163 名探偵の静かなる電撃作戦(第二波)
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(フフフ、もうすぐだ。高原美奈子・・・そして広場まひる。お前も近くにいるんだな?)
啄麿呂は盗聴器から得た情報から、ターゲット高原美奈子が港付近にいることを推理していた。
更なる情報を得るべく、立ち寄ったばかりの港へと向かう道中も
啄磨呂は盗聴器からもれ聞こえてくる音に耳を済ませていた。
「ターゲット」に近づいたためだろうか、先ほどよりも受信する音もずっとクリアになっている。
広場まひるの存在が明らかになったのはつい数分前のことだった。
((待てよ、ま・・・るっ・・・にげるなよ・・・))
((オ・・・さん・・・・・・あたし・・・・・))
太い女の声に混じって、波の音とか細い女の声が聞こえてきたのだ。
(広場まひると思しき人物の声はやや遠いが、おそらく本人に間違いあるまい。
だが・・・どうする琢磨呂。
本来なら高原美奈子が一人のときに襲撃するはずだったのだが・・・今はターゲットは広場まひると接触している。
対象が2人になれば危険は3倍になると考えたほうがよかろう。
ここは各個撃破がセオリーではあるが・・・フム。)
もはや痴話喧嘩じみた話しか聞こえてこない盗聴器の電力をオフにして、しばし考える。
(広場まひる・・・察するに特異な能力に目覚めたようだが、私の手に負えるだろうか?)
走る足は徐々にスピードを落として、ついには走ることをやめて歩き出した。
(いや・・・手に負える負えないではないな・・・何とかせねばならんのだ。
しばらく情報収集を続け、隙を見て・・・というのが妥当なところだろうな。
まぁ、いいさ。
張り込みは探偵の基本、私のような天才には縁のない行為と思っていたが・・・
これを機会に経験しておくのも悪くはない。)
そして肩にかけた道具袋をまさぐる。
(虚仮威しだがな・・・まぁ、死者の恰好だ。不意をつく程度にはなるだろう。)
虎の仮面の男から剥ぎ取った衣装を着込んだ琢磨呂は苦笑すると、港のほうへとゆっくりと歩き出した。
波の音が聞こえる。
さっきは鐘の音も聞こえた。
そんで、誰か女の人がしゃべってたみたいだけど・・・よく聞いてなかった。
背中の羽が熱くって、それどこじゃなかったんだよ。
それにしても、こんなつまんないゲーム、誰が考えたんだろ、ホント。
とにかく!
あたしはオタカさんから逃げて、今やっぱりあそこに戻ろうとしてる。
「逃げちゃったけど、オタカさん・・・ちゃんとお話すれば、きっと分かってくれるよね・・・」
希望的観測を声に出してみた。
すると、どんどんそんな気になってくる。
「羽・・・はえてるけど・・・」
余計なことを口に出してしまい、ハァ、とあたしは大きな溜息を一つ漏らす。
・・・また、元気なくなってきたなぁ・・・・・・・・・
ハッ!!
「ダメダメダメ、ダメだぁーーーー!
こんなときにこそ、元気出さないと。ファイト、まひる。フゥァィイトォォォォゥ!!
・・・ファィトォォォゥ、イィッパァァァツッ!」
・・・何やってんだろ、あたし。
ファイト一発なんて言ってる場合じゃないでしょうが。
一人で盛り上がってしまったことをひとしきり反省すると、あたしはまたフヨフヨと漂い始める。
そう、あたしは今、空を飛んでいる。
飛んでいるといっても地表すれすれを歩くのと同じくらいの速さで、だけど・・・
はい、そこ「なら、歩けよっ!」とか突っ込まない。
やってみるとこれが意外とラクなんだから。
ハァァ、悩んでても仕方がないとは思うんだけど・・・
薫ちゃんにもひどいことしちゃったし・・・
オタカさんだってとってもびっくりしてたものなー。
そんなことを考えていると、「あたしとオタカさんと薫ちゃんの愛の巣」の光が遠くに見えてきた。
「どんな顔して、なんて言って謝ったら許してくれるかな?
うぅぅ、だめだぁ。きんちょーしてきたぁ。」
港付近までやってくると、さっきから漂っていた潮の匂いに混じって、何か金属のような臭いがしてきた。
この臭いは・・・原子番号26番・・・Fe・・・通称「鉄」って呼ばれるやつの・・・錆びの臭い?
多分この羽のせいだと思うけど、今のあたしの感覚はずいぶんと鋭敏になってるみたいで、
ものすごーく遠くまで見えたり、お月様のでこぼこまで見えてるような気もするんだよねぇ。
それはさておき、あたしは奇妙な臭いを変に思いながらもフヨフヨと飛んでいく。
「愛の巣」に近づくにつれて、どんどんと強くなっていく臭い。
そして「愛の巣」のすぐ側まできたとき、目の前に広がる光景を見て
「うひゃぁ・・・」
間抜けなことこの上ない声をあげて、・・・あたしは気絶した。
「こりゃぁ・・・ひでぇな。」
強い力で無理やりににじりきったかのような引き攣れた肉がいたるところに散乱し、
周りの木の幹や葉にまで飛び散った血は土の上にもどす黒くたまっていた。
「放送で聞いて覚悟はしてたけどよぉ・・・まさか・・・ここまでたぁなぁ・・・」
さすがのオタカさんもあたりに漂うむせ返るような血の匂いに顔をしかめた。
肉に混じって散らばっている高級スーツの裏地や、金のカフスボタン。
そして何よりも弾切れのグロックがそれらのすぐ側に落ちているのが、その肉片が誰のものであるかの語っていた。
「まひるにゃ見せられねぇなぁ・・・」
にははと笑うまひるの明るい笑顔を思い出してポリポリと鼻を掻くオタカさん。
「ったく、どこ行っちまったんだ、まひる・・・・・・んっ?」
肉の塊の中にひときわ大きな塊がオタカさんの目に付いた。
「ありゃぁ・・・まひる・・・だよ・・・な?」
土の上に横たわる華奢な体からはにょきっと純白の翼が一枚だけ生えている。
倒れるまひるのすぐ側に駆け寄るとオタカさんは彼を抱き上げた。
胸の中で苦悶の表情を浮かべるまひるを見て、獣のような形相で襲いかかってきたときことを思い出す。
オタカさんの視界に肉の塊と血だまりが入ってきた。
「まさか・・・まひるがやった・・・のか?」
「んん」
ギョッとしてまひるの方を見ると、相変わらずの表情のまま眠っている。
「・・・ゴメンねぇ、オタカさん・・・」
「ハハハ・・・んなわきゃねぇか・・・」
オタカさんは自分のばかげた考えを豪快に笑い飛ばすと、
気を失ったままのまひるを肩に担ぎ上げ小屋へと向かった。
少しはなれたところから、一つの人影がその光景をじっと見ていた。
「ほほえましいじゃないか、ええ? 実に微笑ましい。・・・・・・が。」
男は足元に転がっているこぶし大の石を拾い上げ、ポーン、ポーンと小さく投げ上げる。
「蜜月は往々にして短いものだ。」
そう言って啄麿呂は小屋に視線を向けたまま、空いた手で髪をかきあげた。
【海原琢磨呂】
【現在位置:港付近】
【所持武器:他爆装置、素早い変な虫、
:首輪盗聴器、COLT.45 M1911A1 ccd(予備マガジン×1)】
【高原美奈子】
【現在位置:漁協詰め所】
【所持武器:シャベル】
【広場まひる】
【現在地:漁協詰め所】
【備考:天使化一時抑制】