111 岐路に立つ男

111 岐路に立つ男


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(PM15:30)

鬼作は嘆息する。
それを見てアズライトは身を縮めてしまう。
変性も出来ず、再生も不完全な自分に対するものだと思ったのだ。
が、本当の原因はそうではない。
確かにアズライトに向けられた溜め息ではあったが、
それは当の本人が考えているようなことのためではない。
この伊頭家の邪悪な三男はそんなことを考えていたのではなかった。
彼は生存のための手段が一つ失われたのを苦々しく思っていたに過ぎない。
(しかし、このアズやんがあんなに強く否定しやがるとは思わなかったぜぇ。)
『凶の作成』を拒絶されたことを思い出し心の中で舌打ち一つ、
無論、表情には出さない。

(どうするよ、オイ。
アズヤンは俺なんかよりはよっぽど強い、それは認めようじゃねぇか。
だが片目・片手で主催者に対抗できるとは思えねぇ。)
無論、アズライトが主催者を倒す必要はない。
そのアズライトの倒れたその瞬間に
生き残っているのが鬼作一人なら何ら問題がないからだ。
(だがよ、いずれにせよ『切り札』は必要だぜ。『切り札』はよぉ。
これまでのケーケンからいって、最後の瞬間にはこれがものを言うんだ。
そのための凶だったんだがなぁ。
仕方がねぇ、とりあえず保留にしようじゃねぇか。

眉間にしわを寄せて何事か考え込んでいる鬼作を見て
アズライトは目を潤ませつつ恐縮する。
(仕方がないよね。
鬼作さんはお仕事忙しいのに僕のために時間を割いてくれているんだもの・・・。
うん、こんな僕にとても良くしてくれるこの人のためにできる限りのことはやろう。
たとえ、それで死ぬことになったとしても…)
アズライトの脳裏に屈託なく笑う少女の姿がよぎる。
(レティシア・・・)


「どうかなさいましたか、アズライトさん?」
いつもの人当たりの良い、しかしどこか卑屈にも見える笑みを浮かべて鬼作は問うた。
が、人にやさしくされることになれていないアズライトには
そんなことも分からないほどに舞い上がってしまう。
「い、いえ。なんでもないんです。ただ・・・」
「ただ、何でございます。何でもおっしゃってください。
鬼作めはどのような些細なことでもアズライトさんと分かち合いたいと思っております。
それでこそ信頼するにたる間柄と申せるのではありませんでしょうか?」
「ほ、本当になんでもないんです。」
と、アズライトが記すのを見ているうちに、鬼作はフトあることに思い至った。

(くくくくく、はらしょー、やっぱ冴えてるぜ、俺様はよぉ~。
よく考えてみたらアズやんの武器がなんだか聞いてねぇままじゃねえか。
なんか重そうなもん下げてやがったから、相当なものをもらってんじゃねえか、オイ。)
内心で拍手喝采、自己賛美の嵐である。
「つかぬ事をお伺いいたしますがアズライトさん。
あなたに配布された武器はどのようなものでございましょうか?」
一瞬何のことかわからずアズライトは目をしばたたかせる。
水も食料も摂るが必要なく、武器など使わずに人間を殺める彼は
最初に配られた鞄を律儀に持ち歩いてはいたものの
その中身を検めてみることもしなかったのだ。
「えーと、まだ見てないんです」と書いて、ますます恐縮してしまう。


「では、この鬼作めが確認してもよろしいでしょうか?」
もちろん、アズライトにいやはない。
先の爆風で傷みきっているズックを開く。
「・・・これはちょっと、戦闘には不向きでございますねぇ・・・」
その中から現れたものに流石の鬼作も唖然とする。
(畜生、畜生、畜生。何考えてやがる。
こんなもんで人を殺れってぇのかぁ?
馬鹿にしやっがってぇ。
くそくそくそくそ、くそがぁ。)

態度にこそ出ていないものの、それでも鬼作の落胆振りはわかるのか、
まるで自分の責任であるかのごとくしょげ返るアズライトに気づいて、
鬼作は苦笑いを貼り付けて慰めにかかる。
「ま、まぁ仕方がございません。これはこれとして、今後のことでございますが・・・」
そこでいったん言葉を切る。
(さぁ、ここからが大事だぜ。なんせ俺の命がかかってんだ。
絶対にへまはできねぇ。
打って出るか、それとも時機を待つかだ。)
鬼作‐すーぱーこんぴゅーたーはここでフル回転をはじめた。



【アズライト】
【現在地:泉】
【スタンス:鬼作と行動】
【武器:???】
【備考:変性不可、左眼負傷、左手喪失】

【鬼作】
【現在地:同上】
【スタンス:らすとまんすたんでぃんぐ】
【武器:コンバットナイフ・警棒】




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