076 Last regrets

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(1日目 10:42)

 廃村西側のとある古びた民家の台所。
 そこでは、和服に割烹着姿の女性と丸々と肥えた男が食事をしていた。

「ボクはね…モグモグ…この島で目覚めてからずっと共に戦ってくれる仲間を探していたんだ。
 でもね…ガツガツ…出会った人間はみんなボクの仲間たり得ない者たちばかりで、パクパク…正直
 困っていたんだ。…ゴクゴク…キミのような理解者が現れてくれてとても嬉しいよ」

 ワープ番長こと猪乃健(No.37)は、クレア・バートン(No.33)が料理したパンやハムエッグを食
べたり牛乳を飲んだりしながら、彼女に今までの経緯を説明していた。
 猪乃は口に入れた物を食べきらないで喋っているので、ポロポロとパン屑などが落ちているのだが、
彼は全く意に介さないでいた。

(下品な男。テーブルマナーが全くなっていない。それに恐ろしいほど単純。
 見ているだけで不快になるわ)
 クレアは苦虫を噛み潰したような表情になりそうなのを堪える。
(でも、この男が毒薬入りのスープを飲むまでは我慢しないと)

「それにしてもキミの料理は美味しいね。美人で料理の上手な人に会えてよかったよ。
 なにしろ目覚めてから何も食べていなかったからね」
「そんな、褒められるほどの物ではありませんわ。
 (見え透いたお世辞はいいから、さっさとスープを飲みなさい)」
「……あれ? そういえば君は食べないのかい?」
「ええ、私はメイドですので、後でいただくことにします。お客様をもてなすのが仕事ですから。
 ……今は御主人様がいらっしゃいませんが(フォスター…私は必ず生き残るから待っていて…)」
「ほう、そうだったのか。良かったらボクがキミの御主人様になろうか?」
 そう言って、猪乃は欲望丸出しの目つきでクレアを見る。
「ふふっ、考えておきますね。
 (誰があなたのような男のメイドになるもんですか。私の主人はフォスターだけよ)」
 思いとは裏腹の言葉がクレアの口から紡ぎ出される。猪乃を油断させスープを飲ませる為だけに。


「おっと、そういえば、このスープをまだ飲んでいなかったね。
 もともとスープを飲まないかと誘われたのに、つい他の料理を先に食べてしまったよ。申し訳ない」
 そう言いながら、猪乃はコンソメスープの注がれたカップを手に取り口をつけ……食べた。
「いえ、お好きな順番で食べていただいてかまいませんわ
 (飲んだわね。説明書によると即効性の強い毒薬らしいけど、効果は…)」
「うん。じっくりと煮込まれた野菜ごブッ、ゲホッ、ゴホッ、ガホッ…」
 猪乃は味の感想を言う途中で咳き込み始め、カップを取り落としテーブルに頭を強く打ちつけた。

(バッ、バカなっ。これは毒? そんな、やっと選ばれし仲間に会えたと思ったのに……
 この女もエネミ―だったのか!? クソッ、軽々しく信用するんじゃなかった!)

 激しい後悔とともに、猪乃の意識は闇に落ちていった。
 しばらくの間は体を痙攣させていたが、数分後には痙攣も止まりピクリとも動かなくなった。

「……成功ね。念のため多めに使ったけど、その必要はなかったかもしれないわね」
 そう一人ごちると、クレアは自分の姿を改めて見る。
(血まみれのエプロンドレスでは怪しまれるだろうと思って、目に付いたこんな物に着替えたけど……
 慣れない物を着るものじゃないわね。落ち着かないわ。普通の服に着替えて来よう)

 クレアはテーブルに突っ伏した猪乃の死体を放置したまま、2階へと上っていった。


【37 猪乃健:死亡】

―――――――――残り 30



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