225 混戦模様
225 混戦模様
前の話へ<< 200話〜249話へ >>次の話へ
下へ 第七回放送までへ
(二日目 PM4:10 東の森・中心部)
―――雑音交じりの通信
「……ザドゥだ。智機、現在の状況はどうなっている?」
『まだ、素敵医師を見つけ出せていないのですか?全く貴方は……』
「フン……病院に向かった参加者四人はどうした?」
『……………』
「どうした?」
『No8 高町恭也、No12
魔窟堂野武彦、No36 月夜御名紗霧、No38 広場まひるの四名
の首輪が、No1 ユリーシャによって解除された』
「何だと、あの女はケイブリスが追っていたのではなかったのか?」
『解除装置奪還の任務を忘れ、No2
ランスとの戦闘に没頭した結果、逃走を許してし
まった』
「……ランスはどうした?」
『いなくなったと奴は言っていた。恐らくは魔窟堂が救出したんだろうな』
「つまり…病院での四人とランス達が合流したという事か。居場所の特定はできるの
か?そして今、ケイブリスはどうしている?」
『捜索中だ。残念ながら現時点での居場所の特定は困難だ。ケイブリスの方はダメー
ジを負っているようなので、本拠地に帰還させている。またバカをやらないといいが
な』
「現在、捕捉が可能な参加者は誰だ?」
『楡の木広場に留まっている、No16 朽木双葉と、貴方の前方約百メートル先を行っ
ているNo 28 しおりの二名だ』
「仁村知佳はまだ捕捉できないのか?」
『ああ……先程、校舎内で確認できたんだが、姿を消した。妙な磁場も健在だ』
「つまり、現時点でゲームに乗った参加者は二人だけということか」
『…………』
「………シークレットポイントは、未だ手つかずのままか?」
『参加者の誰もがその存在に気づいていないだろう。尤も鍵束は入手したようだ
がな』
「うまく利用すれば、どの参加者でも優勝できる可能性を秘めていたのにか。
鍵の配分とポイントの配置を誤ったな」
『……………』
―――シークレットポイント
グレン(No9 既に死亡)の所持品であった、四つの鍵。
鍵を使って開く、又は多大な力で切り開く事によって、見つかる拠点。
現時点での詳細は不明だが、もし、そこにあるものをうまく利用することができれ
ば、その参加者はかなり有利になる。
極端な話だが、そこに在るものの使いようによっては遙や前のしおりのような
非力な人間でも、知佳やアズライトクラスの能力者を差し置いて優勝する事も
可能なのである。
尚、主催者が参加者より先に利用するとスポンサーから、直にペナルティが下され
る。
ザドゥ達、主催者にとっては参加者達が、シークレットポイントを誰も利用していな
いのはむしろ好都合のようにも思える。
だが、自分から手の出せない『それ』が残っている以上、反逆者が『それ』を使って
有利に事を運んでしまうんじゃないかという危惧があった。
『質問はもういいのか?』
「智機よ……」
『何だ?』
「病院にいた参加者達を襲撃したのか?」
『なっ……』
「お前が参加者の首輪解除を、見過ごすとは思えん。前もって、透子に警告させ
た上で行ったのか?」
『……ああ、そうだが、何か不服でも?』
「…我々の願いを叶えるには、ゲーム運営の成功が不可欠だ。あの方は我々が参加者
を全滅させても、願いを叶えてやるとは一言も言っていない。不用意に参加者抹殺に
動くな。下手すればまた返り討ちにあうぞ」
敗北をザドゥに見破られた悔しさを滲ませながら智樹は言った。
『クッ……考えて…おきましょう……』
「質問は以上だ。現地でのナビゲートを頼むぞ」
『…………わかった』
今にも歯軋りしそうな、智機の怒気のこもった返事を最後に通信は切れた。
ザドゥは後を追う。
突然、身を翻して森の奥へ走ったしおりを。
しおりが素敵医師達に攻撃を仕掛けた場合にはそれを止め、自ら素敵医師を始末
するために彼は少女を追ったのだった。
(二日目 PM4:15 東の森・中央部)
赤黒く汚れたワンピースを着た少女が走る。
一刻でも早く望みを叶えるため、内に潜む、別人格さおりの提案を受けて、ザドゥよ
りも先に参加者を抹殺するために。
(もう少しだよ、しおりちゃん)
「うんわかるよ、さおりちゃん。この先に殺さなきゃいけない人たちがいるのが」
少女は一人で会話しながら、希望に満ちた顔で激戦の場へ向かった。
(二日目 PM4:12 楡の木広場付近)
黒髪の少女が森の中を走る。
腰に黒い魔剣を携えて。木の枝にぶら下げてあった薬品で湿った包帯を、手袋を
した手でつまみながら。
(間違いない。奴は必ずこの近くにいる!)
気持ちのはやるアインに突然、カオスが語りかける。
《お嬢ちゃんがさっき儂を手に持った時な》
「手短にお願い」
小さな声でアインは返答する。
《長年、多くの者に使われた儂でさえ、味わった事のない感覚があった》
「どういうこと?」
《どうやら、儂を使ったときのメリットは、お嬢ちゃんの身体能力が上がるだけじゃ
無さそうじゃ》
「デメリットはあるの?」
《多分、デメリットはないじゃろ》
「………」
アインは包帯を捨て、スピードを落としながら森を抜けようとする。
―――突然、アインの前方に人影が現れた
(誰?)
アインは足を止め、何時でも肩に下げているショットガンを撃てる準備をし、
木に身を隠しながら慎重に前に進んだ。
近づくにつれて、人影もはっきりしてきた。
「?」
其処にいる者を見て、アインは少し戸惑った顔をする。
―――どこかで見た容貌。
見たのはごく最近の事。なのに、思い出せなかったのは、『あの時』と違って今は
小奇麗な格好をしているからだろう。
『あの時』の『彼』は血に濡れていたから。
アインは『彼』の顔を見ずに『彼』を殺したのだから。
(まさか…あの少年……)
まだ確信はしていない。
だが、その姿は誰かという答は口から出た。
(星川……翼…?)
アインの姿を認めた少年は、彼女の方を向き、無表情のまま彼女を見つめていた。
【主催者:ザドゥ】 【現在位置:楡の木広場付近】
【所持武器:己の拳】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉】
【備考:右手に中度の火傷あり】
【しおり(No28)】【現在位置:楡の木広場付近】
【所持武器:日本刀】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害、さおり人格・隙あらば無差別に殺害】
【備考:凶化・身体能力上昇。発火能力使用
弱いながら回復能力あり、首輪を装着中
多重人格=現在はしおり人格が主導】