116 レティシア
116 レティシア
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(一日目 PM16:00)
「少し辺りの様子を見てまいります」
そう紙に認めて鬼作はさらに山奥深くへ赴いた。
泉に残されたアズライトは空を眺めている。
一人になった彼の胸に様々なことが浮かび上がっては消えていった。
この不思議な大会のこと、癒えぬ体の傷のこと、火炎王のこと、
斯様なことを考えていても、最後に辿り着くのは
やはり彼女のことだった。
(レティシア・・・)
記憶を落とし、何かを求めて彷徨うこと幾星霜、
ついに彼が巡り会ったもの、一人の少女。
(レティシア・・・)
目を閉じる。
目蓋の裏に彼女の面影が浮かび上がる。
彼女のつややかな金色の髪、小さくて白い手、
ほっそりとした体に華奢な肩、あごの曲線、
そして・・・彼と眠るときにこぼす幸せそうな笑顔。
(レティシア・・・)
彼がそれまでに生きてきた無限の時間に比べれば、
彼女と共にあった時間はわずかのものでしかない。
それでも、彼は・・・・・・
どれほど愛しく思っていても、彼女は死に至るべき人の身、
やがて彼女との別離のときはやってくる。
駆け寄る彼の目の前で彼女は死んだ。
彼もろともに貫いた槍で、彼の胸の中で。
今わの際の彼女の笑みは今となってもなお消えることなく息づいている。
絶望に飲まれた彼は、彼女を死に追いやった人々を手当たり次第に殺害した。
(レティシア・・・)
動くものの消え去った町で、彼女の亡骸を抱きながら彼は泣いた。
あの時、太陽は地平の彼方に沈もうとしていた。
(・・・僕は何も出来なかった・・・)
じっと自分の手を眺める。
今でも冷えてゆく彼女の体の感触を鮮明に思い出せる。
(・・・・・・もしも、あの時・・・)
考えて、首を振る。
そうして、もう一度目を閉じた。
今度は何も考えないことにした。
遠くからこちらに向かう足音が聞こてくる。
見回りに行っていた鬼作が帰ってきたのだろう。
ゆっくりと目を開く。
没しゆく太陽を仰ぎ、
アズライトは何かを振り切るようにもう一度首を振った。
【アズライト】
【現在地:泉】
【スタンス:鬼作と行動】
【武器:???】
【備考:変性不可、左眼負傷、左手喪失】