224 祈り

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(二日目 PM3:40 東の森南西部)

「これは……?」
アインは思わずそう呟いた。
素敵医師の捜索のため、再び東の森を南から入ったアインが見たものは、多くの木が
なぎ倒され、そこいら中に木片が散らばっている場所だった。
(この木の倒され方……銃や作業用の機械を使ったものではないわ)
軽い驚きとともに周囲をアインは観察する。
《少なくとも……人の仕業ではないの》
アインの楽器の収納袋を改造した鞘に収められている魔剣カオスが言う。
破壊された木々は根っこから引きちぎられたものもあれば、巨大な鞭に抉られものも
あり、破壊の種類のバリエーションに富んでいた。いずれにしても人間技には見えな
い。
(奴の仕業でないのだけは確かね。この破壊を実行した目的は見えないけれど…)
《どうするかの……アインお嬢ちゃん》
「……………」
(奴のこれまでの手口からして、この破壊者と関係ある可能性は低いわね)
アインは東の森を北東へ進もうとする。
「これ以上、奴を野放しにはできないわ」
《しかし…これだけのことができるのが、敵だとしたら……一度は仲間と連絡を取っ
てみてはどうなんじゃ?》 
「…………………」
アインは迷った。
カオスの言う事はもっともだ。
現時点での魔窟堂一行の状態が気になるし。
明らかな不審者である紗霧が一緒にいるのも問題だ。



「彼女の跡をつける必要があったかもしれない…」
《その女がスパイの可能性でもあるのかの?》
うなずくアイン。
「……………………」
アインには魔窟堂達の元に戻れない事情があった。
―――広場まひる
今は魔窟堂達と同行している、彼(アインは女性と思っている)の同行者であったタ
カさんに止めを刺したのは、他ならぬアインだからだ。
瀕死のタカさんを担いできた時点で、悲しみにくれていたまひるを想い、取った行動
がそれだった。
まひるに自分自身を憎ませる事で、彼に生きる気力を取り戻させるために。
それが、自分が助からない事を知り、足手まといになるならと、アインの手を借りて
死んだタカさんに報えると思ったからだ。
先にまひると再会すれば、彼に狙われる可能性がある。
そう、アインは考えている。
自分が狙われるのは仕方がない。
その時、自分はどういう行動を取るかは解らないけど覚悟はできている。
だが、それはまだアインにはできないことだった。
「ごめんなさい…わたしはあの男を始末しない限り…あなたには会えないわ」
そこにはいない生者に語りかけ、自分でも滑稽とアインは思ってしまう。
《お嬢ちゃん…これをやった奴と関わらないなら、早く離れた方がええぞ…。
これをやった奴と鉢合わせになるぞ》


「そうね……でも、その前に…」
アインは両手を組み、空を見上げた。
跪いてこそないが、その姿は神に祈りを捧げる信徒に見える。
《お嬢ちゃん、祈りか》
少し虚をつかれた様な口調でカオスは問う。
アインはあいずちをうった。
アインはこの島に来る前、ほんの少しの間だけ学校に通っていた。
キリスト教に基づく教育理念を持つ学校で、その宗教哲学に興味があった。
(祈りなんてものじゃなく……わたしのただの自分勝手な願望なのかもしれないけれ
ど……)
それはまとまりのない思考の羅列に過ぎなかったのかもしれない。
それでもアインは目を閉じて、

―――魔窟堂やまひるの無事と、死んでいった仲間達の安息を祈った。

それが、単独行動を取っているアインにできる数少ない行為だった。
《お嬢ちゃん、神官じゃったのか?》
「そういうわけじゃないわ……ただ…」
《ただ?》
「そうしたかったの」
アインは目を開けて、比較的明るい口調でそう言った。

アインは前を見据え、ケイブリスが腹いせに破壊した木々が散らばった場所を
離れる。
結構、重い荷物を背負っているのに、重さを感じさせないスピードで森を駆ける。
アインは30分ほど前、色々と道具を入手した。扱いなれたナイフも数本確保している。
彼女もまた準備を整えて、戦いの場である楡の木広場へ向かった。



    【アイン】
    【現在地:楡の木広場付近】【スタンス:素敵医師殺害】
    【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
     バズーカ(残1)、鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
    【備考:左眼失明、首輪解除済み
    抜刀時、身体能力上昇+???、振るうたびに精神に負担】




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