181 花の香は……
181 花の香は……
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「主催者を倒すのであれば…」
後ろから聞こえてくる3人のかしましい声を聞きながら、
魔窟堂は、医院での紗霧さんの言葉を思い出していた。彼女はこう言った。
「彼らはおそらく北の山のあたりに潜伏していると思われます。身を隠すためにも森を抜けていくのが良いかと…」
誰も反論するものがいないので、結局5人はこの紗霧さんの言に従う形になった。
他に手がかりもなく、主催者達がどこにいるかもわからない状況では、たとえ推測の域を出なくとも、
無闇に歩き回るよりはいくらかましだろうということで五人は森を歩いているのだが、
魔窟堂はどこかで間違いを犯しているような気がしてならなかった。
「フムゥ」と鼻から息を噴出し、魔窟堂はきれいに整えられた顎鬚をしごく。
「どうかなされましたか?」
隣を歩く紗霧さんが黒髪を風に流しながら、見上げてくる。前髪が彼女の上にこまやかな影を落としている。
「ん、いや、何でもないんだがのぅ…」
前を向いたまま、魔窟堂はなんとなく言葉を濁す。
紗霧さんは不思議そうに首を傾げたが、それを追求するようなことはしなかった。
黙り込むと、まひる達の声がふたたび魔窟堂の耳に飛び込んできた。
「そうじゃ、紗霧殿。紗霧殿の同じくらいの背丈で髪の短い制服を着た女の子を見なかったかの?」
「制服の女の子、ですか?」
見返す紗霧さんは少し考える素振りを見せて、やがてゆっくりと頭を横に振った。
「……いいえ、見なかったと思いますが・・・何かあったんですか?」
「いや、こっちのことじゃ……そうか、見なかったのならいいんじゃ、気にせんでくれ」
今はいないアインのことを考えながら、魔窟堂は隣を歩く紗霧さんのことを考え始めた。
しばらくの間、孫ほども年の離れた娘ととりとめもない話をしながら歩き続けるうちに、
魔窟堂は目の前の少女の聡明さに舌を巻きはじめていた。
以心伝心とはかくの如しと思わせるばかりに巧みに会話の機先を制し、
話の緩急や、語調の強弱などを自在に操り、言葉の端々から会話の核心をズバリとつく。
まるで、自分の言わんとしている事すら何もかもあらかじめ読み取られているかのようであった。
時々の刺のある言葉も、若さゆえの過ちと思えば良いように解釈できたし、
見識の広い彼女と話すこと自体が純粋に楽しくもあった。
彼女には天賦の才というものを垣間見せられた気分になった。天才は存在するのだ。
しかし、彼女の明晰な頭脳は聡さと賢しさの微妙な境界で揺れているようにも感じていた。
そんなことを考え考え歩くうち、
ふと話し声が聞こえなくなった事に気付いた魔窟堂は後の三人をかえりみた。
すると何か珍しいものでもあったのか、三人は寄り添うように立ち止まって茂みの奥の何かを見ている。
「どうしたんじゃ?」
少し声を張り上げて呼びかけると、まひるは静かにという風に口元に指を当てた。
思わず魔窟堂は、隣にいた紗霧さんと顔を見合わせた。
「どうしたんじゃ?」と傍まで来た魔窟堂は今度は声をひそめてたずねる。
茂みのほうをじっと見ていた恭也は、そのままの姿勢で茂みの奥を指差した。
薄暗い森の中、細かいところまでははっきりとは見ることが出来なかったが、指頭の先には紛れもなく人がいた。
が、その人の形をしたものは尋常の人というにはあまりに小さい。
「あれは・・・何でしょうか?」恭也は声を潜めて魔窟堂に耳打ちする。
魔窟堂はフムゥと言っただけで何とも答えなかったが、
「ホムンクルス・・・というわけではなさそうじゃな」とだけ言った。
「錬金術の子が和装というのは滑稽ですからね。一寸法師といったところですか」と受け、笑みを浮かべる紗霧さん。
「うむ、いずれにせよ…何らかの方法で生み出された使い魔のようなものであることには間違いないと思うが…」
「何かを探しているんでしょうか?」
誰ともなしに呟いた恭也の問いには、魔窟堂も紗霧さんも何とも答えなかった。
代わりに隣にいた知佳が答える。
「あの、ひょっとして、その方は森の中で怪我をして動けなくなって困ってるとかじゃないでしょうか?」
四人が一斉に知佳のほうを見た。
四つの視線は意想外の意見への驚嘆が三つに、
驚嘆交じりのひそかな軽侮が一つ、その内には絶滅寸前の天然記念物を見るような、哀れみも少なからず混じっている。
「わ、わたし何か変なこといいましたか?」
にわかに注目を浴びて、知佳は少し恥じ入る。
恥ずかしがる彼女を見る恭也の顔が心なしか少し緩んだように見える。
そんな光景に目を細める魔窟堂は若々しい彼らのうぶな反応を微笑ましく思う。
紗霧さんは何か考え事でもあるのか、さっさと目をそらすと
葉が重なり合う中から抜け出てくるわずかな木漏れ日を探すようにして、顔を上に向けた。
よく手入れされたポニーテールが重力に引かれてたらりと垂れ下がっている。
「…あれ?」
まひるが素っ頓狂な声をあげ、今度はそちらに四つの視線が集まる。
「どうしたんじゃ、まひるどの?」
「消えたんです、小人さん」と半ば呆然としたような口ぶり。
「消えたとはどういうことじゃ」
「いや、どういうことって言われても、消えたんです。こう、煙みたいにぷはぁっ、て」
言いながら大きく手を広げて、煙のジェスチュアをするまひる。
一行がまひるが指差すあたり――先程まで件の小人がいたあたり――に目をやると、なるほどもう何も無かった。
「嫌な予感がしますね」
紗霧さんが口を開いた。そして、私の嫌な予感はよく当たるんですよ、と付け加えた。
勝手のわからない森の中で、消えてしまった小人など探すわけにはいかず、2人と3人はふたたび歩き出した。
紗霧さんの言葉が効いたのか、恭也たちは寄り合うようにしている。
「いいなぁ、知佳ちゃんには高町君がいるんだもんねぇ。
あぁ、神さま神さま、もしものとき、あたしは誰を頼ったらよいのですかぁ〜」
まひるが手を大きく天に振り上げて、からかうように嘆いてみせる。そして、ちらと二人のほうに流し目を送る。
「ちっ、違いますよ、私と恭也さんはそんなんじゃないです。ね、ねぇ、恭也さん?」
「そ、そうですよ。全然、そんなんじゃないですから、俺たち!」
強く否定してしまったあとで、恭也は知佳の様子をうかがう。
そして同じくばつの悪い顔をしていた知佳と目が合うと二人は頬を染め、たがいに目をそらした。
「恭也さんに……、俺たち……かぁ。
いいなぁ…二人で見詰め合っちゃったりなんかして、いつかは、あたしも素敵な彼氏彼女の関係に・・・」
まひるの言葉に慌てた恭也と知佳は、ふたたび何か抗議を開始した。森は鬱蒼と続いている。
「何じゃ?」
三人の取りとめのない話を聞くともなしに聞いていた魔窟堂は突然感じた違和感に立ち止まった。
「わぷっ!ど、どうしたんですか魔窟堂さん?」
すぐ後ろを歩いていたまひるが、魔窟堂の背中にぶつかって鼻をさすっている。
魔窟堂の隣を歩いていた紗霧さんは、2・3歩進んだところで振りかえると
「嫌な予感、やっぱり当たりそうですね」と苦笑いを浮かべた。
「やはり気づいておったか」と魔窟堂も何故か少し嬉しそうに笑ったが、すぐに顔を引き締めた。
「え、え?」と何のことだかわからないという風に鼻の頭をこすりながらまひるは首をかしげる。
「鳥の声がやんでいますね」
恭也の出した助け舟にうなずくと、魔窟堂はしゃがみ込んで朝方の少し湿っぽい大地に耳を当てた。
不安そうに袖をつかむ知佳を安心させるように恭也は頷きかえしてやる。
紗霧さんは目を閉じ何か考え込んでいる。まひるは口元に手を当てて魔窟堂を見守っている。
魔窟堂は立ち上がり、叫んだ。
「これは…いかん、逃げろっ!!」
次の瞬間、地中から無数の木の根があふれ出るようにして飛び出してきた。
「知佳ちゃんたち、どうしてるかな?」
まひるは膝に手を置き、息を整えながら魔窟堂のほうを見た。
みっしりと葉の茂る森の中にその息遣いだけが静かに聞こえる。
魔窟堂は腕を組んで大きく息を吐き出した。
「フム、高町君が一緒におるなら心配はないとは思うが・・・」
そして、ここ一日はため息ばかりついていることに気づいて苦笑いする。
木の根に襲われた場所からどれくらい走って逃げただろうか、
ようやく木の根の動きが収まるころには恭也と知佳の姿が見えなくなっていた。
「紗霧殿はどう思う?」
「あの時、二人は手をつないでいたようですからたぶんいっしょにいると思いますが、問題は・・・」
「問題は?」
歯切れの悪い二人の言葉に痺れを切らしたのか、先を促すようにまひるが問い返す。
魔窟堂は紗霧さんと顔を見合わせ、やがて魔窟堂が重々しく口を開いた。
「問題はじゃな、果たして敵さんがあれであきらめてくれたのかどうか、ということじゃ」
「あの偵察役の一寸法師がもっとたくさんいて、敵がどこにいても攻撃を仕掛けることが出来るとすれば・・・」
「そんな、それじゃぁ」
魔窟堂は顔を青ざめさせるまひるの肩に手を置く。
「なに、心配することもなかろう」
「魔窟堂さんのおっしゃるとおりです。心配していても、死ぬときは死にますし、死なないときは死にません。
運がよければ助かるでしょうし、なければそれまで。まぁ、なるようになるってことですね」
とは、さすがの紗霧さんも言わなかった。
ただ、黙って魔窟堂の言葉に頷く。
「これから・・・どうしよう?」
「まず、はぐれた2人と合流することが先決じゃが・・・」
魔窟堂は周りを見回す。うつむいていたまひるもあたりを見回す。
見渡すかぎりに重なる緑は奥も見通せないほどで、どこまでもどこまでも果てなく広がっている。
紗霧さんは小さくため息をついた。
あたりには心地よい匂いが漂っている。恭也がかいでいるのは知佳の匂いではない。
それは何かの花の匂いだろうか、甘いような透き通るような匂いが二人の鼻をくすぐる。
「とりあえず、魔窟堂さんたちを探しましょうか?」
「そう・・・ですね」
先ほどから知佳の返事は短く、どことなく硬い。
恭也は木の幹に押し付けていた後頭部を浮かせて彼女の顔色をうかがった。
知佳は伏し目がちにしていた目を潤ませて、顔の心持赤いように思える。また具合が悪くなったのだろうか。
視線を動かすことができず、恭也に気づいた知佳と目が合う。
同年代の女の子。
目の前の同年代のきれいな女の子に見つめられ、恭也は顔が熱くなるのを感じた。
「どうかしましたか、仁村さん?」
喉の渇きと、体のほてりを打ち消すように明るい声を出す。
「え、いえ、その、何でも、ないん・・・です、何でも」
慌てて目をそらすと知佳はうつむいてしまった。その頬の朱は先ほどよりも色味を増したように見える。
「そうですか」
恭也は両手を頭の後ろに敷いて、ふたたび木にもたれかかって空を見上げる。
しかし、空は見えない。仕方がないので木ばかりが生い茂る森を見る。
あたりにはまどろませるような甘い花の匂いがあいも変わらず立ち込めている。
そして体の熱も抜けなかった。
「俺が・・・」
「え?」
「いえ、もしも俺が敵であれだけの力があれば、そしてその気があるのならば・・・」
「はい」
「こんな中途半端な状態でほっぽり出したりはしないと・・・思うんです。何だろう、熱いな」
「だったら」と、知佳が慌てて立ち上がるとつくりの華奢なひざ小僧が目に付いた。
「休んでる場合じゃな・・・い・・・・・・きゃっ」
膝からくず折れるようにして、知佳が恭也の胸の中に倒れこむ。
「あ・・・、あ、あ、あの、ごめんなさい。その、すぐに退きますから。あ、あれ、おかしいな。本当にごめんなさい」
足に力が入らないのか、立ち上がろうとしてはへたり込む。もがく知佳はさらに恭也の胸に密着することになる。
恭也はあごの下にいる知佳のかたちの良い頭を見ながら、
花の蜜にも似た甘い匂いとともに、あの時かいだ知佳の匂いを思い切り吸い込む。
皮膚の下を流れる赤い血が、煮立ったかと思うほどに体が熱くなる。
正しくは、体の一部がたまらなく熱くなっている。
(ああ、気づくのが少し遅かったな)
恭也は抗えないものを感じながら、自分の迂闊さを呪った。敵の追撃は、すでに始まっていたのだ。
白い肌を桜色に染めた知佳と目が合った瞬間、恭也は彼女にキスをした。
知佳も待ちかねたかのように吸い付いてくる。舌を絡ませ、たがいに口腔をなぞる。
口を離すと二人の間に銀色の糸が引かれる。
恭也はそれを見て、もう一度知佳にキスをした。唇の感触をむさぼるようにたがいに吸いあう。
自分の着ていた服の上に知佳を横たわらせ、恥ずかしそうに顔を横に向けている彼女の服に手をかける。
「あ・・・」
下着をとると乳房がぷるんと小気味よくゆれた。
知佳は恥ずかしさに赤くなった顔を手で覆ってしまう。
「仁村さんのかわいい顔、もっとよく見せて」
自分でも何を言っているんだろうと思う。普段なら口にも出せないような言葉が、すらすらと出てくる。
「私、胸おおきくないから、恥ずかしい」
「そんなことない、かわいいよ」
「でもでも・・・大は小を・・・・・・あっ、んぅぅ」
知佳の言葉をさえぎるように、頂点に実を結んだ桃色の突起を口に含む。
やわらかい彼女の体の中で、そこは少し感触が違う。
「ふぁ・・・んっ・・・んっ・・・はぁぁぁぁぁぁ・・・」
可憐な桃色を唇ではさむようにすると彼女の肌があわ立つ。
そして、あわ立った肌を舌でなめ上げ、鎖骨をとおり喉をとおり、ふたたび濃厚なキスを交わす。
木漏れ日差す森が二人にまだらな光を落とす中、チュッ、チュッという淫靡な音が響く。
空いた手で回すように胸を愛撫すると、やわらかいうちに感じられるこりこりとした感覚が気持ちいい。
唇をはなし、胸に集中する。あまり豊かでない彼女の胸が手の中で自在に形を変える。
まだ熟しきらない、少し芯に硬さを残した胸を優しく、なでるように触る。
「恭也さん」
「なんだい?」
「もう一度、キス・・・してくれませんか?」
頷き、もう一度キスをする。三度目のキス。
そのまま、胸を愛撫していた手をするすると下ろし、まだつけたままのショーツの中に手を潜らせる。
「んふぅ・・・、だ・・・だめ、だめです、そこは・・・んっ、んっ、んんぅ」
知佳の弱々しい拒絶を唇でふさぎながら、下腹部に手を伸ばす。
唇から漏れ出てくる嬌声と、誰も触れたことのない彼女の花弁に触れていると考えると、ますます興奮してくる。
いやいやと小さく首を振る彼女の口に右手を差し込み、
ほっそりとした首筋に何度もキスをして、左手で彼女の淫裂に指を差し込む。
「んむぅっ・・・、はっ、はっ、はっ、んっむぅ、んぁぁあ、はぁ」
恭也の指に舌を絡めながら、知佳が声を震わせる。
高いソプラノを聞きながら、暖かい彼女の中を指でこすると、次から次へと蜜が滴り指に絡みついてくる。
とろけそうなくらい、彼女の中は熱く潤っていて、
下着ももう彼女が吐き出した愛液でべたべたで、手の甲に張り付いてくる。
「仁村さん、少し腰を浮かせて?」
「ふぇ?」
「腰、浮かせてくれる?」
こくんと、可愛らしく頷くと彼女は下着を取るのに協力した。もう拒絶の色は見えない。
とろんとした目で、何かを期待するように恭也のほうを見ている。
クチュッという水音がして、ショーツが取り去られる。
「私の変でしょう?」
泣きそうな声で言う知佳のそこはまるで幼い少女のようだった。
未発達なスリットがあるだけで、ほかには何も余計なものがない。
彼女は恥じているようだが、シンプルですばらしいと恭也は思う。
やわらかそうな彼女の秘裂は果汁を滴らせる果実のようで、恭也は何も言わずにそこに口をつけた。
「ああぁぁっ、だめっ、だめです、恭也さん。そこ、汚いですから、わたしっ・・・あぅ」
「汚くなんかないよ、仁村さんのここ、とてもきれいだ」
女の子の体はどこもやわらかく、どこもいい匂いがする。
あの甘い花の匂いもここからしていたのかもしれないな、などとぼやけた頭で考える。
「アン、ホン・・・トにっ、だめですってばぁ・・・んんん・・・あ、はぁっ・・・」
花弁の入り口についた突起を舌で転がすようにすると、彼女の声が1オクターブ高くなる。
恭也の勃起はもう耐えられないくらいに張り詰めていた。
息を荒げたままで不安そうに見上げてくる知佳にやさしく軽いキスをすると、ファスナーをおろす。
「うわっ・・・」
ばね仕掛けのように飛び出した肉の凶器を目にして、知佳は思わず感嘆の声をあげる。
「なんかすごいみたい…」
「いや、普通だと…思うけど?」
知佳の細い膝を押して股の間に体を入れる。
白いなだらかな肌がほんのりと桃色に染まった上に、汗がたまになって浮いている。
髪をなで、キスをしたままで彼女の淫裂に切っ先をあてがうと、いやらしい音を立てて中から溢れる愛液が陰茎を伝う。
スリットにそって肉棒を上下させ、先端に愛液をまぶすと
「いくよ?」と耳元でささやく。熱い吐息を吹きかけられて、知佳は身を震わせる。
「ッ・・・・・・・・・はい」
目をしっかりと瞑って頷く知佳のまぶたにキスをすると、恭也は一気に腰を前に突き出した。
「ッ!!」
「大丈夫?」
途中の抵抗は、知佳の純潔の証だろう。
恭也は痛みに震える知佳にぴたりと体をくっつけて、抱きしめる。
胸の下の柔らかな肉を通して、体をこわばらせる彼女の心音が伝わってくる。
彼女の体は燃えるように熱く、彼女の中は暖かかった。
じっとしていても、ひたひたと吸い付くように絡み付いてくる。
小さい彼女の体を抱きしめながらキスをして、恭也はその静かな快楽をむさぼる。
「あっ…」
知佳が甘い声はあげた。
「わたし…なんで、なんでぇ…はじめて、なのに…」
「どうしたの?」
熱くなるばかりの体をもてあまし、思い切り彼女を突き上げた衝動を必死に抑えながら、恭也はたずねる。
知佳は顔を真っ赤にして、淫蕩に潤ませた目で見上げてくる。
「恭也さぁん、体が熱いんです。気持ちよくしてください」
普段の知佳からは想像もつかない鼻にかかった甘い声、恭也に残った理性を砕くには十分だった。
自分のしでかしたことにため息をつきそうになるのをぐっとこらえて、恭也は隣に座る知佳の顔色を伺う。
「あ…」
同じく顔を上げた知佳と目が合い、すぐに二人は目をそらす。
知佳は抱えこんだ膝小僧に顔をうずめた。恭也はばつが悪そうに頭をかく。
二人の間に気まずいような、照れくさいような空気が漂う。
あのあと、恭也は何度となく射精した。
知佳がぐったりと動かなくなるころには、花の匂いは薄れていたが、
快楽に飲まれた二人には行為をやめることが出来なかった。
嫌がられているのだろうか、と恭也は思う。そして、多分そんなことはないだろうと思い直す。
けだるい体を休めるように二人は動かなかった。
「軽蔑しましたよね?」
「え?」
突然の知佳の言葉に恭也は驚いた。が、自分も同じようなことを考えていたことに思い出す。
「そんなこと…ないですよ。俺だって…。それにあれは敵の仕業だったんだから、仕方ないですよ」
「敵の仕業…、そうですよね。仕方ないですよね」
知佳はえへへと笑うと、膝小僧の上にあごを乗せて、軽くため息をついた。
一瞬、恭也は謝るべきかとも思ったが、それも失礼なことだと思いなおし、やめた。
では責任をとるべきなのだろうか。
責任。結婚。二人の子供、幸せな家庭。娘の反抗期、息子の成人式。
「もしも、敵が仕掛けてこなかったら、恭也さんは……」
「え?」
想像が二人の孫の誕生まで言ったところで、恭也はふたたび間抜けな声をあげた。
「すみません、聞いてませんでした」
「え?い、いいんです。なんでもないです!!」
両手をパタパタと振って慌てて打ち消す知佳を見て、恭也は胸のなかがじんと暖かくなる。
「とっても気持ちよかったよ」と恭也はそう言って知佳の髪をなでると、
「あ…」
はにかむ知佳にもう一度軽く口づけた。
「若い者はお盛んで結構だな」
といいながら、こんなことを言うのは年よりくさかったかな、と笑う。
「高町恭也に仁村知佳、手強そうに思えた君たちをこんな形で始末できるとは思っていなかったよ」
少し小高くなったところから、
盗聴器から聞こえてくる恋人たちの甘ったるい会話を聞いているのは海原琢磨呂だった。
彼は立ち上げられたフロントサイト越しに仲むつまじい二人を覗き見て、口をゆがめた。
肩口には無骨な米軍製のロケット砲がその66口径の虚ろな瞳を若者たちに向けていた。