122 逆襲するは吾にあり
122 逆襲するは吾にあり
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(一日目 16:20 村落西部・衣装小屋)
「ガッ、ガァ………ッ!」
苦悶の声をあげつつ、神条真人(No.17)は小屋の戸板を引き空けた。
「こ……ここならば……」
ゆっくりと、背負った勝沼紳一(No.20)を下ろす。
「グッ……ゲハッ!!」
直後、真人は激しく咳き込んで床に倒れ込んだ。
喉は焼けるように熱く、眼からは涙、鼻からは鼻水が止まらない。
学生服は鋭い岩場で幾度も切り裂かれ、もはや原型を留めず―――
とどめに背中には無数の鉄片、ガラス片が突き刺さっている。
正直な所、ここまでたどり着けた事自体が奇跡と言えた。
「女一人に……手も足も出ないまま……煙に紛れて……逃げて……」
うつぶせの状態で真人が言った。
「とどの……つまりが……このザマか……クク……クハハハ……」
乾いた笑い。
隣で自分と同じように倒れている紳一を見る。
微動だにしないが、生きている筈だった。
その証拠に彼の指に嵌められた指輪―――他爆装置はまだ爆発していない。
「紳一……俺は、諦めないぞ……絶対に犯してやる……!」
「……………」
「だって、そうだろう……ここまで……やられっぱなしで……」
「……………」
「………紳一?」
その時、真人は嫌な違和感を感じた。
紳一の体が冷たい。
体が冷えているとかではない、根本的な冷たさ。
「……ッッ!」
悲鳴を上げる体に鞭打ち、真人は立ち上がって紳一の体に手をかけた。
顔は床に向いており、こちらからは見えない。
その頭を体ごと向ける。
苦しげに眼を見開いた紳一の顔。
紫色の唇と土気色の顔。だらりと伸びた舌。
彼の瞳孔は、完全に開いていた。
「……………」
自分が今見ているものの意味を確認し―――結論に至る。
紳一は死んでいる。
間違い無く死んでいる。
とっさに真人は自分の左手を見た。
その薬指には、相変わらず銀色の指輪が嵌っている。
同じく紳一の左手薬指を見る。
やはりこちらも相変わらずの光沢を放っていた。
「……爆発……しない……?」
考えよりも先に言葉が出た。追って、自分が口にした言葉の意味を確認する。
「…………」
真人の肩が揺れた。
「ク……クハハハ………!」
少し収まっていた涙が再び溢れ出す。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!!」
笑いが止まらなかった。
情けなかった。
悔しかった。
何の事はない、自分達は最初から踊らされていたのだ。
「ハハハハハハ!!紳一ィ!我々は……ハハ、ハハハハハハッ!」
真人の中の陵辱者としての誇りが、崩壊を始めていた。
筋骨隆々の大女に搾り取られ、
姿すら見ないまま一人の少女から敗走し、
今、最初に出しぬかれた潔癖女からの『贈り物』の正体も知ってしまった。
何が外道か。
何が無敵の監禁陵辱魔か。
だが、誇りを捨て切る前にやらねばならない事があった。
「ハハ…………このままでは、終われんよなァ、紳一……!」
あの神楽とか名乗っていた巫女。あの女だけは壊す。
最後の定時放送から数時間、まだ生きているかは分からないが―――壊す。
否、例え死体であろうとも徹底的に陵辱してやる。
全てを狂わせたあの女の体を、汚し尽くしてやる。
ふと、真人はある事を思いついた。紳一の死体からそっと指輪を抜き取る。
案の定、指輪はあっさりと抜けた。
果たしてあの女の言っていた通りに、これが爆発するのかは知らない。
いや、この際どうでもいい事だった。
神楽が自分達にやった方法を他人に仕掛ける。
この場合、相手の指輪が受信機だと説明すればそう抵抗はできないだろう。
例えハッタリだとしてもそうそう確認する勇気はあるまい。これは他ならぬ真人自身が体験済みだ。
一度そうすれば、相手は真人の言うがままにするしかないのだ。
まずは女を一人捕まえ、下僕とする。それが急務だ。
「紳一……」
冷たく強張った紳一の手を握りつつ真人は言った。
「待っていろ……お前の所にも、すぐに沢山女を送ってやる……。
俺の使い古しだがな……まずは、あの潔癖症のメス豚からだ……!」
手を離し、真人はよろめきながら廊下に上がった。
「………ん?」
廊下の先の食堂らしき場所に、大きな物体が転がっている。
更に近づくと、それが太った男性の死体である事が分かった。
外傷は無い。横の机には、冷め切った食事が並んでいる。
既に死んでから結構な時間が経過しているようだ。
「先客がいるとはな……どうやら毒殺……か……?」
それを横目に、真人は食堂隅に置かれたディバッグを広げて探った。
「俺達のバッグは置いてきたんでな……悪いが、もらってゆくぞ……」
言いつつ、バッグの中から非常用包帯を取り出す。
痛い話だが、自分で背中の異物は抜かなくてはならないだろう。
「グッ……気は進まんな……」
―――40分経過―――
ブツッ……
「グアッ……!」
ようやく最後のガラス片を抜き終わり、真人は大きく息をついた。
背中を飲料水で流し、タオルとガーゼで丁寧に拭う。
本来なら気絶してもおかしくない作業であったが、真人は執念で耐えた。
水気を取り、包帯を巻きつける。
最後に安全ピンで―――
「………無いな」
真人は傍らの死体を見た。
「チッ……しょうがない……」
舌打ちしつつ、男の死体を探る。留める物の一つくらいはあるだろう。
「……む?」
指先が何か乾燥した物に当たった。学生服のポケットからそれを取り出す。
「?」
それは、実に奇妙なブリーチであった。
虫のブリーチ、そこまでは普通である。問題は、その虫が本物の虫の死体だということだ。
「……悪趣味だな」
正直こんなものを付けるのは真人の美学的に受け付けなかったが、背に腹は変えられない。
真人はやむなくそれを包帯に刺して止めた。
瞬間、
「!!!?」
突然、真人は自分の体が数十分の一になったような感覚に襲われた。
「これは……!?」
体を動かしてみる。
「ギッ……!」
痛みは先ほどと同様に感じる。
だが、体の軽さはまるで別物だ。
まるで自分だけが早回しの世界にいるような状態。
真人は先ほどのブリーチを見た。
「まさか……!?」
ブリーチを外してみる。
再び体がずしりと重くなった。
付け直す。
やはり体が軽くなる。
回避力アップアイテム『素早い変な虫』の効能である。
「…………ハハ、ハハハ……!どうやら俺はまだ見捨てられてはいないようだ……!」
いける。
これなら―――いける。
笑いながら真人は腰にさしたパーティーガバメントを抜いた。
「ハハハ……ここからが始まりだ……!」
ぽんっ♪
軽い音と共に、万国旗が飛び散った。
【20 勝沼紳一:死亡】
―――――――――残り
23
人
【神条 真人:No.17】
【スタンス:弱い女を狩る
神楽を破壊する】
【所持武器:他爆装置(指輪×2)
パーティーガバメント
素早い変な虫】
【備考:重傷。しかしアイテム効果により
行動制限はそれほど無し】