134 静淵
134 静淵
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(第1日目 PM18:20)
ケモノは、
岩陰に身を潜めるようにして、夕暮れどきの海を一人眺めている。
ちょうど自分の背後から照る太陽が水平線の向こうまでオレンジ色に染めている。
きらきらと輝きを返す水面は、
この島で起こっていることやケモノの願いとはおよそそぐわないほどに美しい。
何を見るでもなく無心に、きらきら光る海をじっと見ている。
彼方まで雲ひとつなく晴れた空と同じように、その心は澄みきっている。
もうすぐケモノの時間がやってくる。
そして契約は果たされるだろう。
彼岸の住人であるケモノにとっては、
此岸の時間は瞬きほどのわずかな時間でしかない。
ことがすめば、あるべき世界へ還るだけだ。
何の感慨もない。
ケモノとは、そういうものだ。
だから、静かに光る海を眺めていた。
藍は、
ケモノに支配された瞳を通して、まどろみのなか海を眺めている。
時とともに様々に表情を変える海の安らかな潮騒を聞いている。
(太陽が沈むのを止められないと同じように)
――藍は考えた――(私にはこの子を止めることはできない。)
深い深い海の底のように、静かで暗い無辺の空間を漂っているような気がする。
そんな彼女を嘲笑うかのように、空は憎らしいほど晴れきっている。
今夜はきっとよい満月になるだろう。
そして月の光はあの子を誰よりも強くする。
此岸の住人である彼女にとっては、
契約の完遂は彼岸への旅立ちを意味する。
ことが成れば、否応無しにそうなるのだ。
何もできやしない。
人間であるということは、とても無力だ。
だから、静かに光る海を眺めていた。
【現在地:港周辺】
【スタンス:獣:堂島殺害
:藍:@、神楽捜索
A、獣の封印/別離】
【備考:主人格=獣】