158 名探偵の静かなる電撃作戦(第一波)

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2人の人間を手にかけた後、そう言った彼は軒先の花壇のような場所に腰を下ろしていた。
「フム、天才探偵たる私の推測によれば、だ・・・・・・」
そう言って、琢磨呂は顎に手を当て、あいた手でズボンのポケットをまさぐる。
「ああ、そういえば『アレ』は切れていたんだったな・・・」
煙草を切らしていることを思い出し、
なんとなく手慰みに取り出したライターの火を点けて、すぐに消した。
彼は病院前の花壇に腰掛け、目の前の二つの屍骸を眺めつつ、
現在置かれている状況から己のとるべき最善の行動について一くさり考えてみる。
シュボッ、という小気味良い音をたててふたたびライターに火がともる。
「重要なのは、私が勝利する、ということだ。
そのためには・・・・・・」
揺れるライターの火を眺めて呟く。
「私が生き残らねばならない、ということだ。
となると・・・・・・」
ライターの炎を最大にして、それをすぐに吹き消した。
「私以外の参加者諸君には、死んでもらわねばならない、とそういうことになるな。」
そこまで口に出すと、フム、と言って三度ライターの火をつけ、それを地面に置いた。


拾った枯れ枝で炎に照らされた地面に生存者の17の名前を書き出すと、腕を組みそれを見下ろす。
「さて、これまでに得た情報を鑑みるに、
おそらく現在残っているものたちのなかには私よりも身体的な条件に優れた者もいるだろう。
該当者は・・・・・・
ランス、高町恭也、魔窟堂野武彦、アズライト、アイン、
そしてなみとかいうロボット・・・いや、アンドロイドだったか?・・・ま、どちらでも良かろう。
で、このうち明確な意思を持ってゲームに参加しているのはランスとかいう男だけだろうが・・・
この六人に関しては消耗を待って奇襲、というのが妥当なところだろうか。
そして、さらに言うなら、最強の暗殺者ファントムが首輪を外されて野放しのまま、
というのは少々問題だが…、それもまぁ良かろう。
さて・・・ということは、だ。」
とりあえず、彼ら六人の名前の上にバッテンをつける。
「当然の帰結として彼らに同行しているもの達を襲撃するのもあまり得策では、ない。
つまり、ユリーシャ、アリス=メンディ、仁村知佳、
この三人もとりあえず後回し、だな。」
そう言ってさらに三つのバッテンを加えた。
「では翻って、知的に私を上回っているものだが……
フム、どうやら天才探偵たる私以上の「きれもの」はいないようだが…
まぁ、強いてあげるならば・・・・・・・・・
む、こいつの名前がわからんな、・・・36番、
…とにかく、私の得た状況から推し量るにこの女の仕掛けたトラップで既に二人は死んでいる。
やってやれんことはないだろうが、一つしかない命だ。
用心するに越したことはない。こいつも後回しだな。
そして、謎の人外グレン。
・・・どうやら宇宙人のようだが、やれやれ非常識もいいところだ。
さて、こいつもファントム同様首輪を外してどこにいるのか判然としないが、
まぁ、会話から察するにたいした男でもなかろう。」
君子たるものは危うきには近寄らんものだよ、などといいつつ沙霧とグレンの名前の上にもバッテンが描かれる。


「さて、あとの六人から決定したいところだが…
伊頭遺作、伊頭鬼作の伊頭兄弟に音信不通の16番…確か双葉ちゃんと呼ばれていたか、
そして、しおりとかいう小娘と広場まひる、高原美奈子…か。」
書かれていた名前を足でもみ消し、そこに候補者に挙げられた六人の名前を改めて書き出す。
「このうち、双葉、しおり、まひるの三人はどうやら奇妙な能力を持っているらしい。
まぁ、経験豊富な私がそんなことくらいで不覚をとるとも思えんが、念には念を、だ。
そして、無論のことしおりとともにあるこの男も、不可だな。」
四つの名前が消される。
「遺作、高原美奈子。」
残された名前を読み上げてみる。
「彼らは今のところ単独行動だ。
つまり、狙うなら今、ということでもある。
何だ、簡単なことではないか、この二人の探索および除去からはじめればいいのだ。」
ぽんと膝を叩くと、彼は花壇をあとにした。







かさかさと木の葉を揺らす夏の夜の生ぬるい風がポケットに手を突っ込んだまま立っている琢磨呂の髪をも揺らす。
風は幾分潮の臭いを含んでいて、ネットリと肌に絡みつく様だった。
今、彼は港に来ていた。
そして、目の前の血だまりとあたりに飛び散る肉片から、何かを探り出そうとしていた。
堂島薫、高原美奈子、広場まひる、松倉藍、ここには四人の人間がいたはずだ。
そして、この方角にこのような人間離れした芸当が出来るものはいないはずだったからだ。
しかし、目の前に広がる惨状を無視することは出来ない。何かがあったのだが・・・
フウゥ、と息を吐き出すと力なく首を振り、神ならぬ身だ、と呟いて推理を断念した
その小屋は無人とはいえ、明らかな潜伏の痕跡があった。
情報から推すにターゲット高原美奈子達がいた場所に違いない、そう彼の灰色の脳細胞は結論した。
ターゲット・・・・・・彼は距離的な条件と捜索の効率、
敵との遭遇の可能性など合計30の条件を踏まえた上で
最初のターゲットに彼女、高原美奈子を選択したのだ。
「ここにはいない様だな。」
小屋の中にあったカレーライスを頬張りながら、彼は盗聴器のスイッチをひねった。
すると、腹をすかせた獣のような激しい呼吸音と、
それに続いて広場まひるの名を呼ぶ野太い声が聞こえてきた。



暗い夜道を琢磨呂は走っている。
目の前の風景が上下しながらどんどん後ろへと流れていく。
荒い呼吸の音と規則的な足音のほかは一切の音が聞こえない。
もちろん、広場まひるを探す声も聞こえてこない。
風は少し強めだ。
これだけ狭い島ならば風にのって聞こえてきそうなものだが、あいにくそんな声は聞こえてはこなかった。
「食後は少しくらい休憩した方が良いのだが・・・仕方があるまい。」
何といっても、このゲーム賭けられたのは彼自身の命である。背に腹は代えられない。
というわけで、彼は今「広場まひるを探す高原美奈子」を探している。
ズックに入った荷物はけして少なくはない。
盗聴器に他爆装置、奇妙な昆虫(心なしか体が軽いようだが?)に
コルトとロケット砲、さらには彼の水と食料まで入っている。
それらをガサガサと揺らしながら暗い道を走るというのはそれなりに骨が折れる。
しかも彼が探す相手の居場所さえ定かではないのだ。
港をあとにした琢磨呂はとリ会えず道沿いに走りつづけ、古びた民家の間の石畳を飛ぶように駆け抜ける。
それはニコチンにやられた彼が体力の限界を感じて音を上げるまで、あと数分、というところだった。


はたと、彼は走るのはやめた。
「ハァハァ、これは・・・非効率的だ。
それにこのように肉体を酷使するのは・・・ハァハァ、天才たる私にはふさわしくない。天才は常に華麗でなくてはな。」
額の汗を拭うとミネラルウォーターで口を湿らせる。
「よし、水分補給完了。・・・さて、簡単な推理だぞ琢麻呂君?
どのような難事件をも解決してきた君ならば、彼女の行動を推理するくらいはたやすいことだ。」
手櫛で乱れた髪を整え、襟をただし、呼吸を整える。
シュボッ、という音を立ててライターに火が点される。
「こういうとき、犯人はどういう行動をとる?
つまり、何らかの探し物があり、どうしてもそれを発見せねばならぬ、という場合だ。
百戦錬磨の私の経験則から言えば・・・」
「犯人は現場に戻る!」
盗聴装置の電源をオンにしてみると、
案の定激しい息遣いの向こうからかすかな波の音が聞こえてきた。
フフン、炎をかき消すと、顎に手を当てた名探偵は不敵な笑みを浮かべた。



【海原琢磨呂】
【現在位置:病院北東】
【所持武器:他爆装置、素早い変な虫、
:首輪盗聴器、COLT.45 M1911A1 ccd(予備マガジン×1)】




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