213 誇りと力

213 誇りと力


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魔人が最強と呼ばれる所以は、二つある。
一つは、魔人が誇る絶対無敵の防御加護……
自らを傷つけると言う意思の介した行動では、絶対にダメージを受けぬと言う特性。
魔王と血の契約を交わせしものの恩恵。
だが、現在のケイブリスは、魔王の影響下にあらず
その能力は、発動していない。

もう一つ、魔人と他の生物とでは、格段に違う能力差。
圧倒的な限界才能値の高さからくる力。
魔人化した時に、与えられるもう一つの恩恵。
限界才能値と身体能力の圧倒的飛躍。
普通の人間では、一般的な冒険者でも30Lvがやっとのこさ。
大陸屈指と呼ばれる兵でも50Lv程が限界である。
だが、魔人は、低いものでも軽く100Lvは、限界を超えている。
そして、その不老不死と言う長い時の中で
限界値ギリギリまで鍛え上げられた強さ。
ケイブリスに到っては、4000年以上を生きてきただけあり
Lvは、ゆうに200を超えている。
だが、それなら、ランスも負けてはいない。
才能限界値無限と言うイレギュラーであり
更に、Lvにかかる経験値が通常より少ない。
やればやるほど強くなる。
戦えば戦うほど強くなる。
ランスの才能は、まさに無限である。
そのLvは、幾つもの魔人を撃破してきた今、100近い。



(第二日目 PM2:40)

「ウォォォォォォォォォッッッッッ!!!!」
ケイブリスのすさまじい咆哮と共に彼の有する六本の腕がまたたくまにランスへと襲い掛かる。
「ちぃっ!!」
ランスの後ろにあった木が根元から折れ、後方へと飛んでいく。

追撃は、それだけでは、止まない。
すかさず、右方へ飛び避けたランスに
左手三本をそのまま木をなぎ払うようにして伸ばす。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
避けれないと悟ったランスは、剣の刃の部分を横にし
ケイブリスの腕を上から力任せに叩き落す。

「むぅん!!」
そのまま、空いた右手の一つで、地面へと着地し態勢を整えようとするランスへと炎の玉を投げつける。
「ラァァァァンスアタァァァァァァック!!」
ランスが剣を振るうと風が巻き起こり、火炎球と相殺される。
ランスアタックには、二種類ある。
直接、剣気を纏い、敵へと叩きつけるタイプ。
此方の方は、威力はでかいが剣にかかる負担も大きく
このバスターソードでは、もって後一発か二発。
そして、もう一つのタイプ。
剣先から発生する真空波によるカマイタチのランスアタック。
今回は、これでケイブリスの火炎を相殺したのだ。

瞬時………
「ふっとびな!!!」
ランスアタックを放ったばかりで、間の空いたランスへ
ケイブリスが、突進を繰り出す。
「ぐあっ!?」
ずどん。
吹き飛ばされ、ランスは、後方の木へと叩きつけられた。

「…………ふん」
だが、ケイブリスは、そのまま追撃しようとしない。
「下手な芝居をするんじゃねぇよ。
解ってんだぜ、俺がぶつかるその瞬間、後ろへ飛んだのはよ」
「っけ、馬鹿だから、騙せると思ったんだけどな」
そう言うと、彼は、のっそりと立ち上がる。
「あいにくだが、タイマンに関してだけは、誰にもひけを取った事がねぇのよ」
すさまじいまでのLvの、常人では、追いつけぬほどの攻防戦。

再び両者の間で冷たい戦いが始まる。
お互いに仕掛けるタイミングを計っているのだ。


「気にいらねぇな………」
魔獣の口からぽつりと漏らされた言葉。
「気にいらねぇよ………… おめぇが攻撃してこないのがこんなに虚しいたぁな……」
「……無駄な攻撃をしろってのか?」
事実、今までの戦闘は、全てランスが受け側に回ってきていた。
先ほどの打ち合いにしろ、仕掛けるのはケイブリスでそれを受け流すのがランス。
それもこれも、なまじケイブリスの事を、
魔人の事を知っていたが為に起きた攻撃への躊躇。
魔人の絶対加護を知ってしまっていたランスにとってそれが仇となった。
もしこれが、ランス以外のものであれば、隙あらば迷わず攻撃へと転化しただろう。
ゆえに幾度となく訪れた攻撃への転機も、逃してきた。
人の体格では、どんなに強くても明らかにスタミナの限界がケイブリスに劣る。
この攻防戦、ランスの方がスタミナの消費は激しい。
更に後ろに飛んだとはいえ、ケイブリスの突進を前から受け止めたのだ。
鎧には、皹があちこちに入り、これ以上、身を守る機能を果たせそうにない。
鎧が守ってくれなかったら、肋骨は確実に折れ、立つ事がやっとであろう。
それでも、胸に響くダメージは、少なくない。

「最初はよ…… 一方的にお前を押せるってのが嬉しかったんだけどよ。
段々と…… 少しずつ、虚しくなっちまってな」
2人の間に再び沈黙が走る。


「やっぱぁ、俺は、おめぇをぶち倒してぇ……
ただ倒すんじゃねぇ…… 完膚なきまでに!!
おめぇは、有利な状況を作る事によって俺に勝った……
なら!! 俺は、それを否定してやる!!
ハンデだとかは、いらねぇ!!」
「っけ、格好つけやがって、なら、どうしてくれるって言うんだ?
カオスか日光さんでもくれるってんのか?」
「そんなものは必要ねぇよ。 
何しろ、今の俺は、無敵じゃないからな。
言葉の通りだ、オメェの攻撃は、全て俺に通用するよ」
「まんざら嘘ってわけでもなさそうだな……」
ケイブリスからひしひしと伝わってくる意思は、まっすぐだった。
「俺が有利だなんてのは、納得いかねぇ。
それじゃ、俺様は、人間相手に有利な状況でなきゃ勝てないなんて烙印がつくじゃねーか……
オメェは、有利な状況で俺に勝った。
なら、俺は、オメェ相手になんざ絶対に勝てるって事を証明してやる!!
俺は、オメエの全てを打ち砕いてやる!!」」
「ふん………… その自信を直ぐに仇にしてやるぜ!!」
「さぁ、第二ラウンド開始といこうじゃねーか!!」





(第二日目 PM3:00)

(間に合ってくれよ!!)
病院から駆け出した魔窟堂は、加速装置を使い
ユリーシャの足跡を辿り、森の中へと入っていった。

ウォォォォォォォォ!!!

遠くから、森全体へと響き渡るようにしてケイブリスの咆哮が響き渡る。

(放送の声に似ている。 おそらく、あれじゃな!!)

一直線に激戦の場へと、老兵は駆けて行った。





(第二日目 PM2:55)

「ぜぇはぁぜぇはぁ…………」
(くっそ、あれからたった10分だってのに、1時間は戦った気がするぜ
やっぱ、最初に体力使いすぎたのがまずかったな)
スタミナの限界がランスを襲う。
あれから、隙あらば、攻勢に転じたもの、やはりスタミナがネックとなった。
「惜しいな…… 最初からハンデがなけりゃ、もっといい勝負できたかもしれねぇのによ」
一方のケイブリスも腕や顔などに幾つかの傷ができている。
だが、どれも決定打になるような傷ではない。
(このナマクラじゃぁ、あいつにダメージ与えるのはきっついぜ。
やっぱり、特大のランスアタックを頭部にお見舞いするしか……
もしくは……)
「へへ…… けど、まだ勝負は終わったわけじゃねーぜ?」
「そうこなくっちゃな…… 最後まで俺を楽しませてくれよ!!」

風が走る。

「ウォォォォォォォォッッッッ!!!!!!」
先に動いたのはケイブリスだった。


静寂の間に溜めた気で。
ケイブリスは、己の必殺技を繰り出す。
気を纏い、そのまま相手へと突撃を繰り出すケイブリスらしい必殺技。
森全体に響く地響きと共にケイブリスは、前方の木を吹き飛ばす。
「手応えがねぇ!? 見切って避けられたか!?」
ランスの姿が見当たらない。
「………ッ!?」
次の瞬間、ケイブリスが吹き飛ばした幹が彼の頭上へと落下してくる。
「見え見えなんだよ!!!」
すぐさま、魔獣は、腕を落下してくる折れた幹へと叩きつけこなごなに粉砕する。
が、そこに手ごたえはなかった。
ほんの一瞬の隙。
「くたばれ!! ラァァァァァァンスアタァァァァァァァック!!!!」
ケイブリスの死角となった背後から
今度は、直接型のランスアタックが襲い掛かった。

ランスは、確かにケイブリスの吹き飛ばした木に乗った。
だが、ケイブリスの行動を予測して、彼が攻撃をしかけるタイミングで
ケイブリスの後方へと飛び移ったのだ。


だが、ケイブリスも負けていない。
ランスアタックが彼の頭部へとぶつかろうとするその時。
すさまじい本能とも言うべき、咄嗟に動いた、左右一対の腕を使って、ランスを吹き飛ばそうとする。

「グハァァァァァァァァ!!!!!」
ケイブリスの左右真中の腕は、ランスアタックを直接受ける事となり、あらぬ方向へと曲がる。

「ぐあぁぁぁ!!!」
対するランスもケイブリスの腕に弾かれたのとランスアタックの衝撃で
後ろの木へと、今度こそ叩きつけられる。

「ぐぅぅぅぅぅ……」
痛みを堪えて、ケイブリスは、自分の体がどうなったかを
そして、ランスがどうなったかを把握する。
「なんて威力だ…… この一撃に全力をかけやがったな……
もうしばらくは、この腕は、使い物になんねぇし、鎧の背中の部分が完全に打ち砕かれてやがる。
っと、あの野郎はと………」
振り向くと、ランスは、木にもたれかかったまま沈み、動こうとしない。
木へとぶつかった際の衝撃で脳震盪を起こしたのだろう。
剣は、衝撃で刀身が完全に打ち砕かれている。
「衝撃で気を失いやがったか…… これで、完全決着って奴だな……
俺の勝ちだ!!」
ケイブリスの残りの四本の腕がランスめがけて一直線へと向かう。

風が舞った。

風の後には、ランスの姿はなく、ケイブリスの腕は、そのまま木を倒す。

「なっ!? バカな、完全に気を失ってたはずだ!! 何処へ行きやがった!?」




(第二日目 PM3:05)

(間一髪ギリギリセーフって所じゃの……)
木の上で、魔窟堂は、ランスを抱えながらケイブリスを見下ろす。
(それにしてもなんっちゅー化け物じゃわい。
それとあの化け物とやりあうこの若者も只者じゃないのう)

「ちっくしょぉ!!!! 何処だぁ!!!」

下では、ケイブリスが辺りの木へと当り散らし始める。

(いかんいかん、このままでは、この木も倒されてしまうわい。
ランス殿の怪我もあるし、とっとと病院へ戻るとするかのう)

再び加速状態へと突入し、魔窟堂は、その場をそうそうに去るのだった。

(気絶してくれていて助かったわ。 意識あったら加速で気が狂うじゃろうからな)



【魔窟堂野武彦】
【現在地:東の森】
【スタンス:運営者殲滅・ランスを連れて病院へ】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング】
【備考:加速装置使用中・ランス抱きかかえ】


【ケイブリス】
【現在地:東の森】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先】
【備考:左右真中の腕骨折・鎧の背中部分大破】

【ランス】
【現在地:東の森】
【スタンス:打倒主催者・女の子を守る】
【備考:気絶中・肋骨2〜3本にヒビ・鎧破損】




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