204 狂気の称号
204 狂気の称号
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(第二日目 PM0:10)
街道を外れて、私は、東の森へと突き進んだ。
丁寧な事にアイツは、私を誘い込むように、到る所に自分の軌道を残していってくれる。
十中八句罠だろうと、それを辿っていく。
あの娘を弄んだアイツを殺すために。
ふい、目の前から禍禍しい気を感じた。
アイツの道標の直線上から、確かに発しられている。
罠か……
気配を消して、ゆっくりと慎重に距離を縮めていく。
30m… まだ相手の姿は、見えてこない。
20m… 隠れているのだろうか?
10m… よく見ると木の生え方が不自然だ。
まるで、中心をあけるかのようにして草場を作っているのが解る。
動きを止め、周りを再び観察するが何も出てこない。
そんなに怖がらんでもええぞい。 わしゃぁ、ピチピチねーちゃんなら大歓迎じゃい>>
何処!?
姿は見えずとも声だけが響いてくる。
<<目の前じゃよ、ほれ、ここ。 足元の方を良く見てみい>>
罠の可能性がある。
<<じゃから、そんなに疑り深くならんでええって。 わしゃ、自分からは何にもできんよ>>
慎重の気を使いながら、草に埋もれた地面をゆっくり見渡すと
一本の柄が禍禍しい気と共にひょっこりと顔を出していた。
<<そう、これがわしじゃよ>>
「信じられない……
人外の参加者を見た事はあるけれど、まさか無機物、それも柄が喋るなんて……」
<<柄だけじゃないわい!! 刀身は、地面にささっとるんじゃ!!>>
「……あなたは、参加者なの? それとも主催者側なの?」
<<それより、わしを抜いてくれんかのう?
このままだと一生生き埋めになりそうじゃい>>
「質問に答えては貰えないのかしら?」
<<わからん>>
「……………」
<<仕方ないじゃろ。 気づいたらここに刺されてたんじゃい>>
「嘘を言ってるわけではないわね…… まぁ、いいわ。
剣としては、使えるんでしょ?」
<<勿論。 嬢ちゃんみたいな若いギャルに振るって貰えるなら、大満足じゃ>>
本当に何でもありな大会なのね……
「ふぅ、解ったわ……」
彼を引き抜くために柄に手を触れようとしたその時。
<<ストーップ!! 言い忘れてた事があったわい。
わしに触れる時は、気を強く持ってくれんかの?>>
「………気を強く持つって?」
罠であるなら、わざわざこんな事を言うはずはないだろう。
<<んー、意識をしっかり保つようにかの……>>
言われた通りに、気を引き締めて、彼の柄を掴む。
<<おお、久しぶりの素肌じゃぁ。 やっぱ野郎とは違ってええのう>>
気もさることながら、性格も大分悪いようだ。
「意外に簡単に抜けたわね…… !?」
ぐにゃり
頭の中に黒いモノが湧き出て渦を成す。
<<な? …………言ったじゃろ?>>
あいつへの遥を弄んだ包帯男への。
怒りが憎悪が、あの娘を失ったやるせない想いが
胸の中でばくばくと、頭の中でがんがんと響き渡る。
「くっ…… これは、確かに厳しいわね」
まだ我慢できる。
アサシンとして、感情を殺すのを常としてきた私になら
そう簡単には、この闇に飲まれる事はない。
それに、湧き出る感情と共に剣から、身から、力が溢れ出してくるのが解るのも事実だ。
<<わしは、強力な剣なんじゃが、振るうものの精神を闇で蝕むという代償も持っとる。
使う時以外は、腰にでも当てておいた方がええぞい……
くっついてる以上なくなるわけではないが掴んどるより遥かに楽になるじゃろ。
それにわしも嬉しいしな>>
「そうさせてもらうわ………」
森の木に巻きついていた蔓を一本引きちぎって、ひゅっと腰と柄を巻きつけた。
巻きつけた瞬間、ふっと気が楽になる。
この程度なら、私の精神が弱まらない限りは大丈夫だろう。
剣も大分喜んでいた。
<<そうそう、自己紹介がまだじゃったの。
わしの名前は、カオス。 世間では、魔剣カオスと呼ばれておったわい>>
「混沌(カオス)に魔剣の名ね。 確かにあなたらしいわね。
私はアイン…… そう呼んでもらえればいいわ」
<<アインかい。 いい名前じゃのう。 それじゃこれから宜しく頼むぞい
何だったら、アッチの方でも、ゲヘヘヘヘヘ>>
尻の方に悪寒が走る。
「本当に下品な剣なのね…………」
<<まま、そういわんと、わしを力込めて振るえば
一般人でも闘気を出せるくらいじゃぞ。
お主ほどの使い手なら、いい闘気が出せそうじゃわい>>
「そうね…… あいつを倒すためにその力貸してもらうわ……」
【アイン】
【現在地:東の森】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 魔剣カオス】
【備考:左眼失明、首輪解除済み
抜刀時、身体能力上昇。
振るうたびに精神に負担】