131 グレン様・完成する
131 グレン様・完成する
前の話へ<< 100話〜149話へ >>次の話へ
下へ 第四回放送までへ
(一日目 17:40 東の森・東端)
薄暗くなりつつある森の中を、よたよたと、しかしながら速いペースで進む
影が一つあった。
「や〜れやれ、前の時間はあんまり人死ななくてセンセがっかりやき……」
狂える包帯男、素敵医師である。
「こここ、ここはやっぱりセンセがテコ入れせないかんっちゅー事やね。
死亡率アップでスポンサー大喜びがよ……けひっ、ケヒャヒャハハハ!!」
けたたましく笑いながら、素敵医師は白衣の中からトランシーバーを取り出した。
「あーあー。本部?ほーんーぶー!?応答するがよー!?」
『……大声を出さずとも聞こえている』
レシーバーの向こうの椎名智機が応える。
「ちち、智機嬢ちゃん声が大きいがよ!センセ今隠密行動中がね!」
『……全く貴様は……まあいい。で、何だ素敵医師?』
「アインの嬢ちゃんの現在位置を教えて欲しいがよ」
『またか?ちょっと待て……フン、相変わらずだ。貴様の進んでいるルート
を確実に追尾している。もう距離は数百mも無いな』
「……けひゃ、いーがよいーがよ。そろそろみっしょん開始やき……!
あー、あの主従コンビはまだ灯台にいるがか?」
『No.26とNo.32だな?ああ、まだ灯台近辺で例の作業を続けて…………何?』
突然、智機が驚きの声を上げた。
「あ?智機嬢ちゃんどーしたがよ?」
『……素敵医師、早急に灯台に向かえ。たった今No.32の反応が消滅した。
どうやら、計算よりも早く首輪解除装置が完成したらしい』
「あ〜らららぁ……智機嬢ちゃん自慢のハイテク首輪も大した事ないがねぇ」
『……私を侮辱するつもりか?』
「いやいや、センセ正直者やき、思った事が素直に出てしまうんよ。許してたもーせ」
『……いいか、目的は解除装置の奪取、もしくは破壊だ。抵抗する場合は
抹殺しても構わん、手段を選ばず遂行しろ』
通信は強制的に切られた。愉快そうに素敵医師が笑う。
「きひひひ……ムキになって、まだまだ青いいとさんやき……さて、センセも
さっさと行くとするがね……?」
座らない首をカクカク言わせつつ、彼は再び歩き始めた。
その先には砂浜、そして灯台があった。
(同時刻 灯台一階・詰め所)
「………やった……」
たった今床に落ちた自分の首輪を見つめながら、法条まりな(No.32)は小さく呟いた。
「………やった……のか?」
同様に半ば呆然とした表情でグレン・コリンズ(No.26)が言う。
「成功……だわ」
次第に喜びがこみ上げてくる。
「う……む……!」
「やった……やった!凄いわグレン!アンタ天才よ!」
「はっ……わはっ、ワハハハハハハハハハ!!と、当然ではないかミス法条!
この全宇宙一のちょぉぉぉう天才!!グレン・コリンズの手にかかれば、
この程度の、この程度のヘナチョコ首輪なんぞ赤子の手をひねるようなもの!
すなわちベビーのハンドをブレイクするより容易!容易!容易ィッ!!
朝飯前、否、前日の深夜の夜食前と言えっようっ!!!」
興奮した口調でまくし立てつつ、グレンは触手の一本を天高く掲げた。
その先に、テレビのリモコン大位のサイズの機械が握られている。
これぞグレン・コリンズ謹製首輪解除装置『グレン・ジェイルクラッシャーG4』
(略称GJG4・命名者グレン本人)である。
その理論は、彼の(自慢話が50%以上混ざった)説明によると、首輪に死亡信号を
外部から与え、首輪のシステムを騙す構造らしい。
一つの首輪には故障防止の為に複数のシステムが稼動しているが、それらを全て
解除すれば首輪は着用者の死亡を誤認し、外れるそうだ。
「んん〜〜〜〜ッ!では早速、私自身の首輪も取るとしようッ!」
ひとしきり勝ち誇った後、グレンは自分の首に『G・J・G4』を押し当てた。
「ん?」
だが、その動きがピタリと止まる。
「あらっ?よっ?くぬっ!?」
更に、グレンはくねくねと奇妙な動きを始めた。
「……何やってるの、グレン?」
「いやっ、それがっ、だねミス法条!じっ、自分の首輪の解除位置が、見つか
ら、ないのっ、だよ!」
何とか自分で自分の首を見ようとするグレンに、まりなは呆れつつ言った。
「……見える訳無いでしょーが……」
「し、しかし、それでは私の首輪はどうなるのだ!?」
「……しょうがないわね、私がやるわ。コイツの操作法は貴方が指示して」
「なっ!?……いや、それは、その……」
「……助かりたくないの?」
「……むう」
ありありと不安を顔に浮かべつつ、グレンは手にした『G・J・G4』を手渡した。
「うわっ!?何コレ、べとべとじゃない!」
「し、仕方ないではないか!私は舌か道具でしか繊細な作業はできんのだっ!」
「もう……(ふきふき)そんじゃ、始めるわよ……まず、どこからやればいいの?」
「あ?ああ、まず小さなランプを探してくれ、そこから2cm程右側に……」
「えっ……と、あ、ここね」
「そこに微かに接合面があるだろう?で、手元のの目盛りを……」
グレンの指示に従い、まりなは静かに作業を進める。
ふと、グレンは前から思っていた疑問を口にした。
「……なあ、ミス法条……一つ、質問してもいいかね?」
「……ん、何?」
「君は、何故他の者を助けようとするのだ?」
「何故って……」
「そうは思わないかね?スタート地点にいた案内役の男でさえ、素手であの
虎の覆面男を殺すほどだ。しかも……仮にそいつを倒してもその先には……
神がいる。勝率なぞあるまい?この『G・J・G4』さえあれば、他の参加者に
とって絶対的な抑制力になる。他人の解除なぞ……(すぱーんっ!)あうっ!?」
瞬間、どこから取り出したのかグレンの顔面にハリセンが叩き付けられた。
「ななな、何をするのだっ!?」
「バカな事言うからよ。……よし、一つ解除完了っと。次いくわね」
「ババ、バカとは何だっ!?私は寛大にもミス法条の事を心配してだな……!」
「なら、その心配を他の参加者にも向けてあげて」
「む、むう……」
あくまで静かなまりなの言い方に、グレンは何となく黙ってしまう。
しばらくの沈黙の後、まりなが再度口を開いた。
「何故助けるのか……か。そうね……私はこの大会をぶち壊す任務を受けてこ
こにいるわ。それが戦う理由の半分」
「……もう半分は?」
そう問われると、まりなは口元に微かな苦笑を浮かべた。
「……………意地」
「……………呆れた物だな。ミス法条、君はもっとクレバーな女性だと思って
いたが……違ったようだ」
「ハハッ、おあいにく様……」
呆れ顔のグレンに笑いかける。だが、その眼は笑っていない。
「……昔……ある任務でね、一人の女の子を護衛する任務を受けたの。正直、
変な所は多かったけど、楽な任務だと思ってたわ。……でも、最後にはその子
に助けられて……私だけ生き残った。その時ついでに恋人も死なせちゃった」
「恋人……?」
「渋いオジサマよ。素敵な人だったわ……」
「……………」
「………私だって全部の参加者を助けられるとは思ってないわよ……でも、
少なくとも私の会った人だけでも助けたいの」
「……あー……ミス法条、ひょっとして私は、その、悪い事を聞いてしまった
のではないのか?」
「……ええ、かなり♪」
「あうっ……」
「ハハッ、相手の言う事を気にするなんて、貴方らしくないわよ?」
「なっ!?わっ、私はだな……!」
「はいはい……っと、これ……で……」
小さな電子音と共に首輪が外れる。
まりなは立ちあがると、グレンに『G・J・G4』を返した。
肩をほぐしつつ、部屋の隅に置かれたディバッグに向かう。
「さてと、それじゃさっそく行動開始よ。グレン、貴方も荷物をまとめて」
「ど、どうするのだ?」
「まずは村落の病院に行って魔窟堂のオジイサマと合流するわ。そこを拠点に
変更して、それから……」
「きへへへへ……そそそそ、その前にちょっと美味しい話があるぜよ!!」
「「!?」」
突然、外からの笑い声が響く。
同時に灯台の扉が激しく開かれ、包帯姿の怪人が悪臭を放ちつつ現れた。
その唐突過ぎる出現に、二人はとっさに迎撃する事も忘れ怪人―――素敵医師
を迎え入れてしまう。
「ひへ、ひへへへへへ……始めま〜してぜよ、まりなの姐さん♪」
続けて、やはり呆然としているグレンに向けて、
「あーあー、ググ、グレンの大将もご健勝で、なな何よりが……」
「あ、貴方は……!?」
ようやくまりなは自分を取り戻した。即座に素敵医師との距離を離し、スタン
グレネードを右手に握る。
だが、当の素敵医師は手をパタパタと振って、夢に出てきそうな笑いを向けた。
「ままま、待っとーせ!センセ、姐さんの敵じゃないき!センセ、味方やき!
仲間に入れて欲しくて、病院の方から来ただけぜよ!」
「病院?それじゃ魔窟堂オジイサマの知り合いなの!?」
「あーあー、ととと当然じゃき!病院の方で偉いコトになったき、センセ
姐さんに伝えよーと来たがよ!まま、そそそそのブッそうなモノ下げて話
聞くが吉っちゅーもんぜよ!」
「……………いいわ、話を聞きましょう」
まりなはしばし迷った後、手榴弾を置いた。
正直、この包帯男が尋常な相手ではない事は一目で分かるが、病院の事を言っている
以上無視はできない。何より、グレンと組んでいる自分がいるのだ。こういう奴と
魔窟堂が組んでいてもおかしくはない。
「きひひひ……さっすが姐さんやき……」
「し、正気かミス法条!このような胡散臭い奴の話を……!」
「………あー、センセ、大将にだけは言われたくないき。ささ!そんじゃ座って
センセの話を聞くがよ!」
(18:01 灯台外・窓の下)
(一体……どういう事なの?)
窓の向こうで宇宙人とミイラ男とワイシャツ姿の女性が車座で座っている。
何か話をしているようだ。
(奴等も主催者側だった……という事かしら)
納得のいく話ではあった。
人を遥かに凌駕する戦闘能力を有する謎の生命体二匹。主催者側が送り込んだ
刺客の可能性は十分にある。
ならば、迷う事は無い。
あの時は偵察が主任務だったから撤退したが、今度は―――
(―――仕留める)
窓の下、アイン(No,23)は静かにその好機を待っていた。
【No,32 法条まりな】
【所持武器:スタングレネード×5
ハリセン
鍵束 】
【スタンス:首輪の解除
大会の調査】
【能力制限:なし】
【No,26 グレン・コリンズ】
【所持武器:解除装置『G・J・G4』】
【スタンス:まりなにとりあえず同行】
【能力制限:なし】
【No,23 アイン】
【所持武器:メス×3】
【スタンス:素敵医師 及び
宇宙生物二匹の抹殺】
【現在位置:灯台外】