208 女達の決意
208 女達の決意
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(第二日目 PM2:10)
走る。
ひらすら、走る。
少女は、森へ入った時の位置間だけを便りに
西へ西へと森を走りぬける。
いつかきっと街道へと通じる事を信じて。
(私が走らなきゃ、私が行かなきゃ、もう守ってもらうだけは嫌だ。
私が巻いた種だから……)
体力は、とっくに限界に来ている。
それでも走る。
守りたい人へと、愛した人のために。
どれだけ走っただろうか?
目の前の地形が平坦に映って来る。
それと共に、更なる息苦しさが彼女を襲う。
このまま横たわってしまえば、全ての苦しみから開放されるだろう。
倒れてるうちに、この世からも去れるはずだ。
それでも走る。
(あの人の気持ちに答えたいから……
この意識続く限り、走り続けて行こう)
道には、まだ新しい足跡がある。
複数人のものであることから、パーティーであろう事が伺える。
(時間がない…… もうこれにかけるしか!!)
足跡を辿り、彼女は、病院へと近づいていった。
(第二日目 PM2:35)
冷たい空気の漂う病院の廊下。
恭也への処置を施し終えた魔窟堂は、見回りがてらに歩いていた。
「もうしばらくすれば、恭也殿も行動できるようになるじゃろう……」
(だが、次に出血した時は、今度こそ危ないじゃろうな……)
今回は、出血の量が少なかったから助かったが
それでも、身体に流れる血液は、大分減ってしまっている。
もし、次に同じような重傷を負えば、まず助からないだろう。
(輸血パックを確保しておくべきじゃったな……)
恭也の事を始め、今後の事を考えなら、廊下を見回る魔窟堂。
「む?」
硝子越しに病院の外を見た時、動くものが目に映った。
「む、むむむ?」
じっくり目を凝らして観察する。
ソレは、段々とであるが、病院へと近づいてくる。
「さん!」
「おお、狭霧殿、おぬしもあれを?」
狭霧は、廊下を駆け抜けて、魔窟堂へと近づいていった。
「慌てましたよ…… 見てくださいこれを」
「ん、なんじゃ…… レーダーにうつっとらん!?」
「主催者側の刺客かもしれませんね……」
「その可能性は、わしも考えた。 だが、刺客にしては、ちと堂々としすぎてないかの?
それにどうも、あれからは、殺気が感じられんのだよ」
「ですが、万が一と言う可能性も……」
そうこう言ってる内に、ソレは、既に病院の入り口を越えて、玄関へと近づいていた。
「見たところ、女の子のようじゃの…… 必死に走ってるようじゃが。 あ、転んだぞ」
「私も刺客の可能性は、ないように思えてきました……」
「と、とにかく、敵ではなさそうじゃし、行ってみようではないか?」
「そ、そうですね、一応用心しながら……」
「ハァハァ…… やっと辿り付いた」
転んだせいで、膝がすりむけて、泥も身体中についてる。
けれども、彼女の意志は、揺ぎ無いまま先を急ごうとする。
「建物、人がいるはず…… もう少し、もう少し……」
足を挫いたのか、思うように走れない。
それでも這ってでも、玄関へとたどり着く。
少しずつ、意識が段々と遠のいてくる。
「お…… だ…丈夫かの?」
(人影…… もうこれに託すしか……)
「いかん、倒れたぞ!!」
玄関へと駆けつけた魔窟堂は、下に横たわったユリーシャを見るや
直ぐに介抱しようと近づく。
対して、狭霧は、もしもの事を考えて距離をおきながら
観察しながら、警戒の念を緩めずにユリーシャの隣へと寄った。
「しっかりせい!! 大丈夫か!?」
倒れたユリーシャを抱きかかえる魔窟堂。
「………します」
「どうした!? 何者かに襲われたのか!?」
「……ここの直ぐ近く… 東の森… さっきの放送の声の化け物
ランス様…私の為に戦ってくれてる、お願いします……」
「おい、しっかりせんか!?」
「私に出来るのは、これだけだから…… お願いします」
「魔窟堂さん、危ない!?」
「っ!? しもうた!?…………………え?」
ユリーシャの手が何か兵器のようなものを持って、魔窟堂の首に近づいた時
彼らは、絶望に打ちひしがれた。
が、それも束の間、直ぐに意表を突かれる。
カラン
首輪が魔窟堂の首から外れて、地面へと落下した。
「…………首輪が外れた。 と言う事は、これはグレン殿の!!」
2人が驚きの余り、気が抜けている間にも、ユリーシャは、最後の力を振り絞って狭霧の首輪も解除する。
「あっ、えっ…… 外れたんですよね?」
「う、うむ…… いかん、ここに来るまでに相当無理をしたせいか、気を失ってしまっておる」
魔窟堂は、ユリーシャを抱きかかえ
狭霧の方は、ユリーシャの持っていた解除装置を手に取りながら観察している。
「困りましたね、これ、使い方が解らないんですけれども…… どうもただ押し付ければいいだけのものではないような……
下手に弄って、壊したら大変ですし…… 彼女が起きるのを待つしかありませんね」
「それよりも彼女の言っていた内容の方が……
東の森で彼女の連れが放送の声の化け物と戦ってると言うておったの……」
「……おそらく、主催者側の刺客でしょうね。
首輪が外れているから、この解除装置をもっているから狙われたと見るのが打倒でしょう」
「では、連れは、彼女にこの解除装置を持って逃がしたと考えるべきじゃな……」
「ええ…………」
こくりと相槌を打つ、狭霧。
次の瞬間。
「何と言う!! 何と言う偉大な人なのじゃ!!」
魔窟堂は、涙を滝のように流しながら猛烈に感動していた。
(また病気が始まった……)
狭霧は、頭の中でぽつりと漏らした。
「あの魔窟堂さん…… グレンさんを殺して奪ったと言う可能性は?」
狭霧の方が、現実を捉えている。
「いや、そんな悪漢ならば、うら若き乙女を逃がすために、みなの事を考えて、解除装置を持たせて、
自分をおとりにして、主催者に立ち向かうなどしないじゃろう!!」
(ダメですね…… 完全に倒錯しきってます)
「こうはしてられん、助けに行かねば!! 狭霧殿、この子を頼んだぞ!!」
「ちょっと、待ってください!! 魔窟堂さんがいない間に
今度は、本当の刺客やゲームに乗った方が来たらどうするんですか!?
彼女は、魔窟堂を必死に現実の世に戻そうと説得を試みる。
「ううむ、そうじゃった…… じゃが、せっかくの同志を見逃すのは……」
かといって、狭霧の方も100%反対ではない。
(この時点で主催者に歯向かうと言う事は、それなりの実力者、もしくは、算段を持った人と言う事。
でなければ、解除装置程度では、動かないでしょうね……
ですが、今、魔窟堂さんに動かれては、言った通りに、襲撃された場合は……
……これは、賭けですね)
「解りました…… ですが、一時間です。 これ以上は、譲れません。
それまでに見つからなければ、絶対に戻ってきてくださいね」
(魔窟堂さんなら、加速装置を使いこなせば、無理ではないでしょう
それでも、一種の賭けですけどね…… 甘くなりましたね、私も……)
「かたじけない!!」
更なる涙を溢れさせながら、魔窟堂は、森へと駆けて行った。
「さて、まひるさんに頼んでこの子を運んでもらいましょう……
幸い、ただの過労で倒れただけですし、意識が戻ったら、装置の使い方も聞かなければいけません。
それにしても、魔窟堂さんがいない間は、私が頑張らないとダメですね…… はぁ
せっかく、眠りについていたのに…… 過敏すぎるのも良くないですね」
あくびを漏らしながら、背伸びをする。
(ですが、この装置のおかげで、計画の重要課題の内の一つをクリアできました。
後は、これを餌に仲間を増やせれば、言う事はないですね)
ため息を付きながらも、これからの計画について着々と思案していく。
(私が生き残る…… 大分、目の前まで見えてきましたね)
【月夜御名紗霧】
【所持品:バッテリー切れ寸前の対人レーダー、
COLT.45 M1911A1 ccd 残弾2発(拾った)
薬品数種、メス二本、他爆装置の指輪二個 解除装置
金属バットと文房具とノート(雑貨屋で入手)他の所持品あり】
【現在地:病院内】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持】
【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【スタンス:運営者殲滅・ランス救出】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【備考:加速装置使用中】