187 鬼畜王ランス
187 鬼畜王ランス
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「そーら喰らえッ、もういっちょ、ラーーーーーーンス、アタァァァァァァァァクッッ!!」
燃えるカモちゃん砲を背後にしたグレンの白い視線にも動ずることなく、
ふたたびランスは猛然と必殺のランス・アタックを仕掛ける。
が、グレン・コリンズは妖しくも素早い動きで間一髪身をかわす。
「チッ、すばしこい奴だ。次ははずさん」
「次ははずさん、ではない。オイ、貴様ッ、よく見ろ。今は仲間割れをしている場合ではない!」
剣を構えなおすランスに怒鳴る。
「ガハハハハ、俺様は誰の指図も受けん・・・・・・・・・・・・ん?」
「・・・やっと気づいたか」
不意に動きを止めたランスの視線の先には突然の闖入者といさかいに毒気を抜かれたような芹沢がいる。
「おい、女」
「ん、あたし?」
それまで突然始まった寸劇にやや呆気にとられていた芹沢が、自分を指差す。
「そう、お前だ」
「何?」
「俺様はランス。見てのとおりの美形で天才、そのうえ最強なナイスガイだ」
「ン・・・、それで?」
「お前のそのでかい乳を見ていたら、こんなになってしまった。責任をとれ」
とランスは服の上からでもそれとわかる、盛り上がった股間を指差した。
「責任?」
「だから、お前のそのおっぱいで俺様のハイパー兵器をはさんでだなぁ・・・」
「あ、な〜るほど、そういうことかぁ!」
合点がいったのか、芹沢はぽんと手を叩いく。
「そうだ、お前のせいでこうなったのだから、お前には何とかする義務がある」
「そっか、あたしのせいなんだ。だったら何とかしなくちゃだね〜」
「そうだ、お前のせいだ。ガハハハハ」
「そっかぁ〜。あたしのせいなんだ〜。あはははは」
二人は楽しそうに笑って、笑って、笑いつづけた。
と、ランスの笑いがぴたりと止まった。
「オイ・・・、早くしろ!俺様のハイパー兵器はもう大変なことになっているぞ?」
ランスは苛立ちを隠そうともしない。
「ん〜、何とかしたいのは山々なんだけど、この人がねぇ〜」と、芹沢はじと目でグレンを見る。
「フッ、何を馬鹿な!ランス、この女は敵だ。さっさと追い払いたまえ」
「関係ない」
「そうだ、関係ない・・・・・・って、何だと?」
「俺様には関係ない、身内の男より敵の女だ」
俺は男だ、というのと同じくらいの確信をもって、ランスは言い切った。
その表情には迷いのようなものは一切ない。グレンに向けられた切っ先も、さっきまでのような遊びがない。
「なっ・・・・・・、貴様正気か?」
答える代わりにランスの口元がにやりと笑い、チャキッという音がして剣が握りなおされる。
「ガハハハハ、俺様のために死ねぇ!」
叫ぶと、ランスはグレンに飛び掛った。
ブンッ! ビュンッ! ヒュッヒュッ! ブンッ!! シュッ!
ランスの太刀筋は一見無茶苦茶なようでいて、的確に急所めがけて降りぬかれている。
「安心しろ、一撃で楽にしてやる」
「うわっと、貴様ッ、どうやらっ、・・・うォ・・・、本気っ、らしいな」
「俺様はいつでも本気だ」
「・・・やるぞ?」
連続して繰り出された斬撃をすんでのところでかわしきり、
少し距離をとって対峙するグレンの声のトーンが変わった。それは先ほどまでのお茶らけた調子ではない。
彼の手と思しき触手の先には、首輪の解除装置が握られている。
「覚えているかね、ランス?これは君の首輪を爆破することも出来る。
私には君が切りかかるよりも早く、君を殺すことが出来る。
勝ち目はない。無駄なことはやめたまえ」
「フン、その前にお前を殺してそいつを奪う。天才である俺様には簡単なことだ」
一旦動きを止めたランスだったが、ふたたび構えを取る。
「出来るかな?」
グレンの問いに、もうランスは答えなかった。
ふたたび全身にまがまがしい殺気を漲らせて、
狩りをする獅子のように飛びかかるタイミングをうかがっている。
「がんばれ〜」
芹沢の間の抜けた茶々が入った瞬間!
二人の視線が鋭く突き刺すように交わる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
地を蹴り、突きかかるランス。
応えるようにグレンは謹製の首輪解除装置「グレン・ジェイルクラッシャーG4」をランスに向ける。
ランスはためらいなく真っ直ぐに走りこんでくる。その剣先がギラリと光る。
「チィィィィッ、この愚か者め!!」
グレンは苦々しげに舌打ちすると、ランスの首下に向けて装置のボタンを押し込んだ。
と、そのとき、グレンの視界からふっとランスが消えた。
「バカめ!俺様がそんなものにやられるか。もらったぁ!!」
声はグレンの頭上から聞こえてきた。切っ先は真っ直ぐにグレンの頭に向けられている。
「馬鹿は、貴様だ!!」
言うが早いか、グレン・コリンズはまるで予測していたかのような動きでランスの斬撃をかわすと、
一散に先ほどまで解除装置を向けていたほうに走り出した。
「このわたしが何も考えずに貴様にGJG4をむけたとでも思っているのか?
フッ、違うな。天才の行為の先には常にッ、複数の目的と無限の意味とがあることを、知るがいい!!」
先ほどまでランスが立ちふさがっていた方向に走りこんだグレンが叫ぶ。
「フフフフフ、わからないといった顔をしているな、わたしの後ろには何が見えるかね?
そう、大戦中に帝国が作った88o砲だ。君のせいで少し焦げてしまったがね、まぁ、使い道はあるさ。
そしてぇ、見るがいいッ、
この現人神グレン・コリンズ・マキシマムver2.0誕生のまさにその瞬間をッッ!!」
誇大妄想のキ○ガイすれすれの尊大で舌を噛み切らんばかりのものすごい勢いでそう叫ぶと、
グレンの触手がクルクルと巻きつくように対空砲にからみつき、本当に取り込み始めた。
「人の作り出したものは、すべからく人に還らねばならん。すなわち、機械との融合!
見ろ、ランスゥ、わたしは今、ここで、このときに、人間をぉ、人間を超えるぞぉぉぉ!!
むぁぁさにっ、グレンッ・クォリンズゥ・ムァァァァキシマムゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
ひときわ大きな声で叫ぶと、かっと目を見開いた。
「後世の神学者連はわたしのことを、
神グレン・コリンズもしくはグレン・コリンズ・ザ・オーバーヒューマンと呼ぶことであろう」
先ほどまでとは対照的な、溢れんばかりの自信が見え隠れする静かな口調。
体つきも先ほどより二周り以上大きくなり、高みからランスの頭を見下ろしている。
いまや88o砲との融合を果たした彼の足元をのたうつよう触手はしなやかでありながら、
瘤のような塊があるその表面は金属を思わせる鈍い光沢に包まれていた。
可塑性の強い金属のような肉体を手に入れた彼は、
さらに異様なことに額から溶けかけの砲身がにょっきりと突き出させていた。
「どうかね、ランス君。生まれ変わったグレン・コリンズの美しい肉体は?」
「フン、銀色になったところで貴様ごときが俺様に勝てるわけがなかろう、身のほどを知れ!」
ランスは相変わらず強気の姿勢を崩さず、一笑に付した。
「試してみるかね、と言いたいところだが・・・わたしの敵は君ではない」
彼がぐりんと首をひねると、砲身も一緒にぐりんと動く。
ぴしりと金属質な触手が大地を叩き、鎌首をもたげるようにすっと持ち上がる。
「わたしの敵は・・・君だぁ!!」
猛烈な勢いで繰り出された触手の先には芹沢が立っている。
節くれだった金属触手が彼女の頬のすぐ傍を通って、背後の木に当たった。
彼女のブロンドが風圧に揺れ、木は弾けるように砕け散った。
「今のはわざと外した。そして次は外さない・・・。
やるとなったからには容赦はしない。
君には悪いが、死んでもらうぞ。わたしにはまだやることがあるのでな!」
「ッ!」
芹沢は咄嗟に懐から取り出した鉄扇を広げると第一撃を防ぐ。
鈍い激突音がして、衝撃に芹沢の体がわずかに持ち上がる。
「なんって、パワー・・・」
何とか触手をそらして着地すると、圧倒的なパワーに思わず顔をしかめた。
「そらそらぁ、触手は一本だけではないんだぞ?」
ひしゃげた扇を投げつけて、腰に刺していた日本刀を抜き放ち、ふたたびグレンに対する。
「言ったでしょ、あたしだって、まだ死ねない!」
「フハ、フハハハハァ、ムダムダムダァァ!!」
グレンは軽い金属音を立てて扇を払いとばすと、今度は数本の触手を一時に芹沢に向かわせる。
「こんな所でぇっ!!」
「さぁて、どこまで防ぎきれるかな?」
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!」
芹沢は裂帛の気合とともに刃を振るい、波状に攻め寄る触手を次々とはじき散らす。
右に、左に叩き落された触手は土中に深々とめり込んで自由になる触手の数がどんどん減っていく。
「ウヌゥ!」思わぬ劣勢にグレンはうめき声を上げる。
「ヤァァァァッ!」
はじき落とし、めり込んだ触手の一本にひらりと飛び乗ると、
芹沢は一気にその根本、グレン・コリンズの本体へと走り出す。
「チィ!」
舌打ちをして、触手を引き抜くとその勢いで芹沢を払いのけようとする。
が、わずかに早く芹沢は不安定にうねる金属の表面を強く蹴りつけて、宙に飛んだ。
日本刀はすでに大上段に振りかぶられている。刃は輝き、だんだら模様が風にはためく。
「覚悟ォッ!」
ズンッ!!
「なっ!!」
驚きの声をあげた芹沢の顔から一気に血の気が引く。
彼女の二の腕から先が、すっぱりと消えていた。
「フフフフフ、驚いたかね?」
地面に突き刺さった刀を握る自分の腕先を見つめる芹沢にかまわず、グレンは話を続ける。
「驚いただろう?フフフ、触手には関節がない。だからこそ、このような動きも可能なのだ
まぁ、ブーメランと同じような軌道で君の腕を落としたわけだ、わかるかね?」
倒れた芹沢の目の前に、今しがた彼女の腕を背後から切り落とした鮮血したたる触手をちらつかせた。
グレンは愉快そうに喉を鳴らすと彼女の足首に巻きつかせて宙吊りにした。
触手を妖しく光らせてる暗い色をした血は
彼女の白い太ももを伝ってまくれ返っただんだら模様を染め、
左袖のだんだら模様は切断された左腕から流れ落ちる血で朱に染めていく。
「残念だったな?ただ、神である私のほうが1枚上手だっただけのこと、気に病むことはない。
なに、苦しまぬよう楽にしてやる。安らかに眠りたまえ」
勝ち誇った笑みを浮かべるグレン・コリンズ。
「残念だったね〜」
腕からおびただしい量の血をたらしながら、なおも芹沢は不敵に笑う。
青ざめた顔のに反して、強く輝くその目はどこか遠くを、グレンの後ろを見ていた。
「何か面白いものでも見えるのかね?」とあざけるグレンに、
芹沢は「あんたの未来が」と答えて、なおも楽しそうに目を細めた。
「フン」とグレンが振り返ろうとしたとき、
「ガハハハハ、隙だらけだぞ、グレン」聞き覚えのある声がした。
「なっ、貴様はっ!」既視感に軽いめまいを覚えながら、グレンは叫んだ。
「ラーーーーーーーーーンス、アタァァァァァァァァァァクッ!!」
叫びながら、ランスが飛び込んできた。
グレンは慌てて触手で防御しようとするが、
振り下ろされた剣は金属と化した触手すらやすやすと切り落としながら
グレンの脳天めがけて降ってくる。
「ぬぅぅぅっ!」
グレンは何とか首を動かし刃を避ける。
が、代わりに袈裟斬りに致命となる一撃を刻みつけられた。
「ランスゥっ、君という奴は・・・まったく、度し難いなっ!!」
グレンは憎悪に燃える目でランスを一瞥すると、残っている触手すべてでランスを襲わせる。
ランスは剣をおろすと、その必要もないとばかりに何の構えもなくそこに棒立ちになった。
つかみかかろうとする触手は目に見えてスピードダウンしており、
ランスに到達するはるか手前で一瞬強く収縮し、弛緩して、そして力なく地に垂れた。
同時に、吊り下げられていた芹沢も地べたに落ちる。
「ガハハハハ、言っただろうが、銀色になったくらいで俺様には勝てんと」
倒れたグレンの触手を踏みつけながら、ランスは胸をそらして大笑いした。
芹沢は血痕だけを点々と残していつの間にか姿を消していた。
「待ちたまえっ!」
グレンは倒れた自分に止めを刺すのももどかしげに芹沢を追おうとするランスを呼び止めた。
「あぁん?」
「待ちたまえ、ランス・・・君。ひとつ・・・君に面白い話をしてあげようじゃないか」
生気のない目をしたグレンの弱々しい声の中に混じる真剣みを感じたのか、
ランスは追う足を止め、めんどくさそうに振り返った。
「ある女の話だ」
「ほぅ?」
少し興が乗ったのか聞き返すランスに、グレンはすばやく解除装置を押しあてると、
ゴトリという音とともに首輪が落ちた。
「これは何の真似だ?」
ランスは転がった首輪を見ながら怪訝な、本当に何がなんだかわからないといった顔をした。
「遺言だよ」
「・・・女の話ではなかったのか?」
「フッ、そうだったな。何を隠そう、
その女に頼まれたからこそわたしはこの装置を作りもしたし、
ここで貴様の剣に倒れることになったのだ。後悔はしていないがね。
彼女は参加者のすべてを救出し、その上で今回のことについて調べるつもりだった。
・・・ここに彼女が残した手帳がある。受け取ってくれたまえ」
グレンは持っていた手帳といっしょに鍵束やスタン・グレネードやらも一緒に手渡す。
「装置の扱い方はユリーシャ君に教えてある。
彼女は少し・・・いや、かなり思い込みの強く、いきすぎたところがあるが、根は素直なよい子だろう。
まぁ、大事にしてやりたまえ」
ランスは眉をしかめ、理解不可能なものを見るような険しい表情で装置を受け取った。
どちらも黙り込んでしまい、しばらく沈黙が続く。
「いい女だったのか?」
「ん?」
静寂を破ったランスの質問を聞き取れなかったのか、グレンはたずね返す。
「その女はいい女だったのかと聞いている」
ランスは押し付けられた解除装置を見たまま視線を動かさずにもう一度たずねた。
「ああ」とグレンは遠い眼をして空を眺め、
少し誇らしげに「とびきりいい女だった」と答えた。
「そうか・・・、話はそれだけか?」
「それだけだ。ありがとう。さ、もう行きたまえ」
ランスは手の中の解除装置と生気のないグレンとを交互に見たあと、
しばらくして立ち上がり、派手な音を立てて枯葉を踏み鳴らし木立の中へと消えた。
その背中を見送ったグレンは、彼の人生と同じくらい長いため息をついた。
「ミス法条・・・、すまないがわたしはもう君との約束は果たせそうにない。
目もだんだんと霞んできたし、な。あとのことは、あるいはあの男が・・・・・・
フ、まぁ、あまり期待はしないで待っていてくれたまえ。もっとも・・・」
彼の目には気持ちのよい青空と流れていく白い雲が映っている。
「わたしもすぐに・・・そこで君と待つことになりそうだが・・・ね」
【26 グレン・コリンズ:死亡 】
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