121 こころの壁

121 こころの壁


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(1日目 PM16:00)

「ふぃ〜、さすがにこの年になると山登りは答えるぜぇ。」
肩にかけた手ぬぐいで汗を拭き拭き遺作は一人ゴチる。
森を抜けた後、北へ北へと進みつづけた2人は
山の中腹辺りに差し掛かっている。
というのも遺作は山向こうの湯治場を目指していたからだ。
曰く、「じょーちゃんも臭くなってきたから、洗濯しねぇとなぁ。」ということだ。
そしてそこで、ゲーム終了のときまでしおりを玩弄することにしたのだ。
立ち止まって体をほぐしていた遺作は、
「おめぇもそろそろ疲れてきただろうが?」
そう言って犬のように四足で歩くしおりを見下ろす。
その好色な目つきはサテュロスのごとしである。
「よし、ここらで一つ御休憩とするかな」
分厚い唇をゆがめると、黙りこくるしおりの意向を全く無視して
いそいそと近くの枝にワイヤの端を結わえ付けた。


四つん這いでここまで登ってきたしおりの体には
あちこちに細かい擦り傷が生まれている。
それにくわえて酷くなる一方の指の熱と腫れ、足の傷。
にじみ出る脂汗がじっとりと体にまとわりつく。
痛みからくる吐き気と眩暈も一向に治まる気配を見せない。
木の枝と首の間のワイヤが緊張する。
いまや絞首刑に処される囚人のような格好になったしおり。
唯一違うのは足を目一杯伸ばせば
死神の手を免れえるという点である。
とはいえ、傷ついた足で体重を支えるのは容易なことではない。
喉に食い込む鉄の紐が首に食い込み、何度も息が詰まる。
それでもしおりは声を殺して耐えていた。
幾度も大声で助けを呼ぼうと思ったけれど、
そんなことをすれば何をされるか分からない。
最悪の事態を考えれば、何もできなかった。


不意に声が聞こえた。
(心に壁を作るんだよ、しおりちゃん!)
(心に・・・壁?)
隣で囁く妹の言葉をオウム返しに問う。
(そう、からだがどんなに汚されたって、こころまで汚されちゃダメ)
(からだが汚されても、こころは・・・)
うわごとのように同じことを繰り返す。
(おにーちゃんだけのもの、でしょ?)
(うん・・・そうだね。こころはおにーちゃんだけのものだものね?)
しおりの返事に満足したのか、。
さおりはにっこり笑ってうなずくいた。
(しおりのこころはおにーちゃんだけのもの)
しおりは体を大きく震わせた。


体の中で異物がうごめく感触と、
べたべたと体を這い回る舌の感触は不快感を覚えさせるが、
今となってはまるで遠くのだれかの出来事のような気がした。
目を細め、汗を撒き散らしながら遮二無二になって腰を振る。
奇妙な声で何ごとかうめいて
ひときわ強く腰を打ち付けると、臀部を大きく震わせ
少女の太股に夥しい精液を撒き散らした。
射精時に特有の弛緩しきった満ち足りた表情、
遺作はとても幸福そうに見える。
(このおじさん、なんだかとってもバカみたい)
しおりは萎えてゆく陰茎をみて薄く笑った。

「ヘっ、もう俺様のムスコの虜になっちまったかぁ〜?」
遺作はご機嫌でうそぶいた。




茂みの向こう側の光景にアズライトは思わず声を上げそうになった。
男が、傍らの男と同じ顔をした男が幼な子と行為に及んでいたからである。
不意に肩をたたかれ、見入っていた彼はまた、あやうく声を上げそうになる。
振り向くと、鬼作がノートにペンを走らせ突き出す。
「あの男は敵国の工作員で鬼作めの命を狙うものにございます。
なぜ同じ顔をしておりますかと申しますと、
言うまでも無いことでしょうが、
そのほうが私めの身辺に何かと干渉しやすいからでございます。」
「ああ、なるほど」という顔をして、アズライトはしきりに首肯する。
そして、「ひょっとして、もう一人そういう人がいませんか?」
とノートに書き込んだ。
・・・しばし沈黙が二人を支配する。
「そうでございます。もしや・・・」
「・・・はい、鬼作さんに会う前に・・・殺しました。」
「左様でございましたか・・・、重ね重ね感謝いたします。」
そういうとアズライトの手をとり、力の限り強く握り締める。
頬にはあふるる涙が滂沱のごとく流れている。
もちろん、嬉し涙ではない。
(今、予感から確信に変わったぜぇ。
やっぱり、てめぇが兄貴を殺してやがったのか。
あの、やさしい兄貴をよぉ〜〜〜!!)
不気味な笑顔を張り付かせ、さらに強く手を握る。
アズライトは頬を染めながらも、恐縮してしまう。


やがて牛の鳴くような不快ないびきが聞こえてきた。
「とりあえず、ここは様子を見ることにいたしましょう。
彼奴めは勘の鋭い男にございます。
衣ずれほどのわずかの物音も聞き逃しません。」
腰をおろす鬼作にならって、アズライトもその隣にしゃがみこむ。
視線は男から、桜色の服を着た少女に移っていた。



【遺作】
【現在地:南の山道】

【しおり】
【現在地:同上】

【アズライト】
【現在地:同上】

【鬼作】
【現在地:同上】




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