115 手紙と孤独と漢の唄と
115 手紙と孤独と漢の唄と
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(一日目 15:02 病院)
「……これは……!」
魔窟堂野武彦(No.12)は病院内の惨状に驚きを隠せなかった。
入ってすぐの玄関ホールには消化剤が撒き散らされ、その片隅に幾つもの穴が
穿たれた消火器が転がっている。
(これは……アイン殿が持っていったショットガンか!?)
更にところどころに点々と残された血痕が、ここで戦闘が行われた事を如実に物語っていた。
「………ッッ!神楽!神楽ッ!」
声を張り上げて神楽の名を呼ぶ。
だが、その声は廊下に吸い込まれたまま帰ってはこない。
(ぬうっ、まさか……!)
魔窟堂の脳裏に最悪の展開が浮かぶ。
「神楽ッ!神楽ーッ!?おらんのかっ!?」
叫びつつ足早に廊下を進む。血痕はどうやら二階に続いているようだ。
「涼宮殿ーッ!ワシじゃ、魔窟堂じゃ!無事かーっ!?」
返事は無い。
「藍殿!聞こえておるなら出てきてくれっ!藍殿ーッ!」
やはり返事は無い。
「くっ……ぬかったわい……!」
その時、魔窟堂は廊下の先の扉が開け放されている事に気づいた。
(あそこは……確か霊安室か……?)
敵の待ち伏せを警戒しつつ徐々に扉に近づき、中を伺う。
「!?」
そこには、一人の少女が倒れていた。
「涼宮殿ッ!?」
あわててその少女―――涼宮遙に近づき、抱き起こす。
くてん。
遙の座ってない首が、不自然な方向に曲がった。
「涼宮……殿……!?」
手をとる。
冷たい。
既に死後硬直が―――
「何故じゃッ!!何故ッ!?」
叫び。
返事は無い。
「何故、涼宮殿が死なねばならんっ!?
何故この老いぼれが生き残り、この子が死なねばッ!?」
返事は無い。返るはずもない。
充分ありうる話だった。予測しうるべき状況だった。
病院という目立ちやすい場所を拠点としていたのだ。「殺る気」になっている参加者が
襲撃をかける可能性は充分にあった。
だが、病院にロクな武器が残っていただろうか?
せめてレーザーガンは置いておくべきだったのだ。
魔窟堂自身は、いざとなれば加速装置で退避できたのだから。
「……すまぬ、涼宮殿……ッ!」
だが、ここで後悔している余裕が無い事も魔窟堂は理解していた。
ゆっくりと遙の死体を寝かせて、合掌する。
「後できっちり葬るからの。少しこのままでおってくれ……」
そう言い残し、霊安室を出る。
「む?」
ふと、魔窟堂は床に妙なシミが点々と続いている事に気づいた。
血痕とは明らかに異なる、黄緑っぽい染みである。何かの薬品だろうか?
「これは……!?」
床を見つめたままシミを追う。どうやら別の病室へ伸びているようだ。
「ここか?」
『第1診療室』と書かれたドアを開ける。
そこには誰もいなかった。ただ、部屋の隅のベッドに純白のシーツが掛かっているだけである。
その時、魔窟堂の手が何かに当たった。
バランスを崩した棒状の「それ」は大きな音を立てて床に転がる。
「ぬ?」
それは、アインが持って出たはずのスバス12であった。
銃把の所に一枚の紙が貼られている。手紙のようだ。
かなり急いで書いたのであろう、最初は日本語で書かれていたものが途中から
英語に変わっている。しかもかなりの達筆だ。
「アイン……?」
読み違えの無いよう、魔窟堂はそれをゆっくりと読み進めた。
魔窟堂、藍、神楽へ
みんなが無事でいる事を願いつつ、これを書きます。
もう遙の死体は発見したでしょうか?
あれは私が殺しました。
遙は、敵の包帯姿の男に薬を打たれて操られた状態でした。
無力化しようとしまし―――(ここから先数行、書いた上から斜線が引かれている)
いいえ、私が殺しました。
その事実だけが真実です。
私はこれから、遙を操っていた男を追います。
遙が蘇生する訳がないのは理解しています。
これは私の感情の問題です。だから、私は一時貴方達から離れます。
その男を殺してから、再度、許されるならば合流させて下さい。
スパスは置いておきます。
魔窟堂、どうか残った二人を守ってあげて下さい。
アイン
「………馬鹿者が………ッ!」
肩を震わせつつ、魔窟堂は手紙を握り締めた。
しかし、手紙に書かれていた名は魔窟堂のみではなかった。
ということは、少なくともアインがいた時点では神楽・藍は無事だった事になる。
「ならば、うかうかしとられんな!」
そう言って再び魔窟堂は走り出した。
「神楽ーッ!藍殿ーッ!おらんのかーッッ!?」
(16:20 2階病室)
それから一時間。
「フゥ……」
頬を流れる汗を拭いつつ、魔窟堂は病室の床に座り込んだ。
「病院内にはおらん……ということか……」
病院の中を全て捜しても、二人はいなかった。
死体が無かったのがせめてもの幸いといった所だろう。
となると、二人はどこへ行ったのか?
病院を襲ったその包帯男から逃れる為にどこかへ避難したか、あるいは何者
かに拉致されたか。
いずれにせよ―――
「ワシ……一人か……」
それだけが重たい現実であった。
静まり返った病院内にただ一人、魔窟堂だけが残されていた。
「……………」
流石に応えたのだろうか?魔窟堂の眼には日頃の輝きが見られない。
(……ワシ等のやろうとした事は、無駄だったのか?エーリヒ殿……)
ポケットの中のライターに手を伸ばそうとして、それを神楽に渡した事を思い出し
引っ込める。
(……いや、まだじゃ……)
魔窟堂は、スタート時に並んでいた参加者の姿を思い出した。
あの中には、まだ年端の行かない少年少女達がいたではないか。
―――それを救うのが、魔窟堂の愛するヒーローの姿ではないか。
―――いわんやヒーローがピンチから立ち上がる姿を見て。魔窟堂は幼い頃
オタクの血に目覚めたのではないか。
ならば、今魔窟堂がやるべき事は何か?
―――決まっている。
「………う〜ちゅうにぃ〜き〜ら〜め〜く〜エメラルドォ〜………♪」
突然、魔窟堂は歌い出した。
「ちぃ〜きゅうのぉ〜さ〜い〜ご〜が〜来ると言うぅ〜〜……♪」
1974年放映・ウルトラマンシリーズ6作目『ウルトラマンレオ』の主題歌である。
「誰かがやらねばならぬ時ぃ〜♪誰かがやらねばならぬ時ぃ〜〜ッ♪」
ウルトラ戦士の中ではマイナー扱いされているが、レオこそは全ウルトラマンの中でも
最も過酷な運命を背負っていたヒーローだった。
故郷であるF77星雲をマグマ星人によって滅ぼされたレオには、他の戦士と違って
帰るべき場所が無い。地球で生きるしかないのだ。
そんな彼の味方にして帰るべき場所であった防衛組織・MAC。
それすらも只一匹の怪獣によって殲滅(文字通り一人残らず、である)される。
本当に宇宙でひとりぼっちになってしまったレオ。
しかしそれでも、レオは戦いを止めなかった。
「ち〜きゅうのぉ〜へ〜い〜わ〜を〜こわしちゃいけ〜ない〜♪」
一人の宇宙人として、同時に地球人として、只一人の少年の成長を見届ける為に。
「しぃ〜しぃ〜のぉ〜瞳がぁ〜か〜が〜やいぃ〜てぇ〜〜♪」
オイルショックの余波覚めやらぬ時代、ちょうど青年と壮年の過渡期にあった
魔窟堂がいかにレオの姿に感動したか、励まされたか。
そして、憧れたか。
「ウルトラマ〜ン♪レェ〜オォ〜♪」
魔窟堂は立ち上がった。
「レオッ!レオッ!レオッ!レオッ♪」
まず遙を埋葬せなばなるまい。
それから向かうべきは灯台、先程の二人と合流して首輪の解析に協力する。
病室には書置きを残しておこう。
必ず戻るという誓いのために。
「も〜え〜ろぉ〜レオッ!もえ〜ろよぉ〜♪」
魔窟堂、再起。
【No.12:魔窟堂野武彦】
【所持武器:レーザーガン
スバス12】
【スタンス:主催者打倒
まりな&グレン組との合流】