207 傷心

207 傷心


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(二日目 PM1:44 病院)

病院の一室でベッドに腰掛けている魔窟堂と、眠そうな顔をした紗霧。
「紗霧殿…レーダーの事で、言っておきたい事があるのじゃが…」
と、魔窟堂はやや辛そうに話し掛ける。
「……なんでしょう?」
「さっき光点が3つあったと言うておったが、光点の中には双葉は
含まれてはおらんかもしれん」
「……どういうことですか?」
「まだ話しておらんかったが、双葉の首輪は昨日の午前に、解除されたのでな」
「…え?」
「アイン同様、レーダーでの補足はできんはずじゃ……」
「…それはおかしいですね。のこりの参加者は10人。私達のしらない
参加者は3人のはずです。」
「うむ…主催者が間違えるとは考えられんからの、ワシ等の知らない所で
何かが起こったのかも知れん」
「…主催者の策略かもしれませんね。……ところで魔窟堂さん、
解除ってどういうことですか?」
「・・・・・・・。昨日…ワシらの……死んでいった仲間のホッシー君が
首輪を破壊してくれたのじゃ」と両目を涙で少し潤ませながら魔窟堂は答える。
(それで、きのうの放送では死亡者6人なのに、レーダーでは7人に
なってたのですね)と眠気に抵抗しながら紗霧は思索する。
「……あの…魔窟堂さん、その双葉さんとホッシーさんのこと知っている限り
おしえてくださいませんか?」
「……うむ。情報は共有せねばならんからの」
やや躊躇しながらも、魔窟堂は2人の事を話し始めた。



(二日目 PM1:49 病院)

「……アインさんよりもはやく、双葉さんを見つけなければなりませんね」
「その通りじゃな…だが、今は…」
「…高町さんのことがありますからね。…ここの近くに通りかかれば
手のうちようはあるんですが…」
と、デイバックから対人レーダーを取り出して紗霧は呟く。
「そうじゃな…」
高速移動ができる特殊能力「加足装置」を持つ魔窟堂なら大体の場所の
把握ができればわずかな時間で接触する事が可能だろう。
紗霧が主催者打倒を選択肢の一つに入れた要因の一つには、数時間前、
竜神社周辺でその事を聞いて知ったからである。
紗霧はレーダーのスイッチを入れる。
「「!?」」
2人は絶句する。レーダーの光点は7つから6つに減っていた。
「……光点が一つ減ってますね…」
「ま、まさか…」
「……魔窟堂さん、死んでしまったとは限らないでしょう。首輪が解除されたの
かもしれませんし」と、とっさに言いつくろう紗霧。
「・・・・・・・・。そ、そうじゃな………」
やや顔を青ざめながら、答える魔窟堂。彼の気持ちはすぐにでも外出して、
知佳やアイン達を捜索することに傾いている。

「…御気持ちはわかりますが、…今戦えるのは魔窟堂さんだけです。
…高町さんが目覚めるまでは遠くには行かないようお願いします」
神妙な顔付きで紗霧は彼に問い掛ける。
「そ、そうじゃな……そうだったんじゃな……」
(参加者が死亡すればブザーが鳴るんでしょうけど電源を切ってましたからね。
判断がつきません)
彼女の配布品である、対人レーダーの残りバッテリー量は少ない。
そのことに気づいたのは昨日の午後7時ごろ。ブザーとは別の警告音が響いた。
レーダーの説明書を暗記していた彼女はそれ以後、
レーダーを余り使わなくなったのだ。
もっとも、それが原因で遺作に捕まったのだが。
「今は、恭也殿を治療するのが最善か……むっ?」
「……どうしました?」
軽い足音が2人には聞こえる。
「まひる殿かな?」
「…………」紗霧は眠気を押さえながら、恭也とまひるの事を思索する。
そして、まひるを通じて恭也に伝える言葉を頭の中で組み立てる。
まひるがこの部屋を訪れ際に彼女は組み立てた言葉を恭也に伝言する事を
頼んだ。



(二日目 PM1:53 病院)

「紗霧殿…おぬしにも熱くたぎる魂を持っておったんじゃなあ」
と、感動する魔窟堂。
「……私には………そんなものはありませんよ。その方が確実に知佳さんと
合流できるからこその提案ですよ」とあくびをかみ殺しながら紗霧は言った。
「自分をそこまで謙遜しなくても良いじゃろう……。本当に良く言ってくれた」
「…謙遜などしてません…た…だ…」彼女のまぶたが重くなっていく。
(あういう眼をする方は大きな何かをやり遂げちゃうんですよ)と心中で言う。
「?」
「…それよりも魔窟堂さん、薬品の方を頼みます……」
「わかった」
「…………」
「紗霧殿………眠っておるのか?」
紗霧はベッドにうつぶせになったまま、静かな寝息をたてていた。
魔窟堂はシーツを紗霧にかけてやる。魔窟堂は彼女をみてしばし考える。
今日の朝に病院に訪れ、仲間に加わった黒髪黒リボンの少女。月夜御名紗霧。
この島で魔窟堂と行動を共にした仲間の中で、彼女のような参謀向きな
能力の持ち主は、昨日に命を落としたエーリヒ以来の人材といえる。
魔窟堂が歩んできた人生の中で、これだけの聡明さを持つ者はまずいなかった。

彼女のその聡明さは、来るべき主催者との戦いで大きな助けになると
少なからず期待していたりする。
だが、その一方で懸念があった。何を考えてるかわからないと言う不安がある。
確かに自分達に協力はしてはいるのだが、何かがおかしいと感じてしまう。
(朝から感じた不安は、ワシが解除装置を忘れていた事によるものじゃったが)
もう一方でまた別の不安があった。それは彼女から感じる危うさであった。
己の身の危険を感じるのとは(その危険も少なからず感じていたりするのだが)
違う。彼女にはどこか安定さが欠けているように思えてならないのだ。
アインにも鋭利すぎる刃物の様な危うさを持っていたが、紗霧から感じる
危うさはそれを明らかに上回っている気が魔窟堂にはした。
「我等の仲間となる前に、何があったかは知らぬが疲れておるんじゃな…」
彼女はさっきと変わらない様子で寝息をたてている。
「こうしてはおれん。恭也殿に薬を渡さなくてはな」
(恭也殿の怪我、知佳殿の心、紗霧殿から湧き出る不安。いずれも解決するのは
大変じゃが、互いに欠点を補うのが仲間。ワシは…諦めんぞ!)
魔窟堂は自分に言い聞かせるように心中で呟くと、薬を取りに行った。





それは―――悪夢

夜。この島にある竜神社で、やせた醜い男に黒髪の少女が、凌辱されている。
(・・・・・・・・・・・・・・・)
紗霧はぼんやりとしながらもその光景を、無表情で見つめていた。
(ここは病院で…昼ではないですね。・・・・・・・・・。
私がどの場所に立ってるかも定かでないですから。多分…夢でしょうね…)
黒髪の少女が苦痛のうめきをもらす。男が逆に歓喜の声をあげた。
(予想はしないでも無かったですが、やっぱりロクでもない夢でしたね)
紗霧は冷めた目で、目の前の光景を見続ける。
数分後、少女の股間部分にはかなりの血が流れていた。
破瓜の血とは異なる出血量。無理やりねじりこんだための怪我だった。
歯を食いしばって耐えていた少女はその時初めて絶叫した。
(何、無様に叫んでるんですか?)
男はそれに構わず、行為に没頭する。少女の叫びは続く。
(・・・・・・・・・・・・・・・。血。そうでしたね…あの時が来るまで…
私は、まだ経験が無かったんでしたね……)
紗霧は、昨日の晩に、伊頭遺作に凌辱された自分を見つめながら、
表情は相変わらず変えないまま、ただ…ただ深いため息をついたのだった。

ぼんやりとした思考の中、紗霧は昨日の光景だけではなく、この島に来る前の
風景も見かけるようになっていた。
(走馬灯みたいですね……縁起でもない…。いつ目が覚めるかわかりませんし、
気が進みませんが…見てみるのも一興でしょう…)

3歳くらいの女の子が、初老の男性に話し掛けられている。
女の子はしばし呆然とした顔から、やがて泣き顔に変わって走り去っていった。
困ったような、申し訳無さそうな顔で見送る初老の男。
女の子はそれ以後、人前ではほとんど泣かなくなった。
(3歳の頃でしたっけ、私に家族がいないと知ったのは……)
月夜御名紗霧。世間一般に大富豪と呼ばれる家の令嬢として生を受けた。
両親は物心つく前に亡くなっている。両親の愛の代わりに、
彼女は莫大な財産を望まずして手に入れた。

初老の男性が路上で横たわっている、息はしてない。
それをあっけに取られた顔で、女の子は見ている。
女の子は疑問に思った。自分を可愛がってくれた執事。『飲酒運転』で
命を落とすとは思えない。何かがある。
女の子は執事が亡くなった悲しみと、理不尽な事に対する怒り。
彼女は本当の事を突き止めようとした。
(この頃からですね、私が周りとは違うというのに気づいたのは)

真実は――女の子が思っていた事実ではなかった。飲酒運転に見せかけた
殺人。犯人は親族。あの執事も本当は財産を狙っていたかもしれない事。
犯人は警察に捕まった。やがて女の子は気づく、周りは財産と自分の命を
狙う輩でいっぱいだったということに。それ以後、女の子――紗霧は
自分と居場所を守るために全力で戦うことに決めた。


幼い頃の紗霧は、身体こそやや弱かったものの、その頭脳は図抜けていた。
5歳の頃には並みの大人を超える知識と、応用力を持っていた。
紗霧はその力で戦った。最初は親族等の嫌がらせで、何度も泣いた。
だが、その持ち前の知恵で敵を排除していく。紗霧はありとあらゆる謀略で
敵を陥れ、破滅させ、間接的に始末したりもした。
だが、その一方で次第に紗霧は、謀略そのものを楽しみ始めた。

小学校に上がる頃には、紗霧の敵の大半は姿を消していた。
(………あの頃の私の拠り所は、漫画や小説でしたね…)
紗霧は架空、実在を問わず、英雄に憧れていた。
身体が余り強くなく、外出も不用意にできない環境で、本が一番の娯楽だった。
敵に対抗するための知識にはなりえないが、友達が作れなかった紗霧には
本の中の登場人物が架空、又は過去のものとわかっていても、羨ましかった。
自分で話を書いてみたかったが、その余裕は紗霧にはなく。
やがて諦めたのだった。

小学生になっても、紗霧を取り巻く環境は変わらなかった。
同級生からもほとんど話し掛けられなかったし、
彼女も話し掛けることはなかった。
紗霧の小学校時代も幼年期同様に終ったといってもいい。
それでも、得たものはあった。占星術。
きっかけは紗霧が夜空を見上げた時、ある星を見て何かを悟ったからだった。
彼女は占星術を研究し、時世の流れ、人の動き、大体の未来を
予測する力を手に入れた。


中学生になった頃には、彼女の敵もほとんどが姿を消していた。

ある日、紗霧は学校の帰りに道端で捨てられている
怪我した黒い子猫を見つけた。
子猫を見つめる紗霧。彼女は心配した。早く家に連れ帰り手当てを
してやりたかった。可愛がりたかった。家に連れ帰って飼いたかった。
だが、一方で弱みを作ってしまう、自分では育てる事ができないと葛藤し、
結局、その場を立ち去った。無表情のままで。
次の日、その子猫はいなくなっていた。その日の事は今でも覚えている。

彼女はある日、もうひとつの現実を認識する、日本全国の学校が
不良によって蹂躙され、乱世ともいえる現状を。
彼女は決意する。諸校を統一して、戦乱ともいえる現状に終止符を討とうと。
彼女のいる世界には、この世界のみの星が存在する。
その星々はこの世界に住む人間に対応し、その能力と運命を暗示する。
紗霧の宿星は闘姫星。覇王の介添人の意味合いがあり、頭脳面でサポートする
役割。彼女は覇王星の宿星を探しはしたが、まだ時期ではなかったため。
見つけることはできなかった。

数年後、彼女は富嶽学園に進学した。そこで彼女は富嶽学園を
支配するワープ番長・猪野健と出会う。彼女はまず学園を安定させるために、
反乱分子を排除した。猪野を騙して、自分の都合の言いように学校を
作り変えていったのだ。
それは、自分が将来使える君主のためとはいえ、やってることは
昔のままの彼女の手口そのままだった。


やがて彼女は出会う。覇王星の宿星を持つ、後に鋼鉄番長と呼ばれる
丈夫鋼という男に。紗霧は彼に一目ぼれした。初恋だった。
彼と出会って、猪乃の下から出奔してからの彼女の人生は、
何もかもが新鮮だった。鋼が猪乃に倒されたときには、猪乃の師匠である
四次元流格闘術の使い手である、墨土羅ェ門の存在を嗅ぎつけ、彼に紹介した。
紗霧自身も持てる知恵を振り絞り、彼女なりに鋼をバックアップし、
見事に猪乃を撃破し、見事永久追放した。
これによって富嶽学園を支配下に置いて、全校制覇の基盤は固まった。
時が流れ、戦いに勝っていくにつれ心強い仲間ができた。
友達らしい友達がいなかった彼女。鋼以外の仲間も、紗霧にとってかけがえの
無い存在となっていった。
やがて全校を制覇。紗霧は夢をかなえたのだった。
ただ、一つを除いて。
紗霧の初恋。それはかなう事は無かった。
彼女の仲間で女友達の1人が、鋼のハートを射止めたからだ。
もう1人の年下の女友達と共に、何らかの条約を結んだが、
結局徒労に終わり。結局、紗霧は諦めた。
それでも、紗霧は彼女を始末しようとはしなかったし、
そのままでも充分幸福だった。
(あの日……春の晴れた日曜日。私の入れたオリジナルティーブレンド。
あの人達は美味しそうに飲んでくれた)
190センチを少し超えた黒髪の男。二メートルを超えた、類人猿を
髣髴とさせる大男とその妹である小柄な少女。
髪の毛の色以外はほとんど同じ容姿をした、性格正反対な自分と同年代の
双子の少女。そして、鋼の恋人となった、赤毛の長身の女性。
いずれも楽しそうに談笑している。戦いが全て終わっても、変わらぬ友情。
その光景の紗霧は少し嬉しそうにお茶を入れていた。



(3年に進級してから数週間後、いつもの書類点検の後、眠気に襲われ。
気づいた時にはこの島にいたんですね…)

鐘の音が響く。目覚める40人の男女。拍手と共に現れた5人の男女。
彼等は殺人ゲームを強要した。紗霧は表面上、平然としていたが、
内心では戸惑っていた。そんな中、1人の男が立ち上がり、
主催者の男に立ち向かっていった。想像を絶する死闘。
ほとんどの参加者はそれに圧倒されていた。
紗霧も例外ではなく、むしろ虎のマスクの男――タイガージョーに、
ある種の期待を抱いていた。
私達をここから助け出してくれる存在。鋼以上の力量を感じていたから
こその期待だった。しかし、その期待はタイガージョーが
殺害されて打ち砕かれてしまった。

(確かこの位の時間で猪乃がいるのを突き止めたんでしたね)
紗霧は猪乃の存在に気づき、髪を束ねているリボンを頭に巻いて、
ごまかしていた。
普通、少しでも勘のいい人間なら容易に気づくだろうが、猪乃は紗霧に
気づく様子は全く無い。やがて彼女は、自分の番号が呼ばれると、
デイバックを拾い上げて、足早にこの場を去っていった。


紗霧は学校を出て、急いで人目のつかない場所へと移動した。
彼女は荒い息を吐きながら、今後の事を考える。
あの主催者の男は恐るべき力を持っている。他の参加者の中で彼等の
戦いで圧倒されなかった者はいなかった。他の4人も未知数。
他の参加者と組んでも、勝機はないかもしれない。紗霧は空を見上げる。
空には星々が光っているが、星の配置からこれからの事が読み取れない。
他の参加者の事を考える。猪乃や勝沼は例外として、他の参加者の中で
鋼やタイガージョー以上の強さを持ってそうな者はいなかった。
(あの時の…私は怖がっていたのかもしれない……ですね)
自分の髪をいじり続ける紗霧。やがて彼女は意を決したように決めた。
(配布武器が当たりだった場合はゲームに乗る。はずれだった場合は
参加者と手を組み、勝ち目の無い戦いに身を投じる、と決めたんでしたね…)
結果、彼女の配布品は大当たりの対人レーダーだった。
紗霧は自嘲するような笑みを浮かべる。そして、頭を数回振ると、
廃村へと向かった。
すでに彼女の頭には対人レーダーを駆使していかに生き延びるかを
シミュレートしていた。そして、これからいかに参加者を罠にはめ、
いかに陥れるかを考える。ゲームに勝ち残った後、主催者達に取り入り、
いかに内部崩壊させるかも考えている。
すでに鋼たちと共に談笑していた少女の姿はなかった。
彼女は笑っている。どこか酷薄さを感じさせる笑みを浮かべて。


昨日の午後11時以降、数多くの罠を突破してあの男はやってきた。
あの男に襲われた時、紗霧は一つ年下の友人の言葉をおぼろげながら
思い出していた。
『奇計・姦計は失敗した時の代償が大きいよ!』
(確か、前にも同じようなこと言ってましたね…)
紗霧はやって見なければわからないような、策を好む。
あえて、罠だけでゲーム勝ち残りを企んだのも、
その嗜好によるところが大きい。
(命が助かったんです。大した代償ではありません)
彼女は策に失敗しても、すぐさま別の策を用意できる頭脳を持っている。
(痛い………!)
夢の中なのに、股が痛む。過去に鋼に言った悪態も思い出してしまう。
『病気になっちゃえ』
(・・・・・・・・・・・・・・・・・)
凌辱されてる自分の叫びとあえぎ声がこだまし始める。
(痛い……)
紗霧は夢の中でうずくまり、『声』から逃げだすように耳を必死に塞ぎ続けた。





(二日目 PM2:17 病院)

「……現実ですか…」
紗霧は目を覚ました。
いつのまにかうつ伏せで寝てしまった事に気づく。
「・・・・・・・・・・・」
紗霧は仰向けになると、これからの事を考え始める。
(主催者の情報が少なすぎますね。テレパシーでも使える方が残っていれば
良いのですが)
「………っ」
猛烈な眠気がまた襲ってくる。眠気の中で彼女は痛みに顔をしかめる。
(………痛いです)
紗霧の股の部分は、遺作の凌辱によって腫れていた。
(数時間前、病院でバスルームで洗ったのにまだ、痛むんですね…)
紗霧はシーツの中に顔をうずめる。
「……トイレに行きづらいですね…」と、少し悲しそうに呟く。
「鋼さん…」
(何故思い出してしまうんでしょう……私はまだ……)
紗霧は泣きそうになるのをこらえる。
「…私は絶対にみんなの所に帰ります。私の願いをかなえて…」
そう呟くと、紗霧は再び眠りに落ちたのだった。




(二日目 PM2:20 病院)

魔窟堂はこの島で出会い、死別していった友人の事を考える。
――――エーリヒ。彼が最初に遭遇し、共に行動した軍人。
憧れの対象だったが、いつしか友情を感じ始めていた。
彼のライターは島から脱出した時に貰う予定だったが、
預かっていた者も死んでいったため、今、彼の手元にあった。
若い命の為に命を賭ける。そう決意したのに、自分はまだ生き残っている。
しかも、首輪解除装置の事を忘れ、グレン・コリンズを見殺しにしてしまった
かもしれない罪悪感も魔窟堂を苦しめていた。
「すまん…グレン殿…」
実際の所は紗霧が竜神社探索を言い出さなかったら、
見つける可能性はあったのだが、もう過ぎてしまった事である。
「そろそろ行かねばならんの……」
魔窟堂は恭也に痛み止めの薬を投薬するため、
恭也のいる病室へ向かったのだった。



【月夜御名紗霧】
【所持品:バッテリー切れ寸前の対人レーダー、
COLT.45 M1911A1 ccd 残弾2発(拾った)
薬品数種、メス二本、他爆装置の指輪二個
金属バットと文房具とノート(雑貨屋で入手)他の所持品あり】
【現在地:病院内】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【備考:各地で得た道具を複数所持、疲労により現在、睡眠中】


【魔窟堂野武彦】
【現在地:病院】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【備考:病院内には斧、小麦粉、白チョーク一箱有り】




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