160 再会
160 再会
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下へ 第五回放送までへ
(第二日目 AM00:00)
アインを探していた魔窟堂は、
森の中であるにもかかわらずなぜか四方八方から飛んでくる放送の声をいぶかしみながらも、じっとそれに聞き入っていた。
「ゲーム開始からちょうど24時間が経過した。
それでは死亡者を発表する。
7番、堂島薫 17番、神条真人 19番、松倉藍
22番、紫堂神楽 32番、法条まりな
以上5名が死亡だ。」
「!!」
「クゥゥッ・・・」
女の声で告げられたどこかしら無機質な定時放送を聞いた魔窟堂野武彦は
声にならないうめきを漏らすことしか出来なかった。
「神楽殿、藍殿、まりな殿・・・」
加足しつづける彼の胸のうちに、もう二度と戻ってはこない者たちの顔が、
ついさっきまで顔を付き合わせ、話をし、互いに生きて帰ることを約束したものたちの、
あるいは救うことが出来たかもしれなかったものたちの顔が次々に浮かんでは消えていった。
「儂は・・・いつだってそうなんじゃ・・・・・・」
手の隙間から零れ落ちる砂を見るかのように、
魔窟堂野武彦はいつも何かが零れ落ちていくのを見ていることしか出来なかった。
自分はいつも部外者だった。
舞台の中心にいながら、いつだって自分は遅かったのだ。
魔窟堂野武彦は主役ではない。
そんな自分が歯痒く、そして情けなかった。
星川、エーリヒ、まりな、神楽、藍・・・、彼の側を通り抜けていったものたちも、
自分がヒーローであったならばあるいは・・・・・・。
けれど、いつだって、ヒーローにはなれなかった。
「若人の命をあたらむなしくはさせんと、心に誓ったはずじゃのに・・・儂は・・・儂はッ。」
腹のそこから何かを絞りだすように吐き出す。
それでも足を休めることなく。魔窟堂は走りつづけた。
そして、自分がヒーローではないからこそ、ヒーローに憧れつづけるということも、彼にはわかっていた。
だから、走りつづけた。
(第二日目 AM02:00)
「ぬっ?」
放送から数時間、残像をひきずりつつ走っていた魔窟堂はぴたりと足を止めた。
遠くに人の足音を聞いた気がしてあたりの音に耳を済ませた。
彼の耳には、ざわざわと、風に吹かれた木の葉がこすれ合う音のほかには何の音も聞こえてはこない。
「ふぅ、・・・気のせい、かのぅ。年をとるとどうも神経質になっていかんのう。」
誰にこぼすでもなく、魔窟堂は呟いて、汗で少し湿り気を帯びてきた頭をかいた。
所々にほころびのある服の袖で汗を拭う。
(それに、涙もろくもなった・・・)
顔に残る涙のあともそっと一緒に拭いさった。
「やれやれ、年寄りは湿っぽくていかん。
さて、先を急がねばな。」
気を取り直すため言ってみて、どうやら独り言も多くなってきたらしいのう、と苦笑したとき、
ガサガサッ
「!?」
背後の茂みが少し揺れて、やがておさまった。
(こちらの様子をうかがっておるのか?)
息をつめ、レーザーガンのトリガーに指をかけ、じっと待つ。
心臓の音がどんどんと大きくなっていく気がする。
銃把を握る手がじっとりと汗ばんできても、相手も動く気配を見せない。
(これでは埒があかんのう。これ以上の犠牲者を出さんためにも・・・急がねば、な。)
「そこの茂みに隠れているもの。わしの名は魔窟堂野武彦。こちらには戦う意志はない。
意志はない、が10数えるうちに姿を見せんのなら、遠慮なく撃たせてもらう。」
ガサァッ
生い茂る草を掻き分けて出てきたものの姿を認めて、魔窟堂は構えていたレーザーガンを懐に収めた。
「なんじゃ、アイン殿か。
・・・・・・ずいぶんと、探したぞ。」
そう、とだけ短く答えてふたたび走り出そうとするアインの肩をつかんだ。
「何処へ行く、まだ話は終っとらんぞ。」
「話なんてないわ。その手を離して。」
「神楽殿と、藍殿が・・・死んだ。」
「知ってるわ、放送は聞いていたから。」
表情を変えることなく、平然とアインは答えた。
まるで何ごとも起こらなかったかのように、西の空に太陽が沈んだと聞かされたかのように、平然と、
アインは全く相好をくずすことはしなかった。
「どうしてじゃ、どうしてそんなに冷静で入られる?死んだんじゃぞ?
一時のこと、短い期間のことだったとはいえ、仲間だったものたちが、死んだんじゃぞ。
なのに・・・、なのにどうして、おぬしは・・・・・・」
「どれだけ涙を流しても、どれだけ心から血を流しても、死者は蘇りはしないわ。」
「ぶわっかもん!」
パァン、深夜の森に乾いた音が響き渡る。
「・・・遥殿には気の毒なことをした。
おぬしがそのことを気に病むのもわかる。
わかるがの。
何故、一人だけ抜け出していってしまったんじゃ。
神楽殿たちも、儂らさえ病院におったらば・・・あるいは・・・救えたかもしれん。
おぬしだけの責任にするつもりはないがの、アイン。
藍殿も神楽殿も・・・彼らはもう・・・」
アインの頬を打った自分の手が震えているのを眺めながら、魔窟堂は声を詰まらせた。
それでも、暗殺者の少女は何も言葉を発さなかった。
「フフ・・・」
「何を・・・笑っておる。」
「いいえ、なんでもないの。病院へ帰りましょう。
ただ・・・」
いささか憮然とした表情の魔窟堂を見る彼女はもう、いつもの無表情な彼女に戻っていた。
「ただ、これだけは覚えておいて。
ファントムにはファントムのやり方がある。」
魔窟堂の瞳を覗き込むようにしてじっと見つめてそういうと、病院の方へ向かって足早に歩き始めた。
残された魔窟堂はふたたび溢れ出してきていた涙を拭うと、ぽりぽりと頬を掻きつつも彼女に続いた。
【魔窟堂野武彦】
【現在地:東の森】
【スタンス:病院へ向かう】
【所持品:レーザーガン、スパス12】
【アイン】
【現在地:東の森】
【スタンス:病院へ向かう
素敵医師の殺害】
【所持品:メス】
【備考:首輪解除済み】