153 空から何かが落ちてくる(グレンside)

153 空から何かが落ちてくる(グレンside)


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(18:57 『G・S・V3』内)

「なががががががッ!?」
グレン=コリンズ(No,26)は、全身を襲う激しいGに悲鳴を上げていた。
「んぎぎぎ……!」
とっさに口を閉じ、顔を上に向ける。
この状況で口を開けば舌を噛み切りかねなかった。
グレン右側の高度計からは、現在『G・S・V3』が高速で上昇している事を
激しく動いて教えている。

「(2500……3000……3500……!)」

突然、グレンの背後から破砕音が聞こえた。
既に限界に達している機体が悲鳴をあげているのだ。
「(神様ぁ……!)」
元来自分以外の神の存在を信じないグレンであったが、この時ばかりは
空いている触手を絡めて祈りを捧げる。

「(……5500……6000……7000……!)」

更に上昇を続ける。

「(7500……8000……9000……!)」

瞬間、さっきまで鳴り響いていた音がぴたりと止んだ。同時に振動も止まる。

「……ん?」
体の緊張を解き、グレンは周囲の計器類を確認した。
現在高度計は9200を示している。
「はて?」
首をひねる。この高度はほぼエベレストの標高と同じ―――まだ大気圏内の
筈だ。
コンソールに触手を走らせ、外部モニターを起動させる。
「なな……!?」
思わずグレンは言葉を失った。


窓の外に、巨大な皿が浮かんでいた。
その皿の中央に浮かぶ島は、たった今グレン自身がいた島だ。
島の周囲には青い海が広がり―――皿の縁から滝のように流れ落ちている。

「……ハ、ハハ……」
グレンの口から乾いた笑いが漏れる。
触手の一本を、別の一本で踏んでみる。
「アウチッ!」
夢では無いらしい。
「……これが、この世界の姿……か」
それはかつてグレンが想像したものとそっくりであったが、その衝撃は流石に
大きかった。
「……さて、どうする?グレン=コリンズ……?」
脱力し、ぐったりと窓の外をみながら呟く。
外には幾つかの星が光っている。どうやらこの(グレンが存在していた宇宙とは
異なる)宇宙には、まだ他にも同様の場所があるらしい。
『G・S・V3』の噴射に任せてここまで来てしまったが、これは重要な事態であった。


燃料の残量を確認する。
「まだ少しある……」
その燃料を全てこのまま脱出用に使えば、完全に島の重力圏から脱出し、他の
場所を目指す事ができる。
星までの距離等は不明だが、とりあえずこれ以上殺戮ゲームに巻きこまれる事は
無くなる筈はずだ。
人間ならば問題となる食料・酸素の問題も、エイリアンと融合しているグレン
ならば問題は無い。このまま宇宙空間を泳ぐこともできるし、空間中の塵を
仙人よろしく食べて生き続ける事だってできる。

―――だが、一度それを選べば、あそこに帰ることは二度とできなくなる。

現在の『G・S・V3』の軌道を修正し、再度突入させるにはかなりの燃料が必要
となる。
おそらく、現在の残量でギリギリあるかないか。
無論、それを選べばまた殺戮ゲームの仲間入りだ。
おまけに今度こそ『G・S・V3』での脱出は不可能になる。

「………フン、馬鹿馬鹿しい……」
比べるまでもない選択肢であった。
誰があんな場所に戻りたがるものか。
「……考えるまでも無いではないか」
互いが互いの命を狙い、疑い、殺し合うあんな島に。


「……ハハ……」
グレンが笑った。

「……ハハハハハハ!まったく酷い目に会ったものだ!だがそれも全ては過去の事ォ!」

(『……少なくとも、私の会った人だけでも助けたいの』)

「今!今ッ!この万民の皇帝たるグレン=コリンズはあの愚かなる遊戯からの
完全な脱却に成功したッ!これぞ真の勝利!これぞ真の栄光ッ!」

(『期待してるわ、グレン』)

「見たか馬鹿ども!この私、グレン=コリンズにとって、この程度の事など
何でも無いわァッ!アイヤアアァァァッ!!」

(『……アンタにこの馬鹿げたゲームの参加者、全員の運命を預けるわ』)

「………………」
叫びが終わり、再び沈黙が船内を支配した。
「………………」
グレンの手には、解除装置が握られている。
「………………」
窓の外を見る。
もうかなり離れてしまったようだ。既に島が芥子粒くらいにしか見えない。
「……………」
ゆっくりと操縦桿に触手を絡める。
「…………さらば………」
そのまま、グレンは船の向きを―――

「……自由よッ!」

―――再び島に向けた。

「ええいっ!これで満足かミス法条!?」
針路変更の指示を機体に与えつつ、グレンはやけっぱちに叫んだ。
「戻ってやろうではないか!貴様に夢枕にでも立たれたら健康を害してしまう!」
逆噴射をかけつつ片方の噴射を強め、島に向ける。
「その代わりの報酬は高くつくと思え!ミス法条、貴様の体でなあッ!」


激しい振動が再びグレンを襲った。
先ほどは凄い勢いで伸びていた高度計が、今度は急激に下がり始める。
「(11000……10500……10000……!)」
突入角を合わせている余裕は無い。完全に運任せだ。
「(9500……9せ……ッ!?)」
更に激しい揺れ。外装のどこかが剥がれたらしい。
「まだまだァッ!アイィィィィィッッ!!」
必死に姿勢を保ちつつ、グレンが雄叫びをあげた。
「(……8000……7000……6000……!)」
芥子粒くらいの大きさが饅頭位に、饅頭が皿に。
島が次第に大きさを増し、グレンの視界を覆う。
「(……4000!)パラシュート展開!逆噴射最大ッ!」
『G・S・V3』の一部から数個のパラシュートが噴出される。
「オブッ!?」
急激に勢いが弱まり、床に叩きつけられるグレン。
とはいえ、まだ速度はかなりのものである。落下地点に注意しなければ木っ端微塵
であろう。
「や、やはり砂浜か……!?」
現在の落下予測地点では、大体島の中央付近になってしまう。
東の砂浜、できれば発射地点から比較的離れた位置に修正を……
その時、爆発音と共に船が大きく揺れた。
同時に修正されつつあった向きが固定される。
「軌道修正用ブースター大破!?こ……ここまで来てか!?」
悲鳴を上げるが、もはやどうにもならない。
あとは只落ちるに任せるだけである。
「落下地点は!?」
既に高度は2000を切っており、島の細部まで明確に見える程であった。
その島の、森林に向かって『G・S・V3』は落下してゆく。
「………あああぁぁぁあああぁぁぁ!?」
グレンはとっさに触手を船内全体に張り詰めさせ、衝撃に備える。

数秒後、森を揺るがす程の轟音と共に、『G・S・V3』は落下した。







……………。
「……………」
アラーム音。
「……………ん?」
どうやら少し意識を失っていたらしい。グレンはゆっくりと目を開けた。
『G・S・V3』の船内である。落下時のショックか、あちこちでショート音が
聞こえる。
「……生き……てるのか?」
触手の感覚を確かめる。どうやら切れたりはしていないようだ。
窓の外には倒れた木々が転がっている。幸いに焼けたりはしていないらしい。
まさしく奇跡的なまでに無事であった。
「……フ、フフ……流石私だ!何をやらせても上手くいく……!」
(グレン的には)不敵な笑みを浮かべて、グレンは立ち上がった。
まずは現在の状況を確認しなければ。
「……まあ、この偉大なる人民皇帝たる私にしてみっればこの程度の逆境など
逆境の内にも入らんと言った所か……ワハ、ワハ、ワハハハハハハハ!!」
高笑いしつつハッチを開ける。
「さーて、ここからが……」

「……何なんだ?」
外から声。

「へ?」
グレンは声の方を向き―――
「ハギャアッ!?}
顔面への突き蹴りを受け、吹き飛ばされた。
「……おい!コラ、俺様を走らせておいて挨拶も無しか!?」」
若い男の声が最後に聞こえた気がして―――

グレン=コリンズは気絶した。



               【No,26 グレン=コリンズ】
               【スタンス:参加者の首輪解除】
               【所持武器:スタン・グレネード×2
                      ハリセン       】
               【アイテム:まりなの手帳
                      謎の鍵×3
                      首輪解除装置】
               【備考:気絶中】




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