126 黒い心 冷えていく心 慕う心

126 黒い心 冷えていく心 慕う心


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(17:30)

ごつごつとした岩壁に背を当て、ユリーシャは眠りの世界に
堕ちかけていた。
今までは精神的に張り詰めたものがあったせいか、
何とか睡魔を退けていたが、秋穂を殺害したことにより、
彼女の緊張の糸は切れてしまった。
その状態で意識を保つのは、年端のいかない少女には
困難なことだった。
しかし、まだ完全には寝入っていない、うたた寝の状態。

手には弩弓を抱えていた。
子どもがぬいぐるみにすがる様に、しっかりと抱えていた。
(ランス様、早く帰っていらっしゃらないかしら?)
靄のかかった頭で、少女が考えていたのはそれだけだった。


「…おい、戻ったぞ。ユリーシャ」
ふと、耳元で声がする。
乱雑で、粗暴で――― 慕う人、ランスの声。
いつの間にか本格的に眠ってしまったらしい。
ユリーシャは重い瞼を手で擦って、開ける。
目の前にはランスの顔があった。
慌てて身体を起こし、弩弓を下に置く。
さっと、辺りを見渡した。
「ユリーシャおねえちゃん、とっても可愛い寝顔だったり♪」
しゃがみ込むランスの隣に立っていたアリスの台詞に
ユリーシャは真っ赤になり、俯いた。
「おい、ユリーシャ」
ランスの声に、ユリーシャは顔を上げる。
対するランスの表情は、少し険しい。
「…どうか、なさいましたか?」
「秋穂はどうした?」
篠原秋穂の名前が出た瞬間、ユリーシャの心は大きく揺れた。
しかし、それは自分の犯した罪に対して揺れたのではなく、
彼女に対する嫉妬心からだった。

(…私では、ないんですね)
冷めた心が呟く。


「…そういえば、いらっしゃらないですね。
 すみません、私は寝ておりましたので…分かりません」
自分が手を下した事を相手に感じさせない口調。
黒い感情が、ユリーシャの口を突き動かしていた。
ランスは少しの間、ユリーシャの瞳を除きこんでいたが、
「そうか」
と呟き、悔しげに舌打ちをした。
彼女に逃げられたとでも思ったのだろうか。
「だいじょ〜ぶ! 私もいるし、ユリーシャおねえちゃんもいるし。
 ランスのおちんちんも満足するって! 問題ないじゃん!」
アリスの論点のずれた根拠のない発言に、
「…治ったんですか?」
頬を赤く染めて、ユリーシャはランスに問い掛けた。
その対象物を何度も目にしているとはいえ、
面と向かって問い掛けるのは、やはり恥ずかしい。
ランスが口を開く前に、アリスが胸を張って言った。
「うんうん。だって、治ってすぐに試したもんね〜?」
「うむ、ばっちりだったぞ」

ずくん。

心が疼いた。
知らないうちに、スカートの裾を強く握っていた。
嫉妬心が、徐々に大きくなっていくのを押さえることができない。
「ユリーシャおねえちゃん、顔色悪いよ。だいじょぶ??」
無邪気なアリスの声に、ユリーシャは我に返った。
「はい、大丈夫です。…少し、疲れたのかもしれないですね。
 こんなに長い間、外に出ていたのは初めてなので」
ユリーシャは静かに微笑を浮かべた。
荒れ狂う心の内はおくびにも出さない。
「…すみません、もう少し、横になっていてもよいですか?」
「う〜ん、仕方ないよ〜。ずーっと動いてて、私も疲れたもん。
休も? ねね、ランス、いいよね?」
「…そうだな、フェリスが帰って来るまで少し休むか」
そう言って、ランスとアリスは腰を下ろす。
さすがに、荒事に慣れているとはいえ、長時間神経を張り詰めていた
ランスの顔にも疲労の色が濃い。
二人の同意を得て、再びユリーシャは身体を横たえた。


少し離れて、寝息が聞こえる。
どうやらアリスは寝てしまったようだ。
暫しの間、静寂が辺りを支配する。
「…ランス様」
それを破ったのはか細いユリーシャの声だった。
「…ん、なんだ」
物思いに耽っていたのか、少し遅れて頭上からランスの言葉が
返ってくる。
「一つ、お願いがあるんですけれど、聞いていただけますか?」
「…ああ」
「…あの…、少し身体を寄せても、よろしいでしょうか…?」
「…」
無言を肯定と取ったのか、ゆっくりとユリーシャは身体を起こす。
ランスの身体に自分の身体を寄せて、横になった。
彼の膝に頭を乗せ、瞼を閉ざす。
ランスに身を任せていると、先程までざわめいていた心が、
穏やかになっていくのが解る。
「…男の膝枕じゃ固いだろう。…痛くないのか?」
「いえ、大丈夫です」
心なしか浮わついたランスの声に微笑を浮かべる。
そしてまた、静寂が支配する。
「…ありがとう、ございます」
暫くして、聞き取れないくらいの微かな呟き。
「ランス様…」
やがて、ユリーシャも小さな寝息をたて始めた。



【グループ:ランス・ユリーシャ・アリスメンディ】
【現在位置:洞窟】

【No.1:ユリーシャ】
【所持武器:弩弓】
【スタンス:ランスと一緒にいる、ランスに近づく女は殺す
      情緒不安定】

【No.2:ランス】
【スタンス:女は喰う、男は殺る】
【武器:鎧(持参)、バスタードソード、棍棒のような枝】
【備考:ランスアタック回数制限】

【No.34:アリスメンディ】
【スタンス:飽きるまでランスとH】




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