202 魔獣の咆哮・戦士の意地

202 魔獣の咆哮・戦士の意地


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(第二日目 PM1:00)

巨体に似合わない速度で、森をぐんぐんと奥地へ突き進む影。
ケイブリスは、確実にランスがいる場所へ近づきつつあった。
その身の闘気を押さえつけ、獲物に逃げられぬよう着実に。
そんな彼の存在は、ランスや素敵医師程度では、気づけない。
木々とプロくらいだろう。
「待ってろよ…… 俺様の受けた苦痛、何百倍にもして返してやるぜ」
木の鳴り響く音が聞こえる。
誰かが暴れている気を肌で感じ取る。
「そこか……」
おそらく、あいつだろう。 ケイブリスは、確信をもった。
場所は近い。



(第二日目 PM0:30)

「くそくそくそくそくそくそくそくそくそ、あの野郎どもぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
魔窟堂を遥かに超えた怒りが、ランスの身体から、森全体へと響くかのように発散されていた。
(あの声プランナーて名乗ったな…… って事は、カオスとカフェさんが話してた三超神とか言う奴か。
 しかも、放送の声は、間違いなくケイブリスの野郎だ。
 わざわざこのために復活させてきやがるとは、俺様へのあてつけか!?)
「ランス様…………」
心配そうにランスを見つめるユリーシャ。
あの二つの声を聞いてから、ランスは、怒りつづけている。
最初は、おろおろしていただけのユリーシャも段々と不安を募らせていく。
(くっそぉ、魔王を作り出すような超一級神にどうやって歯向かうっつんだ。
 かといって、主催者打ち殺すにしてもケイブリスの野郎がいたんじゃ、カオスか日光さんがなきゃ無理だ……
 どうする? このまま残りの参加者を狩って優勝って手もある……
 いや、ダメだ。 それじゃ、俺様を慕ってついてきてくれるユリーシャも
 双葉のお嬢ちゃんも、まだ見ぬ少女たちも手にかける事になるじゃねーか。
 そんなのゴメンだぜ。
 役に立つもんって言っても、あいつの考えたものだ。
 どうせ、エターナルヒーローズの例のように変なモノに決まってる。
 ちくしょう、八方塞がりじゃねーか)
考えながらもランスは、拳をばんばんと幹に叩きつける。
既にこの所為のおかげで、幹が大分えぐられている。
これが、魔獣をひきつける原因と知らず……




(第二日目 PM1:20)

音がより鮮明になる。
胸が躍るようだ。
あいつと戦える。
ケイブリスは、はやる気持ちを抑えながら
ゆっくりと着実に獲物への距離を縮めていく。
(逃げようのない距離まで…… それまでは、我慢だ)

執念

今、彼の身体を支配しているもの。
自分の全てを奪っていったものに対する憎悪のなせる技。
それは、荒々しく、いつものように「何処だぁ!?」と叫びながら
突撃してくだけのケイブリスからかけ離れた、ハンターとしての動きを可能にさせた。

―――見えた―――

まだぼやけている程小さいが、確かに人影が二つ。
焦らぬよう、少しずつ距離を縮める。
段々とはっきりと浮かび上がってくる人影。
その度に爆発しそうになる心臓。
もう少しだ!




(第二日目 PM1:30)

木を倒した事によって、ランスは、ようやく気を落ち着かせはじめた。
その事によって、やっと回りへと気が配れるようになり
ユリーシャのビクビクとした様子も認識されるようになった。
(そうだ、こんな調子で誰がこいつを守ってやるってんだ。
 俺様が守るって公言したんじゃねーか……
 それなのに、俺は、こいつを怯えさせちまって……)
「心配かけたな。 もう大丈夫だ。
 なぁに俺様の力でちょちょいのちょいで主催者どもをぶち倒して願いを叶えてやるぜ。
 がぁっはっはっはっはっは!!」
心の中では、舌打ちしながら、彼女を心配させないために
自分の心を吹っ切るようにも胸を張って、大声を上げる。
「よーし、それじゃぁ、景気づけの一発だぁ!! そーりゃぁ!!」
そう言うとお約束通り、ユリーシャを草葉に押し倒し
心のもやもやを消し去るつもりで、常時にふけろうとしたが……

「…………っ!?」



(第二日目 PM1:40)

つい先ほどまで、ランスとユリーシャが組み合っていた場所は、焦げていた。
一流の戦士としての本能が、とっさにユリーシャを抱えて転がり避けさせたのだ。

「くっくっくっくっく………… 会いたかったぜぇ、人間の王様よぉ!?」
「てんめぇ………!!」

ユリーシャの手を取りながら、ゆっくりと立ち上がるランス。
その目は、ケイブリスの瞳を一直線に捕らえ、放さない。

挨拶代わりに、ケイブリスは、自分の魔力では、当っても致命傷にすらならないと
解っていて、初級魔法である火炎球を投げつけたのだ。
幾ら、馬鹿で力任せのケイブリスといっても魔人である。
威力は低いが、火炎球くらいなら出すことは可能だ。

「っけ、あいからわず醜い奴だぜ。 久しぶりの再開なら、もうちょっとましな方法しやがれってんだ!!」
「ふん、お前は、そう言うのが大好きだっただろうが。 有り難く思いな。
たかだか人間の王が、この魔物の王から挨拶して貰えたんだからな」

言葉こそ皮肉の言い合いに取れるが、その両者の発している気は
ぎりぎりのデッドゾーンを狭めあっている。
打ち合いが発生するほんの一歩手前まで。


ぶんッ!!
空気を裂く音が聞こえる。
先に動いたのは、ケイブリスだった。
ランスとユリーシャがいた後ろの木がメキメキと倒れる。

ドゴッ!!
地面がえぐれる音が響き渡る。
ニ激目が二人を追撃したのだ。

「どうした!? 逃げるだけか!? 打ち返して来い!!」

ユリーシャを抱きかかえながらでは、避けるのが精一杯のランスを前に
小鳥を仕留めようとする猫のように、ケイブリスは、恍惚としていた。

「調子に乗りやがって……」
ケイブリスの猛攻を避けながら、時には剣で捌きながら
ユリーシャを抱えて、逃げつづける。
だが、それも一時凌ぎにしか過ぎない。
身体の大きさからくる絶対的なスタミナ差、そしてユリーシャを抱えながらでは
いつか体力が尽きて、逃げ切れなくなるだろう。


打って出るしかない。

(攻撃が通用しなくても、パボラの時のように相手の動きを封じる事ぐらいはできるはずだ。
 それに、このまんまじゃ、ユリーシャまでやられる……)

「ユリーシャ、安全な場所に避難してろ」
「え?」
ユリーシャは、戸惑った。
「いいか? 良く聞け。
アイツは、魔人って種族でな。 俺様たちの攻撃は、一切通用しない
弓で支援しようと思うな。 無駄になるだけだ」
「では、ランス様は、どうするんですか?」
「打って出る」
「攻撃は通用しないはずなのでは?」
「そうだ。 だが、俺様は天才だ。 足止めは勿論、
動きを封じる事くらいはできるはずだ」
「…………戻って来ますよね?」
「当然だ。 俺様を信じろ。
それとこれを持っててくれ。 戦闘中に壊れたら困るしな」
そう言うと、ランスは、首輪解除装置をユリーシャへと渡す。
「……待ってますから」
ダッ!!と駆け足でランスの元から離れて行くユリーシャの姿を
小さくなるまで、彼は、不安げに見送っていた。

「挨拶は、済んだか?」
後ろから、ゆっくりと姿を現した魔人。
「待っててくれたってのか? 随分と気前がいいんだな」
「テメエだけは、何の気兼ねもなくサシでぶちのめしたいんだよ!!」
怒声と共に六本の腕を繰り出して、再びケイブリスは、襲い掛かった。
対するランスも剣を握り締め、間合いを整える。
「何度でも来やがれ、また吠え面かかせてやる!! やぁぁってやるぜ!!」

ゲーム始まって以来のバトルが始まった。




走る。
ランスの方を振り向きながら、彼を見失わないように
十分な距離を取ると、草陰にさっと彼女は、隠れた。
本当なら、もっと逃げた方がいいのかもしれない。
もし、現在地で他の参加者に見つかったのなら、下手をすれば、足手まといになるだろう。
それでも、見届けたかった。 愛する男の姿を。
そして装置を託した時の彼の顔が
ほんの少しだが、不安の色が混じっていたのを気づいたから。

「くたばりやがれぇ!!」

ここまで遠くはなれていても耳に入ってくる魔獣の声。
それが益々、彼女の心を不安に満たす。
遠くからでもくっきりと見える巨体のケイブリスに比べ
離れてしまっては、小さくしぼんで見えるランス。

(もし、あの二人がいたら……
四人いれば、なんとかなったかもしれない)
だが、その希望は、自分自身で芽を摘み取ってしまった。
(今更、こんな事を望めないのは、解ってる。
けれど、けれど、あの人だけは……!!)
彼女は、走った。
ランスを助けるために。



【ユリーシャ】
【所持武器:弓】
【現在位置:東の森】
【スタンス:救援を呼ぶ】
【備考:狂気から反省心へと
首輪解除装置保有】




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