185 まひると紗霧サン
185 まひると紗霧サン
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(第二日目 AM10:00)
恭也たちを捜しつつ、神社への道を行くまひるの顔を、
木の葉の間を通り抜けてきた光がちらちらとまだらに照らす。
ふと顔をあげると、少し前を行く魔窟堂の背中と
その隣を歩く紗霧サンのきれいなポニーテールがゆらゆらと揺れているのが見えた。
それを眺めながら、まひるはほうとため息をつく。
(自称)女のまひるの目から見ても、紗霧サンはきれいな人だった。
透けるように白い肌に、つややかな黒髪がよく映える。
スタイルだってとても格好がよい。
胸はそんなに大きくはないみたいに見えるが、
着やせするタイプかもしれないし、何よりも自分よりは確実に大きい。
それに自分もあれくらい黒いニーソックスが似合うようになれればよいとまひるは思う。
まひるはもう一度、ほうとため息をついた。
彼の周りにも色々な女の子がいたが、これだけの落差を目の当たりにすると、
一口に女性といっても色々あるのだということが、
知識としてではなく、実感できた気がした。
同じ女でも、つい半日ほど前まで一緒にいた人と、
目の前の紗霧サンとではあまりに違う。
まひるはうなだれ、病院脇の四つの土の盛り上がりを思い出す。
一番右端の一番新しい盛り上がりには、亡くなってしまったオタカさんの遺骸を埋めた。
「ありがとうございました。魔窟堂さん」
まひるは先行する魔窟堂に突然声をかけた。
「何じゃ、急に?」と歩みを止め、振り返る魔窟堂。
紗霧サンも何のことだか判らずに怪訝な顔をしている。
「あの、オタカさんの…」
魔窟堂野武彦は、ああ、と頷いた。
「きちんとした墓標も作ってやれればよかったんじゃが…」
「いえ、こんなときですし…それは、仕方がないです」
うつむくまひるの顔にさっと影がさす。
背中に揺れる片羽も心なしか力をなくしているように見える。
「あ、ごめんなさい、暗くなっちゃいましたね、にはは」
から笑いが空しく響くのを感じながら、まひるはふたたび歩き始める。
つられるように魔窟堂たちも歩き出す。
先ほどまで楽しげに話していた魔窟堂も、いまは少し居心地が悪そうにしている。
「広場さんは…」とそれまで黙っていた紗霧サンが話し掛けた。
「え?」
突然話し掛けられて、まひるは間抜けな顔をして聞き返す。
「広場さんはどんな学校に通っていらっしゃったんですか?」
「ァ……あ、あたしのことはまひるでいいです。
それで、あたしの学校はですねぇ…」
今度は慌てて応える。
紗霧サンは穏やかな笑顔で、まひるの話す一言一言に一々頷き返してくれる。
まひるには、そういって話し掛けてくれる紗霧サンが、まるで天使か聖母のように見えた。