂昇拳の応用技。
ヒントはタイガージョーの技からだが、即席だけあって殺傷力はなきに等しい上に、体力もそれなりに消費するシロモノだった。
「!?」
芹沢の鉄扇が振り降ろされる。
ザドゥは前転しながらそれを避け、虎徹を素敵医師へと投げる。
「!!」
弧を描きながら、こっちに向かってくる銃剣を素敵医師は跳躍してなんとか避けた。
「(ファントム達はまだ向こうか? しおり相手にここまで渡りあえるとはな……)」
「(ま〜だ……誰も殺られてないようがね……。)」
向こうで戦っている三人の参加者を少しばかり意識しながら、彼らは距離を置きつつ戦いを続けた。
【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:ボロボロのマント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(小)】
【備考:なし】
【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
カード型爆弾一枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ、ヘルメット、鞄に切れ目】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)】
【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第。 ザドゥとの戦闘を楽しむ】
【所持品:虎徹銃身(弾数無数、二発装填可)、虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる) 鉄扇、トカレフ】
【能力:薬物により身体能力上昇、、左腕硬質化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌1HIT】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。薬物の影響により腹部損傷、虎徹未装備】
【追記:ザドゥVS素敵医師&カモミール芹沢 離れた場所でアインVSしおり&双葉 更に離れた位置に智機待機 現在PM5:10】
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