196 道分かつ時

196 道分かつ時


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(第二日目 AM11:50)

「さてと、まずは、恭也殿を小屋へ連れて行かねばの」
魔窟堂は、恭也を背負うと西の森の小屋への道を歩き始めた。
「それにしても知佳さんの姿が、見当たりませんね。 この恭也さんの重症といい、一体何があったのでしょうか?」
周囲を見渡しながら、魔窟堂の後ろに続き狭霧は、言った。
「襲われたと見るのが当然じゃろうな……
あの場所にあった死体から察するに、恭也殿が知佳殿を助けるために戦い重傷を負ったと考えるのが筋じゃろう………
安全な場所に避難してくれてるといいのだが……」
(だが、あの殺されていた(?)者の死に方は、とても剣士によるやり口とは思えん……
まるで、とてつもない何かに襲われたかのような感じじゃった……)
「知佳さん、無事かな?」
不安な表情を浮かべながら、消えた知佳の身を案ずるまひる。
「ところで、狭霧殿、その銃は?」
ふと、気づくと狭霧は、歩きながら銃を弄っている。
「先ほどの男の死体の直ぐ側に落ちていたもので。
使えるものは、できる限り確保しておいた方がいいでしょうしね」
「そうじゃな…… その銃は、護身用にお主が持っておくと良い。
まひる殿では、ちと扱いずらいじゃろうしな」
「ええ、そうさせてもらいます」
そう言うと狭霧は、銃を胸へとしまった。
「さて、急がねばなるまいぞ」
急ぎ足でピッチをあげようとしたその時であった。
彼らの脳内に神の声が響いたのは……



「ぐぇっはっはっはっは、それじゃぁ、今回で死んだ奴を発表するぜ
……………… 
3番 いずいさく 5番 いずおにさく 14番 アズライト
26番 グレン・コリンズ 13番 うみげんぶたまろ……
……訂正するぜ。
3番 伊頭遺作 3番 伊頭遺作 13番……海原琢磨呂 
以上だ。 まぁ、せいぜい殺しあってくれよ、ゴミどもめが……」
文字通りの静寂が訪れた。
狭霧は、直ぐさまに状況判断へと思考を回し
魔窟堂は、わなわなと身体を震わせている。
「わしは…… わしらは、こんな己の欲望を満たすもののためだけにこのゲームへと参加させられたと言うのか!?
望みをかなえるために、わしらは、犠牲にされたと言うのか!?」
沈黙を破ったのは、魔窟堂の怒声であった。
狭霧と違い、魔窟堂は、一瞬で、あれこそが神の声であると判断した。
そして、神と己の欲望の為に人を犠牲にする運営者達への怒りを震え上がらせた。
「なんのために!? なんのためにエリーヒ殿が!? 遥殿が!? …… おのれ、おのれ……」
今にも背負った恭也を振り落としそうなほどに、魔窟堂の怒りは、身体を支配する。
「魔窟堂さん……」
知佳の声が場に響いた。
「知佳殿、無事だったのか!?」
見ると魔窟堂たちの進んでいた道の目の前に知佳がいた。
いや、現れたのだ。


「いや、何にしろ、無事で良かった…… 恭也殿が重傷でな。
小屋へと運んで手当てせねば…… さっ、急ごう?」
知佳が現れてくれた事により、落ち着きを取り戻した魔窟堂は、知佳の手を取るように語り掛けた。
「すみません……」
「……どうしたんじゃ?」
「すみません、すみません、すみません、すみません、すみません…………」
ただひたすら、と謝り続ける知佳を目の前に、魔窟堂は、拍子抜かれた。
「私が…… 私が、もっとはやく力を使っていれば、私がしっかりしていれば!!
恭也さんは、怪我を負わずにすんだんです!!」
「なっ、では、あの死体は………」
「私がやりました…… 私、力を持っているんです。
誰にも負けない力、超能力を……」
そう言うと地価は、背に羽根をまとい、浮遊してみせる。
「でも使うのが怖かった。 そして、守ってくれる人たちに甘えていた。
あの時も、甘えていたんです。 恭也さんが守ってくれるって……
だから、だから、私が悪いんです!! そう思うと、恭也さんの前にいる事が苦しくなりました。
でも、でも、放送で恭也さんが死んでいないのを聞いて、いてもたってもいられなくなって……」
最後の言葉は、弱弱しく、その場のもの達を再び静寂へと戻した。
「………辛かったんじゃな」
やっと出た魔窟堂の一言。
それ以外に、かける言葉が見当たらなかった。
「すみません、我侭で。 ですけど、もう少し、一人にさせて下さい。 気持ちを整理したいんです」
「そうか………… 落ち着いたら、必ず戻ってくるんじゃぞ?
恭也殿が目覚めた時、お主がおらなかったら、絶対に後悔するじゃろうからな」
「……ありがとうございます」
涙を止め、その言葉を最後に知佳は、再び何処かへと姿を消していった。

三度、場に静寂が訪れる
「…………先を急ごう、これ以上時間をかけては、恭也殿の容態も悪化してしまう。 まひる殿?」
神の声の後から、まひるは、ただひたすらと黙り、下を向いていた。
良く見ると、身体は、ぶるぶると震えている。
「お主もどうしたんじゃ? わしと同じく怒りか?」
「神……」
「ん、なんじゃ?」
「神…… あの声は、間違いなく神です。 何ていうか、私の身体が、本能が訴えてるんです。
あれは、絶対的な力を持った神だと」
「わしもそう思うよ……… だがな、わしらは、引き返すことは出来ん。
死んでいったもののためにも生き残り、欲にまみれた運営者を倒さねばならん……
……わしの決意は、かわらんよ」
魔窟堂は、まひるの肩に左手をかけ、そういい伏せた。
自分へにも言い聞かせながら。
「だから、まずは、目の前の事を対処せねばならん。 さぁ、急ごう」
それぞれの決意を改め、再び一同は、小屋へと道を急ぎ始めた。



【広場まひる】
【現在地:西の森の小屋へ】
【スタンス:争いを避ける】
【備考:天子化一時抑制】

【魔窟堂野武彦】
【現在地:同上】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン】

【知佳】
【現在地:???】
【スタンス:しばらく一人でいる】
【所持品:???】




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