157 病院へ行こう!
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「あ、あの」
私は勇気を振り絞って少し前を行く恭也さんに声をかけてみた。
少し上ずった声になっちゃった。
変な娘と思われなかったかな?
そう思うと体がぽっぽと火照ってきた。
そっと頬に手を当ててみる。
やだ、少し熱くなってる。
私に何か起こったと思ったのか、彼は小走りでこちらにやってきた。
「どうかしましたか?」
少し心配そうな顔をしている。
ああ、やっぱり優しい人なんだ。
心配かけちゃったかな?
でもね、違うんだよ、そうじゃなくて…
「あ、あ、あのですね。そのぅ、えぇ〜とぉ、
…その、あの……なんて言ったらいいのかな。だから…ですね。」
さっき彼に呼びかけたときの勇気はどこに行ってしまったんだろう?
いざ、口に出すとなるとひどく恥ずかしいことな気がする。
この森はとても深くて、お月様の光も届かない。
星川さんと別れたあと、すぐにあの不思議な光は薄まってしまって、
今では真っ暗な森の中にうっすらと木の影が浮かんでいるという程度。
それだって時々お化けみたく見えて、「幽霊の正体見たり何とやら」、
分かってはいてもやっぱり…ちょっと気味が悪い。
でも恭也さんは夜目が利くみたいで、すいすいと森をゆき、少し進んだところから、
こちらです、そういって道案内をしてくれる。
それは嬉しいんだけど。
……やっぱり暗いのは怖いな。
「まだ、体が少し辛いですか?だったら……」
私が黙ったままもじもじとしていると、疲れているように見えたんだろうか、
彼は休むのに適した場所を探しすため、きょろきょろとあたりを見ながらそう言ってくれる。
やっぱり恭也さんはいい人だな、そう思う。
まだ出合ったばかりだけれど、この人について行ったら大丈夫。・・・でも、
「いえ、違うんです。」
私は慌てて首を振った、違うんです、そうじゃなくって・・・私は・・・
何故だろう。
彼女はさっきから、僕と目を合わせようとしない。
何かまずいことでもしただろうか、
そう思い、彼女と出会ってからの自分の行動を振り返ってみる。
何もしていない・・・はずだ。
深夜の光の届かぬ森の中ですらはっきりと分かるほどに、彼女の頬は真っ赤になっている。
何だ、何が原因だ?
・(←考えている)
・
・
・
・
・
はっ…………………………なんてことだっ!!
俺の頬をツゥと音をたてて冷たい汗が伝っていったのが分かる。
そうか…そうだったのか……迂闊、あまりと言えばあまりに迂闊だぞ、恭也!
思えば彼女はあの時まで部屋を出ることも許されず監禁されていたのだ。
そしてつい数時間前にリュックの中に入っていた150ml入りの
ミネラルウォーターのペットボトル×2を飲み干し、
コッペパンを一本食べて、そして眠っていたのだ。
人間も、動物の一種だ。
…そして動物には、生理現象が、ある。
……あまりに…迂闊。
うら若き乙女に、何を言わせようとしていたんだ、俺は?
「あの…仁村さん?その…遠慮しなくてもいいんですよ?
人間なら誰だってしていることですし、
それを恥ずかしがることなんてありません。
むしろ俺達が置かれている今の状況を考えれば、
そういうことはできる時にきちんとしておいた方が
…その…いいと思います。」
「うぅん…、でも…そんなこと、やっぱり恥ずかしい、ですよ。」
恥ずかしいことではない、とは言ったものの彼女だって年頃の女の子だ。
恥ずかしくないはずがない。もちろん、俺だって恥ずかしい。
うつむいたまま、彼女は口元に手を当てて目をそらしてしまった。
やはり切り出し方がまずかっただろうか?
だが、こういうことはストレートにいったほうが逆に気が楽になると思ったのだけど
・・・・・・また考えが甘かったのか?
心の中で頭をひねる俺を尻目に仁村さんはスゥッと息を吸って、深呼吸。
呼吸を整えて、俺の目をじっと正面から見据える。
決意を秘めた目だ。
大丈夫、俺は笑ったりなんかしない。
そして、彼女の唇が開かれた。
「あの・・・恭也さん、一人だと怖いから、その…一緒に…」
い、一緒に、だって?
なんてことを言うんだ、仁村さん。
若い女の子がそんなこと言っちゃいけない。
ましてや僕らはさっき会ったばかりじゃないか。
確かにこの状況だ、あたりは暗闇だし、いつ何時襲われないともかぎらない。
だからといって、若い婦女子の、その、・・・・・・
「生理現象」の一部始終をすぐ側で眺めるなんてことは、
男として、いや人間としてできるわけがない。
ここは断固としてこの誘いは断らねばならない。
と、口を開いて断ろうとしたその瞬間、彼女もまたもう一度深呼吸して、口を開いた。
話しはじめた俺の言葉ももう止まらない。
「一緒に・・・私と一緒に・・・手を……つないで歩いてもらえませんか?」
「ええ、そうですね。一人でいくのは怖いでしょうけど…
さすがに俺がついていくのは少し・・・・・・・・・・・・・・・あえっ!?」
もじもじと恥ずかしそうにしている彼女
…今、なんて言ったんだ?
一緒に歩いてほしい?そう言ったのか?
あまりのことに二の句がつげず俺は呆然と立ち尽くす。
「ウソ、ウソ、冗談ですよ?ごめんなさい。
急にそんなこと言われたって、恭也さんだって迷惑ですよね?
ホントーに、ごめんなさい。」
俺の沈黙を拒絶と勘違いしたのか、
仁村さんはパタパタと両手を振りながら慌てて先の言葉を取り消した。
「ああ……………手、手ですか?ハハ…」
体が力が抜け落ちて、膝に力が入らない。
笑い声がやけに乾いているのは気のせいだろうか。
……やはり俺は迂闊だ。まだまだ修行が足りない。
ふと彼女の方を見ると、大きな目を心持ち潤ませて
地面とにらめっこをはじめてしまっている。
きっと、こんな恥ずかしいこと言わなければ良かった、とそう思っていることだろう。
そんな彼女を見てこんな状況にもかかわらず、少し心が和んだように思う。
俺は不謹慎な人間だろうか?多分、そうだろう。
いずれにせよ、いつまでも彼女に恥ずかしい思いをさせているわけにはいかない。
二・三度頭を振って余計な考えを頭から追い出すと、
俺はズボンでごしごしと拭った手をしょんぼりしている仁村さんの方へと差し出した。
【高町恭也(No8)】
【スタンス:魔窟堂と合流
:力無き人を守る】
【所持武器:救急医療セット、小太刀、ポータブルMDプレィヤー】
【能力制限:膝の古傷(長時間戦闘不可)】
【仁村知佳(No40)】
【スタンス:恭也について行く】
【所持武器:不明】
【能力制限:超能力
(消耗中につき読心、光合成以外不可)